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第二章:くっころの女騎士?は助けない
始まる体育祭の練習…暑苦しいの苦手な二人
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結婚式から数日が経ち4月20日─に、二人は揃いの指輪…絆の指輪を魔力と血で登録して結婚式に参加した者以外は指輪を視認出来なくなるようにフィルターして手を繋いで、登校した。
「お早う~」
「おは~」
「…おはよう、杏樹」
「おはよう♪」
友人達に挨拶を交わして席に座る。
4月も残り10日ほどとなった今日は、体育祭の練習が体育の授業に当てられた。
「いよいよ体育祭の練習か~」
「ええ…と言ってもそれぞれの競技を取り敢えず遣ってみるってだけだからまだ本格的なものじゃないわよ」
「まーね~」
舞と小夜がそんな会話をしていると、
「一通り競技全部生徒全員体験するつってたしな」
と同意する弘輝。
体育祭はGWが開けてから最初の日曜日─5月13日だ。
翌日の月曜日は振替休日で学校は休みだ。
…そろそろ桜の花びらも散り始めている。
「何にしても面倒よね」
「…お前ならそー言うと思ったわ」
苦笑して頷く弘輝に杏樹ははあーっと溜め息を吐く。
「運動なんて何が楽しいの?着替えも面倒だし、汗掻くし…疲れるわ」
完全インドアな杏樹に取って普段の体育の授業だけでもうんざりなのに…体育祭は鬼門だ。
存在自体理解出来ない。
準備や練習に長期間取られる事も、生徒は全員強制参加な所も気に食わない。
こんな状態だから、9月に行われる球技大会も“断固不参加!”を表明したい限りだが、強制参加の為渋々楽なものを選んで参加している。
「…出たくない」
「無茶言わないの」
「…先生」
ガラッ、いつの間にか教室に入ってきたのは現文の女性教師─辻峰綾先生だ。
すらりと伸びた手足はほっそりとして黒のリクルートスーツに豊満なバストが揺れている。
「…授業、始めるわよ?─日直!」
…どうやらいつの間にか本礼が鳴っていたようだ。
日直の号令に合わせて会釈をして椅子に腰掛ける。
「では、教科書40Pから─」
慌てて教科書とノート、筆記用具を取り出す杏樹を睥睨して、齢27歳の美女教師は授業を始めた…。
窓から見える桜もほとんどが葉桜になっており、気候も少し─否、大分暑くなってきた。
年々温度が上がっている…地球温暖化、と言ったか。
「あっという間、よね~」
「杏樹?」
「いや~今週末で散りそうだから…また花見しようって話があるの…来る?」
「行く!」
「俺は…悪い、親善試合だわ…」
「おりょ?そなの?」
「おう、サッカーの親善試合今週末だわ」
「じゃー終わったら物部中央公園に来れば?」
「…良いのか?」
「良いわよ、どーせ暇だし」
「暇…って、そうだけど…杏樹に言われるのは不本意だわ」
不満ありありと呟かれた言葉に杏樹がむっと眉間に皺を寄せる。
「なんでよ!?」
「…他人から見ればゲームなんて遊んでるようにしか見えないって事よ─私はそうは思わないけど、ね」
「…そう見られるのは仕方ないって解ってるわよ」
「ええ、だから…少なくないけどそんな話が私の耳にも入るのよ」
「部活と称してただ“遊んでる”って?」
「…そうよ」
否定は出来ない。
ゲーム部の部員がしているのは傍目には“遊んでいる”ようにしか見えない。
冷暖房が効いた室内でPCやテレビの前で陣取ってコントローラーを操作している姿はそう見えるだろう。
「…それなりに大会に出て優勝してるわよ?あんまり遣り過ぎると学生の本分を逸脱するほど賞金を手にしてしまう為参加を控えてるだけだもの」
「それを理解しない“お馬鹿”な奴が文句言ってくるのよ、鬱陶しい」
ギロリ、ととある一角を睨む舞と睨まれた生徒数人が慌ててそっぽを向いた。
鬱陶しい─その言葉はまっすぐその女生徒達に届いた。
「学生が、意図せず大金を手にしたらどうなるか分かってないのよ、あの人達」
「そうね、“ただの”学生がそれじゃ…部活動としては逸脱しすぎているわよ─それとも荒稼ぎしろ、とでも言うのかしら?ねぇ?」
実際杏樹の居る“ゲーム部”の各人の成績は悪くない。
幾つもの大会では好成績を納めて居るし、部室の隣の備品庫には大会で優勝した時のトロフィーや盾、記念品が幾つか棚に並べられている。
じろり、と杏樹が舞の睨んだ女生徒らを見詰める。
「…っ、わ、私は別に…」
「別に…なに?」
ほんの少し“威圧”を籠める。
それだけで女生徒らは顔面を青白くさせて、だらだらと冷や汗が背中を伝う。
「なんて言おうとしたのか…私、知りたいなぁ~?“誤解”は丁寧に解きたいからさ~教・え・て・?」
「ひっ…!!」
「す、すみませ─」
「勘違いで…っ」
ガタガタと震え始めた三人に杏樹は近寄った訳ではない。
未だ椅子に座ったまま目線だけ彼女らに向けている。
「…どうしてそんなに震えているの?私、動いてないでしょ?」
「も、もう…許して…っ!!」
「ゲーム部を馬鹿にしたつもりはなかっ─」
「それって…“私個人”を馬鹿にしたの?それとも“舞”?“小夜”も含むの?ねぇ?」
威圧が更に強化される。
三人以外は特に何のプレッシャーも掛かっていない。
杏樹達は留年組だが、彼女らは“新入生”…当然留年した杏樹達を下に見る傾向が合っても仕方ない。
ただ…それでも。
杏樹は大事な友人達が─大切な“ゲーム部”の皆まで下に見られ馬鹿にされるのは許せない。
高校生デビューを済ませ、もう数日が経ち気が緩んだ今…学校内で杏樹達の話を何処かで耳にしていたのだろう。
「…私の留年は仕方ないものよ…何なら今すぐ異世界にあんた達を捨ててきても良いけれど?」
「──ッ!」
「そ、それは…っ」
杏樹の物言いに怯える女生徒達。
憐憫の目を向ける杏樹の瞳はどこまでも冷たい。
「魔物が多い地域にでも捨てて来ても良いわよ、ねぇ?」
「魔物…っ!」
「え、あの噂って本当なの…?」
「捨てる…?そんな所に置いてかれたら…」
「ええ、死ぬわね…少なくとも何の力もないあんた達は瞬殺でしょうね」
「杏樹…」
「…私達は別に気にしていないわよ」
「留年したのは俺達の自己責任だ、杏樹が気にすることねぇよ」
杏樹のどこまでも優しい自分達を思いやる言葉に弘輝と小夜、舞の三人は杏樹に瞳を向ける。
「…弘輝。舞と小夜もそれで良いの?私は友達を傷つけられて黙っているタイプじゃないわよ?」
「知ってるよ」
「ええ」
「だからこそ、私達はそんなあなただから友達で居るのよ。一緒に居て楽しいし…留年しても構わないほどに、ね?」
「舞…」
「だからこそ、こんなことで一々目くじら立てんな、杏樹」
「弘輝」
「そーそ~♪気にしないで、杏樹♪」
「小夜…。でも、」
「気にすんな」
常には無い、真面目な顔で小夜はそれだけ口にした。
「…っ、分かったわ」
「そーそ~♪気にしなくていいの、杏樹は♪♪」
「口差がない連中なんぞほっとけ」
今は落ち着いているが、当時は凄かった。
連日連夜学校にマスコミの記者は来て、杏樹達の話を聞きに来ようとした。
酷い時は登下校を際、学校の門や自宅の玄関先で出待ちをされた事もあった。
両親の仕事場(SEG○ Games)にもやってきて…本当に迷惑だった。
最初の頃だけだった…“芸能人になったみたい”なんて暢気に喜んで居られたのは。
今日のように度々噂に昇る。
ネタにされるのは構わないけどそれで“ゲーム部”の皆や身内を馬鹿にされるのは我慢ならない。
「…うん、ありがとう」
「おぅ、気にすんなよ」
「そそ♪」
「…留年したのは私達の意思よ?杏樹が気に病むことはないわ」
「うん…っ、舞もありがとう」
思わず涙ぐむ杏樹に友人達は柔らかな笑顔を向ける。
「そ・れ・よ・り~お兄さんとはどーなの?家では相変わらず?」
「…ふぇっ!?な、ななな…っ!!?」
途端に茶化すような小夜の発言にしんみりとした空気が茶化すようなものに変わった。
「どうなの?土日にデートしてるって聞いたけど…♪」
顔を真っ赤に狼狽える杏樹に小夜はニヤニヤと人の悪い笑みを張り付けて訊ねる。
「も、もう…っ!!からかわないでよ…っ!」
「あ、それ私も気になるわね…どうなの?ラブラブ?」
「舞まで…!?もう、ほんとまいるからやめてよっ!!」
ビュゥ──…とても冷たい空気が場に流れた。
「…」
「…」
「…」
「…え、えへ…っ♪」
静寂が教室を支配する。
キーンコーンカーンコーン…。
本礼が鳴ってクラスメイト達が慌てて席に付く。
そして──体育祭対策練習の時間…今日はクラス毎に別れて行う合同練習の時間だ。
各学年9組あり、一組34~37名ほどの生徒が在籍している。
運動場も第四まであって、屋内型の体育館は第三まである。
物部高等学校は組別とは別に各学年組毎に対抗してもいる。
──つまり、1組なら1組で三年生まで固まって練習する事もある。
もう、4月20日…今日からその練習が解禁となった。
三年生までの生徒が固まって練習する、その血と汗の修行の日々が始まるのだ──。
「…って、脳筋なのは坂田君だけよ!?なんでやる気なのッ!」
…そう、第四運動場の端で坂田を指差すのは、杏樹。
…彼は応援団長だ。
その為中央て不良が着そうな丈の長~い学ランに頭にハチマキ、白手袋で練習用の仮の“3組”の旗を持っている。
因みに号令や指示は3年3組の応援団長が出している。
「フレ─ッ、フレ─ッ、フレ─ッ!3組!フレッフレッフレ──ッ!!」
ピッピッと笛を吹いているのは2年の応援団長。
…実に暑苦しい。
正直、この空気は苦手だ。
炎天下の中屋外に居ることもそうだし、何が楽しいのか…皆実にノリノリなのだ。
「…帰りたい」
「杏樹」
「…何?」
「諦めなさい、学校行事よ?」
ノンフレームの眼鏡をくいっと直して無情に告げる。
「舞…─っ!…はっ!?舞も実は嫌…?」
「…私、体育会系のノリ嫌いなのよ…はぁっ」
そんな二人の会話も入らず坂田の気合いの入りまくった掛け声が他組に届けとばかりに吼える。
「頑張れ3組!負けるな3組!優勝は3組だ──ッ!!!」
「「「ォォォオオ──ッツ!!!」」」
地鳴りのような応援団の学ラン連中が実に暑苦しい。
…因みに加入の条件は“声量の高さ”と“肺活量”…あとは『応援』に対する熱い思いだ。
それさえあれば、女子でも応援団に入れる…まあ、全体の1割だが。
「…うるさい、もう帰りたい舞~(泣)」
障害物競争の練習するスペースに移動しながら杏樹は傍らの舞に泣き言を言う。
「…私だって帰りたいわよ」
そんな舞は玉入れの練習スペースへと移動していく。
…この場に兄の“錬夜”の姿はない、彼は1組─つまり、敵だ。
他にもリレーや短距離走、長距離走に出る生徒らがトラックを走り込みしていたり、体力作りの運動を行って居たりする。
「…小夜がはしゃいでる…はぁ、もういや」
遠目にも嬉々として借り物競争の練習をしていた。
「あはは♪…え~っと…“ボールペン”か…舞、持ってる~?」
ノリノリで紙を手に舞の元へ走って行った。
「…持ってるわよ、はい」
ハーフパンツのポケットから黒のボールペンを取り出し手渡す。
「あんがと☆」
そう言って小夜はたったったっと朝礼台の前にいる1組の担任教師(3年)に手渡す。
「…確かにボールペンですね、許可します」
「やったね♪」
そう言って小夜はトラックを半周してゴールする。
ペースもまあまあ早く3位の成績だ。
「…凄いわね…私にはムリ」
因みに杏樹が借り物競争じゃなく“障害物競争”を選んだのは…その方が早く終わるだろうし、玉入れだと単純作業に飽きるからで、“借り物競争”だと課題の内容に寄っては校内を走らされそうだから却下した。
「…その点障害物競争だと飽きないし、目の前の“課題”もそんな難しくないもの…っと!」
50mほど走ると網が敷かれたエリアの中を潜って行かなければならず、少しだけ苦戦する。
それを越えると、ちょっとした先に20mほどの平均台があって、バランスを試される…まあ、杏樹にとっては朝飯前だが。
元々の運動神経も悪くないのだ、杏樹含め“豊城兄妹”は。
チートなステータスは封印している。
全て10を越えないか、幸運に至っては60~70を推移している。
幸運に至っては低すぎても高すぎても実生活に影響するから、だが…稀にどうしてもGET出来ないアイテムや装備、ガチャに一時的に解放する事もある。
「楽勝♪…っと、次は飴食い競争…か…顔が白くなるなのが嫌、なのよね…」
平均台の次は長方形の机に置かれた四角い入れ物には小麦粉が大量に蒔かれ、中には3組だけの取り敢えずの人数分ある、小規模なもの。
「…ここよ!」
くわっと目を見開いて小麦粉に飛び込む…!
“勘”と“運”で僅か数秒で飴をGET…僅かに口元だけを白くさせて杏樹はゴールに向かって走る…!
「ゴール!1年の豊城さん、一位!」
「よっしゃっ!!」
…何のかんの言っても“勝利”は嬉しい。
体育会系のノリは嫌いだが。
他のスペースでも“綱引き”や“騎馬戦”、“組体操”を練習する3組の面々がいるが…皆、なんであんなにやる気なのか…杏樹にとっては正直理解に苦しむ。
「…そんなに夏休みに行う“特別学習”と言われる“夏の長期旅行”の行き先と参加資格が欲しいのかしら…?」
…そう、全学年全組対抗で優勝した組はその“特別学習”に参加出来るのだ…!
…現実“何処で○ドア”が出来る杏樹には必要ない。
国外なら一応パスポートは持って行っているが…国内なら一瞬だ。
…まあ、普通に飛行機や船、新幹線の旅も悪くないが。
「“特別学習”中も夏休みの宿題はあるのに…ねぇ?」
「…そう言っても俺だって旅行楽しみなんだっ!俺は今年の夏こそ素敵な彼女をGETするんだっ!!」
「…久美が聞いたら、泣くわよ?弘輝」
「?なんであいつが泣くんだ?」
…。
鈍い…本気で気付いてないのだから…性質が悪い。
久美の気持ちは端から見ると丸わかりなのに…気付いていない。
「…はぁ、久美んも苦労するわね」
「??兎に角、俺は“旅行中”に彼女を見付ける!春はダメだったけど…夏こそっ!夏こそ…っ!!」
彼女居ない歴=年齢の弘輝がグッと空に向かって突き出し吼える!
「「ォォォオオッツ!!」」
と、何人かの漢が同調する…。
「…うっわ~~っ、引くわ、なに吼えてんだろ…」
女生徒Aが呆れたような眼差しを向ける。
うんうんと頷く女生徒達…そんな彼女達は彼氏持ちだ。
…そんな混沌と化した第四運動場で思い思いに練習を続ける3組達だった…。
「お早う~」
「おは~」
「…おはよう、杏樹」
「おはよう♪」
友人達に挨拶を交わして席に座る。
4月も残り10日ほどとなった今日は、体育祭の練習が体育の授業に当てられた。
「いよいよ体育祭の練習か~」
「ええ…と言ってもそれぞれの競技を取り敢えず遣ってみるってだけだからまだ本格的なものじゃないわよ」
「まーね~」
舞と小夜がそんな会話をしていると、
「一通り競技全部生徒全員体験するつってたしな」
と同意する弘輝。
体育祭はGWが開けてから最初の日曜日─5月13日だ。
翌日の月曜日は振替休日で学校は休みだ。
…そろそろ桜の花びらも散り始めている。
「何にしても面倒よね」
「…お前ならそー言うと思ったわ」
苦笑して頷く弘輝に杏樹ははあーっと溜め息を吐く。
「運動なんて何が楽しいの?着替えも面倒だし、汗掻くし…疲れるわ」
完全インドアな杏樹に取って普段の体育の授業だけでもうんざりなのに…体育祭は鬼門だ。
存在自体理解出来ない。
準備や練習に長期間取られる事も、生徒は全員強制参加な所も気に食わない。
こんな状態だから、9月に行われる球技大会も“断固不参加!”を表明したい限りだが、強制参加の為渋々楽なものを選んで参加している。
「…出たくない」
「無茶言わないの」
「…先生」
ガラッ、いつの間にか教室に入ってきたのは現文の女性教師─辻峰綾先生だ。
すらりと伸びた手足はほっそりとして黒のリクルートスーツに豊満なバストが揺れている。
「…授業、始めるわよ?─日直!」
…どうやらいつの間にか本礼が鳴っていたようだ。
日直の号令に合わせて会釈をして椅子に腰掛ける。
「では、教科書40Pから─」
慌てて教科書とノート、筆記用具を取り出す杏樹を睥睨して、齢27歳の美女教師は授業を始めた…。
窓から見える桜もほとんどが葉桜になっており、気候も少し─否、大分暑くなってきた。
年々温度が上がっている…地球温暖化、と言ったか。
「あっという間、よね~」
「杏樹?」
「いや~今週末で散りそうだから…また花見しようって話があるの…来る?」
「行く!」
「俺は…悪い、親善試合だわ…」
「おりょ?そなの?」
「おう、サッカーの親善試合今週末だわ」
「じゃー終わったら物部中央公園に来れば?」
「…良いのか?」
「良いわよ、どーせ暇だし」
「暇…って、そうだけど…杏樹に言われるのは不本意だわ」
不満ありありと呟かれた言葉に杏樹がむっと眉間に皺を寄せる。
「なんでよ!?」
「…他人から見ればゲームなんて遊んでるようにしか見えないって事よ─私はそうは思わないけど、ね」
「…そう見られるのは仕方ないって解ってるわよ」
「ええ、だから…少なくないけどそんな話が私の耳にも入るのよ」
「部活と称してただ“遊んでる”って?」
「…そうよ」
否定は出来ない。
ゲーム部の部員がしているのは傍目には“遊んでいる”ようにしか見えない。
冷暖房が効いた室内でPCやテレビの前で陣取ってコントローラーを操作している姿はそう見えるだろう。
「…それなりに大会に出て優勝してるわよ?あんまり遣り過ぎると学生の本分を逸脱するほど賞金を手にしてしまう為参加を控えてるだけだもの」
「それを理解しない“お馬鹿”な奴が文句言ってくるのよ、鬱陶しい」
ギロリ、ととある一角を睨む舞と睨まれた生徒数人が慌ててそっぽを向いた。
鬱陶しい─その言葉はまっすぐその女生徒達に届いた。
「学生が、意図せず大金を手にしたらどうなるか分かってないのよ、あの人達」
「そうね、“ただの”学生がそれじゃ…部活動としては逸脱しすぎているわよ─それとも荒稼ぎしろ、とでも言うのかしら?ねぇ?」
実際杏樹の居る“ゲーム部”の各人の成績は悪くない。
幾つもの大会では好成績を納めて居るし、部室の隣の備品庫には大会で優勝した時のトロフィーや盾、記念品が幾つか棚に並べられている。
じろり、と杏樹が舞の睨んだ女生徒らを見詰める。
「…っ、わ、私は別に…」
「別に…なに?」
ほんの少し“威圧”を籠める。
それだけで女生徒らは顔面を青白くさせて、だらだらと冷や汗が背中を伝う。
「なんて言おうとしたのか…私、知りたいなぁ~?“誤解”は丁寧に解きたいからさ~教・え・て・?」
「ひっ…!!」
「す、すみませ─」
「勘違いで…っ」
ガタガタと震え始めた三人に杏樹は近寄った訳ではない。
未だ椅子に座ったまま目線だけ彼女らに向けている。
「…どうしてそんなに震えているの?私、動いてないでしょ?」
「も、もう…許して…っ!!」
「ゲーム部を馬鹿にしたつもりはなかっ─」
「それって…“私個人”を馬鹿にしたの?それとも“舞”?“小夜”も含むの?ねぇ?」
威圧が更に強化される。
三人以外は特に何のプレッシャーも掛かっていない。
杏樹達は留年組だが、彼女らは“新入生”…当然留年した杏樹達を下に見る傾向が合っても仕方ない。
ただ…それでも。
杏樹は大事な友人達が─大切な“ゲーム部”の皆まで下に見られ馬鹿にされるのは許せない。
高校生デビューを済ませ、もう数日が経ち気が緩んだ今…学校内で杏樹達の話を何処かで耳にしていたのだろう。
「…私の留年は仕方ないものよ…何なら今すぐ異世界にあんた達を捨ててきても良いけれど?」
「──ッ!」
「そ、それは…っ」
杏樹の物言いに怯える女生徒達。
憐憫の目を向ける杏樹の瞳はどこまでも冷たい。
「魔物が多い地域にでも捨てて来ても良いわよ、ねぇ?」
「魔物…っ!」
「え、あの噂って本当なの…?」
「捨てる…?そんな所に置いてかれたら…」
「ええ、死ぬわね…少なくとも何の力もないあんた達は瞬殺でしょうね」
「杏樹…」
「…私達は別に気にしていないわよ」
「留年したのは俺達の自己責任だ、杏樹が気にすることねぇよ」
杏樹のどこまでも優しい自分達を思いやる言葉に弘輝と小夜、舞の三人は杏樹に瞳を向ける。
「…弘輝。舞と小夜もそれで良いの?私は友達を傷つけられて黙っているタイプじゃないわよ?」
「知ってるよ」
「ええ」
「だからこそ、私達はそんなあなただから友達で居るのよ。一緒に居て楽しいし…留年しても構わないほどに、ね?」
「舞…」
「だからこそ、こんなことで一々目くじら立てんな、杏樹」
「弘輝」
「そーそ~♪気にしないで、杏樹♪」
「小夜…。でも、」
「気にすんな」
常には無い、真面目な顔で小夜はそれだけ口にした。
「…っ、分かったわ」
「そーそ~♪気にしなくていいの、杏樹は♪♪」
「口差がない連中なんぞほっとけ」
今は落ち着いているが、当時は凄かった。
連日連夜学校にマスコミの記者は来て、杏樹達の話を聞きに来ようとした。
酷い時は登下校を際、学校の門や自宅の玄関先で出待ちをされた事もあった。
両親の仕事場(SEG○ Games)にもやってきて…本当に迷惑だった。
最初の頃だけだった…“芸能人になったみたい”なんて暢気に喜んで居られたのは。
今日のように度々噂に昇る。
ネタにされるのは構わないけどそれで“ゲーム部”の皆や身内を馬鹿にされるのは我慢ならない。
「…うん、ありがとう」
「おぅ、気にすんなよ」
「そそ♪」
「…留年したのは私達の意思よ?杏樹が気に病むことはないわ」
「うん…っ、舞もありがとう」
思わず涙ぐむ杏樹に友人達は柔らかな笑顔を向ける。
「そ・れ・よ・り~お兄さんとはどーなの?家では相変わらず?」
「…ふぇっ!?な、ななな…っ!!?」
途端に茶化すような小夜の発言にしんみりとした空気が茶化すようなものに変わった。
「どうなの?土日にデートしてるって聞いたけど…♪」
顔を真っ赤に狼狽える杏樹に小夜はニヤニヤと人の悪い笑みを張り付けて訊ねる。
「も、もう…っ!!からかわないでよ…っ!」
「あ、それ私も気になるわね…どうなの?ラブラブ?」
「舞まで…!?もう、ほんとまいるからやめてよっ!!」
ビュゥ──…とても冷たい空気が場に流れた。
「…」
「…」
「…」
「…え、えへ…っ♪」
静寂が教室を支配する。
キーンコーンカーンコーン…。
本礼が鳴ってクラスメイト達が慌てて席に付く。
そして──体育祭対策練習の時間…今日はクラス毎に別れて行う合同練習の時間だ。
各学年9組あり、一組34~37名ほどの生徒が在籍している。
運動場も第四まであって、屋内型の体育館は第三まである。
物部高等学校は組別とは別に各学年組毎に対抗してもいる。
──つまり、1組なら1組で三年生まで固まって練習する事もある。
もう、4月20日…今日からその練習が解禁となった。
三年生までの生徒が固まって練習する、その血と汗の修行の日々が始まるのだ──。
「…って、脳筋なのは坂田君だけよ!?なんでやる気なのッ!」
…そう、第四運動場の端で坂田を指差すのは、杏樹。
…彼は応援団長だ。
その為中央て不良が着そうな丈の長~い学ランに頭にハチマキ、白手袋で練習用の仮の“3組”の旗を持っている。
因みに号令や指示は3年3組の応援団長が出している。
「フレ─ッ、フレ─ッ、フレ─ッ!3組!フレッフレッフレ──ッ!!」
ピッピッと笛を吹いているのは2年の応援団長。
…実に暑苦しい。
正直、この空気は苦手だ。
炎天下の中屋外に居ることもそうだし、何が楽しいのか…皆実にノリノリなのだ。
「…帰りたい」
「杏樹」
「…何?」
「諦めなさい、学校行事よ?」
ノンフレームの眼鏡をくいっと直して無情に告げる。
「舞…─っ!…はっ!?舞も実は嫌…?」
「…私、体育会系のノリ嫌いなのよ…はぁっ」
そんな二人の会話も入らず坂田の気合いの入りまくった掛け声が他組に届けとばかりに吼える。
「頑張れ3組!負けるな3組!優勝は3組だ──ッ!!!」
「「「ォォォオオ──ッツ!!!」」」
地鳴りのような応援団の学ラン連中が実に暑苦しい。
…因みに加入の条件は“声量の高さ”と“肺活量”…あとは『応援』に対する熱い思いだ。
それさえあれば、女子でも応援団に入れる…まあ、全体の1割だが。
「…うるさい、もう帰りたい舞~(泣)」
障害物競争の練習するスペースに移動しながら杏樹は傍らの舞に泣き言を言う。
「…私だって帰りたいわよ」
そんな舞は玉入れの練習スペースへと移動していく。
…この場に兄の“錬夜”の姿はない、彼は1組─つまり、敵だ。
他にもリレーや短距離走、長距離走に出る生徒らがトラックを走り込みしていたり、体力作りの運動を行って居たりする。
「…小夜がはしゃいでる…はぁ、もういや」
遠目にも嬉々として借り物競争の練習をしていた。
「あはは♪…え~っと…“ボールペン”か…舞、持ってる~?」
ノリノリで紙を手に舞の元へ走って行った。
「…持ってるわよ、はい」
ハーフパンツのポケットから黒のボールペンを取り出し手渡す。
「あんがと☆」
そう言って小夜はたったったっと朝礼台の前にいる1組の担任教師(3年)に手渡す。
「…確かにボールペンですね、許可します」
「やったね♪」
そう言って小夜はトラックを半周してゴールする。
ペースもまあまあ早く3位の成績だ。
「…凄いわね…私にはムリ」
因みに杏樹が借り物競争じゃなく“障害物競争”を選んだのは…その方が早く終わるだろうし、玉入れだと単純作業に飽きるからで、“借り物競争”だと課題の内容に寄っては校内を走らされそうだから却下した。
「…その点障害物競争だと飽きないし、目の前の“課題”もそんな難しくないもの…っと!」
50mほど走ると網が敷かれたエリアの中を潜って行かなければならず、少しだけ苦戦する。
それを越えると、ちょっとした先に20mほどの平均台があって、バランスを試される…まあ、杏樹にとっては朝飯前だが。
元々の運動神経も悪くないのだ、杏樹含め“豊城兄妹”は。
チートなステータスは封印している。
全て10を越えないか、幸運に至っては60~70を推移している。
幸運に至っては低すぎても高すぎても実生活に影響するから、だが…稀にどうしてもGET出来ないアイテムや装備、ガチャに一時的に解放する事もある。
「楽勝♪…っと、次は飴食い競争…か…顔が白くなるなのが嫌、なのよね…」
平均台の次は長方形の机に置かれた四角い入れ物には小麦粉が大量に蒔かれ、中には3組だけの取り敢えずの人数分ある、小規模なもの。
「…ここよ!」
くわっと目を見開いて小麦粉に飛び込む…!
“勘”と“運”で僅か数秒で飴をGET…僅かに口元だけを白くさせて杏樹はゴールに向かって走る…!
「ゴール!1年の豊城さん、一位!」
「よっしゃっ!!」
…何のかんの言っても“勝利”は嬉しい。
体育会系のノリは嫌いだが。
他のスペースでも“綱引き”や“騎馬戦”、“組体操”を練習する3組の面々がいるが…皆、なんであんなにやる気なのか…杏樹にとっては正直理解に苦しむ。
「…そんなに夏休みに行う“特別学習”と言われる“夏の長期旅行”の行き先と参加資格が欲しいのかしら…?」
…そう、全学年全組対抗で優勝した組はその“特別学習”に参加出来るのだ…!
…現実“何処で○ドア”が出来る杏樹には必要ない。
国外なら一応パスポートは持って行っているが…国内なら一瞬だ。
…まあ、普通に飛行機や船、新幹線の旅も悪くないが。
「“特別学習”中も夏休みの宿題はあるのに…ねぇ?」
「…そう言っても俺だって旅行楽しみなんだっ!俺は今年の夏こそ素敵な彼女をGETするんだっ!!」
「…久美が聞いたら、泣くわよ?弘輝」
「?なんであいつが泣くんだ?」
…。
鈍い…本気で気付いてないのだから…性質が悪い。
久美の気持ちは端から見ると丸わかりなのに…気付いていない。
「…はぁ、久美んも苦労するわね」
「??兎に角、俺は“旅行中”に彼女を見付ける!春はダメだったけど…夏こそっ!夏こそ…っ!!」
彼女居ない歴=年齢の弘輝がグッと空に向かって突き出し吼える!
「「ォォォオオッツ!!」」
と、何人かの漢が同調する…。
「…うっわ~~っ、引くわ、なに吼えてんだろ…」
女生徒Aが呆れたような眼差しを向ける。
うんうんと頷く女生徒達…そんな彼女達は彼氏持ちだ。
…そんな混沌と化した第四運動場で思い思いに練習を続ける3組達だった…。
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