1 / 6
プロローグ:とんだ婚約破棄(茶番)
婚約破棄された…バカ王子(笑)に。
しおりを挟む
「シャルティエ・エンハイム、貴様との婚約を破棄する!」
そんなお粗末で雑な大声で玉座の間は静まり返った。
はあ?
「シャルティエ!貴様は私が真に愛するルナシー・エンリケ男爵令嬢を不当に痛めつけ、公衆の面前で罵倒した!」
…。
しかも、身に覚えのない罪状がつらつらと出てくる。出てくる。
なになに…私がその会ったこともないたかが男爵令嬢如きに嫉妬して?彼女の持ち物をハサミで切り裂いた?彼女の教科書を破いてゴミ箱に捨てた?階段から突き落とした?故意に授業中に攻撃魔法を男爵令嬢に当てた?はあ?あれは魔法教練の時間でしょう?たまたま対戦相手だったから、相手をしたまででしょうーが。
…証拠もないのに?
しかも、その“証人”って…あなた様の目の上のたんこ──取り巻きじゃない?
「よって、私エリック・フォン・バスカ第3王子の名の下に貴様を国外追放の刑に処す!」
あ゛!?
それは越権行為だろ!このバカ王子(笑)!!
“王太子”でもない第3位でしかない私の(元)婚約者様(笑)…玉座に座る陛下の前で堂々としている。
…すげぇ。
あ、この発言で分かると思うけど…私、シャルティエ・エンハイム公爵令嬢は前世の記憶持ちです。
所謂転生ってやつ。
ここ、乙女ゲーム“暁の恋を君に”の舞台で、エールグリーンって架空のファンタジー世界。
舞台は王立学園、高等部の3年間で攻略対象の貴族子息(5人)との個別ルートか友情エンド、ハーレムエンドの3つ。
…因みに私は腐女子なので、断然友情エンド押しだ。
「──エリックよ、これは何の茶番だ?」
厳かな声が玉座の間に響く。
決して大声ではないのに聴く者に畏怖を抱かせる…
「──!?ち、父上…ですから私は」
「くどい──お前はこの場を持って廃嫡だ。そんなにその男爵令嬢とやらと結婚したいのなら認めてやる──但し、城の地下牢で、な。」
「!?な、どうしてですか!?私は父上の息子ですよ!ルナシーは王子妃──」
「黙れ。──衛兵、即刻この二人を牢に入れろ。目障りだ」
一言も発することなく(元)エリック王子(笑)は件の男爵令嬢と地下牢へと連行された。
「…はあ。済まぬな、シャルティエ…あれの矯正を間違えたようだ」
威厳ある顔立ちが疲れからか、心なしか、やつれているように見える…。
「いえ…心中お察し致しますわ、陛下。」
男爵令嬢は一言もしゃべらせてもらえず退場した。
項垂れた陛下の肩に王妃がそっと手をおく。
「シャルティエには随分と迷惑を掛けました。…あれの始末はあれにさせます。慰謝料諸々金貨500枚──あれの予算も全て凍結してシャルティエとエンハイム家に支払いますわ。…シャルティエ、本当に申し訳ないわ」
「…王妃殿下…ええ、謝罪は受け入れましょう──ですが、“私個人の”報復を許可して下さいませ。」
…王妃殿下に言われたら、そりゃ断れるわけないでしょ?王政の国で。
だけど──それだけじゃあ…ねぇ?
この場は王立記念日──建国記念日の善き日取りで王が招いた記念パーティー…シャルティエとエリックの婚約を確かなものにするための披露宴でもあった。
…それと、シャルティエ個人としてもこのまま終わるわけにはいかない。
…だって──シャルティエ・エンハイム…この名は確かに公爵令嬢の名だが─…それ以外で連想するのは“宮廷魔術師”、“宮廷錬金術師”やエンハイム商会会頭──それから特殊職業、“ダンジョンマスター”
…これの宣伝を兼ねたパーティーだった。
「…陛下、並びに王妃殿下…私とても傷付きましたわ──ねぇ?どうせなら私のダンジョンで実験体になってもらいたいですわ…例えば、混合獣、とか。」
「─…ッ、やむを得ません。認めましょう」
ちらっと陛下に目配せ。
陛下は無言で頷いている。
…了承するわけだ?ふぅん。
「それと」
王妃殿下が会話を終わらせようとしたので、シャルティエがその出鼻を挫く。
「私もう王家の方々は信用ならないので…婚姻や婚約、並びに結婚と名の付く行為は今後王族とは一切しません。後その他の縁談もお断り致しますわ──私はしばらく王都も王城へも招待しても来ませんので。あしからず」
「─ッ、し、シャルティエ…」
そうそう。
このくらいは言わないとな。
またぞろ“バカ”が沸くかも知れないし。
たおやかにくゆらせた銀髪を右肩から流し、紅い瞳に整った顔立ちの少女が冷然と微笑む。
「尚、強引に我が領地に圧力なぞ掛けないで下さいね?“うっかり”ダンジョンを氾濫させちゃいますから。…王城内に魔物を放たれたくはないでしょう?」
ここは剣と魔法の世界。
シャルティエは全属性の魔法の使い手だ。
時代が時代なら彼女が王に取って代わってバスカ王国を統べている──まあ、本人にその気もその暇もないが。
「シャル…そのくらいに。」
「…あら、お父様?」
にこやかに微笑んで近付いてくる美中年──どうしても20歳前後にしか見えない御年、45歳。
さらさらと風に揺らめく金髪を首の後ろで縛っている。
黒地に金糸の刺繍でエンハイム家の紋章…満月に剣の影が刻印された礼服──上下セットな軍服のようなかっちりとした服装でシャルティエの隣に立つ。
「…陛下、私は約束しましたよね?あれの矯正はちゃんとすると。だから、娘のシャルティエを嫁にくれ──その約定を一方的に反故にした陛下の心境を是非とも聞いてみたいものだ」
にこやかに微笑んでいるが…背景はブリザード。寒っ!恐っ!
…お父様、大分キレてらっしゃる…。
「…ッ、エンハイム公爵…此度の事は真に申し訳な──」
「ああ、王妃殿下は黙って下さい?私は今〝陛下に〟お訊ねしているのです。
──どういうつもりだ?」
謝ろうとした王妃殿下の言葉を遮って陛下を睨み付けるお父様…うん、横を見れない。恐っ!
シーンと静まり返ったパーティー会場。
いつの間にか楽団の演奏も止まり、来賓の方々の談笑も止まり、喪に服したように皆玉座の周りに注目している。
「…アド…弁明の余地もない。私が見誤っていた」
「ほう、それで?」
…威厳も何のその。
お父様──アーデルハイド・エンハイム現公爵の父は元は先代王の兄。
…因みにシャルティエも一応、王位継承権がある。
何かに使えるかもしれないので、破棄も返上もしていないのでそのままだ。
「──エンハイム公爵家の独立を認める。」
「…。」
お父様はなにも言わない。
(ひぇ…っ!まだふっかけるつもりだ…!?)
「…ッ、ど、独立に併せて人手が足らないだろう…優秀な人材の引き抜きも許可する…頼む、このくらいで許してくれ。」
「なにを、でしょうか?」
ニコニコ。
(ひぃ……っ!?)
一見優男に見える風貌に惑わされるが…この笑みを見た者は死よりも恐ろしい目に遭う──とかっ。とかっ。
「…余のポケットマネーから金貨2000枚の独立記念費を用意する。好きに使ってくれ」
「……。」
じと、と陛下を見る瞳が冷たい…。
(お、お父様…ま、まさか……!?)
クスクスと貴婦人の笑い声が静かな会場に響く。
「あらあら…あなた、随分とお優しいのね?」
「お母様…」
銀髪を頭頂部で纏め、深紅の瞳の淑女──アリスティア・エンハイム公爵夫人。
齢42歳とは見えない美魔女。
ブルーのドレスに赤薔薇のコサージュ、ドレスのスカート左端に満月に剣の影の紋章。
品よく纏められた衣装、嫣然と微笑む美貌は衰え知らず。
「シャル…ああ、可哀想な私の娘…あなたを泣かせたのはどなた?」
え、陛下が地下牢に連行──お母様、見ていたでしょう?
「…アリスティア夫人、その…」
護衛の騎士が言い辛そうに顔をしかめて間に割って入る。
「あなたには聞いておりませんわ。黙りなさい」
「…ッ、失礼しました!」
…うわ、うーわ~~っ。
お母様“も”なの?恐っ!
「うふふ…さあ、答えて?陛下?」
社交界の華、冷血乙女、首狩り女王──これは称号にある──と言われ畏れられた元隣国のお姫様…王妃に次いで2位の位置にいる。
凛とした佇まいはまさに王族。
エンハイム公爵に嫁いでも尚失われないその気品。
「…ッ、エリックが…」
「──声が、小さい。もう一回言って下さらないかしら?」
決して声を荒らげず、たおやかに微笑む。
「エリックが…、不貞を…っ!」
パシンッ
お母様が手にした扇を閉じた。
「ええ、それで?」
ニコニコ。
冷血夫婦が揃って微笑む。
こ、こわっ!!
「…婚約者がいる身で、浮気を…っ、」
「ええ、それで?」
お母様、容赦ない!
嫣然と微笑んで、淡々と陛下に状況を報告させている…!
…こ、これって…まさかっ!?
「お母様…恐い…」
シャルティエは気付いてしまったのだ…!
天井に張り付いている各国の密偵の為だと。
…一字一句違わずに報告させるつもりだ。
「シャル…お前はかわいい私の娘ですもの。お前をどんな悪意からも守ってみせますわ…母を信じなさい?」
「お母様…はいっ!(どさくさに紛れてストレス解消してるなーこれ)」
頭を優しく撫でられる。
優しい手つき…昔からお母様の頭なでなでは好きだった。
気持ちいい…お母様。
「うふふ…本当にかわいい子…シャルにそんな酷い事をしておいて、それだけで済む、とでも?」
「父上、母上…あまり陛下をいじめるな…それでもまだ『国王』なのだから。」
金髪に赤い瞳の美少年──否、齢24歳の美貌の貴公子──ジルベルト・エンハイム、次期エンハイム公爵──は父似の冷徹な微笑みで陛下を見る。
「お兄様…お話しは終わりましたの?」
「ああ、滞りなく。何やら騒がしいのでね」
言外にどこぞのバカ王子の喧しい声が聞こえたので商談を早々に切り上げた、と言っているよう…お兄様『も』やはり怒っているようだ。
「…陛下?」
お母様とお父様、お兄様…それから視界の端に我が愛しの弟妹達が…!が!
「「「「「どう責任を取るおつもりですか?」」」」」
…一家全員で問い詰めるのは、いくらなんでも可哀想だと思います。
──まあ、私も特に諫めたりしませんが。
と言うか一番の被害者ですし。
「「ひぅ……っ!?」」
王夫妻が悲鳴をあげた。
この日の建国記念パーティーは散々に終わった。
たった一つの過ち──エリック(元)第3王子の婚約破棄宣言から始まった謂れのない誹謗中傷、婚約者がいる身で下位貴族の令嬢に現を抜かす体たらく…たった一人のバカの所為で…各国にばら蒔かれるバスカ王国の恥。
…今後、国との交渉は優位に働くだろう。
エンハイム公爵家は大いに益をもたらしたパーティーだった。
本命のダンジョンの宣伝は出来なかったが…まあ、領地で独立記念パーティーでも開けばいいか。
早々に転移魔法で一家その日を以て領地に凱旋!
…とんだ“茶番”だった。
ん?元王子と男爵令嬢は…って?
私への支払いが終わるまで王家監視の下、鉱山で働かされているよ。
慰謝料の金貨500枚になるまで、ねぇ?
混合獣化はその後になる。
…何年後になるのやら。
それまで覚えている筈もないのだが。
…時間が掛かるようなら、子々孫々と記録を残さなくてはならないわね。
「はぁ、散々だったわ」
「お疲れー、シャル。」
「まったくね」
「もう、王都へは行かないんでしょ?」
「うん…やっと解放されたわ」
冒険者ギルド2階の喫茶スペースでパーティメンバー相手に寛いでいるのは、軽装──ノースリーブの白シャツに赤の短パン、黒ニーソで藍色のスニーカー、そのたおやかな銀髪をポニーテールにした少女──シャルティエだ──はテーブルにべたっと顔を乗せている。
「…しばらくはダンジョンに潜れるのか?」
「朔…うん、折角のお休みを貰ったから。」
「そう、それは良かった」
シャルティエの傍らに立つ青年──工藤朔 はシャルティエの彼氏だ。
因みに転移者である──ん?婚約していたのではないか─…って?
ダメになったじゃないの。
因みに朔との関係はあのバカ元王子とは違って長い。
黒髪に茶色の瞳、素朴な顔立ちにどこか温かみのある風貌…あの王子と婚約してからもこの二人の関係は続いていた。
「俺のシャルと婚約だけでも許しがたいのに、一方的に婚約破棄?ふざけるなっ!」
と、影に日向に憤慨していた。
ダブル浮気──と言っても、始めからシャルティエは王子の事は好かなかった。
俺様何様エリック様な元王子は乙女ゲームの時から最も嫌いなキャラだった。
見た目は美形でも性格がひねくれていて、いつも兄の王太子と比べられていて…コンプレックスを抱いているバカ王子。
ネットでも彼のそんなバカでダメな所がいい!と言う信者以外は彼の評価は低い。
勉強も語学も武術ですら、平民の子供に負ける…血筋以外何も誇れるものがない。
…正直王太子の方が好きだ。
王太子も攻略者の一人で他に宰相の息子や騎士団長の息子、商人の次男…それからバカ王子ことエリック第3王子。
この5人の中からプレーヤーは恋の相手に選ぶわけだけど──私は王太子×宰相の息子推しだった。
勿論、騎士団長の息子×商人の息子のカプも好きだった。
「朔…いっぱい魔物狩りデートしようね!」
「…お、おぅ…(反則だろ、これ…かわいすぎるっっ!!)」
朔はシャルティエの笑顔に胸が痛いくらいの高鳴りを覚えた。
因みに経緯は朔がエンハイム公爵の領地の森から出てきた所をたまたま目撃した冒険者活動をしていたシャルティエが保護してから面倒を見るようになってから…いつしか互いに異性として惹かれるようになった。
「?朔?どうかしたの?」
「…なんでもないっ!」
「?」
小首を傾げる仕草にまた殺られて鼻を抑える朔氏。
「…ねぇ、私今すっごくしょっぱいものが食べたいわ」
「同感。…なに、あれ?当て付け?独り身に見せ付けてるの?」
魔法使いの少女がうげぇと苦虫を数十匹は噛み潰したような顔を、弓使いの女性は取り出した弓に矢を番えている…照準はシャルティエと朔の二人に向けられていた。
「リッカ、抑えて抑えて…!?」
必死に弓使いの女性の腰に抱きついているショタっ子──小人族のカルアがアホ毛を逆立てている。
「放しなさいっ、カルア!あの二人に鉄槌を!リア充に天罰を!!」
「やめて!パーティメンバーだよ?仲良くしようよー!!」
「無理ぃっ!!」
「リッカ~~っ!」
弓使いの女性──はエルフ。
さらさらと腰まである金髪と蒼い瞳の美女。
ボン、キュッ、ボンッ!なメリハリのついた体型、身長は180㎝もある高身長。
凛々しげな眼差しに弓の腕はエルフ一ともされている。
…性格は品行方正、弱きを助け、強きを挫く。
普段は穏やかな人柄だが──こと、恋愛に関しては硬派。
美人で性格も悪くない。
だが──モテない。
酒豪が原因なのか?絡み酒で、翌朝覚えていないのが原因なのか…まあ、モテない。
500年の人生で未だ処女──が“重い”のだろうか。
「…僕はリッカさんのこと好きですから!やめて!」
「…お子様に好かれても…ちょっと」
「!?僕はこれでも200歳の大人です!酷いよっ、リッカさん!!」
わあわあと泣き始める小人族のカルア。
…酒の一滴も呑んでいないのに、騒がしいパーティだ──とはよく言われる。
そんなお粗末で雑な大声で玉座の間は静まり返った。
はあ?
「シャルティエ!貴様は私が真に愛するルナシー・エンリケ男爵令嬢を不当に痛めつけ、公衆の面前で罵倒した!」
…。
しかも、身に覚えのない罪状がつらつらと出てくる。出てくる。
なになに…私がその会ったこともないたかが男爵令嬢如きに嫉妬して?彼女の持ち物をハサミで切り裂いた?彼女の教科書を破いてゴミ箱に捨てた?階段から突き落とした?故意に授業中に攻撃魔法を男爵令嬢に当てた?はあ?あれは魔法教練の時間でしょう?たまたま対戦相手だったから、相手をしたまででしょうーが。
…証拠もないのに?
しかも、その“証人”って…あなた様の目の上のたんこ──取り巻きじゃない?
「よって、私エリック・フォン・バスカ第3王子の名の下に貴様を国外追放の刑に処す!」
あ゛!?
それは越権行為だろ!このバカ王子(笑)!!
“王太子”でもない第3位でしかない私の(元)婚約者様(笑)…玉座に座る陛下の前で堂々としている。
…すげぇ。
あ、この発言で分かると思うけど…私、シャルティエ・エンハイム公爵令嬢は前世の記憶持ちです。
所謂転生ってやつ。
ここ、乙女ゲーム“暁の恋を君に”の舞台で、エールグリーンって架空のファンタジー世界。
舞台は王立学園、高等部の3年間で攻略対象の貴族子息(5人)との個別ルートか友情エンド、ハーレムエンドの3つ。
…因みに私は腐女子なので、断然友情エンド押しだ。
「──エリックよ、これは何の茶番だ?」
厳かな声が玉座の間に響く。
決して大声ではないのに聴く者に畏怖を抱かせる…
「──!?ち、父上…ですから私は」
「くどい──お前はこの場を持って廃嫡だ。そんなにその男爵令嬢とやらと結婚したいのなら認めてやる──但し、城の地下牢で、な。」
「!?な、どうしてですか!?私は父上の息子ですよ!ルナシーは王子妃──」
「黙れ。──衛兵、即刻この二人を牢に入れろ。目障りだ」
一言も発することなく(元)エリック王子(笑)は件の男爵令嬢と地下牢へと連行された。
「…はあ。済まぬな、シャルティエ…あれの矯正を間違えたようだ」
威厳ある顔立ちが疲れからか、心なしか、やつれているように見える…。
「いえ…心中お察し致しますわ、陛下。」
男爵令嬢は一言もしゃべらせてもらえず退場した。
項垂れた陛下の肩に王妃がそっと手をおく。
「シャルティエには随分と迷惑を掛けました。…あれの始末はあれにさせます。慰謝料諸々金貨500枚──あれの予算も全て凍結してシャルティエとエンハイム家に支払いますわ。…シャルティエ、本当に申し訳ないわ」
「…王妃殿下…ええ、謝罪は受け入れましょう──ですが、“私個人の”報復を許可して下さいませ。」
…王妃殿下に言われたら、そりゃ断れるわけないでしょ?王政の国で。
だけど──それだけじゃあ…ねぇ?
この場は王立記念日──建国記念日の善き日取りで王が招いた記念パーティー…シャルティエとエリックの婚約を確かなものにするための披露宴でもあった。
…それと、シャルティエ個人としてもこのまま終わるわけにはいかない。
…だって──シャルティエ・エンハイム…この名は確かに公爵令嬢の名だが─…それ以外で連想するのは“宮廷魔術師”、“宮廷錬金術師”やエンハイム商会会頭──それから特殊職業、“ダンジョンマスター”
…これの宣伝を兼ねたパーティーだった。
「…陛下、並びに王妃殿下…私とても傷付きましたわ──ねぇ?どうせなら私のダンジョンで実験体になってもらいたいですわ…例えば、混合獣、とか。」
「─…ッ、やむを得ません。認めましょう」
ちらっと陛下に目配せ。
陛下は無言で頷いている。
…了承するわけだ?ふぅん。
「それと」
王妃殿下が会話を終わらせようとしたので、シャルティエがその出鼻を挫く。
「私もう王家の方々は信用ならないので…婚姻や婚約、並びに結婚と名の付く行為は今後王族とは一切しません。後その他の縁談もお断り致しますわ──私はしばらく王都も王城へも招待しても来ませんので。あしからず」
「─ッ、し、シャルティエ…」
そうそう。
このくらいは言わないとな。
またぞろ“バカ”が沸くかも知れないし。
たおやかにくゆらせた銀髪を右肩から流し、紅い瞳に整った顔立ちの少女が冷然と微笑む。
「尚、強引に我が領地に圧力なぞ掛けないで下さいね?“うっかり”ダンジョンを氾濫させちゃいますから。…王城内に魔物を放たれたくはないでしょう?」
ここは剣と魔法の世界。
シャルティエは全属性の魔法の使い手だ。
時代が時代なら彼女が王に取って代わってバスカ王国を統べている──まあ、本人にその気もその暇もないが。
「シャル…そのくらいに。」
「…あら、お父様?」
にこやかに微笑んで近付いてくる美中年──どうしても20歳前後にしか見えない御年、45歳。
さらさらと風に揺らめく金髪を首の後ろで縛っている。
黒地に金糸の刺繍でエンハイム家の紋章…満月に剣の影が刻印された礼服──上下セットな軍服のようなかっちりとした服装でシャルティエの隣に立つ。
「…陛下、私は約束しましたよね?あれの矯正はちゃんとすると。だから、娘のシャルティエを嫁にくれ──その約定を一方的に反故にした陛下の心境を是非とも聞いてみたいものだ」
にこやかに微笑んでいるが…背景はブリザード。寒っ!恐っ!
…お父様、大分キレてらっしゃる…。
「…ッ、エンハイム公爵…此度の事は真に申し訳な──」
「ああ、王妃殿下は黙って下さい?私は今〝陛下に〟お訊ねしているのです。
──どういうつもりだ?」
謝ろうとした王妃殿下の言葉を遮って陛下を睨み付けるお父様…うん、横を見れない。恐っ!
シーンと静まり返ったパーティー会場。
いつの間にか楽団の演奏も止まり、来賓の方々の談笑も止まり、喪に服したように皆玉座の周りに注目している。
「…アド…弁明の余地もない。私が見誤っていた」
「ほう、それで?」
…威厳も何のその。
お父様──アーデルハイド・エンハイム現公爵の父は元は先代王の兄。
…因みにシャルティエも一応、王位継承権がある。
何かに使えるかもしれないので、破棄も返上もしていないのでそのままだ。
「──エンハイム公爵家の独立を認める。」
「…。」
お父様はなにも言わない。
(ひぇ…っ!まだふっかけるつもりだ…!?)
「…ッ、ど、独立に併せて人手が足らないだろう…優秀な人材の引き抜きも許可する…頼む、このくらいで許してくれ。」
「なにを、でしょうか?」
ニコニコ。
(ひぃ……っ!?)
一見優男に見える風貌に惑わされるが…この笑みを見た者は死よりも恐ろしい目に遭う──とかっ。とかっ。
「…余のポケットマネーから金貨2000枚の独立記念費を用意する。好きに使ってくれ」
「……。」
じと、と陛下を見る瞳が冷たい…。
(お、お父様…ま、まさか……!?)
クスクスと貴婦人の笑い声が静かな会場に響く。
「あらあら…あなた、随分とお優しいのね?」
「お母様…」
銀髪を頭頂部で纏め、深紅の瞳の淑女──アリスティア・エンハイム公爵夫人。
齢42歳とは見えない美魔女。
ブルーのドレスに赤薔薇のコサージュ、ドレスのスカート左端に満月に剣の影の紋章。
品よく纏められた衣装、嫣然と微笑む美貌は衰え知らず。
「シャル…ああ、可哀想な私の娘…あなたを泣かせたのはどなた?」
え、陛下が地下牢に連行──お母様、見ていたでしょう?
「…アリスティア夫人、その…」
護衛の騎士が言い辛そうに顔をしかめて間に割って入る。
「あなたには聞いておりませんわ。黙りなさい」
「…ッ、失礼しました!」
…うわ、うーわ~~っ。
お母様“も”なの?恐っ!
「うふふ…さあ、答えて?陛下?」
社交界の華、冷血乙女、首狩り女王──これは称号にある──と言われ畏れられた元隣国のお姫様…王妃に次いで2位の位置にいる。
凛とした佇まいはまさに王族。
エンハイム公爵に嫁いでも尚失われないその気品。
「…ッ、エリックが…」
「──声が、小さい。もう一回言って下さらないかしら?」
決して声を荒らげず、たおやかに微笑む。
「エリックが…、不貞を…っ!」
パシンッ
お母様が手にした扇を閉じた。
「ええ、それで?」
ニコニコ。
冷血夫婦が揃って微笑む。
こ、こわっ!!
「…婚約者がいる身で、浮気を…っ、」
「ええ、それで?」
お母様、容赦ない!
嫣然と微笑んで、淡々と陛下に状況を報告させている…!
…こ、これって…まさかっ!?
「お母様…恐い…」
シャルティエは気付いてしまったのだ…!
天井に張り付いている各国の密偵の為だと。
…一字一句違わずに報告させるつもりだ。
「シャル…お前はかわいい私の娘ですもの。お前をどんな悪意からも守ってみせますわ…母を信じなさい?」
「お母様…はいっ!(どさくさに紛れてストレス解消してるなーこれ)」
頭を優しく撫でられる。
優しい手つき…昔からお母様の頭なでなでは好きだった。
気持ちいい…お母様。
「うふふ…本当にかわいい子…シャルにそんな酷い事をしておいて、それだけで済む、とでも?」
「父上、母上…あまり陛下をいじめるな…それでもまだ『国王』なのだから。」
金髪に赤い瞳の美少年──否、齢24歳の美貌の貴公子──ジルベルト・エンハイム、次期エンハイム公爵──は父似の冷徹な微笑みで陛下を見る。
「お兄様…お話しは終わりましたの?」
「ああ、滞りなく。何やら騒がしいのでね」
言外にどこぞのバカ王子の喧しい声が聞こえたので商談を早々に切り上げた、と言っているよう…お兄様『も』やはり怒っているようだ。
「…陛下?」
お母様とお父様、お兄様…それから視界の端に我が愛しの弟妹達が…!が!
「「「「「どう責任を取るおつもりですか?」」」」」
…一家全員で問い詰めるのは、いくらなんでも可哀想だと思います。
──まあ、私も特に諫めたりしませんが。
と言うか一番の被害者ですし。
「「ひぅ……っ!?」」
王夫妻が悲鳴をあげた。
この日の建国記念パーティーは散々に終わった。
たった一つの過ち──エリック(元)第3王子の婚約破棄宣言から始まった謂れのない誹謗中傷、婚約者がいる身で下位貴族の令嬢に現を抜かす体たらく…たった一人のバカの所為で…各国にばら蒔かれるバスカ王国の恥。
…今後、国との交渉は優位に働くだろう。
エンハイム公爵家は大いに益をもたらしたパーティーだった。
本命のダンジョンの宣伝は出来なかったが…まあ、領地で独立記念パーティーでも開けばいいか。
早々に転移魔法で一家その日を以て領地に凱旋!
…とんだ“茶番”だった。
ん?元王子と男爵令嬢は…って?
私への支払いが終わるまで王家監視の下、鉱山で働かされているよ。
慰謝料の金貨500枚になるまで、ねぇ?
混合獣化はその後になる。
…何年後になるのやら。
それまで覚えている筈もないのだが。
…時間が掛かるようなら、子々孫々と記録を残さなくてはならないわね。
「はぁ、散々だったわ」
「お疲れー、シャル。」
「まったくね」
「もう、王都へは行かないんでしょ?」
「うん…やっと解放されたわ」
冒険者ギルド2階の喫茶スペースでパーティメンバー相手に寛いでいるのは、軽装──ノースリーブの白シャツに赤の短パン、黒ニーソで藍色のスニーカー、そのたおやかな銀髪をポニーテールにした少女──シャルティエだ──はテーブルにべたっと顔を乗せている。
「…しばらくはダンジョンに潜れるのか?」
「朔…うん、折角のお休みを貰ったから。」
「そう、それは良かった」
シャルティエの傍らに立つ青年──工藤朔 はシャルティエの彼氏だ。
因みに転移者である──ん?婚約していたのではないか─…って?
ダメになったじゃないの。
因みに朔との関係はあのバカ元王子とは違って長い。
黒髪に茶色の瞳、素朴な顔立ちにどこか温かみのある風貌…あの王子と婚約してからもこの二人の関係は続いていた。
「俺のシャルと婚約だけでも許しがたいのに、一方的に婚約破棄?ふざけるなっ!」
と、影に日向に憤慨していた。
ダブル浮気──と言っても、始めからシャルティエは王子の事は好かなかった。
俺様何様エリック様な元王子は乙女ゲームの時から最も嫌いなキャラだった。
見た目は美形でも性格がひねくれていて、いつも兄の王太子と比べられていて…コンプレックスを抱いているバカ王子。
ネットでも彼のそんなバカでダメな所がいい!と言う信者以外は彼の評価は低い。
勉強も語学も武術ですら、平民の子供に負ける…血筋以外何も誇れるものがない。
…正直王太子の方が好きだ。
王太子も攻略者の一人で他に宰相の息子や騎士団長の息子、商人の次男…それからバカ王子ことエリック第3王子。
この5人の中からプレーヤーは恋の相手に選ぶわけだけど──私は王太子×宰相の息子推しだった。
勿論、騎士団長の息子×商人の息子のカプも好きだった。
「朔…いっぱい魔物狩りデートしようね!」
「…お、おぅ…(反則だろ、これ…かわいすぎるっっ!!)」
朔はシャルティエの笑顔に胸が痛いくらいの高鳴りを覚えた。
因みに経緯は朔がエンハイム公爵の領地の森から出てきた所をたまたま目撃した冒険者活動をしていたシャルティエが保護してから面倒を見るようになってから…いつしか互いに異性として惹かれるようになった。
「?朔?どうかしたの?」
「…なんでもないっ!」
「?」
小首を傾げる仕草にまた殺られて鼻を抑える朔氏。
「…ねぇ、私今すっごくしょっぱいものが食べたいわ」
「同感。…なに、あれ?当て付け?独り身に見せ付けてるの?」
魔法使いの少女がうげぇと苦虫を数十匹は噛み潰したような顔を、弓使いの女性は取り出した弓に矢を番えている…照準はシャルティエと朔の二人に向けられていた。
「リッカ、抑えて抑えて…!?」
必死に弓使いの女性の腰に抱きついているショタっ子──小人族のカルアがアホ毛を逆立てている。
「放しなさいっ、カルア!あの二人に鉄槌を!リア充に天罰を!!」
「やめて!パーティメンバーだよ?仲良くしようよー!!」
「無理ぃっ!!」
「リッカ~~っ!」
弓使いの女性──はエルフ。
さらさらと腰まである金髪と蒼い瞳の美女。
ボン、キュッ、ボンッ!なメリハリのついた体型、身長は180㎝もある高身長。
凛々しげな眼差しに弓の腕はエルフ一ともされている。
…性格は品行方正、弱きを助け、強きを挫く。
普段は穏やかな人柄だが──こと、恋愛に関しては硬派。
美人で性格も悪くない。
だが──モテない。
酒豪が原因なのか?絡み酒で、翌朝覚えていないのが原因なのか…まあ、モテない。
500年の人生で未だ処女──が“重い”のだろうか。
「…僕はリッカさんのこと好きですから!やめて!」
「…お子様に好かれても…ちょっと」
「!?僕はこれでも200歳の大人です!酷いよっ、リッカさん!!」
わあわあと泣き始める小人族のカルア。
…酒の一滴も呑んでいないのに、騒がしいパーティだ──とはよく言われる。
0
あなたにおすすめの小説
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~
水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」
夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。
王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。
「左様でございますか」
彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。
辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~
香木陽灯
恋愛
「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」
実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。
「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」
「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」
二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。
※ふんわり設定です。
※他サイトにも掲載中です。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる