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プロローグ[私こそがバイオレット・スカーレット]
ゲームの“バイオレット”が可哀想過ぎる…!!
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さらさらと風に靡く絹糸のような金の髪、澄んだ海のような色の瞳は大きく勝ち気な印象そのままに豪華な顔立ちとすらりと伸びた手足はほっそりしながらもしなやかにほどよく筋肉質な四肢と168㎝の身長、括れた腰とシックスパックの腹。…ゲームの“バイオレット”はもう少しバストがけしからん感じだったのだけど。
D90㎝はあったのに、何故かB70㎝しかない…。
……。
…ちっぱいではないけど!断じてちっぱいではないけど!!
「…解せぬ」
豪華絢爛なセレブな女の子らしい寝室で一人姿見の前でぐぬぬ…と唸る。
春風の香る春の陽気、14歳の少女が唸っているのだ、…普通はお付きの者とかが『はしたない』とか『淑女らしくない』と窘めたりされる…のだが。残念☆そこは悪役令嬢たる所以だろうか?この寝室に訪れる者は誰もいないのだ。
バイオレット・スカーレットはスカーレット公爵家のご令嬢である。
そこはゲームでも現実になったこの世界でも変わらない事実。
…バイオレットの父と母は政略結婚だ。親が決めた婚姻にバイオレット父は婚約者の時から不満たらたらだった。バイオレット母は気位が高く結婚前は伯爵家令嬢(次女)でしかなかったにも関わらず女王然としていた。
平民の使用人は視界にも入らず、貴族位の使用人でも伯爵位以下は下民と見下す。
話す内容はドレス、宝石、歌劇。
流行りのドレスと稀少価値の高い宝石、流行りの歌劇…バイオレット母の興味は“人”にはない。
周りは自分を讃える者か傅く存在でしかない、若いツバメを何人か飼っているのは王立学園生だった時からだ。
自分を褒め称え傅く年下で自分より爵位の低い貴族子息達の多くはその美貌と気位に惹かれた。
…実際は執務能力も社交性もないと言うのに。
良くも悪くも一般的な貴族の“令嬢”を逸脱しない女性だった…バイオレットの母カトリーナは。
貴族の娘としての義務──子を産むこと──は長男、次男、長女の3人産んでそれはもう終わりと別荘に移り住んでそこで若いツバメを囲っている。
バイオレット父もまたカトリーナと婚約していた段階で既に本命…、妾として囲った男爵家の庶子を本邸に囲い公爵家令嬢のような扱いをしてたらカトリーナも激怒していた所だが、そこは“愛人”…妾として相応しく本邸ではあるけれど夫婦の寝室…主寝室ではなく客室で、愛人の子は庶子のまま手続きされている。
…増長しているのはこの庶子だけだ。
アンリ。それがバイオレット父と愛人の娘の名前。
この国で15歳になると成人と見做される。
…アンリに池に突き飛ばされ意識不明の重体になっていた一週間前からバイオレットは“前世”を思い出していた。
「…こんな家滅びて仕舞えばいいわ」
静かに静かに怨嗟の言葉を鏡の自分に告げた。
バイオレット父──オズウェル・スカーレット公爵はバイオレットの婚約者を王太子にしようとしている、がそんな事を異母姉妹であるアンリが許す筈がない、そもそも彼方は此方を一方的に敵視しているのだ、独断バイオレットが何かした事はない。
興味がないからだ、ゲームのバイオレットも今のバイオレットも。
…なのに絡んでくる。虐めたとか、教科書を服をドレスを破いただの裂いただの。
いや、知らんがな…ッ!!
今14歳のバイオレットと13歳のアンリに接点はない。
徹底的に無視しているが、そんな事アンリには関係ないとばかりに関わって来ようとする。
スカーレット公爵家本妻の子は18歳の長男、16歳の次男、14歳の長女であるバイオレットの3人だが、当然のようにいる妾…愛人の子は15歳の三男と13歳三女のアンリの5人がスカーレット公爵家の子供達だ。
…上の方は分を弁えているのに、下の末子が分不相応にも突っ掛かってくるのだから始末が悪い。
ほぼ平民と変わらない身分で『私の方が愛されてる!』『お父様は私の方が可愛いって私の欲しい物何でも買ってくれる!』とかとか…いや、知らんがな。本当に興味ない、間に合ってますー!どうでもいい。
人本当に興味のない話を永遠とされても…まったく興味がない、彼方はマウント取ってるつもりだろうけどそんなのはバイオレットに関係ない。
父の愛も母の愛もバイオレットにはない、ゲームだった頃もその描写はなかった…所詮は主人公を惹き立てる悪役令嬢。
因みにこのアンリはゲームの主人公の親友である。
あと一年待てば公爵家を出て行くつもりだ。王太子はエミリーが攻略するだろうから親友同士で精々どろどろしていればいい。
…バイオレットが中身前世持ちの女になった時点でそんな当て馬な未来は未来永劫やっては来ない。
「誰も愛してくれない、誰からも存在を気にされた事がないバイオレット…けれど!…嗚呼、私だけは……ッ!!
──愛してあげる。」
美しく気高い棘だらけの薔薇のようなお嬢様…バイオレット・スカーレットはバイオレットの前世からの“推し”だった。
ゲームの中でメイン5人の攻略を進めると必ず壁として立ち開かるのがバイオレット・スカーレットだ。
魔術師ルートに進んでもバイオレットがラスボスとして立ち開かり、近接戦ルートに進んでもバイオレット、万能型にエミリーを鍛えても立ち開かるのはバイオレットだ。
オールマイティーに強く一分の隙もない。
…ただ違うのはエミリーには親友は居るし、王太子は居るのだ、ただ強いだけの悪役令嬢なんて物量で攻めれば…ギリギリ勝てる難易度で討伐出来る。
魔術も近接戦闘も…全て小做す完全無敗の悪役令嬢。それがバイオレットだ。
…因みにバイオレットの強さはエミリー達パーティー全員の全パラメーター×2倍のステータスだ。
孤高で美少女で完全無血の超人。
…それがこのステータスからも読み取れる。
名前…バイオレット・スカーレット/14歳
身分…公爵家長女
職業…A級冒険者/オールラウンダー
称号…氷雪姫/転生者(隠蔽)
Lv.58
HP:55000/55000
MP:59990/60000
攻撃力 9999
防御力 9999
素早さ 9999
器用 9999
精神力 9999
魔力 6000
運 999
※レベルは999がMAXでHPMPはどちらも99999がMAX、各能力値は運以外9999がMAXで運は999がMAX。
…バイオレットの前世は全キャラ攻略したし、何ならシリーズはⅠから最新のⅩまで網羅しているヘビーユーザーだ。Ⅰ以降はアペンド追加すると主人公の見た目をこのバイオレットに変えられるから24歳OLはずっとこのバイオレットの姿で他シリーズを遊んでいた。
…外見だけで名前や声はその時々の主人公の声や名前だったけれど。
これは最新の10まで遊んだフルコンプボーナスなのだろう。
バイオレット…前世は相田美智子と言う何処にでも居るOLの一人でしかなかった。遥時を遊ぶ以外休みの日はする事がない、掃除洗濯料理以外する事がない…未婚の喪女にはそれ以外楽しみがなかった。
父母を交通事故で早くに亡くし、兄妹はいない。
年老いた祖父母にこれ以上迷惑を掛ける訳には行かず高校を卒業してからは早々に就職した。亡くなる直前まで所属していた会社、大好きな乙女ゲーム途中に死んだ。
…確か遥時の最新11の序盤をプレイしている途中で餓死した。
……。
「…アンリもエミリーも関係ない、私は私“だけ”を愛する。愛して愛でて…うんと甘やかしてあげる♡」
14歳の“推し”も愛くるしく美しい…。
相田美智子はバイオレット・スカーレットが推しだ、それは自身が本人になっても変わらない。
交通事故で亡くなるまで家族仲は良かった。祖父母や親戚との付き合いも頻繁で…良く笑う少女だった。
それが両親が信号無視の一般道で時速100㎞で両親が運転する軽自動車と80歳男ドライバーが運転するプリウスが正面衝突して死ぬまでごく普通の幸せな日常だった。…それが一瞬で淡雪が跡形もなく溶けるようにあっという間に脆くも崩れ去った。
“愛された”過去があるので前世相田美智子、現在バイオレットでも狂わずに居られるのだ。
大人として社会に出て一人孤独に生きてきた女性だったから“推し”になった事も自然と受け入れられた。…受け入れるしかない。
…多くの主人公を操作してきた美智子だ、そのキャラ専用の“固有魔法”や“固有スキル”以外は全て網羅した。
「ああ、本当に素晴らしいわ!主人公が使える魔法は悪役令嬢も使える…!
だけどこれはゲームではなく現実。
試しにアンリに“鑑定”を掛けても最初期の…,それこそ王立学園に入学する前だもの、能力値も低い。全て1桁でレベルだって1。アンリもエミリーもこれから鍛えないとずっと弱いままだわ♪」
…スカーレット公爵だって“今の”バイオレットの100分の1にも満たない。
使える魔法も固有魔法、固有スキル以外全て自由自在に扱える…そりゃ14歳でA級冒険者まで簡単に昇り詰めると言うものだ。因みに“ベル”の名前で登録している。前世の世界で何処かの国の言葉で“美しい”と言う意味の。…美智子の名前から一字を取ったのだ。
……血?人型の魔物を殺す忌避感?…感じた事はない。
元々グロもスプラッタホラーも平気な人間だった美智子だ。
学生の頃は屠殺場でバイトしていた美智子にとっては肉は肉でしかない。
…人間だって動物だ、そこに些かの齟齬もない。
人型だから躊躇っていては次屍になっているのは自分だ。
「…あと1年。それまでに準備は万端に、けど誰にもバレずに私が私らしくなれるために努力を惜しみしょう」
キリリと眼光鋭く決意を口にする。
誰にも聞かれず誰も訪れない私室で…バイオレットはノートに計画を書き始めた。思い出せる範囲で乙女ゲームのシナリオを書き出して、今後主人公がどう行動するか予測を立てる。勿論その中にはスカーレット公爵の動きも。王太子との婚約を阻止…、いやこれは本編(学園編)が始まってから書き換えるか。
…仮にもあの男は大好きで世界一可愛い“推し”の父親なのだ、あの男の魔力周波数は覚えている。主人公が覚えられるスキルには他人─…、三親等までなら魔力を通して書かれた魔法契約書の記載を書き換えて偽装する事が可能なスキル“魔力偽装”が当然主人公が覚えられるポピュラーなスキルなのだからバイオレットも覚えられる。
…ついでにその時に認識阻害と催眠のスキルも使ってだめ押ししてやる…ッ!
ゲームの中でラスボスとして登場するバイオレット・スカーレットは最終局面での主人公の能力値の2倍、HPMPは10倍となる強キャラだ。
わざと主人公を弱いままにしても良いが、それだと必ず途中で詰む難易度になっており、『遥時』を本気でクリアするつもりならダンジョンでのレベル上げは必須であった。
……。
ダメね。まだゲームの事が頭の中を埋めるわ……私はもう“相田美智子”ではないと言うのにね…?
バイオレット・スカーレットは孤高の存在だった。
誰もが彼女みたく強くはなれない世界で日々を生きている…あの頃の自分に戻れないとこの顔が姿が静かに突き付けてくるのだ。
…いやになる。いくら“推し”になれても気分はちっとも優れない。困ったものだ、センチメンタルなんて前世の両親が亡くなった時に全て出し切ったと言うのに、ね…?
「……。」
“推し”が好きで憧れていた…のに自分が今では“バイオレット・スカーレット”だ。
無表情で眺めてみても現実は変わらない。
助けてくれる青色の猫型ロボットもリセットボタンもないのだ、・・・ああ、現実とは斯くも無情なものだろうか。
…ただ不摂生が祟って餓死しただけなのに……乙女ゲームの悪役令嬢とか。
一体全体私は何の罰を受けているのよ?
…………。
当然問い掛けても答えてくれる精霊も神的存在もいない。当たり前だが。
D90㎝はあったのに、何故かB70㎝しかない…。
……。
…ちっぱいではないけど!断じてちっぱいではないけど!!
「…解せぬ」
豪華絢爛なセレブな女の子らしい寝室で一人姿見の前でぐぬぬ…と唸る。
春風の香る春の陽気、14歳の少女が唸っているのだ、…普通はお付きの者とかが『はしたない』とか『淑女らしくない』と窘めたりされる…のだが。残念☆そこは悪役令嬢たる所以だろうか?この寝室に訪れる者は誰もいないのだ。
バイオレット・スカーレットはスカーレット公爵家のご令嬢である。
そこはゲームでも現実になったこの世界でも変わらない事実。
…バイオレットの父と母は政略結婚だ。親が決めた婚姻にバイオレット父は婚約者の時から不満たらたらだった。バイオレット母は気位が高く結婚前は伯爵家令嬢(次女)でしかなかったにも関わらず女王然としていた。
平民の使用人は視界にも入らず、貴族位の使用人でも伯爵位以下は下民と見下す。
話す内容はドレス、宝石、歌劇。
流行りのドレスと稀少価値の高い宝石、流行りの歌劇…バイオレット母の興味は“人”にはない。
周りは自分を讃える者か傅く存在でしかない、若いツバメを何人か飼っているのは王立学園生だった時からだ。
自分を褒め称え傅く年下で自分より爵位の低い貴族子息達の多くはその美貌と気位に惹かれた。
…実際は執務能力も社交性もないと言うのに。
良くも悪くも一般的な貴族の“令嬢”を逸脱しない女性だった…バイオレットの母カトリーナは。
貴族の娘としての義務──子を産むこと──は長男、次男、長女の3人産んでそれはもう終わりと別荘に移り住んでそこで若いツバメを囲っている。
バイオレット父もまたカトリーナと婚約していた段階で既に本命…、妾として囲った男爵家の庶子を本邸に囲い公爵家令嬢のような扱いをしてたらカトリーナも激怒していた所だが、そこは“愛人”…妾として相応しく本邸ではあるけれど夫婦の寝室…主寝室ではなく客室で、愛人の子は庶子のまま手続きされている。
…増長しているのはこの庶子だけだ。
アンリ。それがバイオレット父と愛人の娘の名前。
この国で15歳になると成人と見做される。
…アンリに池に突き飛ばされ意識不明の重体になっていた一週間前からバイオレットは“前世”を思い出していた。
「…こんな家滅びて仕舞えばいいわ」
静かに静かに怨嗟の言葉を鏡の自分に告げた。
バイオレット父──オズウェル・スカーレット公爵はバイオレットの婚約者を王太子にしようとしている、がそんな事を異母姉妹であるアンリが許す筈がない、そもそも彼方は此方を一方的に敵視しているのだ、独断バイオレットが何かした事はない。
興味がないからだ、ゲームのバイオレットも今のバイオレットも。
…なのに絡んでくる。虐めたとか、教科書を服をドレスを破いただの裂いただの。
いや、知らんがな…ッ!!
今14歳のバイオレットと13歳のアンリに接点はない。
徹底的に無視しているが、そんな事アンリには関係ないとばかりに関わって来ようとする。
スカーレット公爵家本妻の子は18歳の長男、16歳の次男、14歳の長女であるバイオレットの3人だが、当然のようにいる妾…愛人の子は15歳の三男と13歳三女のアンリの5人がスカーレット公爵家の子供達だ。
…上の方は分を弁えているのに、下の末子が分不相応にも突っ掛かってくるのだから始末が悪い。
ほぼ平民と変わらない身分で『私の方が愛されてる!』『お父様は私の方が可愛いって私の欲しい物何でも買ってくれる!』とかとか…いや、知らんがな。本当に興味ない、間に合ってますー!どうでもいい。
人本当に興味のない話を永遠とされても…まったく興味がない、彼方はマウント取ってるつもりだろうけどそんなのはバイオレットに関係ない。
父の愛も母の愛もバイオレットにはない、ゲームだった頃もその描写はなかった…所詮は主人公を惹き立てる悪役令嬢。
因みにこのアンリはゲームの主人公の親友である。
あと一年待てば公爵家を出て行くつもりだ。王太子はエミリーが攻略するだろうから親友同士で精々どろどろしていればいい。
…バイオレットが中身前世持ちの女になった時点でそんな当て馬な未来は未来永劫やっては来ない。
「誰も愛してくれない、誰からも存在を気にされた事がないバイオレット…けれど!…嗚呼、私だけは……ッ!!
──愛してあげる。」
美しく気高い棘だらけの薔薇のようなお嬢様…バイオレット・スカーレットはバイオレットの前世からの“推し”だった。
ゲームの中でメイン5人の攻略を進めると必ず壁として立ち開かるのがバイオレット・スカーレットだ。
魔術師ルートに進んでもバイオレットがラスボスとして立ち開かり、近接戦ルートに進んでもバイオレット、万能型にエミリーを鍛えても立ち開かるのはバイオレットだ。
オールマイティーに強く一分の隙もない。
…ただ違うのはエミリーには親友は居るし、王太子は居るのだ、ただ強いだけの悪役令嬢なんて物量で攻めれば…ギリギリ勝てる難易度で討伐出来る。
魔術も近接戦闘も…全て小做す完全無敗の悪役令嬢。それがバイオレットだ。
…因みにバイオレットの強さはエミリー達パーティー全員の全パラメーター×2倍のステータスだ。
孤高で美少女で完全無血の超人。
…それがこのステータスからも読み取れる。
名前…バイオレット・スカーレット/14歳
身分…公爵家長女
職業…A級冒険者/オールラウンダー
称号…氷雪姫/転生者(隠蔽)
Lv.58
HP:55000/55000
MP:59990/60000
攻撃力 9999
防御力 9999
素早さ 9999
器用 9999
精神力 9999
魔力 6000
運 999
※レベルは999がMAXでHPMPはどちらも99999がMAX、各能力値は運以外9999がMAXで運は999がMAX。
…バイオレットの前世は全キャラ攻略したし、何ならシリーズはⅠから最新のⅩまで網羅しているヘビーユーザーだ。Ⅰ以降はアペンド追加すると主人公の見た目をこのバイオレットに変えられるから24歳OLはずっとこのバイオレットの姿で他シリーズを遊んでいた。
…外見だけで名前や声はその時々の主人公の声や名前だったけれど。
これは最新の10まで遊んだフルコンプボーナスなのだろう。
バイオレット…前世は相田美智子と言う何処にでも居るOLの一人でしかなかった。遥時を遊ぶ以外休みの日はする事がない、掃除洗濯料理以外する事がない…未婚の喪女にはそれ以外楽しみがなかった。
父母を交通事故で早くに亡くし、兄妹はいない。
年老いた祖父母にこれ以上迷惑を掛ける訳には行かず高校を卒業してからは早々に就職した。亡くなる直前まで所属していた会社、大好きな乙女ゲーム途中に死んだ。
…確か遥時の最新11の序盤をプレイしている途中で餓死した。
……。
「…アンリもエミリーも関係ない、私は私“だけ”を愛する。愛して愛でて…うんと甘やかしてあげる♡」
14歳の“推し”も愛くるしく美しい…。
相田美智子はバイオレット・スカーレットが推しだ、それは自身が本人になっても変わらない。
交通事故で亡くなるまで家族仲は良かった。祖父母や親戚との付き合いも頻繁で…良く笑う少女だった。
それが両親が信号無視の一般道で時速100㎞で両親が運転する軽自動車と80歳男ドライバーが運転するプリウスが正面衝突して死ぬまでごく普通の幸せな日常だった。…それが一瞬で淡雪が跡形もなく溶けるようにあっという間に脆くも崩れ去った。
“愛された”過去があるので前世相田美智子、現在バイオレットでも狂わずに居られるのだ。
大人として社会に出て一人孤独に生きてきた女性だったから“推し”になった事も自然と受け入れられた。…受け入れるしかない。
…多くの主人公を操作してきた美智子だ、そのキャラ専用の“固有魔法”や“固有スキル”以外は全て網羅した。
「ああ、本当に素晴らしいわ!主人公が使える魔法は悪役令嬢も使える…!
だけどこれはゲームではなく現実。
試しにアンリに“鑑定”を掛けても最初期の…,それこそ王立学園に入学する前だもの、能力値も低い。全て1桁でレベルだって1。アンリもエミリーもこれから鍛えないとずっと弱いままだわ♪」
…スカーレット公爵だって“今の”バイオレットの100分の1にも満たない。
使える魔法も固有魔法、固有スキル以外全て自由自在に扱える…そりゃ14歳でA級冒険者まで簡単に昇り詰めると言うものだ。因みに“ベル”の名前で登録している。前世の世界で何処かの国の言葉で“美しい”と言う意味の。…美智子の名前から一字を取ったのだ。
……血?人型の魔物を殺す忌避感?…感じた事はない。
元々グロもスプラッタホラーも平気な人間だった美智子だ。
学生の頃は屠殺場でバイトしていた美智子にとっては肉は肉でしかない。
…人間だって動物だ、そこに些かの齟齬もない。
人型だから躊躇っていては次屍になっているのは自分だ。
「…あと1年。それまでに準備は万端に、けど誰にもバレずに私が私らしくなれるために努力を惜しみしょう」
キリリと眼光鋭く決意を口にする。
誰にも聞かれず誰も訪れない私室で…バイオレットはノートに計画を書き始めた。思い出せる範囲で乙女ゲームのシナリオを書き出して、今後主人公がどう行動するか予測を立てる。勿論その中にはスカーレット公爵の動きも。王太子との婚約を阻止…、いやこれは本編(学園編)が始まってから書き換えるか。
…仮にもあの男は大好きで世界一可愛い“推し”の父親なのだ、あの男の魔力周波数は覚えている。主人公が覚えられるスキルには他人─…、三親等までなら魔力を通して書かれた魔法契約書の記載を書き換えて偽装する事が可能なスキル“魔力偽装”が当然主人公が覚えられるポピュラーなスキルなのだからバイオレットも覚えられる。
…ついでにその時に認識阻害と催眠のスキルも使ってだめ押ししてやる…ッ!
ゲームの中でラスボスとして登場するバイオレット・スカーレットは最終局面での主人公の能力値の2倍、HPMPは10倍となる強キャラだ。
わざと主人公を弱いままにしても良いが、それだと必ず途中で詰む難易度になっており、『遥時』を本気でクリアするつもりならダンジョンでのレベル上げは必須であった。
……。
ダメね。まだゲームの事が頭の中を埋めるわ……私はもう“相田美智子”ではないと言うのにね…?
バイオレット・スカーレットは孤高の存在だった。
誰もが彼女みたく強くはなれない世界で日々を生きている…あの頃の自分に戻れないとこの顔が姿が静かに突き付けてくるのだ。
…いやになる。いくら“推し”になれても気分はちっとも優れない。困ったものだ、センチメンタルなんて前世の両親が亡くなった時に全て出し切ったと言うのに、ね…?
「……。」
“推し”が好きで憧れていた…のに自分が今では“バイオレット・スカーレット”だ。
無表情で眺めてみても現実は変わらない。
助けてくれる青色の猫型ロボットもリセットボタンもないのだ、・・・ああ、現実とは斯くも無情なものだろうか。
…ただ不摂生が祟って餓死しただけなのに……乙女ゲームの悪役令嬢とか。
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