獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
163 / 372
本編

打ち明ける

しおりを挟む
 リリがロキ医師の元に帰って来ました。
 久し振りに見る診療所は、一年しか過ごしていなかった筈なのに帰って来たという思いがしました。

 「おかえりリリや」

 相変わらず閑古鳥が鳴いている診療所の中から、ロキ医師がニッコリと笑みを深めて出て来ました。
 皺だらけの手を広げてリリを優しく迎え入れるロキ医師に、リリはリファラで張り詰めていた気が一気に抜けました。そしてその胸に寄り添い抱き締めます。

 「ただいま。お義祖父様」

 リリがそう言うと、ロキ医師は目を見開きます。そして目尻を柔和に下げ、頑張ったリリの背中を労る様にポンポンと叩きました。初めて祖父と呼んで貰えてとっても嬉しい気持ちでいっぱいです。
 目に涙を浮かべるリリを、ハンナは複雑な、けれどもホッとした穏やかな笑みで見守っています。

 「おや、お客様とは珍しいのう。どうれリリや、新しいお友達を紹介してくれんかのう」

 ロキ医師がハンカチを取り出し目尻に浮かんだ涙を拭っていたハンナに気付きました。
 話を振られたハンナは姿勢を正します。そしてゆっくりと頭を下げました。

 「お義祖父様、この人はハンナ。血は繋がっていないけれど私のお姉様みたいなひとなの。
 ハンナ、この人がロキ医師よ」

 リリにお姉様と紹介されたハンナは、頭を下げたまま目を見開きます。そう思って貰えていた事に、そしてそう紹介してくれた事がとっても嬉しかったのです。

 「ハンナと申します」
 「ようこそハンナ、わしはロキ爺じゃよ。さあさ、立ち話もなんだから中にお入りなさいよ」

 ロキ医師はハンナの頭を上げさせて、リリとハンナの背に手を当てて中に促しました。

 「三巳もネルビーもおかえり。一緒に中でお茶を飲もう」
 「たっだいまー♪」
 『ただいまだぞ!』

 ロキ医師のリビングで茶卓を囲んで一休み。三巳は久し振りの縁側で、美女母とクロに囲まれてご満悦です。
 茶卓にはリリとハンナが並んで座り、リリの足元でネルビーが丸くなっています。その前にロキ医師が湯呑みにお茶を入れています。
 その様子を見つめながら、リリは決心していました。

 「お義祖父様にお話したい事があります」

 改まった物言いに、ロキ医師は好々爺とした片眉を「ふむ」と上げました。

 「そうじゃの。リリの話ならいっぱい聞きたいのう」

 ホケホケ笑ってお茶を配ったら、居住まいを正して聞く姿勢になりました。
 ハンナは心配な顔でリリを見つめます。
 リリはそれに晴れやかな笑みで返しました。

 「私の事。故郷の事。何があって、何をして来たのか、お義祖父様に聞いて欲しいの」
 「うんうん、聞かせておくれ」

 何処までも穏やかに構えるロキ医師に、リリは安心して過去の出来事を話し始めました。
 ずっと話せなかった心のわだかまり。騙していた訳ではないけれど、ずっと申し訳なく思っていました。
 故郷の人々にとてもとても酷い苦行を強いてしまった事を、苦しい思いを飲み込んで話します。だって本当に苦しかったのはリファラの民だと思うからです。
 力も知識も無い逃げる事しか出来たなかった幼かった自分を悔いて、恥じて。けれども三巳と山の民達のお陰で前を向いて向き合って、学んで力をつける事が出来ました。
 そして教わった全てを惜しみなく発揮し、救えるだけの多くの人々に今度こそ力を尽くせた事を、やっと、ロキ医師に話せる様になったのでした。
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

みんなが嬉しい婚約破棄

あんど もあ
ファンタジー
王子の婚約破棄宣言を皆が待っていた!、というコメディ。

犬の散歩中に異世界召喚されました

おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。 何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。 カミサマの許可はもらいました。

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

幸福なる侯爵夫人のお話

重田いの
ファンタジー
とある侯爵家に嫁いだ伯爵令嬢。 初夜の場で、夫は「きみを愛することはない」というけれど。 最終的にすべてを手にした侯爵夫人のお話。 あるいは、負い目のある伯爵令嬢をお飾りの妻にして愛人とイチャイチャ過ごそうと思ったらとんでもないハズレくじを引いちゃった侯爵のお話。

処理中です...