25 / 56
魔術師団の見学へ!
入団試験
しおりを挟む
「あ、あはは、道を間違えていたみたいですね…じゃあ訓練場に―」
向かいましょう、と言おうとした言葉はフォード先生に遮られてしまった。
「部下にああ言われてしまったので今更行き先を変更することは出来ませんよ」
確かにあんなキラキラな笑顔で喜ばれてしまっては、裏切りづらいわね…
「うっ…で、ではこの先には何があるのですか…?」
私が勘違いをしていたとはいえ、あんなにも矢印があったのだから重要な場所のはず。
「ああ、それは―」
そして案の定、私のその予想は正しかった。
少し湿気のある外へ出ると、通っていてかつ力強い低い声が響く。
「これより魔術師団入団試験を開始する!!」
…なるほど、今日は入団試験がある日だったのね。矢印がたくさんあったのも納得がいくわ。
って、あら?入団試験?それって訓練場を見学するのとあまり大差ないのではないかしら。
むしろ色々な魔術師と出会えるのだから、こっちを見学するほうが得をするじゃない!やっぱり私は運が良いわ!
うふふふふと笑っていると、フォード先生に奇妙なものを見るような目で見詰められてしまったから、私は仕方なく令嬢モードに入ることにした。ああいや、今はフォード先生の親戚だという設定なのだから、普通の町娘になりきらなくては。
「とーっても素敵だわ!」
「……見ていて楽しいことは起こらないと思いますよ」
そう言ったフォード先生は、嫌な記憶を思い出したかのように顔をしかめていて、以前に面白くない出来事があったのだろうと予想できる。
「楽しくなるように頑張るのがおじさんの役目でしょう?」
私のその言葉に、フォード先生は驚いたように目を見張った。
「…!はい、そうですね。僕の出来る限りを尽くします」
よかった、それでこそフォード先生だわ。
いくら失敗しても諦めずに努力する。それが、今まで私が見てきたフォード先生なのだから。
先生のこの様子だと、今日も同じ出来事が起こる可能性があるのだろう。
今日の見学は楽しいだけでは終わらなさそうだ。私の勘がそう言っている。
運が良くても対価は必要、ってことね…
そう思っていると、先程フォード先生に話しかけていた先生の部下らしき人が立っているのが目に入った。
そういえばあの人、今年は人が多いから団長の手伝いがあると助かると言っていたわ…
「おじさん、行ってきていいですよ」
「えっ? しかしシアナが…」
ああやっぱり、先生は手伝いに行きたかったのね。だけど私が居るから気を使ってくれていたんだわ。
「私は大丈夫です。なんて言ったって私は先生の教え子なんですからね!」
心配させないように明るく言ったのだけど、先生は首を縦に振らない。
「それでも、今日の僕はあなたの保護者として守っている必要がありますから」
流石フォード先生、責任感の強い人ですね。でも、少しは自分の意志も尊重するべきですよ。
この方法は使いたくなかったのけど、仕方ない…
「…セス・フォード、彼らを手伝いに行き、問題のない完璧な入団試験を私に見せなさい。これは命令です。否とは言わせません」
私の雰囲気が変わったのがわかったのだろう。先生は顔を強張らせたけれど、すぐに私に対して最敬礼の態勢をとった。
「承知いたしました」
そう、私は今、ウィステリア公爵令嬢として、そして未来の王太子妃として命令した。その命令にフォード先生が断る術は無い。強引なのは理解しているけれど、頑なになった先生は説得しても無駄になることを私は知っている。
そうしてフォード先生が彼らと合流したのを確認すると、いつの間にか私が注目を浴びてしまっていることに気づいた。
あ、やってしまった。
魔術師団団長のフォード先生に最敬礼をさせた私が注目を浴びるのも無理はないわ…
どうしよう、このままだと正体がバレて、お父様との約束を破ってしまう。そうなったら今後、私の外出許可が出るのがまた難しくなる…
そう考えた私は、演技をすることにした。
「わあ! やっぱりこの『主人と魔術師のおままごと』は楽しいわ!」
私のその言葉に、一瞬で静かだったその場は騒がしくなった。
「だ、だよな! あのパッとしない子がフォード団長よりも身分が上なわけがなかった!」
「ああ! あの子が例の公爵令嬢なはずがないわな!」
ギクッ
あ、危なかった…やっぱり公爵令嬢かもしれないと思われていたのね…
でも例の公爵令嬢って何かしら?私に関して変な噂でも流れているの?
とりあえず、私に演技の実力があって助かったわ……今まではいらないものだと思っていたのにね。
すると、もう一度最初に聞こえた声が響いた。
「各自は伝えてある番号の札を持った試験監督の下に行くように!」
「なあなあ、あれドラゴンの英雄じゃないか!?」
「なっ、嘘だろ!?」
どうやらフォード先生は予想よりも人気が高いらしく、彼の姿を見た人はほぼ全員大喜びしている。
私の先生は本当に人気者ね! 人気者の教え子なんて、確かに変な噂が流れるのも納得だわ!
今年の入団試験は、まだまだ始まったばかりである。
向かいましょう、と言おうとした言葉はフォード先生に遮られてしまった。
「部下にああ言われてしまったので今更行き先を変更することは出来ませんよ」
確かにあんなキラキラな笑顔で喜ばれてしまっては、裏切りづらいわね…
「うっ…で、ではこの先には何があるのですか…?」
私が勘違いをしていたとはいえ、あんなにも矢印があったのだから重要な場所のはず。
「ああ、それは―」
そして案の定、私のその予想は正しかった。
少し湿気のある外へ出ると、通っていてかつ力強い低い声が響く。
「これより魔術師団入団試験を開始する!!」
…なるほど、今日は入団試験がある日だったのね。矢印がたくさんあったのも納得がいくわ。
って、あら?入団試験?それって訓練場を見学するのとあまり大差ないのではないかしら。
むしろ色々な魔術師と出会えるのだから、こっちを見学するほうが得をするじゃない!やっぱり私は運が良いわ!
うふふふふと笑っていると、フォード先生に奇妙なものを見るような目で見詰められてしまったから、私は仕方なく令嬢モードに入ることにした。ああいや、今はフォード先生の親戚だという設定なのだから、普通の町娘になりきらなくては。
「とーっても素敵だわ!」
「……見ていて楽しいことは起こらないと思いますよ」
そう言ったフォード先生は、嫌な記憶を思い出したかのように顔をしかめていて、以前に面白くない出来事があったのだろうと予想できる。
「楽しくなるように頑張るのがおじさんの役目でしょう?」
私のその言葉に、フォード先生は驚いたように目を見張った。
「…!はい、そうですね。僕の出来る限りを尽くします」
よかった、それでこそフォード先生だわ。
いくら失敗しても諦めずに努力する。それが、今まで私が見てきたフォード先生なのだから。
先生のこの様子だと、今日も同じ出来事が起こる可能性があるのだろう。
今日の見学は楽しいだけでは終わらなさそうだ。私の勘がそう言っている。
運が良くても対価は必要、ってことね…
そう思っていると、先程フォード先生に話しかけていた先生の部下らしき人が立っているのが目に入った。
そういえばあの人、今年は人が多いから団長の手伝いがあると助かると言っていたわ…
「おじさん、行ってきていいですよ」
「えっ? しかしシアナが…」
ああやっぱり、先生は手伝いに行きたかったのね。だけど私が居るから気を使ってくれていたんだわ。
「私は大丈夫です。なんて言ったって私は先生の教え子なんですからね!」
心配させないように明るく言ったのだけど、先生は首を縦に振らない。
「それでも、今日の僕はあなたの保護者として守っている必要がありますから」
流石フォード先生、責任感の強い人ですね。でも、少しは自分の意志も尊重するべきですよ。
この方法は使いたくなかったのけど、仕方ない…
「…セス・フォード、彼らを手伝いに行き、問題のない完璧な入団試験を私に見せなさい。これは命令です。否とは言わせません」
私の雰囲気が変わったのがわかったのだろう。先生は顔を強張らせたけれど、すぐに私に対して最敬礼の態勢をとった。
「承知いたしました」
そう、私は今、ウィステリア公爵令嬢として、そして未来の王太子妃として命令した。その命令にフォード先生が断る術は無い。強引なのは理解しているけれど、頑なになった先生は説得しても無駄になることを私は知っている。
そうしてフォード先生が彼らと合流したのを確認すると、いつの間にか私が注目を浴びてしまっていることに気づいた。
あ、やってしまった。
魔術師団団長のフォード先生に最敬礼をさせた私が注目を浴びるのも無理はないわ…
どうしよう、このままだと正体がバレて、お父様との約束を破ってしまう。そうなったら今後、私の外出許可が出るのがまた難しくなる…
そう考えた私は、演技をすることにした。
「わあ! やっぱりこの『主人と魔術師のおままごと』は楽しいわ!」
私のその言葉に、一瞬で静かだったその場は騒がしくなった。
「だ、だよな! あのパッとしない子がフォード団長よりも身分が上なわけがなかった!」
「ああ! あの子が例の公爵令嬢なはずがないわな!」
ギクッ
あ、危なかった…やっぱり公爵令嬢かもしれないと思われていたのね…
でも例の公爵令嬢って何かしら?私に関して変な噂でも流れているの?
とりあえず、私に演技の実力があって助かったわ……今まではいらないものだと思っていたのにね。
すると、もう一度最初に聞こえた声が響いた。
「各自は伝えてある番号の札を持った試験監督の下に行くように!」
「なあなあ、あれドラゴンの英雄じゃないか!?」
「なっ、嘘だろ!?」
どうやらフォード先生は予想よりも人気が高いらしく、彼の姿を見た人はほぼ全員大喜びしている。
私の先生は本当に人気者ね! 人気者の教え子なんて、確かに変な噂が流れるのも納得だわ!
今年の入団試験は、まだまだ始まったばかりである。
1
あなたにおすすめの小説
神々の寵愛者って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
まさか転生?
花菱
ファンタジー
気付いたら異世界? しかも身体が?
一体どうなってるの…
あれ?でも……
滑舌かなり悪く、ご都合主義のお話。
初めてなので作者にも今後どうなっていくのか分からない……
天才魔導医の弟子~転生ナースの戦場カルテ~
けろ
ファンタジー
【完結済み】
仕事に生きたベテランナース、異世界で10歳の少女に!?
過労で倒れた先に待っていたのは、魔法と剣、そして規格外の医療が交差する世界だった――。
救急救命の現場で十数年。ベテラン看護師の天木弓束(あまき ゆづか)は、人手不足と激務に心身をすり減らす毎日を送っていた。仕事に全てを捧げるあまり、プライベートは二の次。周囲からの期待もプレッシャーに感じながら、それでも人の命を救うことだけを使命としていた。
しかし、ある日、謎の少女を救えなかったショックで意識を失い、目覚めた場所は……中世ヨーロッパのような異世界の路地裏!? しかも、姿は10歳の少女に若返っていた。
記憶も曖昧なまま、絶望の淵に立たされた弓束。しかし、彼女が唯一失っていなかったもの――それは、現代日本で培った高度な医療知識と技術だった。
偶然出会った獣人冒険者の重度の骨折を、その知識で的確に応急処置したことで、弓束の運命は大きく動き出す。
彼女の異質な才能を見抜いたのは、誰もがその実力を認めながらも距離を置く、孤高の天才魔導医ギルベルトだった。
「お前、弟子になれ。俺の研究の、良い材料になりそうだ」
強引な天才に拾われた弓束は、魔法が存在するこの世界の「医療」が、自分の知るものとは全く違うことに驚愕する。
「菌?感染症?何の話だ?」
滅菌の概念すらない遅れた世界で、弓束の現代知識はまさにチート級!
しかし、そんな彼女の常識をさらに覆すのが、師ギルベルトの存在だった。彼が操る、生命の根幹『魔力回路』に干渉する神業のような治療魔法。その理論は、弓束が知る医学の歴史を遥かに超越していた。
規格外の弟子と、人外の師匠。
二人の出会いは、やがて異世界の医療を根底から覆し、多くの命を救う奇跡の始まりとなる。
これは、神のいない手術室で命と向き合い続けた一人の看護師が、新たな世界で自らの知識と魔法を武器に、再び「救う」ことの意味を見つけていく物語。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!
山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」
────何言ってんのコイツ?
あれ? 私に言ってるんじゃないの?
ていうか、ここはどこ?
ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ!
推しに会いに行かねばならんのだよ!!
公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる