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プロローグ
7月9日、王様の誕生日パーティー3日目、空中庭園で
「あら、ミカエラ…来てたの?」
「ええ、今朝方着いたばかりなの」
「辺境は遠いものね~」
「ミリス…!あなた王都暮らしでしょう!?何故初日から居ないの…!」
「うわ、うるさ…っ!私の勝手でしょ~?ミカエラには関係ない」
空中庭園…そこは薔薇のアーチを潜り抜けた先に空の青と丸い白いテーブル、椅子…アフタヌーンティーにちょうどいいと下(遊戯室)で陛下と幾人かの友人とルーレットに興じている父を尻目にアリエルもまた久しぶりの友人達との時間を楽しんでいた。
赤毛に琥珀色の瞳の美少女がミカエラ・ハーノルト辺境伯令嬢、アリエルの同年の元クラスメイトだ。
卒業後はヴァルバロッサ王女殿下の近衛騎士に就いた…因みにヴァルバロッサ王女殿下の“武者修行”にも着いて行った剛の者。
物腰柔らかで清純派美人。
反対にミリス──ミリス・エレオノーレ伯爵令嬢は王都産まれの王都育ち、楽観的な性格で放浪癖のあるエレオノーレ伯爵家次女の為家督も継がなくていい身の上の為…学生時代にはとうに冒険者登録していた。既にランクはC。卒業後は冒険者として各地を転々としている。
“今回”この陛下の誕生日パーティーに久々に友人の顔を見に来ようか──と思い立ち、久しぶりのドレスに化粧をして王城へと来たと言う…いや、自由すぎるでしょ。仮にも自国の王の誕生日パーティーを“待ち合わせ場所”みたいに扱うのだから…。
「ミリス…!」
「なによ…!?」
…。
変わらないな、この二人。
学生時代の頃から真面目な優等生だったミカエラと、自由すぎる女、ミリス…“模範優等生”と“奔放娘”の言い合い…それは一種の学園の風物詩であった。
王立学園初等部から高等部まで通った幼馴染みにして腐れ縁。
真面目なミカエラと自由奔放なミリス…この二人はアリエル同様に近親婚──ミカエラは叔父のリヒター氏と、ミリスは実の兄キルトと──をそれぞれしたのだ。
…しかも共通点はどちらも 自らが押し倒して既成事実を作ったと言う─…なんて、仲の良い二人だろうか。
この国で近親婚は──禁止されている訳ではないが、推奨もされていない。
当然だろう、血が近すぎれば奇形児や手足の一部が欠けた子供が産まれ易くなるのだから。
…あくまでも当人同士の意思に任せる、とされている。
…。
嫡男であったキルト様を押し倒したミリスは──良く親の了解が得られたな、と思う。
蜂蜜色のショートヘアーと赤い瞳、小ぶりな鼻、薄いピンクの唇、猫の眼のように感情が瞳孔に乗り易い気まぐれ猫な…ミリス。
ミカエラの身長が168㎝、ミリスの身長が145㎝でアリエルと並ぶと三人の中で最も身長が高いのはアリエル。
この三人で良くカフェや庭園でお茶をしたものだ。
「ふぅ~、今日も紅茶が美味しいっ!」
初等部ふ6歳から6年間、中等部は3年間、高等部も3年間通うことになっている──ん?アリエル達は16歳で学園をとっくに卒業している節がある──?
何を今更…。
“エヴァンタ王国王立学園”は飛び級が認められている学園だ。
初等部から中等部、中等部から高等部までを一括で学ぶ学園で…高等部のみ寮がある。
特進科、商業科、普通科、騎士科、魔法科、侍従科の6つに分かれ、中等部に上がる前から何れかを選択して、中等部からはそれらの科で専門に学ぶ“選択科目”の授業が始まる。
…飛び級できるの初等部からで成績次第で12歳児が高等部の最高学年のクラスへ一気に移動する事もある─…のだとか。
アリエルも、ミカエラもミリスも…同じように初等部へ入学し、同時期に飛び級して行った秀才。
……?あの馬鹿──マルクスは…って?あいつが卒業出来る筈ないでしょ。退学よ、退学。
学園の備品(机とか図書室の本だとか)の器物破損や、窃盗の現行犯として。
(ここに王族とかの身分権限は無意味)
…何やってんだ?と言う話だ。
無論奴の小遣いから該当書籍の補填・補償はとっくに為されている。
でないと王城の地下牢行きだ。
暗くじめっとした窓もない地下牢で…刑期が終わるまでずっと…人を何千人と殺した凶悪な殺人犯や、大悪党なんかが囚われている地下牢で。
エヴァンタ王国──数々の小国や少数民族が併吞され統合され、統一された国…。
“エヴァンタ”には古語で『明日への希望』と言う意味がある。
〝我らエヴァンタの民、我ら見果てぬ夢の理想郷を追い求める者〟
〝見果てぬ理想郷、友と共に…進めよ歩めよ此処は我らの国、我らの土地〟
〝明日への希望を胸に野を駆け地を這い谷を越えて…築けよ、我らが祖国。護れよ、我らが誇り、我らが故郷を〟
エヴァンタ王国の誰もが覚える詩…。
…この地が多くの同朋の血と命を礎に〝国〟と成った建国の詩。
当時は陸続きで幾度も小競り合いや戦が絶えなかった──らしい。
その度に地殻変動が起きて山やら渓谷、広範囲に広がった湿地帯や穀倉平原、迷いの森…迷宮の数も近隣諸国で一二を争う種類の多さを誇る。
“王の天秤”以外は冒険者なら誰でも立ち入りを許可され、見果てぬ夢を叶えんが為冒険者は今日も今日とて迷宮へ──潜る人も居れば王城での陛下の誕生日パーティーに自由参加している人もいる。
タダ酒、タダ飯──加えて普段立ち入りを禁止されている王城への立ち入り。
この週間を“休暇”と捉えて早くから計画を立てて満喫している冒険者も多い。
…流石に王城に泊まれたりはしないが。
…飛び級で早くに卒業した学園当時の話から、近況報告、王都のどこどこの店が潰れて今は別の店になっている、だとか…旅先のあの店のあの料理が美味しかった、だの…と紅茶片手に話題は尽きない。
それぞれ住んでいる場所も、向かう先も違うので…話題が途切れる事はないのだ。
「…ふふっ、ミリスの話はいつも新鮮で面白いわ。どうしたら薬草採取で翼竜に遭うの?しかも群れ──それどういう確率?」
「分かんない~。なんか居るんだよね~別に翼竜の巣でもなんでもないごく普通の森なんだけどねー。なんでだろ?」
「知るか」
「知らないわ」
のんびり暢気なミリスの発言にミカエラとアリエルが『知らない』と即答した。
ミリス七不思議──ミリスは何故かそう言う星の名の下に産まれた、といっそ教会で高位の大司教にでも告げらた方が納得する。
遠足で訪れた森で火竜の番に遭遇するし、翼竜の群れには何故か目の敵にされる──竜関連の遭遇率が異常である。
「…古竜をテイムするとか…意味が分からないわ。どうして湿地帯のキノコ採取で古竜に会うの!どうしてテイムしてるの?!意味が分からない…ッ!!」
きっと誰も解らない。
「え、えへへへ…っ♡」
「…照れる所!?…なんかミリスって変わらないわね」
真面目優等生なミカエラ、不真面目放浪娘のミリス…宿題や課題は纏めて最終日に遣るミリスと、出されたその日からなるべく短時間で終わらせようとするミカエラ。
因みにアリエルは出されたその日は手を付けず…一週間経ってからサクッと1日で片付けるタイプだ。
吹き抜けの空中庭園…その東屋で友人とのお茶会…夏の強い日差しを遮る漆喰の屋根、給仕がカップへ注いだのはぬるめのオレンジ・ペコー。
ミーンミンミンミンミーンッ
セミの声が五月蝿い季節。
茹だるような熱さも…時々涼しい風が吹き付けてくる風結界はこの東屋の屋根に付けられた風石の加護のお陰。
とりとめのない会話にぬるめの紅茶…ちらり、と眺めればここ以外の東屋でも同様にテーブルを囲む令嬢や令息の集まりを見掛ける。
和やかな雰囲気で会話が途切れない庭園には向日葵の花が太陽に顔を向けていた。
「…はあー、いい天気ね~」
「風石があるから外でも快適だものね」
「そう言えばさ~、アリー…昨日のアレ、何?新手のコントか何か?」
「あー…“アレ”か…アレは私の仕込みじゃないわよ。…完全にあの馬鹿が自滅しただけよ…自分の父の誕生日も忘れるものなの?その…“真実の愛”とやらは。」
ミリスの問いにアリエルが疲れたような苦い顔をしながら逆にミリスにそう訊ねた。
「違うと思うな~」
「…あんなのが“真実の愛”なら国は立ち行かなくなるわよ」
ミリスが間延びし、ミカエラが苦笑と共に真面目な返答。流石は“優等生”である。
ミカエラが給仕の侍従(男)にグラスで氷とオレンジジュースを人数分持って来るよう注文していた。
「…ですわよね~。やはり“ラノベ”の読み過ぎなのかしら?…あの馬鹿は本なんか読まないだろうし──阿波擦れが現実とフィクションを混同したのかしら…?」
「え、なにそれ…自分は“お姫様”だとでも?」
「想っていたんじゃない~?ほらー、以前学園で流行った…」
「『乙女ゲーム』と言う企画で著名作家が合同で幾つかの配役を用意して自由に恋物語を書く──と言う本屋の商戦──企画。」
~~王都本屋企画~~
①出てくる人物は『男爵令嬢』、『悪役令嬢(身分が高い)』、『王子』、『取り巻きABCD』で学園を舞台にラブロマンスを展開する事。
②『悪役』は必ずざまぁされて『主役』を惹き立たせる役職であること。
③登場する人物は架空のものであり、又フィクションであること。
④舞台とするのは王立学園であること。
…この4つを守って後は「書き手」の自由にタイトルも、登場人物の名前も自由に決めて同時に作品を販売し、1ヶ月間でどれだけの人に買われ、又読まれたのか──合計売上金とツ○ッターのフォロー数で勝敗を決めるのだ。
因みに優勝者には賞金も出る。
プロ・アマ問わずこの本屋の“企画”に参加する作家も多い…魔導テレビで生中継もされるので…当然陛下の耳にも入るし、本好きの王子や王女も密かに応援しているし、企画に賛同して寄付までしている始末…王家には本の虫が多い。
まさに“ゲーム”のような多種多様な恋愛をテーマにした漫画や小説、ラノベに文庫本が並ぶ──本好きの夢の祭典。
「私『嘆きのイデア』が好きですわ」
「あー、主人公が天使で堕落仕切った幼馴染みの天使をそうとは知らず王子に擬態した“堕天使”を粛正し、悪役令嬢─…人間の国の公爵家のお姫様を“堕天使”の魔の手から死守する恋愛モノに見せ掛けた──下剋上ざまあ(王子のみ)をする…って奴~?」
「そう、それ」
「あれ…最後は主人公の天使は天界に帰って、堕天使(王子擬き)は奈落の底へと堕ちる…若干公爵家のお姫様が空気になってる奴ね」
「恋愛小説括りなのに誰一人結ばれない…不毛物語…けど、それがいいの!コメディー色強くて最高だったもの♪」
…阿波擦れの話から『本屋企画』の話へと移った。
……。
「ええ、今朝方着いたばかりなの」
「辺境は遠いものね~」
「ミリス…!あなた王都暮らしでしょう!?何故初日から居ないの…!」
「うわ、うるさ…っ!私の勝手でしょ~?ミカエラには関係ない」
空中庭園…そこは薔薇のアーチを潜り抜けた先に空の青と丸い白いテーブル、椅子…アフタヌーンティーにちょうどいいと下(遊戯室)で陛下と幾人かの友人とルーレットに興じている父を尻目にアリエルもまた久しぶりの友人達との時間を楽しんでいた。
赤毛に琥珀色の瞳の美少女がミカエラ・ハーノルト辺境伯令嬢、アリエルの同年の元クラスメイトだ。
卒業後はヴァルバロッサ王女殿下の近衛騎士に就いた…因みにヴァルバロッサ王女殿下の“武者修行”にも着いて行った剛の者。
物腰柔らかで清純派美人。
反対にミリス──ミリス・エレオノーレ伯爵令嬢は王都産まれの王都育ち、楽観的な性格で放浪癖のあるエレオノーレ伯爵家次女の為家督も継がなくていい身の上の為…学生時代にはとうに冒険者登録していた。既にランクはC。卒業後は冒険者として各地を転々としている。
“今回”この陛下の誕生日パーティーに久々に友人の顔を見に来ようか──と思い立ち、久しぶりのドレスに化粧をして王城へと来たと言う…いや、自由すぎるでしょ。仮にも自国の王の誕生日パーティーを“待ち合わせ場所”みたいに扱うのだから…。
「ミリス…!」
「なによ…!?」
…。
変わらないな、この二人。
学生時代の頃から真面目な優等生だったミカエラと、自由すぎる女、ミリス…“模範優等生”と“奔放娘”の言い合い…それは一種の学園の風物詩であった。
王立学園初等部から高等部まで通った幼馴染みにして腐れ縁。
真面目なミカエラと自由奔放なミリス…この二人はアリエル同様に近親婚──ミカエラは叔父のリヒター氏と、ミリスは実の兄キルトと──をそれぞれしたのだ。
…しかも共通点はどちらも 自らが押し倒して既成事実を作ったと言う─…なんて、仲の良い二人だろうか。
この国で近親婚は──禁止されている訳ではないが、推奨もされていない。
当然だろう、血が近すぎれば奇形児や手足の一部が欠けた子供が産まれ易くなるのだから。
…あくまでも当人同士の意思に任せる、とされている。
…。
嫡男であったキルト様を押し倒したミリスは──良く親の了解が得られたな、と思う。
蜂蜜色のショートヘアーと赤い瞳、小ぶりな鼻、薄いピンクの唇、猫の眼のように感情が瞳孔に乗り易い気まぐれ猫な…ミリス。
ミカエラの身長が168㎝、ミリスの身長が145㎝でアリエルと並ぶと三人の中で最も身長が高いのはアリエル。
この三人で良くカフェや庭園でお茶をしたものだ。
「ふぅ~、今日も紅茶が美味しいっ!」
初等部ふ6歳から6年間、中等部は3年間、高等部も3年間通うことになっている──ん?アリエル達は16歳で学園をとっくに卒業している節がある──?
何を今更…。
“エヴァンタ王国王立学園”は飛び級が認められている学園だ。
初等部から中等部、中等部から高等部までを一括で学ぶ学園で…高等部のみ寮がある。
特進科、商業科、普通科、騎士科、魔法科、侍従科の6つに分かれ、中等部に上がる前から何れかを選択して、中等部からはそれらの科で専門に学ぶ“選択科目”の授業が始まる。
…飛び級できるの初等部からで成績次第で12歳児が高等部の最高学年のクラスへ一気に移動する事もある─…のだとか。
アリエルも、ミカエラもミリスも…同じように初等部へ入学し、同時期に飛び級して行った秀才。
……?あの馬鹿──マルクスは…って?あいつが卒業出来る筈ないでしょ。退学よ、退学。
学園の備品(机とか図書室の本だとか)の器物破損や、窃盗の現行犯として。
(ここに王族とかの身分権限は無意味)
…何やってんだ?と言う話だ。
無論奴の小遣いから該当書籍の補填・補償はとっくに為されている。
でないと王城の地下牢行きだ。
暗くじめっとした窓もない地下牢で…刑期が終わるまでずっと…人を何千人と殺した凶悪な殺人犯や、大悪党なんかが囚われている地下牢で。
エヴァンタ王国──数々の小国や少数民族が併吞され統合され、統一された国…。
“エヴァンタ”には古語で『明日への希望』と言う意味がある。
〝我らエヴァンタの民、我ら見果てぬ夢の理想郷を追い求める者〟
〝見果てぬ理想郷、友と共に…進めよ歩めよ此処は我らの国、我らの土地〟
〝明日への希望を胸に野を駆け地を這い谷を越えて…築けよ、我らが祖国。護れよ、我らが誇り、我らが故郷を〟
エヴァンタ王国の誰もが覚える詩…。
…この地が多くの同朋の血と命を礎に〝国〟と成った建国の詩。
当時は陸続きで幾度も小競り合いや戦が絶えなかった──らしい。
その度に地殻変動が起きて山やら渓谷、広範囲に広がった湿地帯や穀倉平原、迷いの森…迷宮の数も近隣諸国で一二を争う種類の多さを誇る。
“王の天秤”以外は冒険者なら誰でも立ち入りを許可され、見果てぬ夢を叶えんが為冒険者は今日も今日とて迷宮へ──潜る人も居れば王城での陛下の誕生日パーティーに自由参加している人もいる。
タダ酒、タダ飯──加えて普段立ち入りを禁止されている王城への立ち入り。
この週間を“休暇”と捉えて早くから計画を立てて満喫している冒険者も多い。
…流石に王城に泊まれたりはしないが。
…飛び級で早くに卒業した学園当時の話から、近況報告、王都のどこどこの店が潰れて今は別の店になっている、だとか…旅先のあの店のあの料理が美味しかった、だの…と紅茶片手に話題は尽きない。
それぞれ住んでいる場所も、向かう先も違うので…話題が途切れる事はないのだ。
「…ふふっ、ミリスの話はいつも新鮮で面白いわ。どうしたら薬草採取で翼竜に遭うの?しかも群れ──それどういう確率?」
「分かんない~。なんか居るんだよね~別に翼竜の巣でもなんでもないごく普通の森なんだけどねー。なんでだろ?」
「知るか」
「知らないわ」
のんびり暢気なミリスの発言にミカエラとアリエルが『知らない』と即答した。
ミリス七不思議──ミリスは何故かそう言う星の名の下に産まれた、といっそ教会で高位の大司教にでも告げらた方が納得する。
遠足で訪れた森で火竜の番に遭遇するし、翼竜の群れには何故か目の敵にされる──竜関連の遭遇率が異常である。
「…古竜をテイムするとか…意味が分からないわ。どうして湿地帯のキノコ採取で古竜に会うの!どうしてテイムしてるの?!意味が分からない…ッ!!」
きっと誰も解らない。
「え、えへへへ…っ♡」
「…照れる所!?…なんかミリスって変わらないわね」
真面目優等生なミカエラ、不真面目放浪娘のミリス…宿題や課題は纏めて最終日に遣るミリスと、出されたその日からなるべく短時間で終わらせようとするミカエラ。
因みにアリエルは出されたその日は手を付けず…一週間経ってからサクッと1日で片付けるタイプだ。
吹き抜けの空中庭園…その東屋で友人とのお茶会…夏の強い日差しを遮る漆喰の屋根、給仕がカップへ注いだのはぬるめのオレンジ・ペコー。
ミーンミンミンミンミーンッ
セミの声が五月蝿い季節。
茹だるような熱さも…時々涼しい風が吹き付けてくる風結界はこの東屋の屋根に付けられた風石の加護のお陰。
とりとめのない会話にぬるめの紅茶…ちらり、と眺めればここ以外の東屋でも同様にテーブルを囲む令嬢や令息の集まりを見掛ける。
和やかな雰囲気で会話が途切れない庭園には向日葵の花が太陽に顔を向けていた。
「…はあー、いい天気ね~」
「風石があるから外でも快適だものね」
「そう言えばさ~、アリー…昨日のアレ、何?新手のコントか何か?」
「あー…“アレ”か…アレは私の仕込みじゃないわよ。…完全にあの馬鹿が自滅しただけよ…自分の父の誕生日も忘れるものなの?その…“真実の愛”とやらは。」
ミリスの問いにアリエルが疲れたような苦い顔をしながら逆にミリスにそう訊ねた。
「違うと思うな~」
「…あんなのが“真実の愛”なら国は立ち行かなくなるわよ」
ミリスが間延びし、ミカエラが苦笑と共に真面目な返答。流石は“優等生”である。
ミカエラが給仕の侍従(男)にグラスで氷とオレンジジュースを人数分持って来るよう注文していた。
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「え、なにそれ…自分は“お姫様”だとでも?」
「想っていたんじゃない~?ほらー、以前学園で流行った…」
「『乙女ゲーム』と言う企画で著名作家が合同で幾つかの配役を用意して自由に恋物語を書く──と言う本屋の商戦──企画。」
~~王都本屋企画~~
①出てくる人物は『男爵令嬢』、『悪役令嬢(身分が高い)』、『王子』、『取り巻きABCD』で学園を舞台にラブロマンスを展開する事。
②『悪役』は必ずざまぁされて『主役』を惹き立たせる役職であること。
③登場する人物は架空のものであり、又フィクションであること。
④舞台とするのは王立学園であること。
…この4つを守って後は「書き手」の自由にタイトルも、登場人物の名前も自由に決めて同時に作品を販売し、1ヶ月間でどれだけの人に買われ、又読まれたのか──合計売上金とツ○ッターのフォロー数で勝敗を決めるのだ。
因みに優勝者には賞金も出る。
プロ・アマ問わずこの本屋の“企画”に参加する作家も多い…魔導テレビで生中継もされるので…当然陛下の耳にも入るし、本好きの王子や王女も密かに応援しているし、企画に賛同して寄付までしている始末…王家には本の虫が多い。
まさに“ゲーム”のような多種多様な恋愛をテーマにした漫画や小説、ラノベに文庫本が並ぶ──本好きの夢の祭典。
「私『嘆きのイデア』が好きですわ」
「あー、主人公が天使で堕落仕切った幼馴染みの天使をそうとは知らず王子に擬態した“堕天使”を粛正し、悪役令嬢─…人間の国の公爵家のお姫様を“堕天使”の魔の手から死守する恋愛モノに見せ掛けた──下剋上ざまあ(王子のみ)をする…って奴~?」
「そう、それ」
「あれ…最後は主人公の天使は天界に帰って、堕天使(王子擬き)は奈落の底へと堕ちる…若干公爵家のお姫様が空気になってる奴ね」
「恋愛小説括りなのに誰一人結ばれない…不毛物語…けど、それがいいの!コメディー色強くて最高だったもの♪」
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