11 / 23
第一章:漸く?旅をする二人は
先代魔王の手記と二人
しおりを挟む
「必要なのは蘇生と錬成の本…それから、魔族に伝わる魔法やラスペリアの歴史…なんかもあると良いな~」
「あると思いますよ」
「ウィルさん、受付良いの?」
「構いません─と、言いたい所ですが…あと5分ほどしたら戻りますよ」
「そ?」
「はい、お気になさらず」
にこっと微笑うウィルソンは堀が深い顔立ちをしていた。
漆黒の髪は長くうなじの辺りで括って後ろに流して、つむじには山羊の角、腰の少し下の位置には細長い黒色の尾が見える。
「ウィルさんがそう言うんなら…ん?そいや、ウィルさんって翼とかあるの?」
「ええ、有りますよ…仕事の邪魔になるので仕舞ってますが。」
「ふぅん」
タッチパネルに目当ての本を錬夜と二人で手分けして入力する…。
「お、来たみたい♪」
「おや、そうですか?」
「うん、ウィルさんは受付戻ったら?」
「ええ、そうですね」
すっと杏樹に向かって会釈を一つして受付のカウンターへと戻った。
宙に半透明な水色の床が現れ、杏樹と錬夜がそれぞれの床に乗る。
「「お、おおぅ!!」」
二人してファンタジーっぽさに感動の声をあげた。
《ふふんっ♪この技術は人族にはない技術だからな》
「そうなの?」
《うむ。初代魔王の頃はもう少しましだったのだ…彼ら人族の国は》
「訊いてもいいもの?」
《うむ。必要な本を借りた後に話すよ、杏樹よ》
「そっか。…うん、その方が良さそうね」
改めて自分の目的を思い出して、知識欲を抑えて同意を示す。
宙に浮くと不思議な感覚だ。
ステータスが高いため踏み外して落ちる事はないが、地上から離された感覚が…なんだか楽しい。
「ふふっ♪楽しい~~♪♪」
《それはなによりだ。》
アデルはなぜか杏樹の側でぷかぷかと浮いていた。
やはり杏樹が勝手に称号を“魔王”にされたからか、アデルは杏樹の側を離れようとはしない…杏樹の魔力がこの世界ではアデルと相性が良いのだろう。
だから─杏樹も特には嫌がらない。アデルはある意味杏樹がなるかもしれない者だった。
このラスペリアの神は“何”を以て杏樹を『魔王』なんぞにしたのか…。
「…まさか、仮にも“神”が人族滅亡を望んでいる訳じゃないよな…?」
はた─、と思い浮かんだ答えはなんだかしっくり来る…
「そんで最後は俺に杏樹を殺せ、と?する訳ないだろ…やっぱ神殺すわ。
この俺に一瞬でもそんな想像させた罪は重い─倍返しくらいで許してやろう!」
ぐっと拳を握って、錬夜は杏樹が必要だと言った本の側まで近付いて光った本を手に取る。
「読むの後にしよう…めちゃくちゃ気になるが」
手に取るは『第656代魔王の手記』と『魔王国の魔法書』、『錬金・合成の書』。
木目の美しい床に足を付けて錬夜は杏樹の方を仰ぎ見る。
わくわくと楽しそうに本を見詰める杏樹の姿を眺めて錬夜は目を細める。
「杏樹も俺に似て本の虫、だからな~」
この図書館はかなりの蔵書だ。
錬夜と杏樹…それと、久美も実は本の虫で、小説も漫画もラノベも読む雑食。
冒険も魔法も恋愛も萌えもどれでも読む…ただ、偏っているが。
錬夜は冒険モノが好きだが、杏樹は“家庭の医学”や“無人島でサバイバルするなら”とか“食べられる野草と肉の剥ぎ方”なーんて読んでいるのを見た日には、
『お前はサバイバルでもするつもりか?』と突っ込んだものだ。
久美の場合は“彫刻の薦め”や“工作の世界”、“医学書”なんかの専門書…と僅か5歳にしてはかなり難しい本を好む。
「お兄ちゃん!ここ、すごい!!また来よう?」
「おぅ、また来ような」
宙に浮かせた分厚い本が十冊を越えているが…杏樹が楽しそうなので錬夜は柔らかい笑みを浮かべて杏樹の頭を撫でる。
「うん!…えへへ」
《お主ら…ちと仲良すぎぬか?》
「おぅ、そうだな」
「恋人だもん、仲良くて当然だよ」
《──ッ!?そ、そうか…》
「あれ?そんな反応なんだぁ~。…もっと忌み嫌うかと思った」
適当なテーブル席に座って杏樹は宙に浮かせた本のタワーの上から一冊手に取る。
《人族の国では近親婚は従兄弟くらい離れていれば可能だが、兄弟や親子の婚姻は認められておらんな…まあ、我ら長命な魔族には関係無い。
全て“実力”で何事もどうにかなる》
「へぇ~。じゃあ、染色体の異常とかないんだ?」
《染色体の異常?…魔力の拒否反応か?》
「魔力の拒否反応?」
《ああ、魔力の拒否反応とは─近しい血液のもの同士で“交じる”とごく稀に子を成した時に子に母親と父親、子の魔力がぶつかって拒否反応を起こすのだ…そして、その“拒否反応”によって子は魔力ゼロで産まれてくるか、身体異常で産まれる》
本来『魔力』とはこのラスペリアに生きるものなら草木の一本に至るまで全てのものに備わっている力。
本来その力は子を成した時、父親か母親のどちらかの魔力に傾倒する…遺伝子の取捨選択のようなもの、だろうか?
《──かく言う我も父上の寿命10年を貰って結婚した身だからな…特に魔族では忌避しとらん。魔力の“拒否反応”は起きんしな》
「父親と結婚…!?それって養父とか義理の父親、ではないのね!?」
《うむ。実の父だ…父上と母上は幼馴染でな…我が産まれて此の方父上以上に“いい男”はいない。》
「うっわ、惚気…ご馳走様~っ」
《ふふふ…あの10年は我にとって長い人生の中で一番輝いていた時間だった》
「寿命…って、勇者に殺された訳ではないのか?」
《違うな。少なくとも殺された魔王は我が初だ》
アデルはそう否定して視線を錬夜が手にしている先代魔王の手記に向ける。
《…初代魔王は寧ろ人族の王と親友だった、だが、千年前に父上が寿命で亡くられて我が“魔王”に就いてから700年後──人族の間で可笑しな宗教が蔓延してな》
「─“星巫女”」
錬夜の呟いた一言にアデルは首?頭を縦に振って頷く。
《ああ、そうだ。奴ら──“星法教会”は“勇者召還”なるものを行って喚び出した勇者に魔王を殺せと宣って我を殺したのが…200年前だ》
「は?その口振りだと…魔族は人間を根絶やしにしよう、とか人族全てを抹殺だの支配するつもりはないのか?」
《一度もない。と言うかそのような生産性のない事はせん。
…人族は他種族の誰より脆弱で短命な種になぜ我らが固執せなきゃならん?そんな屈辱御免被る》
それだけ言うと、アデルは手記を読めば分かる、と言って口を閉ざした。
「…やはり、“星法教会”に毒されてんな、あの国」
「みたいね」
ぱらっと捲るページに綴られた手記には先代魔王の日々を綴ったもので、
書かれている内容は人族との交流が年数を重ねる毎に疎遠になった事、その頃から怪しい“宗教”が蔓延し始めて人族の街で“魔王憎し”だの“魔族討つべし”の声が教会から、街の人々へと浸透し始めた。
身に覚えのない虐殺や窃盗を“魔族”が遣ったとされた。
この頃には完全に人族との交流は断絶してもう人族なんて放っておこう、そう思っていた…
だが──彼らは異世界から勇者なるものを召還して有ること無いこと吹聴した。
「星法教会ね」
「“バカ”について一切触れていない所を見ると取るに足らない些事だと先代魔王が日記にも記さなかったんだな」
《うむ。その通りだ。あのような魔族の面汚しは地下牢にぶちこむか虫一匹分の魔力しか残さん…そう言う誓約と呪いを掛けて魔王国から追放した奴らがどうなったかは知らん…今思えばもっと監視を付けるか始末すれば良かったな》
恐らく─否、確実にそのバカが人間に吹聴したのだろう。…魔王の有ること無いことを。自分らがやらかしたあらゆる悪事を。
「…と言うか確実に教会内に居るわね、そのバカ」
《うむ。犯罪魔族討伐はしない民族性でな…そろそろ潰さんと、な》
「魔族の寿命は長いんだろ?だったら教会の陰か奥に絶対いるだろーな」
手記はまだ続いていた。
ページを捲ると、ジークフリードの妻への恋情や欲望が書かれていた。
妻─、マティアのここが良い、とか笑った顔が好きだの愛しているだの…と綴られていた。
「本当に日記ね」
《うむ。父上は生涯母上だけでいいと他の縁談は全て断ったからな》
「?でもアデルは親父と結婚したんだろ?」
《うむ。──我ら魔族は近親間の結婚は認められておる…そして、“寿命の10年を頂戴”と言うのは近親婚の隠語でもある》
「魔族は実力主義だって話だけど…それって結婚に関してもそう?」
《うむ…結果大体同程度の魔力の所持者同士で婚姻するな》
アデルは一息?吐いて再び話し始めた。
《…縁談や告白が重なると決闘で決める事もしばしば見掛けるな》
「アデルは?」
《我は父上を“男として”愛するようになったのは産まれてから200年経った頃だったな…その瞬間に我は父上に決闘を申し込んだ》
「決闘…って、過激ね」
《うむ。けど退く気はない…全力で挑んで──そして、負けた》
「負けた?でも結婚は─」
《うむ。決闘には負けた…だが、その時に父上から申し入れがあってな》
「どんな?」
《“俺の寿命10年をアデル、お前にやろう”と》
「わぁお♪」
《我ら魔族は長命故に自身の寿命を何となく分かる…だから、プロポーズされた日に“ああ、もうあと10年なんだな”って嬉しさと共に少しの悲しみと寂しさを伴った結婚生活であったな》
「…寿命が判るのも悲しいものなのね」
《フッ…、そうでもないさ。我と父上との間には10人もの子を授かったのでな》
「10…っ!?って、多っ!!」
《ふふ…我ら魔族は人族みたいに時間は掛けん──大体1ヶ月ほどで子は産まれてくる。10ヶ月で最低10人の子宝に恵まれるぞ》
「あれ…?だったら、少ないような…」
《父上と母上の間には千人程の子が我以外にもおる…これ以上魔王城を父上の子供の世話で人を取られる訳にはいかんからな…魔王城は魔王一家の住まいであると同時に政務を行う国の行政機関だぞ?》
「千人…仙人になれそうね」
《なんの話だ?》
「ううん、何でもない…」
?マークを頭の上に浮かべてアデルはこう締め括った。
《…故に我は子作りは10ヶ月と数日間で終わらせてそれ以外は避妊して恋人としての時間をゆっくりと楽しんだのだ》
「わぁ…♪♪」
恋バナに発展した二人の会話を流してジークフリードの手記を閉じた。
妻の惚気に始まり、今日の妻の料理のこれは美味しかった、デートで出掛けた場所の景色が素晴らしかった、とか綴られている。
そのあとは子供達の話…が長くページを占めていた。
千人もいるのだから仕方ない─そう思い、錬夜はページを捲る。
「…なんか後半は日常生活をつらつらと書いてあるな」
そのあとは特に重要な情報はないので、テーブルの上に置く。
黒塗りで木造の綺麗な長机に椅子は職人芸だ。
「お兄ちゃんと私も結婚出来たり出来るの?」
《うむ。式は誰でも行えるぞ…遣ってみるか?》
「したい!お兄ちゃん!!」
「おぅ、するか?」
ねっとり見詰められ、杏樹は顔を真っ赤に押し黙った。
「ぅ…は、はひ」
《はっはっはっ!これは初々しいカップルだな》
「あると思いますよ」
「ウィルさん、受付良いの?」
「構いません─と、言いたい所ですが…あと5分ほどしたら戻りますよ」
「そ?」
「はい、お気になさらず」
にこっと微笑うウィルソンは堀が深い顔立ちをしていた。
漆黒の髪は長くうなじの辺りで括って後ろに流して、つむじには山羊の角、腰の少し下の位置には細長い黒色の尾が見える。
「ウィルさんがそう言うんなら…ん?そいや、ウィルさんって翼とかあるの?」
「ええ、有りますよ…仕事の邪魔になるので仕舞ってますが。」
「ふぅん」
タッチパネルに目当ての本を錬夜と二人で手分けして入力する…。
「お、来たみたい♪」
「おや、そうですか?」
「うん、ウィルさんは受付戻ったら?」
「ええ、そうですね」
すっと杏樹に向かって会釈を一つして受付のカウンターへと戻った。
宙に半透明な水色の床が現れ、杏樹と錬夜がそれぞれの床に乗る。
「「お、おおぅ!!」」
二人してファンタジーっぽさに感動の声をあげた。
《ふふんっ♪この技術は人族にはない技術だからな》
「そうなの?」
《うむ。初代魔王の頃はもう少しましだったのだ…彼ら人族の国は》
「訊いてもいいもの?」
《うむ。必要な本を借りた後に話すよ、杏樹よ》
「そっか。…うん、その方が良さそうね」
改めて自分の目的を思い出して、知識欲を抑えて同意を示す。
宙に浮くと不思議な感覚だ。
ステータスが高いため踏み外して落ちる事はないが、地上から離された感覚が…なんだか楽しい。
「ふふっ♪楽しい~~♪♪」
《それはなによりだ。》
アデルはなぜか杏樹の側でぷかぷかと浮いていた。
やはり杏樹が勝手に称号を“魔王”にされたからか、アデルは杏樹の側を離れようとはしない…杏樹の魔力がこの世界ではアデルと相性が良いのだろう。
だから─杏樹も特には嫌がらない。アデルはある意味杏樹がなるかもしれない者だった。
このラスペリアの神は“何”を以て杏樹を『魔王』なんぞにしたのか…。
「…まさか、仮にも“神”が人族滅亡を望んでいる訳じゃないよな…?」
はた─、と思い浮かんだ答えはなんだかしっくり来る…
「そんで最後は俺に杏樹を殺せ、と?する訳ないだろ…やっぱ神殺すわ。
この俺に一瞬でもそんな想像させた罪は重い─倍返しくらいで許してやろう!」
ぐっと拳を握って、錬夜は杏樹が必要だと言った本の側まで近付いて光った本を手に取る。
「読むの後にしよう…めちゃくちゃ気になるが」
手に取るは『第656代魔王の手記』と『魔王国の魔法書』、『錬金・合成の書』。
木目の美しい床に足を付けて錬夜は杏樹の方を仰ぎ見る。
わくわくと楽しそうに本を見詰める杏樹の姿を眺めて錬夜は目を細める。
「杏樹も俺に似て本の虫、だからな~」
この図書館はかなりの蔵書だ。
錬夜と杏樹…それと、久美も実は本の虫で、小説も漫画もラノベも読む雑食。
冒険も魔法も恋愛も萌えもどれでも読む…ただ、偏っているが。
錬夜は冒険モノが好きだが、杏樹は“家庭の医学”や“無人島でサバイバルするなら”とか“食べられる野草と肉の剥ぎ方”なーんて読んでいるのを見た日には、
『お前はサバイバルでもするつもりか?』と突っ込んだものだ。
久美の場合は“彫刻の薦め”や“工作の世界”、“医学書”なんかの専門書…と僅か5歳にしてはかなり難しい本を好む。
「お兄ちゃん!ここ、すごい!!また来よう?」
「おぅ、また来ような」
宙に浮かせた分厚い本が十冊を越えているが…杏樹が楽しそうなので錬夜は柔らかい笑みを浮かべて杏樹の頭を撫でる。
「うん!…えへへ」
《お主ら…ちと仲良すぎぬか?》
「おぅ、そうだな」
「恋人だもん、仲良くて当然だよ」
《──ッ!?そ、そうか…》
「あれ?そんな反応なんだぁ~。…もっと忌み嫌うかと思った」
適当なテーブル席に座って杏樹は宙に浮かせた本のタワーの上から一冊手に取る。
《人族の国では近親婚は従兄弟くらい離れていれば可能だが、兄弟や親子の婚姻は認められておらんな…まあ、我ら長命な魔族には関係無い。
全て“実力”で何事もどうにかなる》
「へぇ~。じゃあ、染色体の異常とかないんだ?」
《染色体の異常?…魔力の拒否反応か?》
「魔力の拒否反応?」
《ああ、魔力の拒否反応とは─近しい血液のもの同士で“交じる”とごく稀に子を成した時に子に母親と父親、子の魔力がぶつかって拒否反応を起こすのだ…そして、その“拒否反応”によって子は魔力ゼロで産まれてくるか、身体異常で産まれる》
本来『魔力』とはこのラスペリアに生きるものなら草木の一本に至るまで全てのものに備わっている力。
本来その力は子を成した時、父親か母親のどちらかの魔力に傾倒する…遺伝子の取捨選択のようなもの、だろうか?
《──かく言う我も父上の寿命10年を貰って結婚した身だからな…特に魔族では忌避しとらん。魔力の“拒否反応”は起きんしな》
「父親と結婚…!?それって養父とか義理の父親、ではないのね!?」
《うむ。実の父だ…父上と母上は幼馴染でな…我が産まれて此の方父上以上に“いい男”はいない。》
「うっわ、惚気…ご馳走様~っ」
《ふふふ…あの10年は我にとって長い人生の中で一番輝いていた時間だった》
「寿命…って、勇者に殺された訳ではないのか?」
《違うな。少なくとも殺された魔王は我が初だ》
アデルはそう否定して視線を錬夜が手にしている先代魔王の手記に向ける。
《…初代魔王は寧ろ人族の王と親友だった、だが、千年前に父上が寿命で亡くられて我が“魔王”に就いてから700年後──人族の間で可笑しな宗教が蔓延してな》
「─“星巫女”」
錬夜の呟いた一言にアデルは首?頭を縦に振って頷く。
《ああ、そうだ。奴ら──“星法教会”は“勇者召還”なるものを行って喚び出した勇者に魔王を殺せと宣って我を殺したのが…200年前だ》
「は?その口振りだと…魔族は人間を根絶やしにしよう、とか人族全てを抹殺だの支配するつもりはないのか?」
《一度もない。と言うかそのような生産性のない事はせん。
…人族は他種族の誰より脆弱で短命な種になぜ我らが固執せなきゃならん?そんな屈辱御免被る》
それだけ言うと、アデルは手記を読めば分かる、と言って口を閉ざした。
「…やはり、“星法教会”に毒されてんな、あの国」
「みたいね」
ぱらっと捲るページに綴られた手記には先代魔王の日々を綴ったもので、
書かれている内容は人族との交流が年数を重ねる毎に疎遠になった事、その頃から怪しい“宗教”が蔓延し始めて人族の街で“魔王憎し”だの“魔族討つべし”の声が教会から、街の人々へと浸透し始めた。
身に覚えのない虐殺や窃盗を“魔族”が遣ったとされた。
この頃には完全に人族との交流は断絶してもう人族なんて放っておこう、そう思っていた…
だが──彼らは異世界から勇者なるものを召還して有ること無いこと吹聴した。
「星法教会ね」
「“バカ”について一切触れていない所を見ると取るに足らない些事だと先代魔王が日記にも記さなかったんだな」
《うむ。その通りだ。あのような魔族の面汚しは地下牢にぶちこむか虫一匹分の魔力しか残さん…そう言う誓約と呪いを掛けて魔王国から追放した奴らがどうなったかは知らん…今思えばもっと監視を付けるか始末すれば良かったな》
恐らく─否、確実にそのバカが人間に吹聴したのだろう。…魔王の有ること無いことを。自分らがやらかしたあらゆる悪事を。
「…と言うか確実に教会内に居るわね、そのバカ」
《うむ。犯罪魔族討伐はしない民族性でな…そろそろ潰さんと、な》
「魔族の寿命は長いんだろ?だったら教会の陰か奥に絶対いるだろーな」
手記はまだ続いていた。
ページを捲ると、ジークフリードの妻への恋情や欲望が書かれていた。
妻─、マティアのここが良い、とか笑った顔が好きだの愛しているだの…と綴られていた。
「本当に日記ね」
《うむ。父上は生涯母上だけでいいと他の縁談は全て断ったからな》
「?でもアデルは親父と結婚したんだろ?」
《うむ。──我ら魔族は近親間の結婚は認められておる…そして、“寿命の10年を頂戴”と言うのは近親婚の隠語でもある》
「魔族は実力主義だって話だけど…それって結婚に関してもそう?」
《うむ…結果大体同程度の魔力の所持者同士で婚姻するな》
アデルは一息?吐いて再び話し始めた。
《…縁談や告白が重なると決闘で決める事もしばしば見掛けるな》
「アデルは?」
《我は父上を“男として”愛するようになったのは産まれてから200年経った頃だったな…その瞬間に我は父上に決闘を申し込んだ》
「決闘…って、過激ね」
《うむ。けど退く気はない…全力で挑んで──そして、負けた》
「負けた?でも結婚は─」
《うむ。決闘には負けた…だが、その時に父上から申し入れがあってな》
「どんな?」
《“俺の寿命10年をアデル、お前にやろう”と》
「わぁお♪」
《我ら魔族は長命故に自身の寿命を何となく分かる…だから、プロポーズされた日に“ああ、もうあと10年なんだな”って嬉しさと共に少しの悲しみと寂しさを伴った結婚生活であったな》
「…寿命が判るのも悲しいものなのね」
《フッ…、そうでもないさ。我と父上との間には10人もの子を授かったのでな》
「10…っ!?って、多っ!!」
《ふふ…我ら魔族は人族みたいに時間は掛けん──大体1ヶ月ほどで子は産まれてくる。10ヶ月で最低10人の子宝に恵まれるぞ》
「あれ…?だったら、少ないような…」
《父上と母上の間には千人程の子が我以外にもおる…これ以上魔王城を父上の子供の世話で人を取られる訳にはいかんからな…魔王城は魔王一家の住まいであると同時に政務を行う国の行政機関だぞ?》
「千人…仙人になれそうね」
《なんの話だ?》
「ううん、何でもない…」
?マークを頭の上に浮かべてアデルはこう締め括った。
《…故に我は子作りは10ヶ月と数日間で終わらせてそれ以外は避妊して恋人としての時間をゆっくりと楽しんだのだ》
「わぁ…♪♪」
恋バナに発展した二人の会話を流してジークフリードの手記を閉じた。
妻の惚気に始まり、今日の妻の料理のこれは美味しかった、デートで出掛けた場所の景色が素晴らしかった、とか綴られている。
そのあとは子供達の話…が長くページを占めていた。
千人もいるのだから仕方ない─そう思い、錬夜はページを捲る。
「…なんか後半は日常生活をつらつらと書いてあるな」
そのあとは特に重要な情報はないので、テーブルの上に置く。
黒塗りで木造の綺麗な長机に椅子は職人芸だ。
「お兄ちゃんと私も結婚出来たり出来るの?」
《うむ。式は誰でも行えるぞ…遣ってみるか?》
「したい!お兄ちゃん!!」
「おぅ、するか?」
ねっとり見詰められ、杏樹は顔を真っ赤に押し黙った。
「ぅ…は、はひ」
《はっはっはっ!これは初々しいカップルだな》
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
175
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる