仕組まれた勇者召喚~クラス全員異世界転移者の中に1人だけ吸血鬼転生者が居ました~

アリス

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プロローグ:始まりの勇者召喚に1人だけ吸血鬼が居ます?

ファーストコンタクト

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令和元年──5月○日…その日、1年3組の担任教師含め──35名の全員の消失が確認された。

絢爛豪華な調度品、異並ぶ騎士甲冑、法衣姿の神官…玉座に座する王冠を佩いし初老の男性…、傍らの王女、召喚を行ったとされる巫女服姿の“聖女”。

 「──よくぞ参られた、勇者よ」

…そこからの定番の「魔王を倒して欲しい~」からの「魔族との戦争」に関する言及、人類の現状を切々と語る王様。
戸惑い、混乱するクラスメイト達──ただ、その場に一人の少女が居ないことに気づいたのは…少女の幼馴染み二人と担任教師(男)くらいだが。
……。


 

時を同じくして──魔王城にて。
 「……ん?んんっ?もろ好みのお宅はどちら様で?」
 「貴様!畏れ多くも魔界を統べる偉大なる魔王様に向かって不敬な…ッ!!」
 「セト、少し黙れ」
 「はっ!」
黒髪に赤目の端正な顔立ちの魔王様──は、少女…小鳥遊尤兎たかなしゆう(16)の元まで一息で赴いた。
 「…そなた、吸血鬼ヴァンパイアにしては少し可笑しいな」
 「?吸血鬼ヴァンパイア…??だれが──えっ!?」
 「飲め──どうした?吸血鬼だろう、そなたは」
差し出された首筋に唇が触れる…。

ドク、ドク、ドク…ッ!

心臓が飛び出そうな衝動が──私の全身を貫く。
 「ぁ、ぁぁ…っ!?」
──気付けば、私はそのもろ好みの男性の太い首筋に牙を立てていた。
 「…ッッ、く…ふっ、──ッッ。」
…そんなエロいうめき声とも喘ぎ声とも取れる吐息を至近距離で…ミントかシトラスの薫りが漂う中でじゅるじゅると啜る喉を鳴らす己──血が、魔力が…全身を駆け巡る。

ごくごくと夢中になって嚥下する私…そんな私を優しく抱き留めて美形イケメンは私が満足するまで血を飲ませてくれた。

 「…あ、の…。」
 「──ん?もういいのか、吸血鬼……名は?」
 「ぁ、…小鳥遊尤兎、です」
 「畏まらなくとも良い」
 「じ、じゃあ…その、あなたは?」
 「我?我は──オルガノン、魔界を統べる当代魔王だ。」
…至近距離の麗人の顔は心臓に悪い。
バクバクと今も胸の鼓動が痛いくらいなのに。
 「あ、ああの!ち、近いの…離れて…っ!?」
 「離れない──我はで構わぬぞ?なあ、尤兎」
 「──はぅっ?!」
流し目…ダメです…ッ!
この腕の中にずっと囚われていたいような…離れがたくなる。
KAT-○UNの亀○和也似の美形に抱き締められ、甘い言葉を囁かれる(※囁いてはいない)…ご馳走さまです!!
何を隠そう──私、小鳥遊尤兎は無類の3次元──所謂生モノ…芸能人とかのカップリングが好きな腐女子である。
中でもKA○-TUN の○梨和也は私の中では不動の攻めキャラとして固定化されている。
某ドラマで共演していたニュースの山ピーとカップリングで薄い本(同人誌)を幾つも買ったし、描いたものだ。
本当、ジャニーズってBL妄想の宝庫である(きっと違う)。
 「…?尤兎?おい、尤兎…?どうしたのだ…返事をしろ」
 「…ッ、ダメ…尊い…っ!!イケメンマジ最高」
 「?可笑しな娘だな…本当に大丈夫か…?」
鼻を抑えて私は鼻血に備える。
ダメ…萌え…ハアハア♡
 「…おい、どうしたのだ…尤兎、尤兎…?」
 「魔王様、これ、、はハズレです。即刻捨てましょう!」
 「…セト、お主は少し黙れ。我の魔力の半分を捧げた“召喚ガチャ”なのだぞ?失敗、とも思えんが…なあ、尤兎よ」
 「ぐへへへ……っ♡♡」
ぺちぺち、額を軽く叩く…ダメだ、恍惚としたまま帰ってこない。
さらりと腰まで伸びた銀髪に血のように真赤の瞳。
大きく円らな瞳につん、と上向いた低めの鼻、唇は薄く桜色。
肌の色は白磁の陶器のような白さだ。
10代そこそこの人族のような若々しさ…この尤兎とやらは、召喚ガチャで魔王の総魔力の半分を迷宮核ダンジョンコアに捧げて召喚した配下だ。
隣は迷宮核がある“執務室”、ここは…召喚ガチャだけを行う為に空間拡張の術式を施した召喚の間である。
(召喚によってはドラゴン等の大型魔物を呼び出す時に執務室だと狭い為部屋を分けている)
 「…おい」
 「ぐへへへ~っ♡」
 「尤兎、尤兎…?」
ソファとテーブルだけのシンプルな群青色の壁と天井、床は大理石で出来ており、乳白色の床に所々斑に黒が混じった硬質な床…そこにコバルトブルーの絨毯が敷かれ、ソファとテーブルのみの部屋…他はだだっ広い空間があるだけの物寂しい印象を抱く。
だが、召喚の間はこれでいいと魔王が自身が決めたものだ。
この世界──フィタリカで“魔王城”は攻略難易度SS級の迷宮ダンジョンの事を指す。
迷宮──とは、神々や精霊達とのともされ、世界各地…それこそ天空や地下、海底にすらも存在する摩訶不思議な建造物である。
そこには魔物や罠があり、迷宮を潜る者を冒険者と呼び、冒険者は魔物を倒すことで経験値を得てレベルアップする──強くなるのだ。
迷宮内には様々なアイテムが眠っているとされ、中には生活を便利にするものや、料理、武器防具、異世界より流れる見たこともない技術で作られた衣服…ドレスなんかも稀に出てくる(箱の大きさ以上の)。
“魔界”とはその“魔王城”周辺の高濃度の魔力帯──人は“瘴気”と呼ぶが──は魔族にとっては単なる魔力が濃いだけの土地である。
魔族は“魔王城”を中心に円を描くように各街や村、エルフやドワーフの集落があったりする。
この濃い魔力帯の中で活動出来るのなら──魔界の門戸は誰にでも開かれているのだ。
…まあ、高濃度魔力を吸った魔界の魔物はその他の地域の魔物の強さとは雲泥の差。像と蟻、月とすっぽんくらい開きがある。



 「──と言う事だ。…ハァ、お主…少々──いや、大分可笑しい奴ではないか?」
 「…えへへ」
なぜ照れる。
頬を赤く染め、ポリポリと掻く少女…尤兎のに移れたのは尤兎がトリップして2時間も後だった。
 「…そ、それで魔王様は私にアライミタナ王国が召喚した「勇者」を殺せばいいのです?」
 「ああ、…で構わぬ。我らは弱い者イジメはしない主義でな、そのとやらが我の手に余るのか否かを見極め──」
 「厄介そうなら殺せばいいのですね!反対に雑魚なら脅して言うこと聞かせるんですねっ!」
…。
…キラキラとした瞳で凄い事言うなー、この娘。
 「…王国の召喚がどのようなものかは粗方分かっている──あれは“異世界の住人”を「勇者」とカテゴリーして喚んでくるインチキ誘拐魔法だ。

召喚とは名ばかりの──」

──時を同じくして、小鳥遊尤兎のクラスメイト含め34はアライミタナ王国国王、オストリアヌス王より同様の──簡単な自己紹介後の世界観とか、魔法や迷宮の概念──説明をされていた。

 「あ、あの…私達──帰れるんですよね…?」

クラス委員長の青葉弥生あおばやよいが異並ぶ騎士甲冑の騎士達にびくつきながらも、王様へと尋ねる。

 「…残念ながら──帰れぬ。済まぬな、勇者よ…」
 「!そんな…っ!?」
 「帰れないって…どう言う事ですか…ッ!?」
 「それで魔族と戦争…っ!?はあ、ふざけんなっ!!」

 「…人族の扱う“勇者召喚”は大量の魔力を犠牲にして行われただ──遥か4000年ほども前までは、な。

我はその時代を生きた訳ではないが…先代魔王の父上から伝え聞けば4000年前までは行われなかった外法なのだ、人族が──“教会”が掲げる「勇者召喚」と言う魔法は」

クラスメイト達が憤る玉座の間と、魔王城の“召喚の間”のソファに対面で概要をかい詰まんで丁寧に説明してくれる横でセトと呼ばれた男悪魔が見事な手際で紅茶を淹れる。
(アイテムボックスからいつでも飲み頃の紅茶が入ったティーセットがセトのアイテムボックス内には常備されている)
 「どうぞ」
 「あ、ありがとう…なんで睨むの?」
ギンッ、とても鋭い射抜く紫色の切れ長の瞳が抜き身の刃のように突き刺さる。
 「セト」
 「…チッ、おい、女!魔王様血を貰ったからと言ってイイ気になるなよ!私の方が魔王様の忠臣となってからは付き合いが長いんだ!」
 「…セト」
魔王様は呆れたような声色で男悪魔を窘める。
…何だろう、これ?
とてもドキドキする──この感覚は、まさか…!?
 「も、萌え…っ♡♡ぐへへへ…ぐひ…ひひっ(腐)♡♡」
魔王様×セト?…否、セト×魔王様も──案外…イケる!!

ゾクゥッ!!

男悪魔──深緑色の短髪に紫色の神経質そうな青年が苦々し気にこちらを見ていたのが──に悪寒が走る。

…腐女子の気配に忠臣セトは言い知れぬ恐怖を感じ怯えた。

腐笑浮かべたまま、脳内妄想が捗る腐女子尤兎に怪訝な眼差しを向ける魔王様は…流石と言えば流石である。
腐女子の腐笑も異に返さない──いや、気付いていないだけだった。
 「…?尤兎…どうしたのだ?まだ説明の途中だ…戻れ」
戻れ、と言われて戻る頭を持っていないのが…腐女子の厄介な所。
ボーッと在らぬ所を見詰める尤兎のおとがいを持ち上げてその桜色の唇にキスを落とす──
 「──ッ!?!?」
瞼を閉じても美形イケメン美形イケメン──じゃなくて。
…何、これ。ご褒美…?死ぬの、私??

 「…ふん。戻ったか…会話の途中で意識を飛ばすな、正直持病でも持っているのかと思ったぞ。──冗談だ」

そう言って頤から手を離した魔王──オルガノンはじっと潤んだ瞳を見詰める。

 「──なんだ、期待したのか?尤兎」
 「──ッ、…ぃて」
 「ん?」
 「!?ま、まさか…」
 
頬を染め上目遣いにオルガノンを下から見上げる尤兎…その雰囲気はどこか妖しい…。
 「抱いて…私の白馬の王子様…♡」
 「!?い、いけません!魔王様、ダメですよ!この女はダメです!捨てましょう!?」
 「──落ち着け、たわけ。」
ゴン、とその深緑色の頭頂部をオルガノンの拳が落ちる。
 「~~~ッッ!!?」
悶絶し、崩折れる忠臣を尻目に大胆発言を先ほどから繰り出す尤兎の唇を今一度キスで黙らせる魔王──それが更なる泥沼に嵌まる事を彼はもっと早い段階で気付くべきである。魔王は。

…因みに魔王が“困った時は女はキスで黙らせる”が主流になっているのは、彼の両親がしょっちゅうチュッチュッしていたのが原因でもある。──誰も彼もと言う訳ではないが。
“好ましい”と思った女性限定にしている。
彼にとっては挨拶のようなもの。
──だから。
なぜセトが焦っているのか分からない。
異性であり、恋愛偏差値が皆無のヲタクで腐女子で喪女な残念女子高生の尤兎が狼狽えて目を白黒させるのは分からないでもないのだが。
 「な、ななな…っ!?き、ききき貴様ァ~~~ッッ!!許さぬ~~っ!斬るkill殺す潰すゥゥ~~ッッ!!」
 「辞めい!」
ゴンッ!
 「いたぁ~~ッ!?」
側頭部とつむじの重なる部分から生える漆黒の山羊の角にも響くのような痛みに蹲る情けない男の姿がそこにはある。

 「……。まあ、いい。」
それより──と、オルガノンは再び視線を尤兎へと戻す。
 「尤兎…その話はまた今度だ」
 「…何時なら良いですか?」
 「今度だ」
 「…何時なら良いです?」
 「今度だ」
 「結婚してください!」
 「こん──どは永遠に来んぞ?」
 「なら、お仕事しませんっ!」
 「…。」
 「…。」
 「──分かった。と引き換えにお主と結婚しよう。
我も永らく独り身故な…まあ、構わぬ」
 「──ッ!?今すぐ結婚しましょう!!」
 「待て、仕事しろ。勇者の調査と殺害──ないし、脅してからだ」
 「……分かりました、魔王様──ううん、オルガ様!♡」
不承不承と判るような唸るような返答だ。

 「…とは言ってもいきなり旅立て、とは言わないからそこは安心しろ。尤兎には最低限のレベルアップと自衛の手段、この世界で生きるなら“それなり”の知識と知恵、魔法を身に付けてもらう…こればかりは尤兎の理解力次第、だが。」
 「…頑張ります!」
ピシッと敬礼して、ふんすーと鼻息荒い気合いの入った尤兎の宣言に魔王は苦笑を浮かべる。
出会ったばかりの異性──人間ではなく魔王に──とよく結婚しようと思えるものだな、と内心感心しつつ、呆れてもいた。
 「…随分と話し込んでしまったな」
 「…そうですか~?私はまだまだ大丈夫ですよっ!」
 「我にも仕事があるのだ」
 「迷宮管理、と言いませんでした?」
 「…。」
 「…。」
 「…よく、覚えているな」
 「イケメンの言葉は一言一句記憶してますのでッ!♡」
 「そ、そうか…ッ」
 「はいっ!」
元気溌剌である。
…もっとこう…、外見通りの静かで涼しげな女性だと思っていた。
それが…こんな、元気が有り余ったような邪気のない笑顔を自分へと向けている。
…なるほど。この娘はではないな。
 「…それでは尤兎、お主の話しを聞きたいのだが…?」
 「私、ですか?」
 「うむ。お主からは少ないが…人間──人族の薫りがする。だが、我は“魔族”を召喚したはずなのだ。──どう言う事だ?」
 「ああ!」
なるほど、と手の平にポン、と自身の拳を落とすと
 「──ん?魔族…?」
 「うむ。そなたは吸血鬼ヴァンパイアであろう」
 「吸血鬼……誰が?」
 「尤兎…そなただ」
……。
暫しの沈黙の後、無言でのブレザーのポケットからスマホを取り出し自撮りモードで自身の顔を写してみる。
…………。
………。
……。
 「──なんじゃこりゃぁぁあっつ!?」
小鳥遊尤兎──苦節16年、愛情深い両親の黒髪と黒目、面立ちを引き継いで産まれました。
それが…それがっ!
こ、こんな…っ!?
さらさら黒髪から銀髪に!
二重瞼のぱっちり黒目が…血のような真赤に…!!
ま、まるで…そう、あの大好きな魔界の姫シリーズの──
 「真祖吸血鬼マーダーヴァンパイア青薔薇吸血姫ブールーローズプリンセス、セルジュ=カティオ様じゃない!?
…で、でも…それが高校の制服って…違和感が…あ、あれ?」
スマホの自撮りモードで写し出された自分の顔は…変わらず…?
…色味だけが青薔薇吸血姫様になっているようだ。
…なんだか、コスプレしたような気分になる。
ペタペタと自分の顔を触ったり、銀髪の毛先を持ち上げて視界に捉えてみる…。
 「こ、これ…なんで?え…っ!?」
教室の床全体に魔方陣が浮かび上がって数刻──目を開けてられないほどの光に晒されて…瞼を開けると魔王城。
小鳥遊尤兎は事態の深刻差に気付いたようだ。
 「…魔王様もセトも私の妄想ではなく──現実!?」
 「うむ…大体何となく分かったぞ?」
と、とととと言う事は…!?
わ、わた…私ってば……魔王様に逆プロポーズを──!!?
……。
……あ、それはそれでいいや。
こんな美形イケメン、早々道端に落ちてないし。
玉の輿に乗れるし。撤回はしないでいよう。

 「…と、と言う事は…あの教室の中に“勇者”がいる、と言う事……?私だけ魔王側こっち…?──なんでさ!?」
嘆いても誰も答えてはくれない。
この場にいるのは納得顔の魔王様と不機嫌な従者セト…それ以外の余人は居ない。ので、誰も答えられない。
小鳥遊尤兎が一人orzのポーズを取っている頃──王城でも。
場所を謁見の間から談話室へと移してから…
 「…ねえ、小鳥遊さん居くない?」
金髪に黒目のバッチリギャルメイクのギャル女子高生五十嵐真希いがらしまきは隣の美形イケメンギャル男な男子高生、真田翔馬さなだしょうまに尋ねる。
 「お、ほんとだ…良く気が付いたなー。ハニー?」
 「…はっ!?べ、別に…あいつの事が気になるだとか気になるだとかねぇーからな!?あ、あいつには妹のユリが迷子になった時一緒に探してくれた恩があって…だな!?そ、その…っ!?」
 「あー、ハイハイ。分かった分かった。ったく、ハニーはツンデレモユルスですな~♪」
 「~~~~ッ!?」
撫で撫でと聞き分けのない小さい子をあやすように頭を撫でながら自身の彼女を見詰める男子高生…彼は顔どころか耳、首筋、鎖骨まで真っ赤に染まったかわいい少女に生暖かい視線を送る。
 「…あの二人は放って置こう。どう思う?町田と長谷?」
 「はい、柚木先生の推察通りかと。小鳥遊さん──尤兎は間違いなく此方に来ている筈です…あの瞬間に居ましたから」
 「俺も来ていると思う…、思います。」
一人は女子の制服、一人は男子の制服…肩までのおかっぱ頭の女子生徒、長谷縁ながたにえんと爽やかイケメンの町田葵まちだあおいは…この場にいない彼らの幼馴染みについて忌憚なき意見を述べた。
 「…だよな。絶対来ているわな~そして叫んでいるはずだよな「イケメンモユルス!○○×○○でいくね!?」って訳の分からないカップリング談義…異世界でも難なく溶け込んでそうだわ…はぁ」
 「お疲れ様です、先生」
 「流石一番の被害者なだけはあるな、先生♪」
男子のクラス委員長の後藤とサッカー部員の安田が揶揄からかうように担任教師の男へと絡んだ。
 「顔がいいから妄想被害に遭うんだ」
とか、とか言わなくても解るクラスの連帯感…。
 「安田…お前…俺とお前のカップリングが一番多いって知っているか?」
 「──え゛っ!?」
サッと青ざめる安田。
こいつはスポーツマン宜しく日焼けした肌に阿部寛のような日本人離れしたような彫りの深い男らしい面立ちの大男である。身長だって180㎝と高身長。
筋肉ムキムキのクセに、楽天的でどこか愛嬌のあるキャラクターは男女共に人気がある。
所属するサッカー部には連日見物に来る男女の姿が多く見られ、さながらアイドルのような扱いだ。
…ま、大半が「えっ、友人だけど?」な集まりで──関ジ○ニの村上のような──決して本人が望むキムタク要素は一切ないのである。安田はそろそろ自覚するべきであろう。…誰も何も指摘しないが。
放置した方が面白──じゃない、放置した方が楽であるからだ。
 「…気になるならあいつのサークルググって見ろよ。の数で書かれてんぞ…名前や登場する学校名は変えられても──見る人が見れば解るような…そんな絶妙に個人を捉えたような描写が多々あるから」
 「──ッ!?え゛。い、いやだ…っ!お、俺は彼女が欲しいんだ…っ!!」
 「おぅ、が多い。
…あいつの目にはそのように見えるってコトだな♪」
ニヤリ、と笑う担任教師…いや、教師が生徒に向ける顔ではない。
そこには…憐憫と、僅かな“ざまぁ”感がない交ぜで…教師と生徒と言うよりも気安い友人のようなやり取りだ。
 「~~ッ!?」
 「おっ♪遂に掘られるのか~?ww」
 「先生、責任持って結婚してやれよ~!ww」
 「残念ながら、先生は既婚者だ。俺には家にはかわいい奥さんと子供達が待っているんだ…悪いな、安田。お前の気持ちには答えられない」
 「~~ッ!?お、俺だって嫌ですよぉ~~っ!!俺は…俺は…っ、女の子が大好きなんだ~~っ!!」
突然叫んだ安田に一部の女子と成り行きを見守っていた同級生が「うわ、安田キモッ!」と煙たがられていた。
……。

 「メニュー…おお、なんか出た!?」

▽ステータス

▽装備

▽アイテム

▽出席簿

▽眷属・従魔

▽スキル

▽魔法

▽アイテムクリエーション

▽編成

▽隊列・作戦

▽ライブラリ

項目が幾つか表示された。
10項目…まるで、ゲームのようである。
セーブやロード、ログアウトできない系の。

 「これらメニューの項目は人によっては3つないし、5つ…と多い者と千差万別だ。我は6項目だが…お主は?」
 「…10項目あるわ」
度重なる対話で大分口調も崩れてきた尤兎。
 「…10項目…!紙に書いては貰えぬか?」
 「これに書けばいいの?」
 「ああ。」
差し出された真っ白な紙にすらすらと書いていく。
 「…出席簿?なんだ、それは。」
 「タップしたらクラスメイトの顔写真と名前が表示された…ってまんま出席簿じゃないのよ!?」
…だが、一番左上が担任教師(男)ではなく“小鳥遊尤兎”の顔写真と名前が載っていることから…ではない…、と気付いた。
更に顔写真をそれぞれタップすると今現在のステータス、滞在場所、能力のバラメーターが表示される。
更には生死の有無までも。
 「…やっぱり皆来てるわ…勇者は誰…って──ああ、貢ぐ君か…」
 「貢ぐ君…?誰だ、その珍妙な名は…」
 「えっと、名前ではなく愛称と言うか…俗称と言うか、蔑称──?のようなものなの」
…とある一人の男子高生を指差し魔王様にも見えるように傾ける。
 「…!?随分と精密な絵だな…それに、まるで水鏡のように微細な…」
 「?単なるカラー写真だよ?珍しくもなんともない…って、──ないの!?写真…は…?」
 「写真…なんだ、それは?」
……そこから?
やっぱりかー。
そうよね、異世界だものねー。
科学の代わりに魔法がある世界っぽいし…そもそも思い付こうともしないのかも。
写真だって鑑定魔法や鑑定スキルがあれば…犯人検挙に使われたりもしない、か。
…いや、まだこの異世界?に来たばかりで規則ルールも何も分からないのだけど。
…面倒だな。よし、パス!
 「…兎に角、魔王様…こいつが勇者です。名前は後藤輝行ごとうてるゆき──私が在籍する高校のクラス委員長で、同じく三年の“かおりん”──アイドルの楯眞薫たてまきかおる先輩を信奉して先輩がアイドルデビューした10歳の頃よりずっと追い掛けているドルオタです。

ライブにグッズにDVD…写真集や10秒足らずの握手会の為に何枚もCDを買うような──真性のアホ──んんっ!…愛に生きる漢よ」
彼は校内でも彼女の教室に足蹴く通うファンであり、「心の恋人」を自負する痛い奴である。
その甲斐合ってか──今はファンの中でも古株の…、「友人」に収まったすげぇ奴である。
…未だプライベートでは清い“お友達付き合い”をしているのだとか。

そして付いた渾名は「貢ぐ君」。

彼は稼いだバイト代の多くを彼女の為に捧げている。
ライブにグッズに、デート(少なくとも彼はそう思っている)代、プレゼントや飲食代…彼がどれだけのお金を使っているのかは…定かではない。

 「…アイドルと言うのがどういうのかは分からんが──その女、随分とあざとくないか?」
 「まあ、それが仕事だからねー?歌って踊る吟遊詩人…と言えば解るかな?そんな感じの人なの。“アイドル”と言うのは」
 「広場でリュートやハープを奏でている者の事か」
 「うん。…魔界にはないの?特別容姿が優れてて歌が上手い人…そう言う子は熱狂的なファンが付くから専用の劇場や宿泊施設が用意されやすい…寧ろ、そんな彼、彼女らを見たいが為に追っ掛ける人も…いない?」
 「…。いる、な…毎回何処で嗅ぎ付けるのか…特定の吟遊詩人を追い掛ける集団…そうか、その後藤とやらは暇なのだな」
それは違う。
 「それは違う!好きな人は好きなんだよ!!追い掛けたくなるの!…私はそこまででないけれどグッズを買ったり、ライブに時々行ったりするくらいだし…目当てのカプ──グループでないとライブには行かないから暇ではないのよ!…それに好きな人の為にならいくらでも時間とお金を掛けられるものなのよ!!」
尤兎も系統は違うが──同じアイドルヲタク。
不純な動機と不純な動機…それから腐った思考でジ○ニーズのコンサートに遠征しに行く──似た者同士だ。
後藤と違うのはプライベートですら「共にしたい」とは思わない。
…明らかに後藤は異性としての欲も感じる。
反対に──尤兎は“妄想したい派”なので…これもまた通常のドルオタとは一線を画す存在だ。
ライブやコンサートよりも──コミケや同人誌即売会(女性向け)の会場にいる事が多い尤兎。
出待ちや追っかけはしないものの…、“そう言った”楽しみ方をする極一部──それが腐女子ファン。
妄想はすれど、〝近寄るべからず〟が彼女達の共通認識──、である。
その為住所を知らないファンも多い。
見ない─…や、そこまでの熱量を持って近付こうとしない者が多いのだ。…腐女子ないし腐男子と言うのは皆小心者故に、な?
……。
そんな事はどうでもいい?
話進まないから、切り上げろ…?冷たいねっ。お客さん!!

 「──それで、其奴が勇者か」
 「あ、うん…そうです、ハイ」

後藤輝行──称号:[勇者]。
勇者──それはテイルズでオブなシリーズや、ドラクエやFFに代表される主人公の事──ではなく。
この世界では称号[勇者]は魔王に異世界の召喚された人間を指す。
称号[勇者]を持つ者だけが魔王に傷を付け、ダメージを与え、倒せる唯一無二の存在──が、それは4000年も前までの話。
その最後の魔王がトンでもない暴君で、配下の魔族も人間もどうでもいいやーと破壊の限りを尽くした為に地上は暫く瘴気──正しくは高濃度魔力──で汚染され、それに順応出来ない者からバタバタと亡くなって行った。

…見兼ねた神が教会──その当時司教を勤める男とその司教の娘、清らかな心を持つ巫女に“召喚の巫女”と言う称号を与えて、に限定して能力ちからを授けたのが─…起源。

“神託”に依って召喚された異世界の住人──初代勇者は黒髪黒目の人間であった。
彼はドワーフ、エルフ、夢魔サキュバス、人族、狼獣人、猫獣人の仲間を引き連れて暴君魔王の下へと向かい、戦い勝利を納める。
その当時は神が見守っていた事もあり──、「勇者」として喚ばれた青年は元居た世界、元居た時間、元の姿で帰って行った。

 「…だが、事はそうは行かない。暴君魔王の逸話は我ら魔族の恥として図書室にも城下の図書館にも書籍が残されている…気になるなら後で見てみるといい」
 「んー、いいや。」
 「ほぅ、意外だな?妄想とやらをしないのか?」
 「…私が好きなのはを生きている人同士のいちゃラブであって歴史上の人物だとか、過去の記録だとかは専門外なの!…そっちは普通に物語として楽しむわ。勿論、男女カップルなら男女カップルで…同性同士の恋愛をメインにしているならそのまま楽しむ。」
…拘りがあるようだ。
……。



 「…そして、あなた方の召喚は──教会としても止められない事態でした。申し訳ございません」

キラキラと魔力灯を反射して輝く金の髪、蒼玉の瞳、象牙色の肌、168㎝と小柄な体躯に白い法衣ローブからも分かる豊満なバスト、括れた腰がエロティックな少女…“召喚の巫女”のアーシャは頭を下げた。
 「…ッ!?」
 「な、なんだって…ッ!!?」
 「お、俺たち…なんで…呼ばれて…?!?!」
当惑し、狼狽える同級生達…当然だろう。
先ほどまでは“王様っぽい人”から「勇者」と言われ、乞われた…

…それを──こんな、180℃まるっきり違う事を言われたのだ。
未だ“自覚のない”同級生も多いのだ…無理もない。
 「勝手なことを…言わないで下さいっ!!バカにしているのですか…っ!?」
キッ、と女子のクラス委員長、青葉弥生は目の前の巫女服姿の聖女を睨む。
 「…ッ、我々プロメテウス教会としては王家に近付き過ぎた為の弊害で事態になってしまった…そして、抵抗も出来ずに現在まで──非常に慚愧ざんきの念に耐えません…ですが、だからこそ──我々はあなた方“勇者様御一行”に自活できるくらいの知恵と身の保証を致します。」
…そして、その後に“告げられた内容”に都立赤坂高等学校1年3組の面々は絶句した。
 「…尚、この中には1人だけ。…他は誤って召喚の術式に巻き込まれただけなのです…申し訳ございません。」
 「!?はあっ!?あの王様とやらは私達を勇者って…」
 「待て、とかは言ってなかったぞ…落ち着け、瀬戸!」
担任の教師がそう前に出ようとした女生徒を止める。
 「……。生活の基盤が整ったら何処へなりと行けば宜しいかと。
それに──この城に留まるも教会我々の下へ身を寄せるも自由です」
さらり、と言い放った“聖女”に怪訝な眼差しを向ける教師に聖女は清純そうな微笑みと共に更なる暴露をするのである。
 「…まあ、城に残る場合も教会へと身を寄せる場合でも──“タダ”とは限りません。

国や教会、貴族に王家…飼い殺しにされるか、併呑するか──それはあなた方次第ですよ?

“召喚の聖女”──聞こえは良いですが、教会に囲われるあなた方“異世界人”と立場は変わりませんね…それも、わたくしがレベルを100越えた辺りから風向きは変わりましたが…。

元の世界へ帰る為の方法を探すも自由、この世界のどこかで居着くのも自由。
“冒険者”として身を立てるまでは「王城」でゆっくりしてください…ああ、“魔族”と戦争をしたい、と言うなら軍に仕官するのもアリでしょう。」
 「!?せ、戦争…?俺が…?無理だ…ッ!は現実にある“世界”なんだろう!?俺は…俺には…無理だ…ッ」
 「……へぇ。でも“冒険者”にはなって置いた方がいいですよ。冒険者の身分は街の外を出るのにも商売を始めるにしても必須ですから。」
関心したように一度首肯すると、怯える1人の男子生徒にそう補足?提案した。
 「…俺達をどうするつもりだ?」
 「?言いましたよ?教会に囲われるのか、城に留まるのか、外へと出るのか──と。」
首を傾げる聖女に厳しい眼を向ける教師に聖女はぼやっとした表情で“何を言いたいのか分からない”と言った顔をしている。
 「──、さっきから」
 「ああ~!!なるほど。確かに。ええ、納得しました!」
ポン、と手を打ってぱっと表情を変えると、教師の低い険のある追及に笑顔で答えた。
 「──雑魚が粋がるなよ?私とお前達は象と蟻だ。あ、「象」が私で「蟻」がお前達だ。“ステータス”と言って確認してみろ」
 「す、ステータス…!」
オタク男子の沢谷と山田が、オタク女子の立石と岬が自身の“ステータス”に目を見開いてキラキラと瞳を輝かせる──

  








  
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