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3章
ソリティア
しおりを挟む「シアン・シュドレー様ですね。本日は、わざわざお越しいただきありがとうございます。私はアドルフと申します。同じ体質を持つ仲間が増えたこと、大変喜ばしい限りです」
「あっ、いえ…?こちらこそ、お出迎えいただき感謝します」
エルネに来て1週間が経ち、俺はイブリンに王都の中心にある最も大きいとされる大聖堂へと連れてこられた。中へ入るとまず初めに、このアドルフという男が出迎えてくれた。
「シアン。彼は大司教であり、俺たちと同じようにソリティアでもある」
イブリンが説明をしてくれた。
なるほど、だから何となく親近感のようなものを覚えるのか。
アドルフという男は、俺やイブリンとはかなり歳が離れているように見え、大人の落ち着きが見られる。
赤色にも見えるこげ茶色の髪はオールバックにしており、左目の下には涙ボクロがありエキゾチックな整った顔つきをしている。体は意外とがっしりしており、大司教の白を基調とした装いを着ていなければ、傍からみれば騎士のようにも見える風貌をしている。だが、嫌な圧がある訳ではなく、むしろゆったりとした佇まいで人を落ち着かせる雰囲気を持っている人だ。
「あとでもう1人、遅れてソリティアがくる予定だよ。せっかくだから、ここで同じ体質を持つ仲間同士、顔を合わせて話ができたらなって思って連れてきたんだ」
イブリンの言葉になるほど、と俺は頷いた。
「立ち話もなんですし、さぁお二人ともこちらへ」
アドルフが渋みのある優しげな声でそう言うので、俺たちは言われるまま彼に着いていく。
礼拝堂を通り過ぎ、少し離れのようになっている場所に客室があった。中へ入り、用意された椅子に座るとすぐにお茶が用意された。
「こちらへ来て、1週間が経ったと聞いております。体調を崩されてはおりませんか?」
「あっ、いえ…そんな。至って元気です」
「それなら良かったです。もしここにいる間、何か不安なことなどありましたら気軽にここへいらっしゃって、私を頼ってください。そういう時のための場所ですから」
「…ありがとうございます。あの…アドルフさんはどうしてソリティアだと自覚したんですか?」
「ソリティアだと分かったのは、8年前のことです。その時、私は25歳でまだ一司祭という立場でした。しかし、イブリン殿下に出会い自分がソリティアだったのと初めて知らされました」
「イブリンに…?」
「まだ、この話はお聞きではないのですね。実は、初めてソリティアと判明されたのはイブリン殿下なのですよ」
「そうなのか?」
俺はイブリンに目を向けて問いかけた。
「俺は生まれた時から、他の石持ちとは何か違うような感覚を持っていたんだ。もちろんソリティアは、普通の石持ちと同じようにそもそも2人で魔法を使うことも可能だ。だけど、5歳の頃だったかな。2人で魔法を使うのが基本だって大人たちから聞いて、少し違和感を持ち始めた。だから、試しに1人で呪文を唱えたら魔法を使うことが出来て…自分が明確に人とは違う体質に生まれたことが分かったんだ。それである日、アドルフに出会った時なんとなく自分と同じような感じがして声をかけたんだ。それで案の定ソリティアだったことが判明したっていう経緯」
「つまり、イブリンはソリティアを何となく感覚で判別できるってことか?」
「うん。でも、前に話した元占い師の彼ほど遠くの範囲までは感知できない。近くに寄れば、仲間だなって分かるくらい。だから、シアンと出会った時もすぐに君がソリティアだと確信した」
「そうだったのか…」
「それで、ソリティアと判明した順番として2人目がアドルフで…3人目が元占い師の彼なんだけど。しかし、遅いな…」
<ガチャ>
イブリンがぼやいていると、客室の扉が開いた。
「遅くなってしまい、申し訳ありません!」
黒いローブを羽織った男が勢いよく現れた。
「やっと来たね。君のことだから、また何かを感じ取って遅くなったんだろう」
「で、殿下…!はい…実は、途中で子どもが川に流されていたのが視えて…」
「それを助けてたら、遅くなったんだね」
「…はい。すみません…」
「いつも言っているだろ。いい事をしたのだから、謝る必要なんてないよ。でも、君のことだから無茶をしすぎて危険な目に合っていないか、少し心配したんだ。怪我はない?」
「あ、ありません、大丈夫です!いつも心配していただき、ありがとうございます」
そう言うと、彼はイブリンに向けて深くお辞儀をした。
「さ、こっちに座って」
アドルフが自分の隣の席に座るよう、ローブの彼に手を拱いた。彼は慌てた様子で、席に座る。
「紹介するよ。彼は、マシュー。元は占い師で今は情報屋をやっている」
「あっ、は、はじめまして!マシューです。シュドレーさんのことはかねがね聞いております」
「どうも、シアン・シュドレーです。気軽にシアンと呼んでください」
マシューはフードを目深く被っており、顔がよく見えなくて、俺はついジッと見てしまった。
「あっ!し、失礼しました」
すると、顔を見せないことを俺が不満に思っているように見えたのか、彼は自分からフードを外して俺の方を見た。
彼の顔は、驚く程綺麗な顔立ちをしていた。艶やかな黒い長髪はポニーテールで結んでおり、肌はまさに玉のような白さできめ細かい。それに、何よりも彼の特徴は夕焼けのように青と橙がグラデーションになって見える瞳の色だった。これまでも顔の整った人間はたくさんいたが、その中でもかなり上位の美しさを持っているなと思った。
「俺がソリティアだと見つけ出したのは、マシューさんだと聞きました」
「はっはい…。毎朝1度だけ、大陸全体でソリティアが現れたか探知するのが僕の日課というか…役目の1つなんです。それで…シ、シアンさんを見つけました」
「いつ頃感知したのか覚えていますか?」
「もちろんです。魔法学園の入学式の1ヶ月くらい前でした。本当に急に現れたので、後天性のソリティアなんだなと思いました」
「その、後天性と先天性が自分にはよく分からないのですが…何か違いはあるのですか?」
「あっ、能力に差があるとか違いは特に無いんです。ただ、僕にとって…オーラの形に違いがあるっていうだけで」
「オーラ?」
「はい。昔から、人から出るオーラがよく見えてたんですけど、ソリティアは段違いでオーラに凄まじい気迫があるんです。その中でも、イブリン殿下やハルノさんのような先天性のソリティアのオーラは周りを巻き込むような強いものです。対して、僕やアドルフさんのような後天性のオーラは、広範囲に伸びていくような感じというか…とにかく形に違いがあるんです。シアさんはまさに広範囲に伸びていくような形のオーラなので間違いなく後天性のソリティアだと思います」
「なるほど…」
彼は、先天性後天性でもソリティアが現れればすぐに分かる状態だったらしい。隣国にいる俺のことをピンポイントで見つけられたのだから、彼の能力は恐らくかなり正確なのだろう。実際に、1人で魔法使えてしまった訳だし。
だが、本来シアン・シュドレーにこんな特別な体質があったのだろうか?いや、ゲームをしていた時そんな情報は一切出てきたことがない。
本人が隠していたのだろうか。だが、みすみす処刑されるまでこんな大事なことを隠すことができたか?それに、隠していたとしてもマシューが見つけて、今の俺のような状況に陥っていたはずだ。
そう考えると、本来のシアン・シュドレーはソリティアではなかった?
ゲームの時と今とで比べて大きく違うこととすれば、俺の存在だ。魔法学園へ入学する1ヶ月前に俺はこの体に憑依し、マシューもちょうどそれくらいにソリティアであることを感知した。
となると…俺が憑依したことでシアン・シュドレーはソリティアとなったと考える他ないだろう。だから、イブリンという謎の人物も現れ、今のような元のシナリオにはない展開になってしまっていると考えられる。
いや、だが…ちょっとしたところは変わってしまってはいるが、大元のシナリオはそこまで変化してはいない。俺が悪役の働きをしなくなってはいるが、主人公は予定通りに攻略対象者たちと関係を深め、能力も覚醒させることが出来ているし…。
「ちなみに…マシューさんは、占い師だったそうですね。かなり正確なのですか?」
俺はマシューに尋ねた。
「僕は、元々幼い頃からたまに予知夢を見ることができたり、透視することができたりしていたんですが、正確性はまちまちでした。しかし、ソリティアになると急にその能力が正確にできるようになったんです。予知夢は、明日の出来事だったり10年後の出来事だったりで自分で見たい未来を見ることができる訳ではありませんが、変えようとしなければその出来事は必ず起こります。透視能力に関しては、例えば捜し物を見つけようと集中すれば、大陸全体を見てそれを捜し出すことが出来ます。ですが、たまに無意識に視えすぎてしまうことがあるので少し精神的ダメージにきます…」
「たまにマシューには思いの丈を吐きに来てもらったり、お祈りをして心を安らかに出来るようにと、教会側も微力ながら支えられるように努めているのですが…」
アドルフが続けてそう話した。
「ところで、何故他の石持ちとは違って1人で魔法を使えるのか今現在分かっているんですか?例えば、マシューさんのように魔法とは別で特別な能力を元々持っていたからだとか…」
「今、いろいろと調査中だけど原因は判明していないんだ。もちろん、シアンが言ったような原因も考えたけど、マシュー以外俺たちは別に特段不思議な能力を生まれ持っていた訳ではないんだ。だから謎が多くて、俺たちも国王陛下も今後どうしていこうかいろいろと模索段階にあるんだ」
イブリンが俺の方を見て答えた。
「そうか…」
「ですが、仲間が増えたことは非常に喜ばしいことです。シアンさん、これからよろしくお願いします」
「よっよろしくお願いします!」
アドルフとマシューが俺に体を向けて、歓迎の言葉を言ってくれた。
「…こちらこそ」
「さっ、じゃあ出ようか。アドルフ、今日は大聖堂の案内もしてくれるんだろう?」
イブリンが手をパンと叩いて言った。
「はい、もちろんです」
アドルフが人当たりの良い顔で答えると、俺たちは彼に誘導されるように客室を出た。
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