獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
158 / 372
本編

ホロホロ採集

しおりを挟む
 ホロホロの群生地を見つけてから半月後の満月の日。この日は街中が俄かにザワついていました。何故ならホロホロの匂いが強く香っていたからです。
 鼻の良いモンスター達がムズムズする鼻を擦っては苦笑いで話しています。

 『あー、この時期が来たかー』
 『っくしゅ!俺、ホロホっくし!の花粉しょっくしょ!だから苦手なんだよなっくしっ!あ~~~……』
 『うわまぢか!大変だな~』

 どうやら薬を作らないモンスターにとって、ホロホロは季節の風物詩らしいです。そこらかしこで『ぐしぐし』と葉っぱで鼻をかんでいます。月明かりが照らす夜の街。
 いつもは仕事終わりに一杯引っ掛けて行くモンスター達も、この日はそそくさと帰って行くので閑散としていました。
 そんな街中の一幕を知らず、三巳達は準備万端で森に来ていました。

 「木々の隙間から青い光が漏れています……!」

 初めましてなハンナが興奮しています。それもそうでしょう。夜闇の中、生い茂る草木の隙間から伸びる放射線状の光が、幻想的に彩っているのですから。

 「懐かしいわ。あの日、ロキ医師に連れて行って貰った時もこんな風に素敵な光景だった」

 サクサクと葉を揺らし、踏み締め進めば光源は強く確かなものになっていきます。そしてその様子は一年前の記憶と重なり、思い出を呼び覚ましました。

 ―――「そぉれご覧。ホロホロの花が青く咲き誇って綺麗じゃろう」―――

 孤児みなしごになってしまったリリに、優しく手を差し伸べ家族に迎え入れてくれた人。好々爺としたその温かな笑みが冷えた心の芯を包み込んでくれた。そして沢山の事を教え導いてくれたその最高峰を今でも鮮明に思い出せます。

 「ロキ医師……ううん、お義祖父じい様。私、頑張るわ」

 光に導かれ、辿り着いたその空間。森の中程にポッカリと空いた一面が、頂点に差し掛かろうかという丸い月の光に応えるように、天まで届かんばかりに青く光り輝いていました。
 そう、一年前のあの日の様に。



 ~リリの回想~

 「……」

 言葉も出ない。
 本当にそんな事が自分の身に起こるとは思わなかったわ。

 「ほっほっ、どうやら気に入って貰えた様じゃのう」

 目を細めて皺を深く笑うロキ医師。けれどもいつもの落ち着かせてくれるその笑みも、目の前の光景を前に振り返り見る事は出来なかった。
 空の月明かりと、地上のホロホロの花の光が交差して、まるで光の精霊が舞い降り踊っている様。

 「さて、時間は有限じゃよ」

 口をぱかりと開けたまま惚けていたなんて、はしたなかったわ。ロキ医師に声を掛けて貰えなければきっとそのままだった。だってそれ位素敵なんだもの。

 「おいで、リリや」

 呼ばれて、腰を落としたロキ医師の横に私も腰を落とす。そうするとホロホロの花がより近く花開いていて、また惚けてしまう。

 「ホロホロは繊細じゃ。特に光る夜はのう。じゃから傷は最小限に、採取した後も切り口を保護してやらねばならん」

 言われた言葉は一つも残さず頭に残す。その勢いでロキ医師の手元を見逃さない様に凝視した。

 「ほれ、ここに触れてご覧」

 言われた箇所にそっと触れてみると、指先に返る確かな熱量。

 「あたたかい……?」

 茎の中程、枝葉が生える付け根、少し膨らんだその場所が仄かに熱を帯びていた。これが夏の盛りからあるのだとしたら、きっと暑さで辛くなりそうね。

 「うむ、夜風が冷え始めた今頃じゃと少し心地良い暖かさじゃろう」

 思うと同じ位に言われ、目を瞬かせる。ロキ医師には私の考えがお見通しね。患者さんとのやり取りも、相手の行動の先を読んで牽制するから凄いわ。

 「今触れた場所は花を光らせる大事な部分じゃ。傷付けん様にして、その下を斜めに切り取るんじゃ。決して毟り採ってはならんぞい。その瞬間、花は光るのを止めて効能はマイナスに働くからのぅ」

 言いながら採取用のナイフで手本を見せてくれる。
 その様子を一つも逃さない様に留意してコクコクと頷いた。

 「どれ、やってご覧」
 「はいっ」

 何度か失敗を繰り返して、それでも何度も優しく教えてくれた私の大切なロキ医師お養祖父様
 大丈夫、不安は無いわ。いっぱい教わったもの。

 今はもう、一人でも出来る……!

 誇らしい思い出を抱いたリリは、ロキ医師に旅路の選別に貰ったナイフを胸の前で握り締め、燦然と輝く花々にキリッとした目を向けるのでした。
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

犬の散歩中に異世界召喚されました

おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。 何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。 カミサマの許可はもらいました。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

幸福なる侯爵夫人のお話

重田いの
ファンタジー
とある侯爵家に嫁いだ伯爵令嬢。 初夜の場で、夫は「きみを愛することはない」というけれど。 最終的にすべてを手にした侯爵夫人のお話。 あるいは、負い目のある伯爵令嬢をお飾りの妻にして愛人とイチャイチャ過ごそうと思ったらとんでもないハズレくじを引いちゃった侯爵のお話。

処理中です...