無自覚な少女は、今日も華麗に周りを振り回す。

ユズ

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魔術師団の見学へ!

容赦のない子供

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『聖なる力よ......』

ふぅ…よし、出来た!

結界を張るための詠唱をし終え胸の前で組んでいた指を解くと、思わず頬が緩みそうになるのを必死で堪える。

うふふふふ、この結界術を習得しておいて本当に良かったわ!

今日私に傷をつけられる人はいないわよ!
火に炙られたとしても、剣で斬られても、一切傷はつかないし痛みも感じない!

まさに今私は完全な無敵状態!まあ詠唱が必要になるから発動に時間がかかって、神聖力も半分以上は削られるから良いことばかりでもないんだけどね。

うん、これなら歩き回っても問題は起きないわね!

私が歩き回ると、きっとフォード先生は私の保護者として気になってしまうはず。私が居るせいで手伝いの邪魔になるのは申し訳ないから、安心してもらうにはどうしたら良いかしら…と考え、今に至る。

けれどいくら私が最強の結界を張っているとしても、それが先生に伝わっていないと意味がない。

どうにか私が安全だということを伝えるために視線を送れば、彼は一瞬で気づいてくれた。やはり魔術師団の団長だけあって、そういうことに関しては鋭いらしい。

大丈夫だという有無を伝えるためにウインクをしようとしたけれど、今は目立つ瞳の色を隠すためにメガネをしていたことを思い出し、体を使って伝えることにする。
そもそも私とフォード先生の間には距離があり、メガネをつけてなくても見えていたかはよくわからないけれど。

体を大きく動かして「結界を張ったから安心して」と伝えれば、ニッコリと笑い返してくれた。顔がこわばっているように見えるのは、遠目だからだろう。

ま、まあ、今も私の護衛のための影がどこかに居るはずだし、フォード先生も私に影がついていることは知っているから大丈夫だろう。

うーん、まずはどこを見に行こうかしら?

選択肢は3つある。フォード先生が手伝っているところをこっそり見ているか、日陰からゆっくり見学しているか、先程から奥の方で嫌な雰囲気が漂っている原因を探るか。

トラブルはフォード先生のためにも起きてほしくないから、あの雰囲気の原因を調べてみようかな。
そう思って奥の方へ向かうと、原因は調べなくても見ればわかった。なぜなら試験監督で団長でもあるはずのメイエド魔術師団長が、人を踏みつけていたからだ。

どういう状況なの…?しかもあの人、顔の一部が焦げてしまっているわ…

「やっぱ所詮は平民だよなぁ~。ああ、恨むなよ?むしろ俺に感謝してほしいぜ。平民はそもそも貴族と種族から違うってことを教えてやったんだからなぁ。平民は平民らしく床に這いつくばって泥でも舐めてろ」

「うっ…ぐ」

踏みつけられている男の子は、苦しそうにうめいている。

その姿を見た瞬間、私の中の何かが切れた。

―世の中に平等はなくて、誰もが幸せなわけではないことはわかっていた。…わかっていたのに、私は何もしていなかったんだ。

私が覚えたのは不思議と激情ではなく、冷静な苛立ちだった。
無力な自分に対してはもちろん、人間の愚かさにも、この世界の理不尽さにも。

ああ、ゆっくりしていないで、もっと早く来ていればよかった。

この1つを解決したところで、また次々とこのようなことが起きるとしても。それでも、少しでも私の力で誰かが幸せになれるのなら、いくらでも努力しよう。


ガッと音を立てて前へ出ると、一斉に私に視線が集まる。

「ヘインツ・メイエド、おまえに決闘を申し込む」

我ながら、苛立ちの滲んだ威厳のある声ではないだろうか。その証拠に、ヘインツ・メイエドは私の言葉を聞いて怯んでいた。

「は…な、なんだよ?お前、俺に何を言っているのか分かってんのか?俺にかかればお前の家なんて一瞬で―」

「へぇ? にげるの? まだ4歳の私から? まあ、私だったらはずかしすぎてそんなことできないわね」

「なっ…!」

ヘインツ・メイエドは何か言いたげだけれど、私は言葉を続ける。

「それに、勝手に貴族をかたらないで」

「「「「!?」」」」

私が髪の色を戻しメガネを外すと、その場の誰もが固まった。

全員が気づいたのだろう。
―私がウィステリア公爵家の令嬢、アイシャーナ・ウィステリアだということに。

桜色の髪とこの変わった瞳を同時に持っている者は、この世に私しかいない。そしてこのことは既に周知の事実だ。

「も、申し訳ございませんでした!まさか公爵令嬢だとは思っておらず…」

その声は、可哀想なくらいに震えていた。別に可愛そうだとは思わないけれどね。
ヘインツ・メイエドが震えるのは当然のこと。だって彼は死刑になってもおかしくないほどの不敬罪を犯していたのだから。

「あらそう? なら、しゃざいの代わりに地面にはいつくばってどろをなめてちょうだい」

ピシッ

「い、いくら公爵令嬢でも伯爵の私にそのようなことを強要すれば問題になります!」

「私がただの公爵令嬢ならの話、ね。ざんねん、私は今この王国の王太子の婚約者なのよ」

ふふふっ、と笑いかければ、彼の顔色は完全に真っ青だ。

少しやりすぎたかしら? でも…

まだまだこれからよ。

私の信念は「理不尽は正すべき」なのだから。
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