5 / 5
5.なかよしゲーム
しおりを挟む
それから、娘ちゃんは苦いオムライスとおいしいプリンを交互に食べた。
そして、お皿に一欠片のごはんも残さずに食べ終えると、両手を合わせて合掌する。
「ごちそうさま、おいしかった」
「お粗末さまでした!」
娘ちゃんにおいしかったと言われ、ご満悦の貴仁は、空っぽになったお皿をキッチンに運び、洗い始める。
貴仁は実にご機嫌だが、小学生の娘ちゃんからすれば、この時間は何もすることがなくつまらない。
先ほどは、ニャン五郎を撫でるという暇つぶしがあったからこそ、30分待つことができたが、そのニャン五郎も今はどこかに隠れてしまった。
「それで、この後どうするの?」
ついに我慢の限界になった娘ちゃんは貴仁に問う。
「どうするって?」
「暇。つまんない」
「つまんないって言われても何もすることがないんだよなぁ……」
そう、貴仁の家には暇をつぶせるものどころかテレビすらない。あるのは、必要最低限の家具のみ。
どうしたものかと困る貴仁だったが、1つ良い案が浮かんだらしく、軽く手を打った。
「なかよしゲーム!」
「なかよしゲーム?なにそれ」
「それはね……」
貴仁によると、なかよしゲームというのは、交互に質問をし合って親睦を深めるゲームらしい。
ただ、普通の自己紹介と違うのは、リズムにのせて質問すること。
「なるほどね。楽しそう」
娘ちゃんは、なかよしゲームのことを気に入ったらしく、もう既に何を質問しようかと企んでいる。
「リズムは、山手線ゲームと同じね!あと、リズムにのれなかったら負け!じゃあ、いい?娘ちゃん」
「いいよ」
「よーい、スタート!」
その言葉と共にふたりは手を打つ。
先行は、貴仁。聞きたいことはたくさんあるが、一番最初に質問したいことは予め決まっていた。
「何歳?」
「8歳」
なるほど、8歳か、と貴仁が納得しているうちに構わず娘ちゃんは続ける。
「独身?」
「ど、独身!何年生?」
まさか、一番最初に聞かれるのが独身かどうかだと思っていなかった貴仁はリズムを崩しかけ焦った。
「3年生。彼女は?」
「ちょ、ストップ!ストーップ!」
56歳の恋愛事情を遠慮なく、率直に聞いてくる娘ちゃんに思わず、待ったをかけた。
このまま続けたら、告白された回数やら、なんで結婚しないのか、など包み隠さずに答えることになったかもしれない。
「なんで止めるの?」
「あのね、娘ちゃん、私にもプライバシーというものが……」
「プライバシー?なにそれ、わかんなーい」
絶対知っているだろうに、あえて分からないふりをして茶化す娘ちゃん。
「いや、絶対知ってるでしょ」
「小学生だから、わかんなーい」
こういう場面で、小学生の特権を使えるのは少しというかかなりずるいと思う貴仁。
だが、始まったばかりのなかよしゲームがこれで終わりとなるのは寂しい。
「分かった、分かった!じゃあ、続きからね!」
貴仁の言葉を聞いた娘ちゃんは、これまた、勝ったと言わんばかりのにんまり顔。
そして、ゲームを続けるためにふたりはまた手を打つ。
「彼女は?」
同じ質問を投げてきた娘ちゃん。懲りないなとは思いながらもまた止めていてはキリがない。
「いません!趣味は?」
「数学。職業は?」
「秘密!」
「ストップ。秘密ってなに?無職なの?」
痛いところをつかれた貴仁は、目の泳ぎが止まらない。
さて、どう答えたものか。
別に、答えたから何か変わるというわけではない。
だが、何となく貴仁は自分の仕事を秘密にしておきたかった。
「ごめん!職業だけは、どうしても秘密」
「へぇー。なんで?」
「なんでって……なんとなく……」
目を逸らしながら、都合が悪そうにぼそぼそ喋る貴仁を見て、娘ちゃんは一つため息をつく。
「まあ、誰にでも秘密はあるからね。仕方ないか」
「え、いいの?」
何がなんでも追求するだろうと思っていた貴仁は、娘ちゃんがすんなり諦めてくれたことが意外だった。
「いや、どうしても秘密って言ったのはじじいね?」
「それは、そうだけど、なんか意外」
「意外って失礼ね。私にも秘密はあるし、無理は言わない。小学生でも、そのくらいの人間性はできてる。当たり前でしょ」
人間性を語る娘ちゃんを見て、本当にこの子は小学生なのかと怪訝そうな表情を浮かべる貴仁。
「娘ちゃんって本当に小学生?」
「歴とした小学生」
「本当に?」
「本当に」
「そっかー!本当に小学生なのかー!」
ずっと考えていたクイズの答えが分かった時のような清々しい顔で大笑いする貴仁。
その貴仁の笑いにつられて、娘ちゃんも笑う。
「じじいって本当に変なおじさん」
「変なおじさんで悪かったね」
何が面白いのかは分からないが、なぜか笑いが込み上げてきて、家の中にはしばらくの間、ふたりの笑い声が鳴り響いた。
そして、お皿に一欠片のごはんも残さずに食べ終えると、両手を合わせて合掌する。
「ごちそうさま、おいしかった」
「お粗末さまでした!」
娘ちゃんにおいしかったと言われ、ご満悦の貴仁は、空っぽになったお皿をキッチンに運び、洗い始める。
貴仁は実にご機嫌だが、小学生の娘ちゃんからすれば、この時間は何もすることがなくつまらない。
先ほどは、ニャン五郎を撫でるという暇つぶしがあったからこそ、30分待つことができたが、そのニャン五郎も今はどこかに隠れてしまった。
「それで、この後どうするの?」
ついに我慢の限界になった娘ちゃんは貴仁に問う。
「どうするって?」
「暇。つまんない」
「つまんないって言われても何もすることがないんだよなぁ……」
そう、貴仁の家には暇をつぶせるものどころかテレビすらない。あるのは、必要最低限の家具のみ。
どうしたものかと困る貴仁だったが、1つ良い案が浮かんだらしく、軽く手を打った。
「なかよしゲーム!」
「なかよしゲーム?なにそれ」
「それはね……」
貴仁によると、なかよしゲームというのは、交互に質問をし合って親睦を深めるゲームらしい。
ただ、普通の自己紹介と違うのは、リズムにのせて質問すること。
「なるほどね。楽しそう」
娘ちゃんは、なかよしゲームのことを気に入ったらしく、もう既に何を質問しようかと企んでいる。
「リズムは、山手線ゲームと同じね!あと、リズムにのれなかったら負け!じゃあ、いい?娘ちゃん」
「いいよ」
「よーい、スタート!」
その言葉と共にふたりは手を打つ。
先行は、貴仁。聞きたいことはたくさんあるが、一番最初に質問したいことは予め決まっていた。
「何歳?」
「8歳」
なるほど、8歳か、と貴仁が納得しているうちに構わず娘ちゃんは続ける。
「独身?」
「ど、独身!何年生?」
まさか、一番最初に聞かれるのが独身かどうかだと思っていなかった貴仁はリズムを崩しかけ焦った。
「3年生。彼女は?」
「ちょ、ストップ!ストーップ!」
56歳の恋愛事情を遠慮なく、率直に聞いてくる娘ちゃんに思わず、待ったをかけた。
このまま続けたら、告白された回数やら、なんで結婚しないのか、など包み隠さずに答えることになったかもしれない。
「なんで止めるの?」
「あのね、娘ちゃん、私にもプライバシーというものが……」
「プライバシー?なにそれ、わかんなーい」
絶対知っているだろうに、あえて分からないふりをして茶化す娘ちゃん。
「いや、絶対知ってるでしょ」
「小学生だから、わかんなーい」
こういう場面で、小学生の特権を使えるのは少しというかかなりずるいと思う貴仁。
だが、始まったばかりのなかよしゲームがこれで終わりとなるのは寂しい。
「分かった、分かった!じゃあ、続きからね!」
貴仁の言葉を聞いた娘ちゃんは、これまた、勝ったと言わんばかりのにんまり顔。
そして、ゲームを続けるためにふたりはまた手を打つ。
「彼女は?」
同じ質問を投げてきた娘ちゃん。懲りないなとは思いながらもまた止めていてはキリがない。
「いません!趣味は?」
「数学。職業は?」
「秘密!」
「ストップ。秘密ってなに?無職なの?」
痛いところをつかれた貴仁は、目の泳ぎが止まらない。
さて、どう答えたものか。
別に、答えたから何か変わるというわけではない。
だが、何となく貴仁は自分の仕事を秘密にしておきたかった。
「ごめん!職業だけは、どうしても秘密」
「へぇー。なんで?」
「なんでって……なんとなく……」
目を逸らしながら、都合が悪そうにぼそぼそ喋る貴仁を見て、娘ちゃんは一つため息をつく。
「まあ、誰にでも秘密はあるからね。仕方ないか」
「え、いいの?」
何がなんでも追求するだろうと思っていた貴仁は、娘ちゃんがすんなり諦めてくれたことが意外だった。
「いや、どうしても秘密って言ったのはじじいね?」
「それは、そうだけど、なんか意外」
「意外って失礼ね。私にも秘密はあるし、無理は言わない。小学生でも、そのくらいの人間性はできてる。当たり前でしょ」
人間性を語る娘ちゃんを見て、本当にこの子は小学生なのかと怪訝そうな表情を浮かべる貴仁。
「娘ちゃんって本当に小学生?」
「歴とした小学生」
「本当に?」
「本当に」
「そっかー!本当に小学生なのかー!」
ずっと考えていたクイズの答えが分かった時のような清々しい顔で大笑いする貴仁。
その貴仁の笑いにつられて、娘ちゃんも笑う。
「じじいって本当に変なおじさん」
「変なおじさんで悪かったね」
何が面白いのかは分からないが、なぜか笑いが込み上げてきて、家の中にはしばらくの間、ふたりの笑い声が鳴り響いた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる