獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
29 / 372
本編

雨の日の、予感。

しおりを挟む
 「おーい三巳やー」

 止まない雨の中、パン屋でまったりしていた三巳の元にロウ村長がやって来ました。
 
 「おー、どしたー?」

 三巳はミクスの手で作り出されるワンコ顔のパン達から視線を外して入り口を振り返りました。
 
 「山が落ち着かんようだ。
 こりゃどっか崩れるかもしれん」

 ロウ村長は雨合羽(水属性モンスターの素材で出来ている)を脱いで、軽く手で払って水気を落とすと、入り口にかけました。
 そして三巳が座る隣に腰掛けます。

 「おお、良い匂いだ。新作か……これは三巳か?」

 調理台に並ぶワンコ顔のパン達を見たロウ村長は、パンと三巳を見比べました。

 「ふふ。やっと完成したとこだよ。
 味もだけど、この形がなかなか決まらなくて」
 「おー見事な耳だろー」

 ミクスは否定しませんでしたが、三巳はそのワンコパンが三巳をモチーフにしているとは思ってもいませんでした。
 三巳と耳を勘違いして聞いています。

 「そうだな。見事な三巳だ」
 「うん可愛い耳だー」

 まるでナルシストな発言に聞こえますが、ここにツッコミ役はいませんでした。

 「それでこれは何パンだ?」
 「それは食べてのお楽しみ。三巳も匂いでネタ晴らししないようにね」
 「はーい」
 「うん。じゃあ一つ頂こうか」

 手を伸ばすロウ村長でしたが、ミクスにその手をパシリと叩かれてしまいました。

 「なんだ。交換品ならあるぞ?」

 ロウ村長は痛くはないけど叩かれた手を擦って、恨みがましくミクスを見ました。

 「お花見には間に合わなかったけど、これはリリに回復祝いにご馳走するって約束してたんだ」
 「なんだそうだったのか。それならいっそパンパーティでも開かんか?」

 それなら仕方ないとロウ村長はウンウン頷いて、名案とばかりに提案しました。

 「!それはいいなー!」
 「ふふ。張り切りがいがあるね!」

 勿論そんな名案に乗らない乗りの悪い人は此処にはいませんでした。

 「それじゃ、パンは任せてね!」

 そう言ってミクスは腕をまくって、パンの製作に戻りました。

 「さて、楽しいパーティを実現させる為にも山をなんとかせんとな」
 「そーだった。可笑しいってどんな塩梅だ?」

 三巳とロウ村長は向き合って深刻そうに話します。

 「小さいし、遠い感じだがな。時折地響きが起きている」
 「それは……やばいな」
 「地魔法探査で探ったが、近くは大丈夫そうだ」
 「けど山の上が雪崩れたらここも危ないな」
 「そういう事だ。流石にそこまで広範囲な魔法はワシには放てない」
 「それで三己のとこ来た訳か。
 わかった。ちと待ってて」

 三巳は目を閉じ耳を精神を澄ませました。
 三巳から探査魔法の波動が、静かにしかし速く放たれます。
 探査魔法は円形に広がって、直ぐに山全体を覆いました。

 「ああ、地下水が許容値をオーバーしてる。
 土もそろそろ持たないな。
 位置は此処から左上、山頂まではいかない。崖のあたりだ」

 三巳は魔法で得た情報をロウ村長に伝えました。

 「ああ、やはりあそこか。
 あそこは多いな」

 三巳が言った場所は地盤が緩く、割とがけ崩れが起きやすい場所でした。

 「そーだなー。一回溶岩でも流れて固まってくれればいーけどなー」

 割と物騒な事を言う三巳ですが、この世界には魔法があるので、たとえ火山が噴火してもそうそう大惨事にはなりません。

 「うむ。まあ自然の事だ。今は今できる事をせんとな」
 「うん。
 で?どーする?」

 尋ねる三巳にロウ村長は顎に手を当てて考えます。

 「土魔法の使い手と水魔法の使い手を集めるか」
 「雨が止まないから万一の為の防衛魔法系もいた方がいいだろ」
 「そうだな。帰って人選を練ることにする」

 ある程度話がまとまったところで、ロウ村長は「じゃましたな」と言ってパン屋を後にしました。

 外では雨がシトシトサアサア降り続いています。
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

みんなが嬉しい婚約破棄

あんど もあ
ファンタジー
王子の婚約破棄宣言を皆が待っていた!、というコメディ。

王宮メイドは今日も夫を「観察」する

kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」 王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。 ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。 だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……? ※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

処理中です...