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お茶会デビュー
相手を間違えた相談
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――二週間後…
「エドの好きな物…好きなこと…しゅみ…王太子が好きなこと…王家…ていさい…」
ハンカチに刺繍して渡す? でも王太子なのだから他の令嬢に渡される可能性もあるわね…
そんな思考が頭の中で行ったり来たりを繰り返していて、私は耐えられずに頭を抱えて悲鳴を上げる。
「あああ!早くしなきゃいけないのに全く良いアイデアが思い浮かばないわよ!そうだエリー!エド…王太子殿下への誕生日プレゼントは何をわたせば良いと思う!?」
なるべく自分で決めたかったけれど、こうなってしまっては仕方ない。行き詰まって後回しにしプレゼントを忘れるよりは、他の人の意見を聞いて用意しておくほうが妥当だ。
そう考えて近くにいたエリーに聞いてみたのだけど、どういうわけかエリーは顔をしかめる。
「…お嬢様がくださる物なら何でも喜ぶかと。いえ、もし喜ぶ様子を見せないものならこのエリーが排除しておきます」
「ぶっそうな物言いね…なにかの例えだと受け取っておくわ…質問に答えてくれてありがとう…」
「とんでもございません」
エリーが遠回しな言葉を使わないことは重々承知しているけれど、以前から注意してきてもどうにもならなかったから、最近は知らぬふりをしている。
「うーん、他の人にも聞いてみようかしら…」
何故かエドに敵意を向けているエリーよりかは、他の人のほうが良い案を持っているかもしれない――と思っていた私は、エリーよりもエドを嫌っている人がこの家には何人も居ることを失念していた。
――朝食の席にて
「王太子への誕生日プレゼントだと?アイシャ、お前に渡す義理はない。忘れるんだ」
「…」
…お父様、それは王族への言葉としてどうなのかしら。
「そうだよアイシャ。公爵家の天使を奪ったあいつにアイシャからのプレゼントを貰う権利はないんだから、無理して渡さなくてもいいさ」
「…」
えええ、王太子の誕生日近くに王家主催のお茶会があるのに、もしも誕生日プレゼントが無いなんてことなんて起きたら、公爵家の評判が落ちてしまうわよ。
それより、天使が私を指しているのはなんとなく分かる(慣れ)のだけど、「奪った」だなんて、どうして過去形なの?元より私は誰にも奪われちゃいないわ。どういう意味なのよ、レイ兄様。
私はそんな心情を、不服そうな表情を顔にして表してみたけれど、そもそもにその場の全員が苦虫を噛み潰したような顔をしていて、誰も私を気にする様子がない。ひどい。
「あら、一応は親族なのだから贈り物は必要じゃないかしら」
流石お母様、ちゃんと常識があるわね!
お父様とレイ兄様が無常識だと思っているわけではないのだけど、ちょっとズレているのよ。
「ふふ、だから、贈り物はその辺に生えている草でも渡しておきなさい」
「…」
草、草、その辺に生えている草……草?
ああいや、きっとこの言葉に深い意味はないんだわ。花を渡せば良いと言っているのね、うん。
……忘れていた。この家族は、エリーよりもエドを毛嫌いしているのだったわ。
でも、花を贈り物にするというのは存外良い案ではないかしら?
「…わかったわ、私はみんなの気持ちをくみ取れる子だから、エドには花をわたすことにするわ!」
ええ、ええ、そういうことだったのね。ただエドを嫌っているのではなくて、「花を渡す」という案を私に伝えるための言動だったのね。まさか嫌っているという理由だけで「贈り物を渡すな」なんて事を言うなんて、そんな幼稚なことをみんながするわけがなかったわ。
回りくどいことをしたのは、私が贈り物を自分で決めたいと思っていたのを知っていたからだったのね。
多少現実逃避をしている気もしなくはないが、満足のいく結果が得られたから良しとする。
「…僕たちが悪かったのは認めますけど、どう育てたらここまで察しの悪い子が育つのでしょうかね」
「レイ、お前の気持ちもわかるが、育て方の問題じゃない。例え甘やかしすぎて育ててしまっとしても、これはアイシャの性格だ」
「?」
お父様とレイ兄様が何やらこそこそと話していたけれど、声が小さすぎて内容が聞こえない。
むむ、私とお母様を差し置いて会話をするなんて、どんな内容なの?いいわ、2人がそんな感じなのなら、私はお母様と秘密の会話をしているわ。
「お母さま、何色の花をあげれば良いと思う?」
「…アイシャちゃん、その質問は声を小さくして話す必要があるのかしら」
「それがね、ひつようなのよお母さま」
お父様とレイ兄様への当てつけにね!
「まさか…単刀直入に言うけれど、アイシャは王太子のことが好きなのね?」
「?もちろん好きよ」
呆れてしまう時もあるけれど、嫌いになることはないわ。
そう答えると、お母様は「そう…」と言って悲しそうに目を伏せた。
「ああ、もうそんな年頃なのね…わかったわ、あなたの意思は尊重したいし、私の出来る限り協力するわね。そういうことに関してはいつでも私に頼ってちょうだいね」
あれ、花の色を聞いただけだったんだけどな…?どうしてそんな話になったのかしら…?
もしかして、私が花の色は聞いても種類は聞いていなかったから、遠慮せずになんでも聞いてほしいって意味なの?
「じゃあお母さま、色だけじゃなくて、種類も何にすればいいか教えてほしいです」
「まあ!そこまで考えているなんて、本気なのね!」
本気?ええ、確かに本気で悩んでいたのよ。
「そうなの、だから教えてほしいのよ」
お母様は喜んで花についての色々な知識を教えてくれたけれど、時々よくわからないことを話していて、理解できないからそこはあまり聞いていなかった。
そんな私達をお父様とレイ兄様は不審な目で見ていたから、当てつけは大成功したのである。
「エドの好きな物…好きなこと…しゅみ…王太子が好きなこと…王家…ていさい…」
ハンカチに刺繍して渡す? でも王太子なのだから他の令嬢に渡される可能性もあるわね…
そんな思考が頭の中で行ったり来たりを繰り返していて、私は耐えられずに頭を抱えて悲鳴を上げる。
「あああ!早くしなきゃいけないのに全く良いアイデアが思い浮かばないわよ!そうだエリー!エド…王太子殿下への誕生日プレゼントは何をわたせば良いと思う!?」
なるべく自分で決めたかったけれど、こうなってしまっては仕方ない。行き詰まって後回しにしプレゼントを忘れるよりは、他の人の意見を聞いて用意しておくほうが妥当だ。
そう考えて近くにいたエリーに聞いてみたのだけど、どういうわけかエリーは顔をしかめる。
「…お嬢様がくださる物なら何でも喜ぶかと。いえ、もし喜ぶ様子を見せないものならこのエリーが排除しておきます」
「ぶっそうな物言いね…なにかの例えだと受け取っておくわ…質問に答えてくれてありがとう…」
「とんでもございません」
エリーが遠回しな言葉を使わないことは重々承知しているけれど、以前から注意してきてもどうにもならなかったから、最近は知らぬふりをしている。
「うーん、他の人にも聞いてみようかしら…」
何故かエドに敵意を向けているエリーよりかは、他の人のほうが良い案を持っているかもしれない――と思っていた私は、エリーよりもエドを嫌っている人がこの家には何人も居ることを失念していた。
――朝食の席にて
「王太子への誕生日プレゼントだと?アイシャ、お前に渡す義理はない。忘れるんだ」
「…」
…お父様、それは王族への言葉としてどうなのかしら。
「そうだよアイシャ。公爵家の天使を奪ったあいつにアイシャからのプレゼントを貰う権利はないんだから、無理して渡さなくてもいいさ」
「…」
えええ、王太子の誕生日近くに王家主催のお茶会があるのに、もしも誕生日プレゼントが無いなんてことなんて起きたら、公爵家の評判が落ちてしまうわよ。
それより、天使が私を指しているのはなんとなく分かる(慣れ)のだけど、「奪った」だなんて、どうして過去形なの?元より私は誰にも奪われちゃいないわ。どういう意味なのよ、レイ兄様。
私はそんな心情を、不服そうな表情を顔にして表してみたけれど、そもそもにその場の全員が苦虫を噛み潰したような顔をしていて、誰も私を気にする様子がない。ひどい。
「あら、一応は親族なのだから贈り物は必要じゃないかしら」
流石お母様、ちゃんと常識があるわね!
お父様とレイ兄様が無常識だと思っているわけではないのだけど、ちょっとズレているのよ。
「ふふ、だから、贈り物はその辺に生えている草でも渡しておきなさい」
「…」
草、草、その辺に生えている草……草?
ああいや、きっとこの言葉に深い意味はないんだわ。花を渡せば良いと言っているのね、うん。
……忘れていた。この家族は、エリーよりもエドを毛嫌いしているのだったわ。
でも、花を贈り物にするというのは存外良い案ではないかしら?
「…わかったわ、私はみんなの気持ちをくみ取れる子だから、エドには花をわたすことにするわ!」
ええ、ええ、そういうことだったのね。ただエドを嫌っているのではなくて、「花を渡す」という案を私に伝えるための言動だったのね。まさか嫌っているという理由だけで「贈り物を渡すな」なんて事を言うなんて、そんな幼稚なことをみんながするわけがなかったわ。
回りくどいことをしたのは、私が贈り物を自分で決めたいと思っていたのを知っていたからだったのね。
多少現実逃避をしている気もしなくはないが、満足のいく結果が得られたから良しとする。
「…僕たちが悪かったのは認めますけど、どう育てたらここまで察しの悪い子が育つのでしょうかね」
「レイ、お前の気持ちもわかるが、育て方の問題じゃない。例え甘やかしすぎて育ててしまっとしても、これはアイシャの性格だ」
「?」
お父様とレイ兄様が何やらこそこそと話していたけれど、声が小さすぎて内容が聞こえない。
むむ、私とお母様を差し置いて会話をするなんて、どんな内容なの?いいわ、2人がそんな感じなのなら、私はお母様と秘密の会話をしているわ。
「お母さま、何色の花をあげれば良いと思う?」
「…アイシャちゃん、その質問は声を小さくして話す必要があるのかしら」
「それがね、ひつようなのよお母さま」
お父様とレイ兄様への当てつけにね!
「まさか…単刀直入に言うけれど、アイシャは王太子のことが好きなのね?」
「?もちろん好きよ」
呆れてしまう時もあるけれど、嫌いになることはないわ。
そう答えると、お母様は「そう…」と言って悲しそうに目を伏せた。
「ああ、もうそんな年頃なのね…わかったわ、あなたの意思は尊重したいし、私の出来る限り協力するわね。そういうことに関してはいつでも私に頼ってちょうだいね」
あれ、花の色を聞いただけだったんだけどな…?どうしてそんな話になったのかしら…?
もしかして、私が花の色は聞いても種類は聞いていなかったから、遠慮せずになんでも聞いてほしいって意味なの?
「じゃあお母さま、色だけじゃなくて、種類も何にすればいいか教えてほしいです」
「まあ!そこまで考えているなんて、本気なのね!」
本気?ええ、確かに本気で悩んでいたのよ。
「そうなの、だから教えてほしいのよ」
お母様は喜んで花についての色々な知識を教えてくれたけれど、時々よくわからないことを話していて、理解できないからそこはあまり聞いていなかった。
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