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プロローグ:「俺は男だが?」「…はっ??」

言葉青依の日常・1

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言葉青依ことのはあおい、19歳。
青銀色アルパインブルーの腰まで真っ直ぐな髪、前髪は細くしなやかな弧を描く眉毛の上で一揃えされ、キリッとした二重瞼も上向き誇る睫毛は長く髪色に近い銀色だ。瞳の色は赤目。白磁の肌、白に近い銀色髪、血のように赤い赤い瞳…それは彼女──いや、見るも麗しい“彼”が間違うことなき〝アルビノ〟であると告げていた。
アルビノの少女…、少女のような青年は158㎝と19少し低い背丈、ほっそりとした手指、黄金比とされる等間隔均等の小顔美人…群青色のゴスロリドレス━━は、彼にとても良く似合っていた。

 「お、お嬢ちゃん…俺とお茶に行きませんか…っ!?」
 「いや俺とカフェに…!」
 「俺とカラオケに…行かせてください…!!(?)」
……。
少し彷徨いただけでもう平日の午前中に関わらず「お声が掛かる」のだから青依の“女装”は彼等に受け入れられたようである。
高校を卒業してから一年。
青依は仕事着ゴスロリ衣装で街を練り歩く…これも“モデル”の仕事であるのだ。
 「…ごめんなさい、私──男なんだ。それに俺太刀だからさ…寝子を期待すンなよ?」
 「!?…な、ぇ…?!」
ニヤッと笑ってなけなしの勇気を振り絞ってナンパした20代前半のスーツ姿の青年の誘いを断った。
 「俺のこの衣装…『cloth』で売られてるから興味あるなら一度店覗いてみてくれ。どんな男性でも身体のラインをそれ“らしく”隠し素敵な女に仕立てる…そう言った『cloth』で新たな扉、開けてみねぇか?」
 「…!?宣、伝……だと…ッ!?!?」
 「…お、男……はっ!?(゜ロ゜)!?」
 「…た、確かに急にかわゆい萌え声からちょっぴり低いアルトボイスくらいになった…けど、!」
 「…し、信じられんッ!」
渋谷のスクランブル交差点を渡りきって元109…今はケミナスタワーと呼ばれた白亜のパルテノン神殿の石柱のような10階建ての聳え立つビルは総合複合ショップだ。1階~8階まではファッション関連の、9階は丸々貸しスタジオとなっており、一般も利用出来る。
10階はレストラン、フードコート、カフェ、バーガーショップが詰めている。
…何を隠そう青依はその8階に店を構える姉の店専属モデルとして契約している。
…学生時代はバイトとしてコスプレショップの店員経験もある。
1階~2階までが10代~10代半ばまで。3階~4階までは10代後半~20代前半まで。5階~6階までが20代後半~30代まで。7、8階はコスチューム専門店が軒を連ねる。『cloth』もその内の一つだ。
姉は腐女子で性別の別なく『かわいい服・綺麗な服を気軽に楽しんで貰いたい』とキラキラした瞳で熱く燃え滾っていたのを青依は今でも昨日の事のように思い出せる。
……。

一通り往来を一巡りした青依はケミナスタワーに入る。
エレベーターに乗り込み8階までの階ボタンを押す。
5・6人くらいの学生がワイワイしている…ああ、自分にも彼女達のような時代があったなぁ~と感慨深く懐かしく思いながら彼女達の雑談に一人静かに聞き耳を傍立てた。

 「今度の連休(ゴールデンウィーク)に剣恋のゲームアワーの旅行計画、どうなった?俺の親は説得したけど…」
 「ああ、うちも大丈夫だ。と言うか親戚のおっちゃんから宿泊券、貰っちまった」
 「何!?」「本当か…ッ!?」
 「ああ、ほら5人分…代わりに幾つかグッズと同人誌の購入を依頼されたけど、な」
 「おっちゃんマジ神!!」
 「私のトコは車、出してくれるって。…と言っても行きだけ、だけど」
 「帰りは姉さんが受け持ってくれるよ~」
 「…本当?それは助かるわ。瀬名」
少年3人と少女2人の仲良しグループの弾んだ声が段々と遠ざかっていく。

話題はあと3日とないゴールデンウィークのゲームのイベントについて…か。

剣恋…正式名称を『剣は恋を貫く』。フルダイブ型家庭用ゲーム機【ヘルメス】専用ソフト『剣は恋を貫く』は完全ソロプレイ推奨のゲームだ。
本編をクリアするまでは“オンライン”機能は解放されず、クリアまでに掛かる時間が80時間とふざけたボリュームのRPGである。
舞台は中世ヨーロッパ風の世界で主人公(男/女)は広大なファンタジー世界を冒険し、恋をし、友情を育む。勿論楽しい事ばかりではない冒険の途中に立ち憚る苦難や大いなる野望、身を苛むような哀しみや別れ、時に仲間の裏切りや罠に嵌められ絶体絶命のピンチに颯爽と現れる新たな仲間。大いなる野望を抱く愚者の王を討っても一度切られた大戦の火蓋は主人公一人だけの声では止められないのだった…。
ゲーム“本編”はこの大戦の手前までの物語ストーリーでありそこまでがオフライン。
来る〝大戦〟に向けてオンライン機能がオープンされ、ゲームを起動するとアバター作成の画面に切り替わって今まで使っていた主人公(デフォルト)達パーティーはこのアバター作成後ソロプレイをしたい時にパーティーに入ってくれる。(勿論鍛えたレベルやステータス、魔法やスキルはそのままで)
フレンド機能や新たな大陸のアップデート…ゲームクリアを目指すも良し、生産廚になるも良し、モフモフの沼に堕ちても良い…そんな自由度の高いゲームタイトル──と姉は自分の事のように自慢していた。
オフラインからオンラインに至るまでに最低80時間を要する超大作…らしいが青依にはあまり興味はない系統だ。
青依は今の姿女装こそが唯一の趣味と言っても過言ではないほど女装を趣味ーーいや、“仕事”にするほど嵌まっている。
漫画やアニメは姉や妹が勧められるままに読み漁ったが…惹かれるのはどうしても今のようなかわいい格好をした女の子。
“自分なら”どう表現するか、ヒロインが青依ならどのようなコーデにするか…とか。そんな事を考えてばかりだ。


──尚恋愛対象は尊敬出来る人。男女どちらでもイケる口だが前述のように太刀タチを自称しており、中学卒業を機に自然消滅したのが一度目で、二度目は高校一年から二年へ進級する時に相手の男子が親の仕事の都合で遠くへ引っ越した為自然と疎遠に…三度目は二年の時の文化祭でその時の彼女が他の男子と校内で浮気セ○クスしていた場面に出会し破局。四度目は高校の卒業後進学と就職で分かれた。
都合4人の“恋人”との遍歴である。(女、男、女、男の順)
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