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プロローグ:転生ヒロイン、ランスフォード男爵家の人々

魔導テレビでは…

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ドラマと警備隊時報、ニュース…それと再放送の時代劇…か。

 「…バラエティー番組にするか」

ピッ。

チャンネルをリモコンで変えてパッと変わった画面に二人の男性…漫才師のテンポの良い掛け合いが始まった。

 「…ふふっ、…ぷっ、くふ…っ、あは…っ、あははは~~…っ!!」

二人の掛け合いがとても面白い。
エルフの外見中年親父(だけど実年齢は400歳は過ぎているエルフ的には成人)と人間の中年男性のコンビ。…見た目どちらもオッサンなのに会話が微妙に噛み合っていない。
この二人は冒険者仲間であり、芸人の傍ら息抜きに今でも時々冒険者として冒険に出掛けるほど仲が良いのだ。
加えて筋骨隆々の褐色肌エルフとガタイの良い象牙色の肌の人間の相棒バディだと互いに互いを認めている…この二人の噛み合っていない会話がクセになる、とファンには好評である。

 「…ふふっ、さ、最高…ッ!!♪」

魔導テレビの登場で冒険者の多くは冒険者ギルドの剣術指南や学園の武術指導の講師と言う戦う道以外にもテレビの前で歌や劇、様々な物を作り出す事なんかを披露し始めた。
中でもこのコンビのように漫才師と冒険者の二足のわらじをするパーティーもいるぐらいには彼等の姿を…国内外で多く知られるようになった。
無論、魔導テレビで流す番組に商業ギルドや魔法ギルド、薬師ギルドなんかも提携協力して“よりリアルな”質の高いドラマがいつでも自宅で観れる…それが気楽でイイ。
…………。
…………。
……現実逃避だと分かっていても受け入れ難い現実がある。
そう言う時は後回しにする。それが祭であり、今の“メイア”である。

信じられない事が自分の身に起きたら人間は誰しもが現実逃避したくなると言うもの。
それはメイアにだって言えた事だ。
“転生”したらしい、まではまだ良い。良くないけど。
けど、それが慣れ親しんだ“乙女ゲーム”の世界と言うのは…ちょっと。頂だけない。
前世の時専業主婦の家事やら育児の傍らに遣り込んでいたゲームだ、それはもう愛着もあるし、イケメンと成長して行くヒロインメイアの姿に親にも似た気持ちを抱いたこともしばしば。
可愛くて良い子だ、と微笑ましく見守っていた…。
──それを〝自分が〟主人公メイアになりたいとは一度も思った事はない。
一ゲームの主人公として愛していただけだ。
無論“ゲームだから”許せた表現も、現実だと…ちょっと。ない。ないわー。ないない。
己には旦那がいるのだ、見ず知らずの「攻略対象者」とヨロシクやるつもりはない、絶対にない!!
…今もこの胸に恋の灯が熱く熱く点ったままだ。

 「…たぁくん。たぁくんに逢いたいなぁ…」
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