獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
59 / 372
本編

ほうれんそうと旅行の準備

しおりを挟む
 三巳は今ロウ村長の家にお邪魔しています。
 ロウ村長の家には応接間があってフワンと沈むソファが置いてあります。
 三巳は居心地良さそうにソファに沈んでお茶を飲んでいます。
 ローテーブルを挟んだ前側にはロウ村長が同じくお茶を飲んでいます。

 「いやはやサラマンダーとはな。
 地獄谷には行けなくなるのか。温泉玉子美味いのに」

 ロウ村長は悩まし気に眉間にシワを寄せて肩を落としています。

 「んー?サラちゃんは気にしないんじゃないかなー。
 前より地獄谷が熱くなってるけど、そんなの魔法で何とでもなるしなー」

 気を揉むロウ村長を余所に、三巳はあっけらかんとしています。
 両手で持ったお煎餅をバリンと食べて尻尾を振る三巳に、ロウ村長は癒されて眉尻をだらし無く下げました。「そうか」と安堵の息を吐くとうむむと別の事を悩み始めます。

 「だがそれならそれで一度ご挨拶せねばな」

 神である三巳が神らしく無いので忘れがちですが、上位の存在にはそれ相応の対応というものがあるでしょう。
 ロウ村長は精霊であり、ドラゴンでもあるサラマンダーには誰と行くのが良いか真剣に悩みます。

 「挨拶行くなら帰ってきたらその旨伝えとくぞ?あと温泉玉子は三巳も食べる」

 キリリとさせて請け負いますが、温泉玉子がメインなのはその口元を見れば明白です。だってよだれが垂れそうになっていますから。

 「うむ。ではお願いしよう。ワシは回覧がてらみんなを集めて会議をするよ」
 「おー頼むなー。三巳はもう一枚お煎餅食べたら帰る」

 一際大きい一枚を取って言う三巳に、ロウ村長はほっこり癒されてから回覧作成を手掛けました。

 さて、報告は済んでお煎餅もたらふく食べて満足した三巳は、村の雑貨屋さんに顔を出しています。
 雑貨屋さんに入った三巳は、壁に掛けて並べてあるリュックや水筒を見て回っています。

 「あら~三巳じゃな~い。珍しいわね~」

 三巳が水筒を手に持って矯めつ眇めつ見比べていると、店の奥から膨よかでおっとりとした女性が出て来ました。

 「こんちわーミランダ。リリ用にリュックと水筒を見に来たんだけど」
 「まあ~何処かへお出掛け~?」
 「うん。プチ観光旅行をな」
 「良いじゃな~い、良いじゃな~い!
 それなら~これなんかどう~?ウサミミリュック~似合うと思うの~」
 「おお!可愛いな!」

 ミランダが取り出したのは丸みを帯びたオフホワイトのリュックでした。玉子型のリュックには大きなポッケが付いていて、上にある蓋を留める大きなボタンとのアクセントが良い味出しています。そして更にその上にピョンと立つ二つの長いウサミミが乙女心を刺激します。

 「ふふふ~この犬っこリュックも~、クルンと丸い尻尾がキュ~ト~でしょ~」
 「!柴もふ!」

 次に取り出したのは薄茶に白が混ざったリュックで、下から柴犬の尻尾がピョコンと出ていました。しかもリュックをしょって歩けば左右に揺れる仕様です。

 「これはリリが好きそうだ。しかも三巳と尻尾仲間だ」

 自分の尻尾とリュックの尻尾を交互に見た三巳は、嬉しそうに尻尾をブンブン振りそうになって、堪えました。外ならともかく狭い店内で大きな三巳尻尾を振れば、商品が散乱する大惨事になっていたことでしょう。代わりに耳を高速でピクピク振って落ち着かせています。

 「うふふ~お気に召した様で何より~。他にも羽リュックなんかもあるわよ~」
 「てっ!天使の羽……!」

 ニンマリと笑って徐に取り出したのは、ピンクのリュックに真っ白な翼が可愛らしく自己主張している物でした。それは正しく色んな場面で見かけたデフォルテ天使の羽。根元がクルンと渦を描いているのがいい味出しています。

 「これしょったリリは可愛さ倍増だなー。ロダに見せたら卒倒しちゃうんじゃないかな。ヘタレだから」
 「ああ~あの子~。卒倒。しちゃうかもね~」

 三巳とミランダはその様子を想像してクスクス楽しそうに笑いました。

 「まあ~リリちゃんは大人っぽくもあるから~、こういう大人向けのも~良いかもね~」

 そう言って取り出したのは、茶色で何とも実用的な地味目のリュックでした。
 それを見た三巳は、スンとした真顔で口をキュッと閉じてしまいます。

 (いや、うん。前世の三巳なら選んでたかもしれないけど、流石に多分まだ十代前半の少女には。なあ)

 確かにポケットが充実していて水筒を入れる専用ポケットまで有り、収納力も抜群そうです。でもそれはあくまで遊び用じゃない。決して遊び用ではありません。実用です。仕事用です。もしくはご年配の方向けです。

 「……今回は日帰りの予定だからそれはいいかな」

 真顔に何とか笑みを張り付けた三巳は、珍しく真面目な口調で丁重にお断りしました。
 もしリリが選んでいたとしても、自身のモフみで誘惑してでも可愛い方に誘導する所存です。大人のエゴと言われ様とも、可愛いリリに可愛くないリュックはお断り申し上げる三巳なのでした。

 「あら~そ~お?それは残念~」

 ミランダは本当に残念そうに「いいんだけどな~、実用的~」と言いながら地味リュックを壁に掛けました。
 三巳はホッと安心して他の三つを見比べて悩みます。悩んで悩んで悩んで。こっちに決めた!と思えばやっぱりこっちが良いかなと思い直すの繰り返しです。

 「可愛いがいっぱいで三巳一人じゃ選べないや。リリと相談してまた来ていいか?」
 「おふこ~す♪
 またのご来店~待ってるわ~」

 どうしても決められない三巳は諦めてリリに決めて貰う事にしたのでした。
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない

葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3) 「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー) ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。 神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。 そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。 ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。 早く穏やかに暮らしたい。 俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。 【毎日18:00更新】 ※表紙画像はAIを使用しています

あなたの幸せを祈ってる

あんど もあ
ファンタジー
ルイーゼは、双子の妹ローゼリアが病弱に生まれたために、「お前は丈夫だから」と15年間あらゆる事を我慢させられて来た。……のだが、本人は我慢させられていると言う自覚が全く無い。とうとう我慢のしすぎで命の危機となってしまい、意図せぬざまぁを招くのだった。 ドアマットだと自覚してないドアマット令嬢のお話。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

錬金術士の使い魔は最悪の未来がこないよう、今日もご主人様の為に頑張ります!

たぬきち
ファンタジー
かつて――錬金術士リリルーナは、必ず斬首刑に処される運命にあった。 その未来を知るのは、彼女に仕える小さな使い魔シロだけ。 主の死を変えるため、彼女は何度も命を落とし、何度も同じ時間へと“死に戻り”を繰り返してきた。 しかし、どれだけ足掻いても結末は変わらない。 王国兵の裁き、歪んだ陰謀、すれ違う選択――すべてが彼女を破滅へ導いていく。 そして迎えた、ある死に戻り。 目覚めたシロは、人間の姿へと変わっていた。 人間に転生した時、新たに得た特殊能力『因果の微修正』。 それは、世界の流れを大きく変えることはできない代わりに、ほんのわずかな“ズレ”を生み出す力だった。 使い魔ではなく、ひとりの人間として。 友人として彼女の隣に立つことを選んだシロは、これまでの世界線では存在しなかった出会いを重ねていく。 誇り高き騎士団、現実主義の冒険者ギルド、そして運命に翻弄される人々――。 小さな選択の積み重ねが、やがて未来の形を変えていくと信じて。 駆け出し錬金術士は、いつしか冒険者としても名を知られる存在へ。 だが、どれほど日常が輝いても、処刑の日は確実に近づいていた。 これは、何度失敗しても諦めない使い魔と、まだ運命を知らない錬金術士の物語。 最悪の未来を書き換えるための、錬金術士の使い魔が紡ぐやり直しファンタジーです。 イラストは全て生成AIです。

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

処理中です...