私が、望むのは…

アリス

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プロローグ:道明寺万理と言う女

そして、話し合いは始まった…。

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 「ここ、何処?」
さっきまで自宅のダイニングテーブルで食後の挨拶を交わしていた…筈、だが……。

ニコニコ。

男の子はかわいらしい笑顔を浮かべこちらへと笑みを向ける。

 「…ふふ、落ち着いて話が出来るね」

質問には答えず、金髪&碧眼の美少年はニコニコとしたまま、話を続ける。

 「初めまして。道明寺万理さん。
僕は異世界、フロイアの管理神──ナクアです。以後、宜しくね」

キリッとした顔で言ってみても…身長差の関係でこちらを見上げる形だ。
…かわいいな。

 「…何を考えているかは分かるよ?当ててみようか。」
 「かわいい」
 「──口にすれば怒らない、とかじゃないよ?それに僕は寛容なんだ…そんな事では怒らないよ」
 「いやいやいや」
初対面時の情けない泣き顔から、2度目の怒涛のマンガントークは凄かった…いや、落差がすごくてどちらがこの男の子ショタの標準か分からない。

 「…身長差が憎い──じゃない、座ろうか」

パチン、と指を鳴らすと黒塗りのソファとテーブルが現れた。

 「掛けて」
 「!?いきなりなんか出た!?」
 「…ふふ、反応が面白い方ですね、万理さんは」
クスクスと笑う男の子は対面に腰掛けて、ティーポットをグラスに注ぐ。

オレンジの爽やかな香りが広がり、透明なグラスにロックアイスが浮かぶオレンジジュース。

 「念じれば念じたものが出るよ──そう言う魔道具、です」
 「!?異世界って話は本当なんだな…!なら、私はアイスコーヒー、ブラックで。」
 「口にしなくてもいいですよ?」
渡されたティーポットは無印良品の店舗に並びそうなつるりとした白磁の陶器製…ごくありふれたティーポット。
ラノベ文庫1冊分くらいの横幅、高さだ。

男の子──ナクアが口を着けたグラスと同じ素材、同じ容量のガラス製の透明グラス、そこにはロックアイスが入っていて、ポットを傾けると黒色の液体──万理が好きな銘柄のコーヒーがブラックで注がれていった。

 「…おお~、すごっ!本当に念じただけで出てきた~♪」

感心しつつも、グラスに口を着ける。

ごくごくと一気に飲み干してしまった…まあ、今日は暑かったし。

2杯目は微糖でモカブレンドのコーヒーにしてみた。

…想像通りのコーヒーの味に目を見開く。

 「…これ、便利だな」
 「ふふ、これは僕のだからあげれないけれど──迷宮に沢山あるから自分で手に入れて来たらどうかな?」
 「迷宮!…本当に私に異世界に行かせようと…?」
 「うん。
君──道明寺万理に勇者として邪神ヴァルバの抹殺をお願いしたい…無論、報酬もある。
願いを一つ叶える。
世界征服でも億万長者にしてくれ、でも…叶えてあげる」
世界征服…面倒だ。
それに億万長者にも興味はない。日々暮らしていければ。
……。

……願い、か…。

 「──それって、本当に?」
 「うん。。」
……。

 「──分かった。その、必ず叶えてよ?神サマ。」

伝わる神様仕様──これも異世界転移とか転生モノの書物に慣れ親しんでいる現代っ子だから、だろうか。

 「はい、叶えますよ…僕はですから。」

にこやかにこちらを温かく見守ってくる神様、ナクアの話の続きを聞くのだった…。


話の流れで向こうフロイアでのスキルや魔法の希望を聞くことになった。

 「魔法特化か、物理特化か…どうしますか?」
 「う~ん…魔剣士、とか選べない?どちらも興味がある」
 「バランス型──はい、可能ですよ。では職業ジョブは魔剣士、称号は“勇者”魔法属性は──」
 「全属性で!」
 「──まあ、いいでしょう」

因みにフロイアでは魔法の属性は火水土風時無光闇の全8属性。
火属性の魔法が得意な術者を赤魔法使いレッドシェード、又は赤魔導師レッドシューターと呼ぶ。
水属性魔法が得意な術者を
青魔法使いブルーシェード、又は青魔導師ブルーシューターと…土属性なら茶色、風属性なら緑色、時属性なら黒色、無属性なら白色、光属性なら金色、闇属性なら紫色の魔法使いシェード魔導師シューターとなる。

魔法使い見習い→魔法使い→魔導師となる。
下に下るほどにその属性の理解が深まり、詠唱も短縮され、高火力&高威力の魔法が放てるようになるのだ。
魔法使いより魔導師の方が強い。
魔法使い見習いよりも魔法使いの方が強いのも必然と言えば必然であろう。

魔法使いの多くは魔力が生まれながらにして備わっている。

反対に物理特化の“剣闘士”はMP0で生まれてくる。
その者は魔法は使えない。

魔法が使えなくても現象は起こせる。

 「…ねぇ、このって──何?」

タスクバーを開く(宙に浮く半透明なホログラムのような薄水色のゲーム画面のようなヤツ)と、ステータス欄に“スキル”欄に鑑定スキルや諸々の戦闘や冒険に必要そうなスキルの後に──“ゲーム補正”と後付けのような…気になる一文を見付けた。

 「タップして確認して下さい」
 「…投げやりだな」
 「説明は面倒臭いのですよ」

グラスに2杯目のオレンジジュースを入れ口に運ぶナクア…もうその態度で、説明放棄を宣言したようなものだ。
微苦笑を浮かべ、スキル名をタップする。

 「…ん?毎戦闘後追加報酬あり、邪神関連の魔物ないし人物を倒した・殺害時はレベルアップに必要な取得経験値EXPに×20%の補正、各種稀少素材のレアドロップ確定及び取得金1体(人)に付き+20000フォル──通常の戦闘後報酬も経験値+アイテム(素材含む)+現金の3点は変わらないものとする──って…便利過ぎないか!?」
 「剥ぎ取りが要らない便利チートスキルですよ」
 「おお~~!」
思わず拍手した。

画面を一つ前に戻して当然のようにある無限収納イベントリ──、アイテム欄や、魔法欄にスキル欄、アイテムクリエーション欄にポイント欄──タップすると、ステータスが表示され横に+か-が押すとステータス表示の値が増減する…今は何のポイントも溜まっては居らず、空白だ。

他に隊列や編成欄があったり、ライブラリ欄にはこれまでの旅路のあらましとこれからの目的や目標を自動オートで記録される「旅の日記」。
が、当然今は何もないので、真っ白。
それと、世界地図…は全体図が載っており、フロイアの大陸図が記され、国名や大陸名、主要都市の名前が記載されている。

街に着いたらタウンマップが追加されるので、そちらを参照すればいいとナクアは補足を入れる。

その下に「資料」の項目でライブラリ欄は埋まる。

資料は文字通り旅の途中でページを開いた書物はここに全て記載され何時だって読むことができる。
それは時に料理や薬のレシピだったり、錬金術書や魔導書や魔法書、戦術指南書やスキル書、大衆小説や娯楽本、旅行雑誌なんかも記載される。

 「勿論、原本ではなく複写コピー本だけど…ね」
 「それでも凄いよ…魔法書もちゃんと火が出るんだろ?」
 「はい…まぁ、世界に一冊しかないような神代の魔法書はコピー不可ですので実質は初級~上級までの魔法書しか効果は出ませんが。


…説明モードの時は敬語になるようだ。

セーブ&ロードがないだけで装備欄にステータス欄があるのは…一体どのRPGを参考にしたのか?と問わなくては居られない。

 「…餞別だ。僕が時の頃に持っていたマジックバッグとその中身全部」
 「──随分と太っ腹だね?」
 「ああ、在庫処理──もう使わないものだし。今はそれよりも高性能で良いものを持っているからな」

つまらなさそうに返された言葉に思わずと目を見開く。

──?んん??

 「なぁ、人間だった──って」
 「ああ、僕は人間の神様だよ。
あの邪神に押し付けられこの世界の管理者神様にさせられた哀れな人間──なんでもない」 

それっきり口を噤んだ。
…どうやら、話す気はないらしい。

すごーく凄く気になる。──が、

追及して、機嫌を損ねると…このまま“交渉”も破談になり、身一つで異世界へ拉致されたら堪ったものではない。

 「…それで、ゲーム見たく経験値を稼いでレベル上げて邪神ヴァルバを倒せば良いの?そいつは何処にいるんだ」
 「最も穢れた地──ダークミュラーだよ。高濃度な瘴気に穢れた嘗ての栄華を誇った古代帝国の帝都だった場所だ」
 「瘴気?」
 「…瘴気とは触れるもの全てを枯らし、その身の魔力を穢す存在──魔力とは相反する人も精霊も扱えない産業廃棄物のようなもの─…、ですね」

蓄積された大気中にある残留魔力が経年劣化で歪み、淀み…変質した魔力カス──それが“瘴気”、と。

本来あってはならない残留物──処理も出来ない、放置すると確実にフロイアに住まう全ての生きとし生けるものに害を与えるのだとか。

具体的には触れたものの精神や魔力の質を歪めて狂暴バーサーク化させて。

 「…勇者として邪神ヴァルバの抹殺をお願いします──まあ、“聖剣”には魔を祓う──瘴気を霧散させ、浄化し、クリーンな魔力へと還す能力ちからがありますから…気が向いたので構わないので祓ってくれると助かります。

現地瘴気除去要員聖属性の魔法が扱える術者は居るにはいるのですが──何分広いので。
人手不足で全8属性のどれにも該当しないため教会も大きい街でないと鑑定の魔道具すら置いていない所もあるんだよ…
その鑑定スキルで術者を見付けてなるべくパーティに加えてくれると旅も楽になるし瘴気も祓えて一石二鳥だぞ?オススメだ」

瘴気に犯された魔物や人は8属性のどの属性で攻撃しても大したダメージにはならず、すぐに再生して襲い掛かって来るのだとか。

 「──ん?まさか…邪神って聖属性の魔法か聖剣でしか倒せない…とか?」
 「うん。そうだね」
コクン、と頷いたナクアにガックリと肩を落とすと万理はまたナクアを真正面から見据えた。

 「…瘴気と言うのは形を成さないモノだったんですよ……それをあの前任者邪神は!!な~にが“ゴミと思っていたものが襲い掛かってきたら面白くね!?”か!

理由でフロイアにハッキングして瘴気の仕様を変質させて…ッ!!

お蔭で要らぬ作業が増えてエラーは鳴りっ放し、修正しても修正しても次から次からへとバグが発生して──ああ、もう邪神の腐れ外道を殺らないとこの忙しさは減らない!と思い立ったのですよ!!

万理さんあなたにはあらゆるチートを授けますので聖剣と共に邪神を抹殺して下さい!殺して来て下さいよ!!

貴女だけが僕の──引いてはフロイアの希望なんです!」

わーお、怒涛のマシンガントーク…。

よっぽどストレスが溜まっているようだ。

…だいぶ、私怨が募っている。
美少年が目を据わらせてやさぐれている様は……現代日本で長年生きてきた万理ですらも正直関わりになりたくないヤバい表情だ。
背後に龍虎を飼って顔面は般若のよう。
……ちょっと夢に出てきそうだ。

 「お、オーケ、オーケ。
…邪神討伐は引き受けるよ──まあ、すぐ死なないように色々とここで準備すれば良いのか?」
 「…はい、その画面メニューの操作に慣れたら、貴女を魔障の森と言われる難易度B級の森へと転送します。」

手渡されたマジックバッグ──見た目は黒革のリュックのようなもの─手を入れるとに縦に20㎝、横に15㎝のリュックに入らなそうな物──一振りの日本刀?の柄を握った。

 「…聖剣に認められたようですね」
 「聖剣──この日本刀みたいなのが?」
 「形はあまり関係ありませんよ。
…手にした者──に合わせて形状は如何様にも変化しますし。」
一振りの太刀…そんな様相を見せる。鞘は朱塗りの桜の花びらが散ったデザイン、柄に巻かれた滑り止めの麻の布は藍色。

 「抜いてみなよ」

チャキッ…。

引き抜いた刀身は銀色。
透明な波打つ波紋…刃に自身の見開いた顔が写る…。

 「…!綺麗なものだな…」

刀身1mの片刃の日本刀…聖剣──天羽々斬あめのはばきり

…何故だか脳内に直接聖剣の銘が表示された。

 「天羽々斬?…これから宜しくな」

呼応するように淡く白く光る。

 「…聖剣は話せないけど、意思は宿っているから。

直接脳内に感情や思いを伝えてくるもの──と、あいつが僕に渡した時に言っていた…まあ、その子は基本対邪神と瘴気の魔物──瘴気獣を退治する時に使うといいよ」
 「普段使いにしてはダメなのか?」
 「……ダメでないけど、目立つよ?」
 「…。」
 「…。あ~、テンプレが起き過ぎる?」
コクン。

頷かれた…。

 「…街中では仕舞っておくことにするよ」

チカッと聖剣が光った。
その光はまるで同意するかのようだ。

 「人目がない所では帯剣しとくな、相棒?」

チカチカッ!

嬉しい、楽しみと言った思念が脳内に直接響いた。

……その後、色々と渡されたマジックバッグの中身をアイテムクリエーションで素材を消費して聖剣ではない武器や防具、衣服に料理を作成していった──ああ、レベルアップで増えた“ポイント”を振り分けて広がった魔法やスキルの項目にワクワクと強化をしていく。

硬貨に関してはナクアが人間だった頃の物なので──そのまま大きな街でオークションに流す方がお金になる、と助言された。

各種必要そうなポーションや、日用品、消耗品なんかを作成して。

動きやすそうな戦闘服──ノースリーブの白パーカーに黒色短パン、赤のラインが入った白のスニーカー。

反対に普段使いの街歩き用のワンピースとブラウスにスカートや下着にサンダル、ショートブーツ、ロングブーツ…と数点ずつ作った。

…いや、ほんと。
便利だわー、アイテムクリエーションの項目をタップするだけで出来上がるのは。

…でないと、流石に大変である。

必要そうな素材をスライドして、ボタンを押すだけの簡単な作業。

ほんの少し…1分もしない内に料理だろうと、武器や防具だろうと、お洒落着やドレスだろうと一瞬の内に作り上げる──職人泣かせのチート機能。

 「…料理本に魔導書、魔法書まであるし…戦術指南書もしれっと“極”まである……本当にナクアは人間だったのか?」
 「うん。──まあ、僕が“勇者”だった時の私物だけど」
 「元勇者?」
 「そうだよ」

それっきりまた黙ってしまったナクア…まあ、無理に訊こうとは思わない。
 
氷がカラン、と音を立てた。

ほんの少しの静寂が二人の間に流れる…が、悪くないと思えたら。

それは自身のを叶えてくれる、と保証する神様とのお茶だろうか。

見た目男の子ショタなのに、言葉遣いや口調、ちょっとした時に出る癖は万理よりも遥かに年上の男のように思う。

だからなんだ、と言うわけでもない…ただ、今ナクアとお茶をしている──それが奇妙で、笑えてくる。

万理にはちょっと溺愛束縛気質な兄と幼馴染みの男友達、それから気のいい女友達、暖かな家族が居る。

そこにこの「ナクア」も加わるのか──いや、神と人で友達も何もないが。

このナクアとは「依頼遂行」を開始するまでのと目的が果たされたの2度会うことになるのだ。

友人も何もないだろう──と自己完結する。

 「…どうかした?」
 「いや。暫くは帰れないと思うと、な」
 「モデルの撮影仕事が中途半端な事を気にしているの?

──なら、それは心配いらないよ。

が終わったら──先ほどの時間で戻してあげる。ああ、これはとは別口で」
 「…それもあるけど…兄さんの食事とか…その、送れないかな?」
 「お兄さん?──ああ、トンデモ料理の作成者」
ショタ神ナクアにまで言われてる。
 「万理のお兄さんってイカレ魔導師なの?どーして食材がスライムやアシテッドスライム(不死粘液生物アンデッドスライムの亜種)になるの!?」

不死粘液生物アンデッドスライムとは──フロイアの地でスライムが偶発的に不死魔物アンデッドを人身の身体に取り込み、スライムが不死魔物と融合、結合、混濁する形でその「不死性」を宿した魔物の事を指す。

動きは通常のスライムよりノロノロで、取り憑いた相手を呪い補食する危険極まりない漆黒よりも尚くらい──暗黒色あんこくしょく色のゼリー状の粘液生物スライムはとっても危険な魔物である。

聖属性の攻撃ダメージが通らないのも瘴気獣の特徴の一つであろう。

それの亜種がアシテッドスライム…こいつは聖属性ではなく、光属性の魔法や攻撃で普通に倒せる。

亜種であるため不死性は失われているが──反対に光属性以外の攻撃や魔法は吸収し続ける特性を宿す──ので、見掛けたら光属性の魔法で一気に叩く必要がある。

アンデッドスライムと違って動きも俊敏だし、思考力もあり、人と意志疎通が出来る個体も存在する──とても賢いスライムである。

黄色と黒色斑のバ○ルスライムのような奴。(デフォルトされた目や口はないけれど)

 「…まあ、皿の上から出られないアシテッドスライムも珍しいといや、珍しいけど」
 「…あれ、本当に地球外生命体だったんだ…知りたくなかった、そんな事実!──ん?黄色と黒色斑……だった…け、ど…。」
 「え、それって……グールスライムじゃあ…!?い、いや…鑑定結果ではアシテッドスライムって出て──」

当時の記録を振り返るようにいきなり空間に出現したノートパソコンを立ち上げファイルの確認を始めたナクアは…次の瞬間には無言となった。

……。

 「…。」
 「…。」

暫しの沈黙の後、無言で画面を見せるナクア。

 「…グールスライムって何だ?」
 「冥界にしかいない亡者に罰を与える執政官の一人だよ……亡者付で皿の上に載っている訳?訳分からないんだけど」

冥界。また新たな単語が増えた。

…どうやら、鑑定結果に齟齬そごが生じたのは冥界の執行官があの日あの皿の上に召還された為のノイズ、らしい。

今、改めてナクアが画像に向かって鑑定スキルを掛けると普通に“グールスライム”と表記されている。

 「…それは妹の私も分からん。兄さんの七不思議の一つだな」

グールスライムは冥界にしか居らず、アシテッドスライムよりも思考力も賢さもある、人化も出来るスライム界のエリート中のエリート。
“処刑人”としても“執行官”としても類い稀な手腕を発揮する。
…スライム達の死後の姿とも、が辿り着ける最終進化の成れの果て──ともされている謎多き種族、らしい。

“らしい”と言うのはナクア自身も引き継ぎの際前任者から何も知らされていないから知らないのだ。

…もっと上位の神なら知っているかも、と言った。

 「──いや、知りたくないな。
…私の兄さんが摩訶不思議な料理?をする男って分かってるけど!分かってるけど…!!
…世の中知らなくもいいことってあるよね…っ。」
 「必死か」
ナクアのツッコミに意気消沈する万理。
…兄の翼のヤバさは神様ナクアの知るところ、らしい。
大好きなひとの欠点の一つである“飯マズ”の錬金術は凄まじいものがあるのだ。時として次元と空間すらも捻じ曲げる──そのは神すらも与り知らぬ所である。




ソファをバンバンと叩いて打ち菱枯れる万理を冷めた眼差しのナクアの視線が向けられる。

 「お前のお兄さんは邪神級の飯マズだ、諦めろ。」と。

さらっと容赦なく、断言される万理はそのまま軌道修正して行くナクアに無言でモカブレンド微糖のアイスコーヒーをストローでずずっと啜ってめ付ける。

 「…それで?料理の転送は可なの?不可なのか?──それだと兄さんが──料理をする事になるけど?」
 「…脅さなくても、だ。
無論スマホは使えるようにしてやる電力は魔力と同期させる…なんだ?けったいな顔して」
けったいな──目を大きく見開き、口をあんぐりと開けた間抜けな表情でじっとナクアを見遣る万理。
 「いや、良くあるラノベとかは異世界に文明の利器は使えないと」
 「お前はだ、万理──



言いたい所だが」
続く言葉は何となく解る──やめて、知りたくない…!

 「お前の兄貴が変な召還を行わないようにする為の処置だな」
 「ああ~~!!知りたくない事実だ…!」

…兄の料理召還はそんなにダメか。

…そんなこんな?で異世界に渡っても、文明の利器──スマホは使えるようになった。
喜ばしい事なんだけど…喜ばしい事なんだけど!!
…素直に喜べないのは何故なのだろう。
…………。







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