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4章
名もなき出会い
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それが訪れるのはいつも唐突だ。
まるで海底に1人で潜って、ゆらゆらと揺れているみたい。すべてが自分事ではなくて、誰かの視点の中に潜り込んでいくようだ。
その瞬間、なんとなく気づくんだ。
あ、今日の夢は予知夢だって。
「はっ…私が魔獣を乱入させたと本当にお思いですか?」
「私はやっていません!」
「くそっ…結局こうなるのだな…シナリオには勝てないということなのか」
「悪逆非道のシュドレー家を許すな!」
「もうさすがのシュドレー家も終わりね」
「面妖な毒で第一王子の命を狙い、ひいてはその婚約者も道連れにしようとした罪、誠に許しがたい。シュドレー家の者は残らず処刑せよ」
「シアン!俺と一緒に逃げよう!」
「イブリン…俺は…」
様々な場面が途切れ途切れに僕の目に写った。
今まで見てきた予知夢とはまるで違っていて、僕は困惑した。
けれど、誰の身が危ういのかは明白であった。つい最近知り合った、隣国のソリティアであるシアン・シュドレー。
このままでは彼はいずれ命を落とす運命を辿ることになるのだ。
-----------------------------
「マシュー、疲れてはいないかい?」
アドルフさんが僕の肩に手を置き、心配の言葉をくれる。
「はい、大丈夫です。それよりも、イブリン殿下やシアンさんが住む寮はそろそろなんですよね?」
僕とアドルフさんは今、アルティア王国の魔法学園の校舎の中にいた。
「この森を抜ければすぐだと聞いたよ」
「うっ…」
「マシュー!」
僕は突然の目眩に襲われ、地面に膝をついた。
「…やはり慣れない空気に具合が悪くなっていたんだね。さっき医療室を通り過ぎた。薬になるものを貰ってくるから、ここで待ってて」
「はい…ごめんなさい、アドルフさん」
「無理せずに楽な姿勢でいなさい」
そう言われて、僕は地面に座り、一本の木に体を預けた。アドルフさんが心配そうに来た道を戻るのを見送ると、僕は目を瞑った。
その間、僕は自己嫌悪に苛まれてしまう。
ああ、どうして僕はいつもこうなんだろうかと…。
今はこんな風に休んでいる場合ではない。早く、シアンさんに予知夢のことを伝えなければいけないのに…体が何とも言うことを聞かない。肝心な時に僕はいつもこうなのだ。こんな弱い僕は嫌だ。どうしたら、強くなれるだろう?
"お前は弱くなんてないさ。お前は強いよ。人を助けたいと思う優しい心と実行できる力があって、俺は何度も救われてきた。だから、お前はお前らしくいることが1番の強さだよ"
ふと、そう言ってくれたあの人のことを僕は思い出した。
「……大丈夫ですか?」
「イブリン?」
突然上から聞こえてきた声に何故か僕は目を開けてそう呼びかけていた。
「…?」
我に返って目の前の人物を見ると、どう考えてもイブリン殿下ではなかった。
けれど、彼のオーラはどこかイブリン殿下と似たような類稀な眩さを持っていた。
声をかけてきた銀髪の男は、心配と疑心の目を向けてくる。
「…あっ、すみません。人違いです。そのっ、だっ大丈夫ですので、お気になさらず通ってください」
「で、でも…とても体調が悪そうです」
話してみると自分と似たような気弱そうな物腰だったが、見知らぬ人間でも困っていればほっとけないようだった。
「優しいんですね」
「そんなことは…無いです。俺なんか…いつもは引きこもってばかりの木偶の坊で…」
そう言って彼は自分の銀色の長い前髪をいじった。
「…ふふっ」
「えっ、なんで笑うんですか?」
「すみません、別にバカにした訳では無いんです。ただ、僕と似てるなって思って。僕も引きこもってばかりだし、自分が大嫌いだから分かる。でも…きっと見つけられますよ、自分だけの強さを。僕もやっと見つけて進んでる段階だけど、今は前よりも少しだけ自分を好きになっていってるような気がするから」
「どうやったらそれは見つけられるんですか?」
銀髪の男は不安げに僕に尋ねた。
「…僕の恩人は、いつも言っていました。自分の心の声に向き合うことからまずは始まるって。自分が嫌いだとそれって凄く難しい事だってわかるけど、お前がやりたいこと、好きなこと、本当に感じてることにお前自身が耳を傾けてやらなきゃいけないって怒ってくれたんです。だから、木偶の坊とか卑下するよりも、あなた自身があなたを大事にすることからやってみたらいいんじゃないでしょうか?」
「……俺自身を?」
なんだか彼と話していると不思議な感覚に陥った。彼の話し方、トーン、オーラ。なんだか全てが心地良くて、だんだんと体調が回復してきたのだ。
「マシュー」
急ぎ足でアドルフさんが僕の元へ戻ってきた。
「アドルフさん」
「さ、薬を」
早速アドルフさんが持ってきてくれた薬を飲んで、僕は軽く立ち上がった。
「どうだい?」
「もう大丈夫です。シアンさんたちのところへ向かいましょう」
「良かった。ところで、彼は?」
アドルフさんが横にいる彼を一瞥して聞いてきた。
「…彼は僕を介抱してくれたんです。そういえば、名前を聞いていませんでした」
「…セオドア。ただの…セオドアです」
「…?僕はマシューです。介抱してくださってありがとうございました。もし、迷惑でなければ、これを」
僕は首に下げていた縁石のペンダントをセオドアさんに渡した。
「こ、これは?」
「僕が作ったパワーストーンです。そういうの作るのが結構好きなんです。それは初めての作品で作りが荒いですけど、僕のパワーが入ってるのであなたの健闘を祈って…。あっ…もちろん、要らなければ捨ててください。会ったばかりの人間から貰い物ってこわいでしょうし…増してやこんな黒ローブの怪しい人間からなんて…」
「すっ捨てません!大事にします。俺、これから頑張ります!」
「……お互い頑張りましょう」
彼の長い銀髪が風に吹かれて揺らめいた。季節にそぐわない、春のような暖かな風だった。
まるで海底に1人で潜って、ゆらゆらと揺れているみたい。すべてが自分事ではなくて、誰かの視点の中に潜り込んでいくようだ。
その瞬間、なんとなく気づくんだ。
あ、今日の夢は予知夢だって。
「はっ…私が魔獣を乱入させたと本当にお思いですか?」
「私はやっていません!」
「くそっ…結局こうなるのだな…シナリオには勝てないということなのか」
「悪逆非道のシュドレー家を許すな!」
「もうさすがのシュドレー家も終わりね」
「面妖な毒で第一王子の命を狙い、ひいてはその婚約者も道連れにしようとした罪、誠に許しがたい。シュドレー家の者は残らず処刑せよ」
「シアン!俺と一緒に逃げよう!」
「イブリン…俺は…」
様々な場面が途切れ途切れに僕の目に写った。
今まで見てきた予知夢とはまるで違っていて、僕は困惑した。
けれど、誰の身が危ういのかは明白であった。つい最近知り合った、隣国のソリティアであるシアン・シュドレー。
このままでは彼はいずれ命を落とす運命を辿ることになるのだ。
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「マシュー、疲れてはいないかい?」
アドルフさんが僕の肩に手を置き、心配の言葉をくれる。
「はい、大丈夫です。それよりも、イブリン殿下やシアンさんが住む寮はそろそろなんですよね?」
僕とアドルフさんは今、アルティア王国の魔法学園の校舎の中にいた。
「この森を抜ければすぐだと聞いたよ」
「うっ…」
「マシュー!」
僕は突然の目眩に襲われ、地面に膝をついた。
「…やはり慣れない空気に具合が悪くなっていたんだね。さっき医療室を通り過ぎた。薬になるものを貰ってくるから、ここで待ってて」
「はい…ごめんなさい、アドルフさん」
「無理せずに楽な姿勢でいなさい」
そう言われて、僕は地面に座り、一本の木に体を預けた。アドルフさんが心配そうに来た道を戻るのを見送ると、僕は目を瞑った。
その間、僕は自己嫌悪に苛まれてしまう。
ああ、どうして僕はいつもこうなんだろうかと…。
今はこんな風に休んでいる場合ではない。早く、シアンさんに予知夢のことを伝えなければいけないのに…体が何とも言うことを聞かない。肝心な時に僕はいつもこうなのだ。こんな弱い僕は嫌だ。どうしたら、強くなれるだろう?
"お前は弱くなんてないさ。お前は強いよ。人を助けたいと思う優しい心と実行できる力があって、俺は何度も救われてきた。だから、お前はお前らしくいることが1番の強さだよ"
ふと、そう言ってくれたあの人のことを僕は思い出した。
「……大丈夫ですか?」
「イブリン?」
突然上から聞こえてきた声に何故か僕は目を開けてそう呼びかけていた。
「…?」
我に返って目の前の人物を見ると、どう考えてもイブリン殿下ではなかった。
けれど、彼のオーラはどこかイブリン殿下と似たような類稀な眩さを持っていた。
声をかけてきた銀髪の男は、心配と疑心の目を向けてくる。
「…あっ、すみません。人違いです。そのっ、だっ大丈夫ですので、お気になさらず通ってください」
「で、でも…とても体調が悪そうです」
話してみると自分と似たような気弱そうな物腰だったが、見知らぬ人間でも困っていればほっとけないようだった。
「優しいんですね」
「そんなことは…無いです。俺なんか…いつもは引きこもってばかりの木偶の坊で…」
そう言って彼は自分の銀色の長い前髪をいじった。
「…ふふっ」
「えっ、なんで笑うんですか?」
「すみません、別にバカにした訳では無いんです。ただ、僕と似てるなって思って。僕も引きこもってばかりだし、自分が大嫌いだから分かる。でも…きっと見つけられますよ、自分だけの強さを。僕もやっと見つけて進んでる段階だけど、今は前よりも少しだけ自分を好きになっていってるような気がするから」
「どうやったらそれは見つけられるんですか?」
銀髪の男は不安げに僕に尋ねた。
「…僕の恩人は、いつも言っていました。自分の心の声に向き合うことからまずは始まるって。自分が嫌いだとそれって凄く難しい事だってわかるけど、お前がやりたいこと、好きなこと、本当に感じてることにお前自身が耳を傾けてやらなきゃいけないって怒ってくれたんです。だから、木偶の坊とか卑下するよりも、あなた自身があなたを大事にすることからやってみたらいいんじゃないでしょうか?」
「……俺自身を?」
なんだか彼と話していると不思議な感覚に陥った。彼の話し方、トーン、オーラ。なんだか全てが心地良くて、だんだんと体調が回復してきたのだ。
「マシュー」
急ぎ足でアドルフさんが僕の元へ戻ってきた。
「アドルフさん」
「さ、薬を」
早速アドルフさんが持ってきてくれた薬を飲んで、僕は軽く立ち上がった。
「どうだい?」
「もう大丈夫です。シアンさんたちのところへ向かいましょう」
「良かった。ところで、彼は?」
アドルフさんが横にいる彼を一瞥して聞いてきた。
「…彼は僕を介抱してくれたんです。そういえば、名前を聞いていませんでした」
「…セオドア。ただの…セオドアです」
「…?僕はマシューです。介抱してくださってありがとうございました。もし、迷惑でなければ、これを」
僕は首に下げていた縁石のペンダントをセオドアさんに渡した。
「こ、これは?」
「僕が作ったパワーストーンです。そういうの作るのが結構好きなんです。それは初めての作品で作りが荒いですけど、僕のパワーが入ってるのであなたの健闘を祈って…。あっ…もちろん、要らなければ捨ててください。会ったばかりの人間から貰い物ってこわいでしょうし…増してやこんな黒ローブの怪しい人間からなんて…」
「すっ捨てません!大事にします。俺、これから頑張ります!」
「……お互い頑張りましょう」
彼の長い銀髪が風に吹かれて揺らめいた。季節にそぐわない、春のような暖かな風だった。
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