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第二章[風変わりのダンジョンマスターと今後のこと]
❄お風呂の後は宿でホカホカご飯❄
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近所のファミレスそこのドリアが好きだった。
甘い栗がゴロゴロ入ってて、鶏肉とチーズそれに玉ねぎやらマッシュルームやら入ったご飯を覆う魅惑のホワイトソース。
ハフハフアツアツと温かさに殺られながら口に運ぶのが美智子は好きだった……今となってはそんな学生時代と比べると収入も時間も増えたと言うのに…。
『遥時』シリーズに人生捧げ過ぎたように今なら思う。仕方ない、それが寂しいお独り様OLの唯一にして至高の趣味だったのだから。
……。
“バイオレット・スカーレット”が本当に唯一の〝推し〟で彼女に逢えるのが堪らなく好きだったのだ。
画面の中のバイオレットは決して飛び出しては来ないけれど…美智子はそれだけで良かった。観ているだけで全てが満たされていた。
不敵に微笑う潔癖完全無欠の最強に挑む瞬間、彼女の声を笑顔を見て聞く時間が何よりも美智子は好きだった。
現実の偶像と違って老いも劣化もしない悪役令嬢に魅せられた自分は|||いつの間にか死んで本人になっていた…。
……本当世の中摩訶不思議な事って起きるモンだなぁ~と改めて思う。
ラストバトルに相見えるその瞬間||彼女との死闘の時間だけがバイオレットと主人公が真面にその他攻略対象者と相対しての会話シーン、手に汗握る頭脳戦…バイオレットは最強だから如何にすれば勝てるのか。被害を最小限に王手を決めれるか……毎回ヒリヒリしながら戦ったものだ。そんなラストバトルに相応しい貴重な対峙シーン、バイオレット敗北の瞬間の貴重なスチルは美麗で今までの旅と攻略の集大成と言える完全勝利の大団円…それを見るのが好きだった。(この時ばかりはバイオレットの素敵で完璧な全身が拝める)
勝っても負けてもそれぞれ対応したスチルとカットインが手に入るので役得だ♬
後は主人公が本命を誰に定めるかの最終段階で途中の林間学校に誰とパートナーになるかの選択で決まるのだ。(好感度が最も高い順に一番上に名前が選択肢として三人の中から一人を選ぶ。)
それ以外は基本接点はない上台詞も用意されていない。
||…あくまでも主人公はエミリーなので。
イケメンに囲まれ友人に囲まれ愛される「光」の中のエミリー、暗く独りでいる描写が多い悪役令嬢…この両者の対比もこの作品の俊逸っぷりに拍車を掛ける。
主人公が攻略対象や友人達に愛され家族にも大事にされる一方でバイオレットは常に一人で独り。
ゲームだった当初は要所要所で出てくるメイン攻略対象の婚約者、最終盤面では完全無欠の最強ラスボス。
バイオレット・スカーレットは誰よりも孤独で孤高で遥かな高みから主人公等を見下ろす…そこに悪役でありラスボスであるバイオレットの心理描写等描かれる事なく鑑みられる事もなくただただ最終幕を飾る舞台装置の一つでしかないのだ。
“光”である主人公を際立たせる為の“影”。
それがゲーム『遥時』に於いてのバイオレット・スカーレットの役割。
…………。
「私が私になった時点で全てが破綻したけれどね」
舞台が始まる前に早々に舞台袖からそっと退場した私に強制力も働くのか否か||…。
それはこれから明らかになるだろう、きっとたぶん。
………………
…………
……。
「美味しい~~ッ……!!♡♡」
アツアツハフハフと掻き込むのはシーフードドリア。
氷湖から採れるワカサギや鶏肉、チーズとしいたけが入ってるシーフードドリアをスプーンで掬って口へと運びながら暖炉の前の特等席で食事にあり付ける幸せ…それは些細な雪国ならではの幸せでもある。
この地に住む者にとっては日常だが、ベルや旅人に取っては新鮮で真新しい体験。
前世24歳OLならば絶対忌避するような絶対零度が常態化した前世なら北国や北海道とかを連想する身も心も凍るような一面雪景色…このようの場所に自ら赴こう等と絶対思わなかったものだ。
「そうか、それは良かった」
反対側に座るイエティもまたベルと同じくシーフードドリアを掻き込む。
「明日移動してまた街道沿いに進めば街に着く。俺の演奏はそこで聴いてもらう」
「……楽しみにしておくわ」
…誰かと食べるご飯は思いの外美味しかった。
もう一人きりで冷めた食事をまるで家畜のように取らなくても良い…ああ、本当に今が幸せだ。
何かを話すわけでもない、特別な関係でもない…ほぼ初対面の獣人…イエティと摂るご飯はバイオレットに『誰かと摂る食事とは楽しいものだ』と初めて気付かせてくれた。
前世美智子もまたお独り様で一人での食事に馴れていたが…それは成人して社会人になってからで、学生時代や子供の頃は普通に友人や家族、兄弟と摂る事も多かったので“バイオレット”ほどは新鮮には感じられなかったが||まぁ、このドクドクと心が弾む感情はバイオレットのものなのだと素直に思える。
“美智子”としてはバイオレットが喜んでいることが何よりも嬉しい。
…もう、彼女の意思も自我も何も感じられないけれど|||。
誰も彼女を理解しようとしなかったあの公爵家と永遠に決別したのだ、出来る事なら幸せに…|||否、“美智子”であり“バイオレット”でもある|||今の「ベル」が叶えるべき命題だ。
自分は推しであるバイオレット・スカーレットを幸せにするには何が良いのだろうか?
世界各地のありとあらゆる美食?絶景とされる山や山岳地帯を頂上から眺める?
何でも出来て天才だったバイオレットの能力を活かして商売でも始める?
…… ……。
どれもしっくり来ない。
本人に訊こうにも彼女の意思も心も||深層心理の奥深くで眠ったままベルと話をしようとしないのだ、果たしてどうすれば良いのか。
…う~~~む。
格好付けたもののどうすれば良いだろうか。
……取り敢えず帝都を目指すか。
それから暫くは冒険者ギルドと宿を往復して他の国に行くのかはたまた何かしら決めるかな。
“推しを幸せにする”
簡単そうで難しい至上命題。
それはベルの課題、バイオレットから託された“幸福”を叶える長い長い旅路の始まりなのだから|||。
甘い栗がゴロゴロ入ってて、鶏肉とチーズそれに玉ねぎやらマッシュルームやら入ったご飯を覆う魅惑のホワイトソース。
ハフハフアツアツと温かさに殺られながら口に運ぶのが美智子は好きだった……今となってはそんな学生時代と比べると収入も時間も増えたと言うのに…。
『遥時』シリーズに人生捧げ過ぎたように今なら思う。仕方ない、それが寂しいお独り様OLの唯一にして至高の趣味だったのだから。
……。
“バイオレット・スカーレット”が本当に唯一の〝推し〟で彼女に逢えるのが堪らなく好きだったのだ。
画面の中のバイオレットは決して飛び出しては来ないけれど…美智子はそれだけで良かった。観ているだけで全てが満たされていた。
不敵に微笑う潔癖完全無欠の最強に挑む瞬間、彼女の声を笑顔を見て聞く時間が何よりも美智子は好きだった。
現実の偶像と違って老いも劣化もしない悪役令嬢に魅せられた自分は|||いつの間にか死んで本人になっていた…。
……本当世の中摩訶不思議な事って起きるモンだなぁ~と改めて思う。
ラストバトルに相見えるその瞬間||彼女との死闘の時間だけがバイオレットと主人公が真面にその他攻略対象者と相対しての会話シーン、手に汗握る頭脳戦…バイオレットは最強だから如何にすれば勝てるのか。被害を最小限に王手を決めれるか……毎回ヒリヒリしながら戦ったものだ。そんなラストバトルに相応しい貴重な対峙シーン、バイオレット敗北の瞬間の貴重なスチルは美麗で今までの旅と攻略の集大成と言える完全勝利の大団円…それを見るのが好きだった。(この時ばかりはバイオレットの素敵で完璧な全身が拝める)
勝っても負けてもそれぞれ対応したスチルとカットインが手に入るので役得だ♬
後は主人公が本命を誰に定めるかの最終段階で途中の林間学校に誰とパートナーになるかの選択で決まるのだ。(好感度が最も高い順に一番上に名前が選択肢として三人の中から一人を選ぶ。)
それ以外は基本接点はない上台詞も用意されていない。
||…あくまでも主人公はエミリーなので。
イケメンに囲まれ友人に囲まれ愛される「光」の中のエミリー、暗く独りでいる描写が多い悪役令嬢…この両者の対比もこの作品の俊逸っぷりに拍車を掛ける。
主人公が攻略対象や友人達に愛され家族にも大事にされる一方でバイオレットは常に一人で独り。
ゲームだった当初は要所要所で出てくるメイン攻略対象の婚約者、最終盤面では完全無欠の最強ラスボス。
バイオレット・スカーレットは誰よりも孤独で孤高で遥かな高みから主人公等を見下ろす…そこに悪役でありラスボスであるバイオレットの心理描写等描かれる事なく鑑みられる事もなくただただ最終幕を飾る舞台装置の一つでしかないのだ。
“光”である主人公を際立たせる為の“影”。
それがゲーム『遥時』に於いてのバイオレット・スカーレットの役割。
…………。
「私が私になった時点で全てが破綻したけれどね」
舞台が始まる前に早々に舞台袖からそっと退場した私に強制力も働くのか否か||…。
それはこれから明らかになるだろう、きっとたぶん。
………………
…………
……。
「美味しい~~ッ……!!♡♡」
アツアツハフハフと掻き込むのはシーフードドリア。
氷湖から採れるワカサギや鶏肉、チーズとしいたけが入ってるシーフードドリアをスプーンで掬って口へと運びながら暖炉の前の特等席で食事にあり付ける幸せ…それは些細な雪国ならではの幸せでもある。
この地に住む者にとっては日常だが、ベルや旅人に取っては新鮮で真新しい体験。
前世24歳OLならば絶対忌避するような絶対零度が常態化した前世なら北国や北海道とかを連想する身も心も凍るような一面雪景色…このようの場所に自ら赴こう等と絶対思わなかったものだ。
「そうか、それは良かった」
反対側に座るイエティもまたベルと同じくシーフードドリアを掻き込む。
「明日移動してまた街道沿いに進めば街に着く。俺の演奏はそこで聴いてもらう」
「……楽しみにしておくわ」
…誰かと食べるご飯は思いの外美味しかった。
もう一人きりで冷めた食事をまるで家畜のように取らなくても良い…ああ、本当に今が幸せだ。
何かを話すわけでもない、特別な関係でもない…ほぼ初対面の獣人…イエティと摂るご飯はバイオレットに『誰かと摂る食事とは楽しいものだ』と初めて気付かせてくれた。
前世美智子もまたお独り様で一人での食事に馴れていたが…それは成人して社会人になってからで、学生時代や子供の頃は普通に友人や家族、兄弟と摂る事も多かったので“バイオレット”ほどは新鮮には感じられなかったが||まぁ、このドクドクと心が弾む感情はバイオレットのものなのだと素直に思える。
“美智子”としてはバイオレットが喜んでいることが何よりも嬉しい。
…もう、彼女の意思も自我も何も感じられないけれど|||。
誰も彼女を理解しようとしなかったあの公爵家と永遠に決別したのだ、出来る事なら幸せに…|||否、“美智子”であり“バイオレット”でもある|||今の「ベル」が叶えるべき命題だ。
自分は推しであるバイオレット・スカーレットを幸せにするには何が良いのだろうか?
世界各地のありとあらゆる美食?絶景とされる山や山岳地帯を頂上から眺める?
何でも出来て天才だったバイオレットの能力を活かして商売でも始める?
…… ……。
どれもしっくり来ない。
本人に訊こうにも彼女の意思も心も||深層心理の奥深くで眠ったままベルと話をしようとしないのだ、果たしてどうすれば良いのか。
…う~~~む。
格好付けたもののどうすれば良いだろうか。
……取り敢えず帝都を目指すか。
それから暫くは冒険者ギルドと宿を往復して他の国に行くのかはたまた何かしら決めるかな。
“推しを幸せにする”
簡単そうで難しい至上命題。
それはベルの課題、バイオレットから託された“幸福”を叶える長い長い旅路の始まりなのだから|||。
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