無自覚な少女は、今日も華麗に周りを振り回す。

ユズ

文字の大きさ
48 / 56
待ちに待った外出

初めての街

しおりを挟む
あの鑑定式から約1年。もう一度鑑定をして欲しいという神殿の要求を、私は何かと理由をつけて断った。

そして私は今も、お父様の過保護さに呆れているところである。

「ダメだ! これでは『私を攫ってください』と言っているようのものではないか!」

「し、しかし、これ以上お嬢様用の地味な服はございません…」

心底あり得ないというように叫ぶお父様に、私の髪をセットしていたエリーは肩を竦める。

「アイシャ…なんて罪な容姿を持って生まれたんだ…いや、もちろんどんな姿のアイシャでも好きだが…」

お父様は私を見ながら目を潤ませると、私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

…せっかく今エリーにセットしてもらっていたのに、どうしてぐちゃぐちゃにしちゃうかしら…ああもう、これじゃあいつまで経っても出発できないじゃないの! 初めて街に行く日だと言うのに!

6歳を迎えた私は、ようやく街に出る許可を得た。護衛も同行するという条件付きでだが。まあ、そこまではいい。なんなら嬉しい。ただ、準備にここまで時間をかけるのもどうかと思う。

いや…許可してくれた事自体が奇跡に近いから、それ以上を望めば罰が当たるわ…

お父様に街に出たいと申し出た時、お父様は気を失いかけた。そして私の正気を疑われた。それよりは断然マシだろう。

はあ…街に出かけるだけだというのに、どうしてこんなに大袈裟なのかしら。

「お父様、私は髪色も銀色に変えたし、化粧で顔も誤魔化したわ! 帽子も深くかぶるつもりなの。少なくとも、私が公爵令嬢だとは思われないはずよ」

じっとお父様の目を真剣に見つめると、お父様は諦めたように溜め息をついた。

「…分かった。だが片時もレイから離れるんじゃないよ。いいね?」

「はーい!」

うーん、やけにあっさり引き下がったわね。公爵邸でお父様の考えを変えられるのはお母様くらいだから…お母さまに何か言われたのかしら。

ま、気にすることじゃないわよね! レイ兄様も待っているだろうし、早く行かないと!

「じゃ、行ってきます! お父様もお母さまと楽しんできてね!」

「ああ…ってまさか、知っててこの日にしたんだね!?」

「うふふ、エリー、行きましょ!」

「はい、お嬢様」

「あ、ちょっ、~っ、あああ! 聞きたいことは色々あるが、気をつけて行ってくるんだぞ!」

――そうして、私は無事に街へと出発したのだった。

◇◇◇

「アイシャも策士だなぁ。他でもなく今日にするなんて」

馬車に揺られながらそう切り出したのは、今日私に同行してくれるレイ兄様だ。

「しょうがないじゃない。今日じゃないとお父様とお母さまが同行する羽目になるもの。初めての街はゆっくり回りたいわ」

買い物好きのお母様とあのお父様が一緒だと、目立つのは目に見えている。だから私は街に出る日を今日にした。
今日はお父様とお母様の結婚記念日だからだ。毎年結婚記念日に2人が出掛けているのは把握済みなのである。

「ふーん、そっか。まあ、僕としてはアイシャと一緒に過ごせる時間が取れて嬉しいけど」

「……」

穏やかに笑うレイ兄様とその言葉に、私は思わず固まってしまった。

「? どうかした?」

「…言っても怒らないって約束してくれる?」

「内容によるね」

「うぅ、レイ兄様の意地悪…」

「で、その内容は?」

「………レイ兄様が、エドに似てるなーって……思ってたり、なかったり…?」

その瞬間、馬車の中は一気に寒くなった。

ああ、だから言いたくなかったのに! お父様とお母様と同じく、レイ兄様もエドのことを好いていないもの!

「…僕が、あいつと似てるだって?」

ついさっきまでの穏やかな表情が嘘だと思えるくらい、レイ兄様は今とても殺気立っている。

「う、うん。その…さり気なく、私を大切にしてるアピールをするところが似てる。でも、やっぱりレイ兄様が一番よ!」

おずおずと似てる理由を説明してこれ以上怒らせないようにすると、納得してくれたのか、殺気はなくなった。そしてしばらく考え込んだ様子を見せると、ニヤリと口端を上げる。

「そっかそっか。アイシャの一番は僕なんだね。それは光栄だよ。みんなに自慢しないとだね」

「……」

なんとかこの場は乗り切ったけれど、これは先が大変になりそうだ。

と、とりあえず話を逸らさないと!

「そ、そういえばレイ兄様。もうすぐ学園に通うのよね? 準備は大丈夫なの?」

「ああ、準備は順調に進んでいるよ。でも正直に言って行きたくないな。アイシャと一緒に居れる時間が減ってしまう」

「……やっぱりエドと――」

「なんて?」

「…何でもないです…」

こんなにレイ兄様が怖いと感じたのは初めてだわ…

「じゃ、じゃあレイ兄様は乗り気ではないのね。でも友達が出来るかもしれないじゃない?」

「まあ出来るだろうけど、どうせみんな僕を上辺だけでしか見ていないと思うよ」

…まだ11歳なのに、そういうこともちゃんと理解しているのね…レイ兄様も顔には出さないけど、大変な思いをしてきたんだろうな。

そういうところも含めて、やっぱりエドと似てるわ。きっといい友達になれるだろうに…どうしてレイ兄様はエドを嫌うのかしら。

まあ、レイ兄様なりの事情があると信じてるわ。

「…いい友達が見つかると良いね」

「僕にはアイシャがいれば十分だよ」

「…やっぱり――」

「アイシャ??」

「……うん、似てないわ」

――私はもう二度と、この話をレイ兄様の前でしないと心のなかで誓ったのだった。そして、レイ兄様は怒らせてはいけないタイプだと、私は改めて学んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下

akechi
ファンタジー
ルル8歳 赤子の時にはもう孤児院にいた。 孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。 それに貴方…国王陛下ですよね? *コメディ寄りです。 不定期更新です!

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

公爵令嬢やめて15年、噂の森でスローライフしてたら最強になりました!〜レベルカンストなので冒険に出る準備、なんて思ったけどハプニングだらけ〜

咲月ねむと
ファンタジー
息苦しい貴族社会から逃げ出して15年。 元公爵令嬢の私、リーナは「魔物の森」の奥で、相棒のもふもふフェンリルと気ままなスローライフを満喫していた。 そんなある日、ひょんなことから自分のレベルがカンストしていることに気づいてしまう。 ​「せっかくだし、冒険に出てみようかしら?」 ​軽い気持ちで始めた“冒険の準備”は、しかし、初日からハプニングの連続! 金策のために採った薬草は、国宝級の秘薬で鑑定士が気絶。 街でチンピラに絡まれれば、無自覚な威圧で撃退し、 初仕事では天災級の魔法でギルドの備品を物理的に破壊! 気づけばいきなり最高ランクの「Sランク冒険者」に認定され、 ボロボロの城壁を「日曜大工のノリ」で修理したら、神々しすぎる城塞が爆誕してしまった。 ​本人はいたって平和に、堅実に、お金を稼ぎたいだけなのに、規格外の生活魔法は今日も今日とて大暴走! ついには帝国の精鋭部隊に追われる亡国の王子様まで保護してしまい、私の「冒険の準備」は、いつの間にか世界の運命を左右する壮大な旅へと変わってしまって……!? ​これは、最強の力を持ってしまったおっとり元令嬢が、その力に全く気づかないまま、周囲に勘違いと畏怖と伝説を振りまいていく、勘違いスローライフ・コメディ! 本人はいつでも、至って真面目にお掃除とお料理をしたいだけなんです。信じてください!

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい

木の葉
ファンタジー
『異世界で幸せに』を新たに加筆、修正をしました。 下界に魔力を充満させるために500年ごとに送られる転生者たち。 キャロルはマッド、リオに守られながらも一生懸命に生きていきます。 家族の温かさ、仲間の素晴らしさ、転生者としての苦悩を描いた物語。 隠された謎、迫りくる試練、そして出会う人々との交流が、異世界生活を鮮やかに彩っていきます。 一部、残酷な表現もありますのでR15にしてあります。 ハッピーエンドです。 最終話まで書きあげましたので、順次更新していきます。

神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...