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4章
魔闘大会②
しおりを挟む僕は水分補給を済ませ、少しだけ学園内を見渡しながら歩いていた。
殿下の手紙に綺麗な噴水が建つ場所があると書かれていたのを思い出して、僕は早速透視能力を使ってその場所へ向かった。
〈バシャーン〉
大量の水飛沫が散る音がした。
何事かと見てみると、4人の男生徒たちが噴水に集まって高笑いをしていたので、ただ事ではないと思い僕は近くの柱に隠れた。
「ホントになんでこの学園にお前みたいなのが入学できたんだ?」
「ははっ、びしょ濡れで面白すぎる」
「ルース様は特別だから、入学もズルじゃねぇの?」
「ははっ、絶対そうだな!お前みたいな出自も泥臭い奴がいきがってんじゃねぇよ」
水盤からシュレイ・アデスが体を震わせながら出てきた。
「僕は…ズルなんてしてません!僕は、自力でここまで…」
シュレイは歯を食いしばりながら拳を握った。
「おいおい、本当のこと言えよ。どうせ今回の大会もルースっていう立場を利用したんだろ?お前みたいなのが俺らよりも座学良いとか有り得ないだろ。魔法庁に顔効くから問題教えてもらってたとか?」
男が煽るようにしてシュレイの肩に腕を置いた。
「だって、じゃなきゃあんな酷い剣術で本選も出場できるとかおかしいだろ。なぁ?」
「ホント、魔法庁も教会も第一王子も…上手く手懐けたよなぁ」
「僕らもルース様のご奉仕を受けたい限りですよ」
男はシュレイの尻を撫でて気持ち悪く笑った。
これ以上は見ていられなくて、飛び出そうと足を踏み込んだその時…
凄まじい風を切る音がした後、金属音が付随して聞こえた。
「なっ…」
気がつくと、シュレイに近づいた男の耳から少しだけ血が流れていた。
男が後ろにある噴水を恐る恐る見ると、装飾の凹みにピッタリと剣が刺さっていた。
誰かが男に向けて殺意を込めて剣を投げ、わざと掠らせたのだと一発で分かった。
「っ!誰だこんなことやった奴は!」
「汚らしい口をそれ以上開くな。この痴れ者め」
男たちが見た方から歩いてくるのは、なんとシアンさんだった。
「なっ…シアン様!?何故シアン様が、こんなこと!」
「そうです!いつもあなたの邪魔をするこいつをただあなたのためにっ…」
「はっ…私はそんなことをしろといつ貴様らに言った?それ以前に、貴様らのような薄汚い鼠たちと私が言葉を交わすと思うか?」
「…っ!シアン・シュドレー!下手に出ていればっ…」
男がシアンさんに殴りかかろうとしたその時、何故か男はフラフラと定まりなく踊り始めた。
「なっ、なんだ…!?どうなって、るんだ!?」
「おいっお前どうしたんだ…!?」
周りの男たちも踊り出す仲間を見て驚いている様子だった。
同じように一瞬戸惑ったが、シアンさんが腕を後ろに組んでいるのを見て、僕はすぐに勘づいた。
(ふふっ、シアンさん、もうソリティアとして自由に魔法を使いこなせてる。あぁ…イブリン殿下が教えたのかな……)
僕は少し嬉しいような悲しいような気持ちになった。
「くそっ…なんなんだっ…お前ら行くぞ!」
「本選で覚えてやがれ!」
「おいっ、待てよ!」
男4人は、怖気付きながらもシュレイとシアンさんを睨みつけて退散していった。
「…あっ、ありがとうございます。シアンさんっ…」
「助けたわけではない。ちょうど良さそうな的があったんだ」
そう言ってシアンさんは水盤に入って、装飾に刺さった剣を引き抜いた。
「シュレイ!ここにいたのか!」
「あっ、ユーリアス!」
長いこと探していた様子でアルティアの第一王子…ユーリアスが現れた。
「…!?何故濡れている?まさか…貴様がシュレイをこんな目に?」
「ち、違うよ…ユーリアス!シアンさんは僕を助けてくれてっ…」
「シュレイ、こんな奴を庇う必要はない。その手に持っている剣でどうするつもりだった?」
ユーリアスはシアンさんがやったものだと思い込み、彼を睨みつけた。
「…どのように思われても構いませんが、1つだけ…」
シアンさんはそう言って持っていた剣を振り上げ、瞬時にユーリアスに庇われたシュレイに向けて剣先を近づけた。
「シュレイ・アデス、お前が皆を跪かせるにはその特別な魔法しかないはずだ」
シアンさんはシュレイにそう告げると、剣を鞘に戻し、その場を去っていった。
---------------------------------
いよいよ本選トーナメントが始まった。
本選のルールは、2次予選とあまり変わらない。2対2で魔法で戦い、降参を言わせるかペアを舞台から引きずり降ろせば勝ち。時間制限も無いため、体力と魔力がある限り好きなだけ魔法を使うことが出来るという。そのため、ある意味では持久戦になることもある得る。
殿下とシアンさんは初戦を難なく勝ち抜き、頭の片隅で気になっていたシュレイとユーリアスペアも2回戦まで上がってきた。
そして、興味深いことに彼らの2回戦の相手ペアはというと先程シュレイに絡んでいた男2人であった。
序盤は魔法の攻撃をお互いに浴びせ、戦況は五分五分のように見えた。しかし、どんどん長丁場になっていき、どう見てもいきがっていた男2人のほうが疲労してきているのがわかった。
「なっ…なんで…あっち2人は疲れてねぇんだよ!」
「意味わかんねぇ!」
男2人は汗を大量に流しながら、飄々とした顔で立つシュレイとユーリアスを見た。
「…そうか。シュレイ・アデスは治癒魔法を身に宿している。魔法は、言わば魔力という導線を相手とどれだけの相性で繋げられて、発電出来るのかということ。シュレイ・アデスの場合、もともと誰とでも魔力の相性が合うという体質のため、治癒魔法という身に宿した能力まで相手に流れ、自分にも流れてきているんだ」
「…うーん、難しいこと言うね。まぁつまり、2人で自家発電してるってこと?」
アドルフさんが首を傾げながら言った。
「そういうことですかね?」
「じゃあ、持久戦では彼らには勝てないかな?」
「それどころか…」
僕は、シュレイとユーリアスをまた見た。
「な、なんだよ…その魔力量!!」
相手ペアの男たちは目の前を見て一斉にたじろいだ。それもそのはずだ。シュレイとユーリアスは万全な状態でもありえない程大きなマグマの玉を作って見せたのだ。
「ノーマルであそこまで!信じられない…!」
ノーマルとは、僕らソリティアにとって2人で魔法を使うことを指す呼称だ。
2人であれ程の威力の魔法を生み出すのは驚きだ。ノーマルの場合、魔法の威力はどれだけお互いの魔力の相性が良いかで決まる。だからこそ、シュレイが特異性の魔力を持つ故にあれだけの魔法を出力できたのだろう。
結局、見たことない程巨大なマグマの玉を目の前にした相手ペアは、涙目を浮かべながら「降参」と言って、シュレイペアが勝利を飾った。
その勢いで観客席も白熱していき、あっという間に決勝戦を迎えた。
決勝戦で対戦するペアは、予知夢を見ずとも分かっていた。シュレイとユーリアス、イブリン殿下とシアンさんだ。
しかし、5分休憩の後、驚きのあるアナウンスで観客席は騒然となる。
「イブリン・ヴァレントとシアン・シュドレーは棄権するという申し出がありました。よって、魔闘大会優勝はシュレイ・アデスとユーリアス・クライン!!」
思わぬ形で急に優勝ペアが決まり、観客席は生徒だけでなく外部の者たちも煮え切らぬ不満を抱いていた。
「なんだかがっかりですわ。シュレイ・アデスの能力は悔しいことに目を見張るものですけれど、今真っ盛りのシアン様でしたら勝てると思いましたのに」
「もしかして、怖気づいたんじゃないか?」
「ふふっ、確かにそうかもしれませんわ。あれほど座学や剣術が優秀でも、魔法ではルースには勝てませんのね」
「やはりシュレイ・アデスはリースに選ばれた特別な存在なのかもしれないな…」
不戦勝であっても、勝者であればみなそれぞれ都合の良い好フィルターで話すものだ。
僕は周りの話を聞き流しながら、アドルフさんに声をかけた。
「アドルフさん。シアンさんに会いに行きましょう」
「ええ」
シアンさんとイブリン殿下を透視で探すと、テラスを歩いているところを見つけた。
「シアッ…」
「シアン・シュドレー!」
2人の後ろ姿を見て声をかけようとしたその時、ある声と被さった。
その声の主は、ユーリアス・クラインだった。彼はシアンさんの腕を掴み、憎々しげに睨んだ。
「ユーリアス!」
ユーリアスの後ろに続いて、心配そうにシュレイ・アデスと剣術で秀でていたサイラス・ドグナー、スヴェン・タイル、そして準々決勝まで進んでいた…イグリム・マークハルトがやってきた。
「どういうつもりで棄権などした?シュレイを噴水に落とした挙句、まともに決勝で戦いもしない。貴様はいつも上から見て私たちを愚弄しているのか?」
「はぁ……言いがかりは止めてください。別に愚弄などしてません。ただ体調が悪いので棄権しただけです」
「はっ…まるで体調さえ良ければ勝ち目があったように聞こえる」
ユーリアスは眉尻を上げて嘲笑した。
「そんな風に聞こえてましたか?失礼、勝ち目があったというよりも確実に勝っていた、というのが正しいです」
シアンさんはにっこりと笑って挑発するようにそう答えた。
「戯言を…!」
ユーリアスがそう返すと、サイラスも続くように1歩前に出てくる。
「戦いもせずただ逃げた人間が大きなことを言うのは騎士の端くれとして聞き捨てならないぞ」
「そもそも、変に突っかかってきたのはそちらの方ではありませんか。第一王子殿下、そろそろシアンの腕から手を離してくださいませんか?」
しばらく黙っていたイブリン殿下がもう我慢できないようにして、シアンさんとユーリアスの間に入って言った。
「…それとも、今ここで俺とあなただけで決着をつけても俺としては一向に構いませんよ」
イブリン殿下はシアンさんの腕からユーリアスの腕を引き離しながらそう言った。イブリン殿下の口角は上がって余裕そうに見えたが、目には怒りが映っているように見えた。
「やめろ、イブリン。もう疲れた…う…」
「シアンッ…」
目眩がしたのか、シアンさんは急に倒れ込みそうになり、殿下が体を支えた。
「このまま抱えてくれ」
「うん、任せて」
シアンさんの頼みを嬉しそうに殿下は了承して、シアンさんを軽々とお姫様抱っこした。
そして、2人は周りをまるで置いてけぼりにしてテラスから去っていったのだ。
「...マシュー、お2人は…」
共に始終を見ていたアドルフさんがどこか後ろめたいように聞いてきた。
「うん…」
僕は小さく笑って答えた。
2人はきっとお互いを特別に思っているのだと分かった。
-------------------------------
「マシューさん、アドルフさん、お久しぶりです。お元気にしていらっしゃいましたか?」
シアンさんは寮の部屋のベッドで横になりながら尋ねてきた。
「は、はい…」
「シアンさんは、大丈夫ですか?その…体調が悪いと聞きました」
僕が戸惑いながら返事をすると、横にいたアドルフさんがいつもの優しい声色で返した。
「もう大丈夫です。ご心配いただきありがとうございます。こんなところで、こんな格好で申し訳ありませんが、早速本題に。マシューさん、わざわざ来ていただいてまでお話されたいこととは?」
「あっ…はい…。3日前、シアンさんの予知夢を見ました」
僕は断片的でもシアンさんに関する予知夢のことを懸命に伝えた。
近々彼の身に起こること、最終的に死に行き着くこと。拙い言葉でも、伝えたかった。ただ彼の命を救いたくて…。
一方的に話し終わった後、しばらく沈黙が続いた。シアンさんは何か考え事をしているようで、横に座るイブリン殿下はというと両手を強く握りながら下を向いていた。
「すみません…上手く話せなくて…。でも、命の危機なんです!危ないんです!えっと、生き残るためには…と、とにかくっ学園を今すぐ辞めて、家を離れて、辺境地に住むとか!い、いいんじゃないでしょうかっ!?」
「…ははっ、驚きました」
「え…、どっどうして笑われるんですか!?」
シアンさんが急に笑いだしたので、僕は更に慌ててしまった。
「そんなにマシューさんが慌てるとは思わなかったもので。ありがとうございます、そこまで親身になってくださって。あなたの予知夢を今更疑おうなんて思いません。けれど、学園を離れるつもりも、家を出るつもりも、辺境地へ住むつもりもありません。もう逃げたくないからです。でも、あなたのおかげで、あることに気づけました。きっと俺はこのゲームに勝ちますよ」
「え…?ゲーム?」
〈バンッ〉
「シアン!!無事か!?ってあれ、誰だ?」
空気が一変した後、部屋の扉を勢い良く開けてきたのは、知らない男だった。
「オーリー…うるさいぞ」
イブリン殿下が親しげにその男に言い放った。
「止めても言うこと聞かなくて。本当に困ったものです」
オーリーと呼ばれた男の後ろからはひょこっとハルノが出てきた。
「ハルノ!」
「アドルフさん、マシュー、お久しぶりです」
思わず呼びかけてしまうと、ハルノは硬い表情筋で少し笑って見せた。
「それで…シアン、体調は?」
「あぁ、問題ない」
「それなら良かったが…。ていうか、君とイブリンは本当に…」
オーリーと呼ばれた男がシアンさんの元へ行って話し始めた。シアンさんも嫌な顔せずに応えているのを見る限り、彼とシアンさんの関係は悪いものでは無いのだなと分かった。
(彼が現れた時に感じた印象とは違って、2人のオーラの相性は案外良いみたいだ…)
「……シアンの運命は変えられる?」
それぞれの話が盛り上がっている中で、イブリン殿下がそっと僕に話しかけてきた。
「はい…きっと変えられます」
僕は出来るだけ強くそう答えた。
「ありがとう。待ってて。きっとそうすれば……あなたの真の想い人を返すことが出来るはずだから」
「……」
その瞬間、僕の中で曖昧だった線がはっきりと見えた気がした。
「…当然そのために行動するつもりですが、僕にとってはあなたやシアンさんも大事になってしまったから協力するんです」
僕がそう返すと、好きな人の顔をした彼は眉を下げて美しく笑った。
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