✞神様は祈らない✞

アリス

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プロローグ[はじまりの終わり。]

はじまり

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 〝創世神の名の下に現人神アマテラス、貴女に命じる。|||直ちに地上へと折り星を破壊する腫瘍を取り除けドリアージせよ!!〟

 「御心のままに」

《創世神ガレイアス》……それこそが600年前とある飢饉に苦しみ追い詰められた廃村“犬鳴村いぬなきむら”の村娘“伊代いよ”を竜神の生贄として捧げられる運命にあった少女を救った神の名前…。

 「…私を認めないッ!母を蔑み父を見捨てた!あの村を!!私が許す筈ないじゃない♪」

600年前||一つの村が一夜にして燃え灰となった“犬鳴村火災”……火の気がなく突如燃えた家屋家畜村人100人の小さな村はあっという間に火の粉に包まれ衰えを見せない火勢は少女の怒りを体現するように100日は続いたと口伝で伝わる事となる。|||“”とあるが実際は違う。100日燃え続けその間何の対策もその当時の政府、幕府は取らなかった訳じゃない。
水や砂、火災をどうにか出来ないかと有識者や知恵者、霊能力者や陰陽師、僧や尼も導入されたが|||…何れも効果はなかった。

当然と言えば当然だった。

 村が燃えているのは現人神となった少女伊代||、現人神“アマテラス”の個人的な怨みに因るもの【天罰】に他ならないのだから。

病気で苦しむ母に誰も手を差し伸べなかった村人に対して転生後も許せなかった“伊代”の報復…村人は甘んじて受けるしかない。
誰も神に敵う訳がないのだ、と魂に骨身に染み込め、愚者共!!!!!

 「あはははっ!!燃えろ。燃えろ燃えろ燃えろ…ッ!!全部ぜぇ~~んぶ燃えて燃えて灰になるがいいわ!!」

この炎は怒りの炎。

“許せない”と泣く伊代少女の心残り…||そう現人神あらひとがみとなった最初の粛清仕事は今はもうない犬鳴村住民全員の断罪だった…。
……………………
…………
……



肩までの真っ直ぐな黒髪、利発そうな黒目、わりと整った顔立ち、齢8歳の少女…伊代は転生者だった。

 「…まさか現代社会から過去にタイムスリップするとは、ね…。」

24歳OLの寂しいお独り様…まさかまさかの過去転生。それも排他的で差別的で……、正直罰ゲームかよ!と神を問い詰めたい最悪な転生である。
母はこの村の生まれだが、父は|||戦に負けた敵側の元武者…、“落ち武者”だった。
…だから母は度々そんな落ち目の男等捨て置け、さっさと殺して埋めてしまえと圧力を受けていた。
それでも二人は一緒になることを決め祝言しゅうげんを挙げた。
産まれた伊代と二歳下の弟太一たいちが伊代の家族だ。前世OLだった時は独りだった…天涯孤独の施設育ち。就職してからはより一層孤独な生活は加速度を増して死の瞬間まで駆け抜けた人生だった。
母と父、弟との家族四人の生活は貧しいながらも家族の温かさを感じれる穏やかな時間…それこそが前世山中葵やまなかあおいだった時の唯一手に出来なかった大切なもの。
施設の皆は家族じゃなかったのかと聞かれれば苦笑せざる負えない…。
別に彼等が“家族じゃない”とは言わない。が、補助金と寄付でどうにかなっていた養護施設『黄昏の庭』は常にキツキツの赤字経営だった。
贅沢は出来ず、告げなくとも15歳になれば皆アルバイトをしながら学校に通う二重生活をしていた…みんな知っていたのだ、養護施設『黄昏の庭』は決して裕福な施設ではなかった。
子供は0歳から15歳までの総勢30人の小さな施設、当然掛かる光熱費や食費、施設を維持する為の修繕費、土地代その他諸々。
皆15歳までには里親に引き取られるか寮有りのバイト先に引っ越していく。これ以上迷惑を掛ける訳にいかないからだ。義務教育終了までは国から補助金が出るが中学を卒業すれば全て自己負担となる。
本当の親ではないが温かく時には叱り諭してくれた施設職員の山田さん…施設長のまどかさんを山中葵は“お母さん”と呼んで慕っていた。15歳で施設を出寮有りの高校に特待生で入学してからは疎遠となったが…今でも憶えている穏やかな場所。
……。

 「あの村はDNA鑑定したら半分はあの村長の血でしょうね、母は拒んだけれど…村長||、祖父は最低最悪の屑野郎だったもの。」

||母は村長である祖父の実の娘。伊代はそんな母と戦に負けた他国の農民上がりの元武者、今は右足を怪我した男でしかない。||その二人の間に産まれたのが伊代と太一だ。
…そのどこに“穢れ”があるというのか?

寧ろ穢れているのは村長達の方だ|||近親相姦を繰り返すこの世の地獄。
有り得ない。この村は人の村ではなく獣の村なのか?と。
……。
分かっていた…つもりだった。
だってここは山中葵が知る過去史の中だ。
当然まだ近代から転生した己がいた時代数百年も前の時代の❝当たり前❞は山中葵のではない。


…現代日本からの過去へのタイムスリップ転生を果たした女としては到底受け入れられない価値観。
実の父である筈の祖父が娘に自分に嫁げと無茶を言い拒絶されたから村八分にする||それも病弱で元々身体が弱い母に自分の子を産めと強要するのだ、有り得ないだろう。
伊代は襖越しに聞いていた…そんな祖父の愚かな妄言を。

 『良いからお前は村長である儂のトコに嫁げ、お前には期待しているんだ…ふふっ、直ぐに孕ませてやろう』
 『いや、嫌です…ッ!!』
バシッ!!
 『聞き分けのない事を言うんじゃない!!お前が“どうしても”と言うからあんな何処の馬の骨とも知らん男との*祝言を認めたのだ!!』

※*祝言しゅうげん∶江戸時代前後からある昔の結婚、結婚式の事。※

 『…ッ⁉何をするのですっ!お父さん!!…い、いや……ッ。止めて。私はもうあの人のものなの…~~~~ッ!!?』
バシッ、ガツッ、ギュッ!
ビリビリビリィィィィ||||…ッッ!!

 『ふ、ふふふっ…♬何、もう二人産ませてやっただろ?伊代と太一。二人は可愛いよなぁ~?伊・織いおり・♡』
 『…~~ッ!?ふ、二人に何をする気ですか…ッ!!』
青褪め震える母の姿が伊代には今も鮮明に瞼の裏に焼き付いている。
 『決まってるだろ、い・お・り♪』
 『…ッ⁉ふ、たりを……犯すつもりですか…ッ、あの子達はお父さんの孫でもあるのに…。』
 『そんなのこの村にはゴロゴロ居るだろ!それこそ半分は儂のお手付きで孕んだ女も孫も娘もここには多い!!…今更なんだわ。』
 『……外道ッ』
 『はははっ、言ってろ。そんな外道の血を伊織。お前も引いているんだからな…ッ!!♡♡』
犬鳴村はこの世の地獄。
この村では村長である祖父こそが絶対の王。
例え“王”でなくとも||…少なくともこの祖父の独壇場であった。

近代史では地図からも消された村。排他的で差別的で閉鎖的|||…。
泥を煮詰めたよりも尚真っ黒暗闇…犬鳴村は“忌むべき村”だった。のちに竜神へと捧げられる生贄の少女としては今でも母の無念ややるせなさ、苦痛や苦悩の表情すら思い出の中にしか存在しないのだ。

駆け寄ろうとした伊代を背後から抑える男がいた。
それは何処となく祖父に似た風貌の30代半ばの小太り中年だ。

 『…ふへっ♡伊代タンだよね?ボクの姪であり妹のいおりんの娘。大人しくボクと一緒に見てようか。ふへっ♡
こういうの性教育って言うんだっけ?♡』
 『…んっ!んん~~っ⁉んん|||…っっ!!!』
大きな手で口を塞がれ背後から羽交い締めにされた伊代は言葉通り見させられた。
弟の太一は昼寝をしたばかりだ。太一は一度寝たら起きないタイプ、父親似であった。

 『ほら、今伊織の大事な所に親父の剣がずっぽり挿入はいってるよぉ~~♬ふひっ♪楽しいね!嬉しいね?♬』
 『~~~~ッッ!?⁉』
パンッ、パンパンッ、パンッ、パンパンパンパンパンッ!!
目を覆いたくなるような悍ましい光景は否応なしに目からの脳へとあっという間に駆け巡る。

 “いや、いやだ…!見たくない見たくない見たくない…ッ!!”

瞼を閉じる事は伯父と名乗るこの中年小太り男が許してくれない。

ぐちゃぐちゃねちょねちょぐちゅぐちゅ…。

信じたくない、知りたくない音が鼓膜の奥ずっと響いてる。

 『出すぞッ!!伊織…ッ!!お前を儂の妻にしてやる!感謝しろ。……お"おお"うう"~~~っ!!!』
 『いや、いやいやいやぁあ"ああ"~~~…ッ!!?』
ドクッ、ドクドクドクッ!!

白く白く汚いものが母の腹を汚すその悍ましい光景。凡そ愛を育む為の夫婦の契りとは似て非なる行為モノ||獣の如き交尾は父が帰って来る10分前まで続けられていた…。

 『ふぅ、出した出した♪ククッ、なかなかいい穴だったぞ。伊織♡おい、分かってるだろうな?』

父は落ち目とは言え武芸の心得があった。力では敵わない事を…祖父はよくよく
だから。脅したのだ。
夫である父に話せば斬り殺されるのは自分だ、と。
だから。

 “話したら娘の伊代を伯父息子に襲わせる”
と。

 『返事は?』
 『……分かりました、お父さん。』
 『安心しろ。お前が素直に儂の女でいる内は村八分にはしねぇからよぉ~♪』
 『……。』

祖父を拒めば伊代に害が及ぶ。父に話せば伯父に襲われるのは年端もいかない伊代だ。…母の伊織に祖父からの提案を拒む余地などなかった。
犬鳴村があった所は辺境で…とてもじゃないが幕府も見落とす辺鄙な場所。
これと言った特産品も特にない長閑な田舎村。
そんな所にやんごとなき身分の人間が来る事等ない、祖父は正にこの犬鳴村の支配者だった…。

間もなく母は三度目の妊娠をした。相手は決まっている、祖父だ。この村の村長…犬鳴十兵衛の。

 『漸く孕んだか。いやぁ~目出度い目出度い♪クックックッ♬伊織、良い子を産んでくれよな?♡』
 『…はい、お父さん』
 『娘が産まれたらその娘も(年頃になったら)儂のトコに連れて来い。可愛がってやるでな♪』
 『……はい』
夫でもなく、自分を強姦した実父に肩を抱かれる不快感は想像を絶する。元々は健康的な小麦色の肌は見る影もなく今ではすっかりと煤けて見える。青白い肌を更に蒼白にして頷く母の顔はもう死んでいた。
・・・・・。


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