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4.ようこそプリン
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貴仁が、オムライスを作ってくると張り切って台所に向かってから30分経過した。
途中で、何度か皿が割れるような音が聞こえたり、貴仁の騒ぐ声が響いたが、それ以外は特に何もなく、娘ちゃんは静かにニャン五郎を撫でて待っていた。
すると、ようやくオムライスが出来上がったのか、貴仁が何かを持って戻ってきた。
「娘ちゃん!お待たせ!」
笑顔で娘ちゃんに差し出されたのは、オムライスというよりハンバーグ似の謎の料理。
それは、どう見てもオムライスには見えない。
「え、なにこれ」
「オムライス!ちょっと焦げたけど味は大丈夫なはず!」
最高傑作ですと言わんばかりに自信満々の貴仁。
そんな貴仁の手前、このまま食べないというわけにもいかず、娘ちゃんは、試しに一口食べてみることにした。
ごくり。
一口飲み込むだけで娘ちゃんは分かった。
貴仁は、かなりの料理下手だと。
見た目も味もただの焦げ。あるいは、ものすごく苦いチョコレートの塊。きっと、砂糖の分量ミスでもしたのだろう。
不味いと吐き出しそうになった娘ちゃんだったが、自分のために30分もかけて作ってくれたと思うと飲み込むしかなかった。
「うん……。お、おいしい……」
ぎこちない笑顔で、無理やりのおいしいを口に出す。
「ほんと!?」
「う、うん……」
気遣いがバレないように必死においしいを演じる娘ちゃん。だが、もう一度スプーンを握る気はそうそうにない。もっと食べてなんて言われたらどうすればよいだろうかと考えていると、貴仁が急にくすりと笑った。
「なんてねー、本当は美味しくないでしょ?」
さっきまで娘ちゃんのおいしいに満面の笑みだった貴仁が突然手のひらを返すように美味しくないだろと問う。
その行動が娘ちゃんにとっては、理由が分からない謎のものでなぜそう思うのか疑問が浮かんだ。
「なんでそう思うの?」
「だって、この見た目だし、実際私でも食べるか迷うレベルの出来だし……」
「でも、私のために作ってくれたオムライスでしょ?確かに少し焦げてるし、苦いけど、温かくておいしいよ」
味はさておき、久しぶりに口にした温かいそれは、娘ちゃんにとっては、別の意味のおいしいもの。
それを伝えようと思ったが、気づけば自然と言葉が出ていた。
「娘ちゃん!!」
目を潤ませながら、両手を組んで喜ぶ貴仁を見て、感情が忙しい人だなと娘ちゃんは思う。本当に落ち込んでいるかと思ったら次の瞬間には喜びだして、反応もいちいち大げさ。でも、それは娘ちゃんにとっての面白い。
「大げさすぎ」
「大げさじゃないよ!本当に嬉しいんだ!あ、そういえば……」
そう言って、貴仁はもう一度キッチンに走っていったかと思えば、綺麗な黄色をしたプリンを持ってきた。
「はい!これ、ようこそプリン!昨日、娘ちゃんのために作っておいたんだ!」
ようこそプリンと言われたものは、ハンバーグ似のオムライスとは違って、ちゃんとしたプリン。それも、とてもおいしそうな匂いがする。
その誘惑に負けて、娘ちゃんは、思わず、スプーンで一口すくい、口に入れた。
「おいしいっ!!」
たった一口しか食べていないのに、口の中に広がる深い甘みと優しいコク。とろける口どけはもう絶品だった。あのオムライスを作った人のプリンだとは到底思えない。
「それはよかった。私は料理はあれだけど、お菓子作りは得意でね、喜んでもらえて嬉しいよ!」
プリンの甘さに包まれた、甘くて幸せな2人の笑顔。
それは、とても温かくて優しいものだった。
途中で、何度か皿が割れるような音が聞こえたり、貴仁の騒ぐ声が響いたが、それ以外は特に何もなく、娘ちゃんは静かにニャン五郎を撫でて待っていた。
すると、ようやくオムライスが出来上がったのか、貴仁が何かを持って戻ってきた。
「娘ちゃん!お待たせ!」
笑顔で娘ちゃんに差し出されたのは、オムライスというよりハンバーグ似の謎の料理。
それは、どう見てもオムライスには見えない。
「え、なにこれ」
「オムライス!ちょっと焦げたけど味は大丈夫なはず!」
最高傑作ですと言わんばかりに自信満々の貴仁。
そんな貴仁の手前、このまま食べないというわけにもいかず、娘ちゃんは、試しに一口食べてみることにした。
ごくり。
一口飲み込むだけで娘ちゃんは分かった。
貴仁は、かなりの料理下手だと。
見た目も味もただの焦げ。あるいは、ものすごく苦いチョコレートの塊。きっと、砂糖の分量ミスでもしたのだろう。
不味いと吐き出しそうになった娘ちゃんだったが、自分のために30分もかけて作ってくれたと思うと飲み込むしかなかった。
「うん……。お、おいしい……」
ぎこちない笑顔で、無理やりのおいしいを口に出す。
「ほんと!?」
「う、うん……」
気遣いがバレないように必死においしいを演じる娘ちゃん。だが、もう一度スプーンを握る気はそうそうにない。もっと食べてなんて言われたらどうすればよいだろうかと考えていると、貴仁が急にくすりと笑った。
「なんてねー、本当は美味しくないでしょ?」
さっきまで娘ちゃんのおいしいに満面の笑みだった貴仁が突然手のひらを返すように美味しくないだろと問う。
その行動が娘ちゃんにとっては、理由が分からない謎のものでなぜそう思うのか疑問が浮かんだ。
「なんでそう思うの?」
「だって、この見た目だし、実際私でも食べるか迷うレベルの出来だし……」
「でも、私のために作ってくれたオムライスでしょ?確かに少し焦げてるし、苦いけど、温かくておいしいよ」
味はさておき、久しぶりに口にした温かいそれは、娘ちゃんにとっては、別の意味のおいしいもの。
それを伝えようと思ったが、気づけば自然と言葉が出ていた。
「娘ちゃん!!」
目を潤ませながら、両手を組んで喜ぶ貴仁を見て、感情が忙しい人だなと娘ちゃんは思う。本当に落ち込んでいるかと思ったら次の瞬間には喜びだして、反応もいちいち大げさ。でも、それは娘ちゃんにとっての面白い。
「大げさすぎ」
「大げさじゃないよ!本当に嬉しいんだ!あ、そういえば……」
そう言って、貴仁はもう一度キッチンに走っていったかと思えば、綺麗な黄色をしたプリンを持ってきた。
「はい!これ、ようこそプリン!昨日、娘ちゃんのために作っておいたんだ!」
ようこそプリンと言われたものは、ハンバーグ似のオムライスとは違って、ちゃんとしたプリン。それも、とてもおいしそうな匂いがする。
その誘惑に負けて、娘ちゃんは、思わず、スプーンで一口すくい、口に入れた。
「おいしいっ!!」
たった一口しか食べていないのに、口の中に広がる深い甘みと優しいコク。とろける口どけはもう絶品だった。あのオムライスを作った人のプリンだとは到底思えない。
「それはよかった。私は料理はあれだけど、お菓子作りは得意でね、喜んでもらえて嬉しいよ!」
プリンの甘さに包まれた、甘くて幸せな2人の笑顔。
それは、とても温かくて優しいものだった。
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