ティラミス

プラチナまりん

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ティラミス

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第1章     スローモーション

 その日、僕は伸び過ぎた後ろ髪の処理に、悪戦苦闘していた。

何故か右側の、襟足だけ伸びてくると癖っ毛になる。解り易く言えば、『田村正和』の あの、もっさりとした後ろ髪風になってしまうのだ。

僕のイメージのヘアースタイルは、あくまで『尾崎豊』であって、決して鼻の詰まった猫背の、オッさんではない。

どうにかして、古畑任三郎風襟足をなんとかせねば。手鏡を片手に洗面台に映った後頭部に、くしで髪をとかすが反射されて動作が逆になる為、なんとも勝手が悪い。

かれこれ10分は格闘している。

早くせねば、集合時間は刻々と迫っている。こんなことなら昨日やっぱり、美容院に行っとくべきだったか。

でも、そこまで気合いを入れる程、今日の【催し物】に期待も興味もなかったのだが。

むしろ、行くのが億劫なくらいだ。会社の行事だから仕方がない、半ば強制参加。それに僕は、若干21歳にして班長という役職につき将来を有望視された人材である(自分で言うのもなんだけど)尚更、会社の行事には、休日であろうと参加せざるを得ない。

たとえ、それが 【集団見合い】だろうと…

 ほどなくして僕は、集合場所である東岡崎駅のロータリーに着いた。

自宅からここまでは車で来て、駅前パーキングに停めた。集合時間の15分前、僕は時間には、わりかしきっちりしている方だ。
辺りを見渡すがまだ誰も来ていない。ここから会場である蒲郡の『三河湾リゾートリンクス』には電車で行く手筈となっている。

地下に伸びている駅階段から、加藤君と工藤君が現れた。

「早いね~気合い入ってる人は!」

開口一番、加藤君が冷やかした。

本日の男性陣リーダーである。
 仕事は、何をやっても橋にも棒にもならないが、遊び、特にオンナ絡みの事には俄然威力を発揮する男で、2歳上という事もあり僕は彼に一目置いている。

工藤君は相変わらず、にゃァ~としているだけの男である。
黙っていたら、そこそこハンサムなのだが、喋ると東北訛りが凄く、しかも小声で毎回何を言っているのかよくわからない。

きっと今日は顔だけで抜擢されたのだろう。「工藤君、今日は喋らなくていいよ。ずぅ~っと黙っときな」
アドバイスしてやったが、にゃァ~と笑うだけだ。
イマイチ何を考えているのかよくわからない。

俗に言う頭がピーマン。

神様は残酷だ、何故その顔にその頭を付けたのか?

まさに天は二物を与えず。

そうこうしていると、歩道橋を渡って小森君がやって来た。方向からして彼も車で来たらしい、同い年同じB型いわゆるライバルってやつで会社でも何かと比較される。

 こういう時の彼は闘志むき出しだ、今日は並々ならぬ決意できたのであろう身体からの、オーラがハンパない。

あえて無視をした、面倒くさいからである。

最後の一人、山門君が横断歩道から走ってきたとこで、ちょうど集合時刻となり、僕らは電車に乗り蒲郡に向った。

 揺れる車中の中で僕は、これから訪れるであろう最も良い展開と最も悪い展開を思い描き、時にニヤつき時に眉間にシワを寄せ、どんな状況にも対応できるようココロの準備をした。

 何故か昔から状況を客観的に見る癖があり これが若干20代で出世した所以かも知れない。

そうこう考えながら、海を望む車窓越しに反射して見える、工藤君の表情は終始ニヤついていた。彼は ムッツリスケベ でもある。

おまけに ロリコンだ。

 40分程 揺られ潮風の心地よい駅に到着した。改札口を通りロータリーに出ると初夏の日差しの中に『三河湾リゾートリンクス』と描かれた送迎バスがすでに待機していた。

 さすがこの好景気で会社は相当儲かり、いろんなところで使うお金もハンパないものだ。

 バスの自動ドアが開き、中から小太りで全身派手派手な中年女性が姿を現した。

「大須賀製作所の皆様!お待ちしておりました!」

 満面の営業スマイルに僕たちは、軽く会釈をし それぞれ席に着いた。

 道中、中年女性は バスガイドの如く自己紹介から始まり、この企画の主旨と参加した ウチの会社の経緯 ウチの社長との出会い はたまた、蒲郡市の歴史まで…僕等は その話を呆気にとられ ただただ 黙って聞いていた。

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