無自覚な少女は、今日も華麗に周りを振り回す。

ユズ

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魔術師団の見学へ!

決闘の始まり

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「ルールは簡単です。相手に一言でも降参と言わせれば勝利。相手に傷を負わせた場合はルール違反となります」

フォード先生のその言葉に私は応の返事をしようとしたのだけど、先を抜かれてメイエド魔術師団長が講義する。

「はあ?舐めてんのか?そんなの俺の勝利が決まってるようなもの―」

「いいからお前は黙ってろ。これでも最大限助けてあげてるんだ」

そう言って先生はキッとメイエド魔術師団長を睨んだ。

あら、フォード先生も少なからず被害を受けているはずなのに助けるなんて、随分と広い心を持っているのね。

「何言ってんだお前? ついに頭までおかしくなったか?」

「頭がおかしいのはお前だ!よりにもよってこの方を怒らせるなんて…!」

「はっ、ただのガキに何ができるってんだ」

「..........」

諦めたのか、呆れたのか、それとも他の何かなのか。フォード先生はメイエド魔術師団長の発言を聞くなり、微妙な顔をして黙り込んでしまった。
それにしてもこの人は、どこまで人を侮辱すれば気が済むのだろうか。

ここまで私を侮辱したのだから、当然私も遠慮はいらないわよね?

思わずニヤリと片方の口角を上げると、すかさずフォード先生が悲鳴を上げた。

「ひっ!あ、あの日と全く同じ顔をしているじゃないですか!やめてください!お願いですからこれ以上恐怖の記憶を増やさないでください!」

「うふふふふ、心外ですわね先生。私は一度決めたことは絶対に覆しませんよ?」

でも、あの日っていつのことかしら?

そう疑問に思い己の記憶を巡らせると、ふと、とある日の事を思い出す。

あっ、そういえば確かにあの日も、状況は違うけど今と同じようなことがあったわね。フォード先生もあの場にいたし、あのことを言っているのかもしれないわ。
でも、よく覚えているわね?あれは私が先生の教え子になったばかりの頃の話なのに。

「…全てお前が悪いんだからな。僕は助けようとした」

「はあ?いつ俺様がお前ごときに助けなんて求めた?」

「ごとき?フォード先生がごときだと言うなら、あなたはクソ以下ね」

いい加減に頭にきて言い返すと、慌ててフォード先生が口を挟んだ。

「ああああ!もうこれ以上この方を怒らせるな!よし、始めましょう!今すぐに決闘を始めましょう!」

確かに結構な時間が経過していて、その意見は尤もな話だ。だけど、私を時限爆弾のような扱いをするのはちょっとどうかと思う。

決闘を始めるために私とメイエド魔術師団長は距離をおいて向かい合い、フォード先生はその近くに立つ。
元から多かった観衆は更に増えていて、私達を離れた位置から取り囲んでいる。

…見世物じゃないんだけどなぁ。

そんな私の不満もよそに、フォード先生は決闘の始まりの合図をした。

「…始め!」

さあどうでる?

――傷を負わせずに相手を降参させる。

聞いただけでは簡単そうなルールでも、結構な難易度なのだ。

魔法の使用は許可されているけれど、それを使ってどう降参させるかが問題になる。

メイエド魔術師団長は「火」と「風」属性を持っていると聞いた。
なら私の周りに大きな火を浮かべて恐怖心を煽ろうとするか、風魔法を使って私の周りの酸素を消してギリギリまで窒息させるか…いや、それは流石のこいつでもそこまではしないはず。

「ふっ、いくら私の魔法が凄すぎても泣かないでくださいね!」

へぇ、そこまで言うなんて、どんな魔法を使ってくるのかしら?

メイエド魔術師団長はそう言うと、火魔法を使ったのか私の足元の周りを火で囲んだ。

わあ!私の足元の周りが火で囲まれてる!って......えっ?セリフは大人げないほど自信満々だったのに、これだけ?…いやいやいや、まさかね。きっとまだ何かあるんだわ。

そう思い、次は何をするのかと観察するも特に何もする様子はなく、得意げな顔を浮かべているだけ。

そ、そんな馬鹿な!こんな、水魔法でちょっと水をかけただけで消える火で囲むだけで私を降参させようと!?
もっと、こう、他にあるでしょう!せっかく結界術を発動しているのに全く役に立たないじゃない!

えええ?もしかして4歳児ってこれで怖がるのが普通なの?降参するほどに?
でもさっき威厳のある姿を見せたわよね!?

黙り込む私をどう思ったのか、彼は勝ち誇った顔をしている。

…うん、きっとまだ策があるのよ。

そう思い至った私は、次の策を見るために周りの火を水魔法で全て消化した…が、彼はぽかんと口を開けるだけで、何か次の策があるようには見えない。

「え!? 本当にこれだけ!?」

思わずそう口に出すと、周囲の観衆達が一気に吹き出した。やはりこう思っていたのは私だけではなかったらしい。
けれどフォード先生は笑っている周囲とは裏腹に、深刻な顔持ちをしている。

どうしたのかとは心配はするも、決闘を申し込んだ目的を思い出し、そちらに集中する。

ふぅ、呆れている場合ではないわ。できるだけ彼のプライドをズタズタにして勝たなければいけないのだから。そしてあいつの性根を叩き直せる命令を下すのよ。

笑われているのが気に触ったのか、ヘインツ・メイエドの顔は真っ赤だ。

――私の復讐(?)は、まだ始まってもいない。
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