無自覚な少女は、今日も華麗に周りを振り回す。

ユズ

文字の大きさ
31 / 56
魔術師団の見学へ!

何を望む?

しおりを挟む
「ひぃぃぃぃ!す、すすす、すみませんでしたー!!」

まあ、予想よりも長く持ったわね。

「ふぅん?それは何に対してあやまっているの?」

「も、もちろん令嬢に…!」

はぁぁ…ここまで言っているのにまだ理解できないなんて。

私がため息をついたのを見て己が発言を間違えたことに気づいたのか、彼の顔色は真っ青になっている。
フォード先生は「だからアイシャーナ様を怒らせてはいけないと…」などと呟いていて、全く審判としての役目を果たしていない。

「本当に?私はひがいをうけていないわ。それなのにけがをした人じゃなく私にあやまるの?」

「謝る!お前らには謝るよ!!」

先程メイエド魔術師団長に踏みつけられていた男の子は、暴力を受けた本人にあっさりと謝られ、何とも言えない表情を顔に浮かべた。

ふぅ…取り敢えずはここまでにしておこうかな。正直に言うとまだ物足りない気もするけれど、これ以上は私の評判が落ちてしまうかもしれない。家族にまで迷惑はかけたくない。

メイエド魔術師団長の実力に呆れていたのは序盤だけ。その後は水魔法で水をかけたり風魔法であちこちへ飛ばしたり(たまに脅したりしたのは内緒)…そこまでしたのに、彼はこの瞬間まで負けを認めなかった。意地だけは人一倍強いらしい。

「負けをみとめたのだし、私の勝ちね!じゃあ1つ命令するわ」

元気いっぱいでそう言うと、観衆の皆は興味津々だというばかりにこちらをキラキラと目を光らせて見詰めている。にも関わらず、フォード先生は心底げんなりした様子だ。

メイエド魔術師団長なら分かるけれど、当事者でもないフォード先生がそんな顔をするのは理解できない。

私の言葉に誰も返事をくれなかったので、言葉を続ける。

「身分を隠し、平民として生活するの」

「はあ!?」

とメイエド魔術師団長が反応し、すぐさまフォード先生がキッと睨む。

「…あ、いえ、その、すみません。驚いてしまってついこのような反応をしてしまいまして…」

どうやら私をこれ以上怒らせたくはないらしく、彼は即座に態度を改める。案外に取り繕うのは得意なのかもしれない。

「もちろん永遠じゃないわ。だけど、もしも身分を感づかれるようなことがあった場合には、さらに1ヶ月ずつきかんを増やすから、覚悟しておいてちょうだい」

観衆たちからは感心する声が様々な方向から聞こえるけれど、メイエド魔術師団長は「え、いや、それは…」と戸惑いの声を上げている。

「一週に一度はもどっても良いわ。仕事にかんしては私がなんとかしておくから、そこは安心してね」

「一週に一度…?その時以外は平民の生活をしろと!?」

そりゃあ受け入れ難いだろう。なにせ、散々馬鹿にしていた平民の生活を強要されているのだから。

でも約束は約束だから、ね?

「あなたは魔術師団長なのに、人をきずつけたのだから、罰はひつようでしょう?」

「い、いや、あれは、えっと…訓練でして…」

なんとか言い訳をしようとしているメイエド魔術師団長を、私は冷たい目で睨んだ。

「まだ入団もしていないのに?顔に火傷までさせて?」

「しかしこれはあんまりです…!」

「あら?勝ったら1つだけ言うことを聞くってやくそくしたわよね?」

何のために決闘を人の目が集まりやすい場所で始めたと思っているの?逃げ道を無くすために決まっているじゃない。

◇◇◇

「…甘すぎやしないかい?私だったら不敬罪で投獄しているところだというのに」

そう問うてきたお父様は、とても不満そうだ。

「それも考えたのけど、あの人が平民をさべつしているとしても、子供っぽかったんだもの」

すると突然、隣に立っているフォード先生が咳き込んでしまった。

「ゲホッゲホッ……失礼しました」

まあ、風邪をひいてしまったのかしらね?フォード先生に水をかけた覚えはないのだけど…ああもしかしたら、私が知らないうちにかけてしまったのかもしれないわ!

「ごめんなさい、フォード先生…」

「…それは、何故僕が謝罪されているのか理解しかねます」

んまあ、ここにも優しすぎる人がいたわ!水を浴びさせてしまったことをなかったことにしてくれるなんて!

などと自分の幸運さに驚いていると、お父様が話を戻す。

「で、子供っぽいだって?あのメイエド魔術師団長が??」

「そうなのよお父様。だって、何も考えていないような人に見えたし、きっとただ投獄するだけじゃあの性根は治らないと思うのよ」

「…つまり馬鹿だということだね」

あらお父様、わざとオブラートに包んで言ったというのに、それでは台無しだわ。

「…そうとも言うわね。でも、かんしもつけるつもりだから、簡単には平民生活から抜け出せないはずよ。だからそれでもう十分だと思ったの」

「ああアイシャ!なんて心優しいんだ!」

お父様が立ち上がってぎゅっと私を抱きしめると、その様子を見ていたフォード先生が何かを呟いた。

「…それは優しいのではなく、ただ最善策を選んだだけのようですが…」

「何か言ったかい?」

「いえ何でもありません」

即答したわね。そういうのは余計怪しまれるものなのよ、フォード先生。

そうは思うものの、重要なことを思い出したのでそちらを優先させる。

「そうだわ!お父様、メイエド伯爵の仕事は私が引き受けようと思うの」

「..........すまない、空耳が聞こえたようだから、もう一度言ってくれないかい?」

「メイエド伯爵の仕事を私が引き受けようと思うの!」

「…フォード伯爵、どうやら私は二度も同じ空耳が聞こえるほど年を取ったらしい」

お父様がそんな風にフォード先生へ問いかけると、フォード先生は無表情で答えた。
  
「失礼ながら、メイエド伯の仕事を引き受ける、と聞こえたのでしたら空耳ではないかと」

そういえばいつしか、フォード先生は見た目よりも年を取っていると思ったことがあるような?
子供の私にこの会話の意味はわからないけれど、もしかしたらフォード先生の実年齢に関しての話かもしれないわね。

でも、私がこの話題を振ったというのに、その当の本人の私が会話に入れていないというのはどういうことだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

神々の寵愛者って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

1歳児天使の異世界生活!

春爛漫
ファンタジー
 夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。 ※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。

孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下

akechi
ファンタジー
ルル8歳 赤子の時にはもう孤児院にいた。 孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。 それに貴方…国王陛下ですよね? *コメディ寄りです。 不定期更新です!

処理中です...