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四月のお菓子作り
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俺と四月は、先輩にお菓子サプライズをする為に、スーパーに買い物に来ていた。
「さてと、材料はこんなもんでいいかな~」
「結構買うんだな。ホットケーキミックスでいいんじゃないねーか?」
「ノンノンノン、ホットケーキミックスでクッキーを作るのはご法度だよ!」
得意げになりながら、俺に言ってくる四月。
何かこいつを、とてつもなく殴りたい・・・。
別にいいじゃねーか、それくらい。
現に作り方載ってるし。
そんなこんなで、俺と四月は学校帰りにスーパに寄っていた。
理由は勿論、四月が『先輩の為に手作りクッキーを作ろう大作戦』を思いついたから、その材料の買い出しだ。
あ? 作戦名が違うって?
うっせ、あんなダサいの却下だ、却下。
「なんか言い方がムカつくから帰っていいか?」
「嘘だよごめんなさい謝るから!」
俺が帰ろうとすると、すぐ謝るよな、こいつ。
変に煽られるよりはいいけどな。
「ってかそもそも俺いる意味あんのか? お菓子作りは自信あるんだろ?」
「それでも一応、感想は欲しいもん。如月くんは相変わらず分かってないな~!」
「そんな四月も相変わらずムカつく野郎だな。そんなのお前の友達とかに頼めばいいんじゃねーか?」
すると四月は、急に寂しげな表情になった。
もしや、友達との関係が上手くいってなかったりするのだろうか?
「・・・みんなにはバレたくないの」
俯きながら小さくそう呟く四月。
一体、何があったと言うのだろうか?
「何かあったのか? 俺でよければ話聞くぞ?」
俺は、自分なりの精一杯の優しい声で四月にそう言った。
何だかんだ、四月とはそれなりに絡んで入るから、普段は能天気でポンコツな四月でも、落ち込んでいるなら多少なりは気になる。
本当に、多少はな。
直接的な解決には至らないにしても、吐き出すことで自分自身の気持ちが軽くなることもあるだろう。
そう言った意味を含めて、俺は四月に声をかけた。
「おかしい。如月くんが私に優しいなんて・・・。目的は何? お金? 身体? それとも私?」
「少しは心配した俺の気持ちを返してくれ・・・」
心配してやったと言えば横暴になるが、俺の予想とは反する返答に、俺はやっぱりポンコツはポンコツなんだなと再確認した。
それに、何だよそれ。
イチャコラ王道の三択のはずなのに、これは不穏な空気しか流れてねーよ。
「怪しいな・・・」
「お前、張り倒すぞ・・・?」
「お、押し倒す!? やっぱり私に絡んできたのは、身体が目的で・・・」
「お前1回耳鼻科行ってこい」
「私、耳はいい方なんだけど!」
「なら問題は頭だな。脳外科行ってこい」
「むぅ! 如月くんのバカ! アホ! 変態! 男!」
「男は別に悪口じゃねーだろ・・・」
そんなこんなで買うものは決まったらしく、俺と四月はレジへ向かう事にした。
夕方って事もあり、レジは少し混んでいた。
四月の番が来るまで、俺は隣でスマホをいじっていた。
「・・・え? うそ・・・」
隣の四月が、何やら慌てていた。
「どうかしたか?」
「いや、なんでもない・・・」
何でもないなら、別に気にすることもないな。
俺はまた、再度スマホに視線を戻した。
「・・・き、如月くんって・・・結構男前な所あるよね!?」
「は?」
いきなり、四月がそんな事を言ってきた。
つい先程、俺に罵声を浴びせてきた奴とは思えない程の手の平返しだった。
「ほら! なんかこう・・・カッコいい? みたいな感じで~、そこはかとなくイケメン? 的な感じ?」
「なんで疑問形なんだよ。なんか隠してるだろ? 吐け」
四月が急にこんな事を言ってくるのはおかしい。
何か隠しているだろうと思い、四月を問い詰める。
「・・・さ、財布を忘れました・・・」
「本当、お前ってバカだな・・・」
今回の材料費は、代わりに俺が払いました。
・
「は? 何で俺の家なんだよ?」
「私の家だと、お母さんがめんどくさいんだもん。絶対如月くんとの関係根掘り葉掘り聞いてくるし、お菓子作り所じゃなくなるもん」
「いや、俺の親だってそうなるからな? 四月だって普通に黙ってりゃ可愛い方だと思うし」
「黙ってりゃ可愛いって酷くない!?」
頬を膨らませながら抗議してくる四月を黙らせるべく、俺はある言葉を呟く事にした。
「2000円」
「うぅぅ・・・」
俺は、今回の作戦でかかる費用を四月の代わりに立て替えたのだ。
何故ならこのバカは、財布を家に忘れるという失態を犯したからだ。
本当に忘れたのかは定かではないが、こいつはそんなあざとく器用な事は出来ないだろうから、本当なんだろうな。
「本当に、俺の家でやるのか?」
「うん! お邪魔しまーっす!」
「・・・お前、一応は自分が女の子だって自覚しろよな」
「え? なんで?」
「だって男の家に上がるって事だぞ? 変な事考えてる奴だった以上、終了になりかねないぞ」
俺は四月に注意したつもりだったが、こいつは俺の事を目を細めながら見てきやがった。
「如月くんはそんな事するような人じゃないでしょ?」
「俺はそうだが、やたら野郎の家に行くとか言うなって話だ」
「大丈夫だよ! 私、こう見えてもかなりガードは固いから! それに私だってちゃんと人は選ぶもん!」
果たして本当に大丈夫なのだろうか?
だがしかし、四月も四月でちゃんと人は選ぶと言っているって事は、少しは他の人より信用はされてるって解釈してもいいのだろうか?
めちゃくちゃに嬉しいって訳でもないが、信用されてるに越した事はないし、素直に嬉しい気持ちはあった。
「如月くんはヘタレそうだし!」
前言奪回。
信用とか信頼とか、そんな事は一切なかった。
よし、このまま一人で家に帰ろう。
うん、何事も無かった、誰も何も見ていなかった。
いいね?
「悪い、どうしても外せない野暮用思い出したから帰るわ」
「ごめんなさい調子に乗りましたすみません~・・・」
そういって涙目になりながら俺に抱きついてくる四月。
一体、どこがガードが固いんだよ・・・。
「わ、分かったから離れろっての・・・」
俺は四月を無理やり引き剥がし、その足で俺の家へと向かう。
・
俺と四月は、無事に俺の家までたどり着いた。
「ここが如月くんの家なんだ。結構大きいね」
「そうか? 普通の大きさだろ」
ピンポーン
すると、俺の隣で四月がインターホンを押した。
「何してんの、お前?」
「家に来た時はインターホン鳴らすでしょ?」
「家の人を呼ぶ為にな。ここの住人横に居るんだけど?」
「あ。そっか! 早くいってよ~。如月くんのいじわる~」
毎度毎度そうだが、本当にこいつはポンコツだ。
俺は盛大なため息をつきながら、鞄から家の鍵を取り出す。
「お邪魔します!」
元気良くそう挨拶をして、俺の家に上り込む四月。
ほう、しっかり脱いだ後の靴は揃えるんだな。
少し見直したな。
そのままキッチンへと四月を案内する。
「あれ? 如月くんお母さんはいないの?」
「ん? ああ、いないよ」
「共働きとか?」
「いや、俺が産まれてすぐに死んだらしい。だから今は父親と2人暮らしだよ」
「・・・そっか、なんかごめんね」
「別に四月が謝る事じゃないだろ。それに、特に思い出とかがあった訳でもないし、特別寂しいって事でもないから気にすんな」
俺は四月にそう言いながら、頭を撫でてやった。
こいつの寂しそうな表情はあまり見たくないと思っているから、いつもの底抜けに明るい四月に戻ってもらいたいと思った。
「とりあえず、帰りが遅くならないように早めに作った方がいいんじゃないか?」
「そ、そうだね! 私、頑張っちゃうから!」
よし、無理やりではあるが、明るい四月に戻りつつあるな。
そして間も無く、四月はお菓子作りを始めた。
お菓子作りは得意と自分で言っていただけの事はあるな。
手際は、やはりとても良いと感じた。
人は見かけによらないと、始めて感じた瞬間かも知れない。
これをGAP萌えとでも言うのだろうか?
いや、萌えてはいないな。
ずっと見ているのも気が散ると思い、俺はソファーに座りスマホをいじる事にした。
「ねぇ、何見てるの?」
ソファーの後ろから、四月が身を乗り出して俺に聞いてくる。
さりげなく肩を掴むんじゃない。
思わずドキッとしただろうが・・・。
「別に大したもんじゃねーよ」
「えっちな動画とか見てたんじゃないの~? えいっ! えいっ!」
そう言いながら、俺の頬を数回突いてくる四月。
無邪気に笑いながらしてくるが、中々に破壊力はあるな。
「お前が家に居るのに、そんなの見る訳ねーだろ。それより、もうクッキーの方はいいのか?」
俺は照れてるのを悟られぬ様に、四月にクッキーの話題を振った。
「うん! 後は焼けるのを待つだけだから、それまで暇なんだよー」
「そうなのか、適当にくつろいどけ」
「分かった! うぁ~疲れたぁ~!」
俺はそのまま、スマホに視線を落とす。
それ以降、四月も俺には何もしてこなかった。
しばらく経ち、キッチンでオーブンが音を鳴らしていた。
恐らく、タイマーセットの時間が来たのだろう。
「おい四月、タイマー鳴った・・・」
俺は四月に声をかけたが、気持ち良さそうに眠っている四月を見て、それ以上言葉をかけるのをやめた。
「ったく。しゃーねーな」
俺はそのままキッチンまで行き、ミトンを付けオーブンからクッキーを取り出す事にした。
ハート型やら星型やらのクッキーが、ずらりと並べられていた。
綺麗な小麦色の焼き加減に香ばしい匂いが、俺の食欲を誘った。
俺は、1番小さめの星型のクッキーを1つ食べて見る事にした。
「あっつ・・・!」
そりゃ焼きたてだから、熱いだろうな。
少し息を吹きかけて冷ます。
再度、クッキーを口に運んだ。
食べてみた感想は、シンプルに美味しかった。
特別に美味しい訳ではないが、普通に美味しかった。
もう1個に手を伸ばそうとしたが、次に手を出せば止められなくなると思い手をつけるのをやめた。
そもそもこれは俺の為に作った訳じゃない。
四月が、あの先輩の為に作ったものだ。
味見用なら、1つで充分だろう。
俺はそのまま、四月の眠っているソファーへと戻った。
「ったく、無防備過ぎやしねーか? まあ、寝顔は悪くねぇな」
幸せな夢でも見ているのだろうか?
微笑みながら眠っている四月の頭を、優しく撫でた。
「クッキー、美味しかったぞ」
四月は未だ眠ってたままだったが、俺の言葉を聞いた後、微かに微笑んだ様な気がした。
「さてと、材料はこんなもんでいいかな~」
「結構買うんだな。ホットケーキミックスでいいんじゃないねーか?」
「ノンノンノン、ホットケーキミックスでクッキーを作るのはご法度だよ!」
得意げになりながら、俺に言ってくる四月。
何かこいつを、とてつもなく殴りたい・・・。
別にいいじゃねーか、それくらい。
現に作り方載ってるし。
そんなこんなで、俺と四月は学校帰りにスーパに寄っていた。
理由は勿論、四月が『先輩の為に手作りクッキーを作ろう大作戦』を思いついたから、その材料の買い出しだ。
あ? 作戦名が違うって?
うっせ、あんなダサいの却下だ、却下。
「なんか言い方がムカつくから帰っていいか?」
「嘘だよごめんなさい謝るから!」
俺が帰ろうとすると、すぐ謝るよな、こいつ。
変に煽られるよりはいいけどな。
「ってかそもそも俺いる意味あんのか? お菓子作りは自信あるんだろ?」
「それでも一応、感想は欲しいもん。如月くんは相変わらず分かってないな~!」
「そんな四月も相変わらずムカつく野郎だな。そんなのお前の友達とかに頼めばいいんじゃねーか?」
すると四月は、急に寂しげな表情になった。
もしや、友達との関係が上手くいってなかったりするのだろうか?
「・・・みんなにはバレたくないの」
俯きながら小さくそう呟く四月。
一体、何があったと言うのだろうか?
「何かあったのか? 俺でよければ話聞くぞ?」
俺は、自分なりの精一杯の優しい声で四月にそう言った。
何だかんだ、四月とはそれなりに絡んで入るから、普段は能天気でポンコツな四月でも、落ち込んでいるなら多少なりは気になる。
本当に、多少はな。
直接的な解決には至らないにしても、吐き出すことで自分自身の気持ちが軽くなることもあるだろう。
そう言った意味を含めて、俺は四月に声をかけた。
「おかしい。如月くんが私に優しいなんて・・・。目的は何? お金? 身体? それとも私?」
「少しは心配した俺の気持ちを返してくれ・・・」
心配してやったと言えば横暴になるが、俺の予想とは反する返答に、俺はやっぱりポンコツはポンコツなんだなと再確認した。
それに、何だよそれ。
イチャコラ王道の三択のはずなのに、これは不穏な空気しか流れてねーよ。
「怪しいな・・・」
「お前、張り倒すぞ・・・?」
「お、押し倒す!? やっぱり私に絡んできたのは、身体が目的で・・・」
「お前1回耳鼻科行ってこい」
「私、耳はいい方なんだけど!」
「なら問題は頭だな。脳外科行ってこい」
「むぅ! 如月くんのバカ! アホ! 変態! 男!」
「男は別に悪口じゃねーだろ・・・」
そんなこんなで買うものは決まったらしく、俺と四月はレジへ向かう事にした。
夕方って事もあり、レジは少し混んでいた。
四月の番が来るまで、俺は隣でスマホをいじっていた。
「・・・え? うそ・・・」
隣の四月が、何やら慌てていた。
「どうかしたか?」
「いや、なんでもない・・・」
何でもないなら、別に気にすることもないな。
俺はまた、再度スマホに視線を戻した。
「・・・き、如月くんって・・・結構男前な所あるよね!?」
「は?」
いきなり、四月がそんな事を言ってきた。
つい先程、俺に罵声を浴びせてきた奴とは思えない程の手の平返しだった。
「ほら! なんかこう・・・カッコいい? みたいな感じで~、そこはかとなくイケメン? 的な感じ?」
「なんで疑問形なんだよ。なんか隠してるだろ? 吐け」
四月が急にこんな事を言ってくるのはおかしい。
何か隠しているだろうと思い、四月を問い詰める。
「・・・さ、財布を忘れました・・・」
「本当、お前ってバカだな・・・」
今回の材料費は、代わりに俺が払いました。
・
「は? 何で俺の家なんだよ?」
「私の家だと、お母さんがめんどくさいんだもん。絶対如月くんとの関係根掘り葉掘り聞いてくるし、お菓子作り所じゃなくなるもん」
「いや、俺の親だってそうなるからな? 四月だって普通に黙ってりゃ可愛い方だと思うし」
「黙ってりゃ可愛いって酷くない!?」
頬を膨らませながら抗議してくる四月を黙らせるべく、俺はある言葉を呟く事にした。
「2000円」
「うぅぅ・・・」
俺は、今回の作戦でかかる費用を四月の代わりに立て替えたのだ。
何故ならこのバカは、財布を家に忘れるという失態を犯したからだ。
本当に忘れたのかは定かではないが、こいつはそんなあざとく器用な事は出来ないだろうから、本当なんだろうな。
「本当に、俺の家でやるのか?」
「うん! お邪魔しまーっす!」
「・・・お前、一応は自分が女の子だって自覚しろよな」
「え? なんで?」
「だって男の家に上がるって事だぞ? 変な事考えてる奴だった以上、終了になりかねないぞ」
俺は四月に注意したつもりだったが、こいつは俺の事を目を細めながら見てきやがった。
「如月くんはそんな事するような人じゃないでしょ?」
「俺はそうだが、やたら野郎の家に行くとか言うなって話だ」
「大丈夫だよ! 私、こう見えてもかなりガードは固いから! それに私だってちゃんと人は選ぶもん!」
果たして本当に大丈夫なのだろうか?
だがしかし、四月も四月でちゃんと人は選ぶと言っているって事は、少しは他の人より信用はされてるって解釈してもいいのだろうか?
めちゃくちゃに嬉しいって訳でもないが、信用されてるに越した事はないし、素直に嬉しい気持ちはあった。
「如月くんはヘタレそうだし!」
前言奪回。
信用とか信頼とか、そんな事は一切なかった。
よし、このまま一人で家に帰ろう。
うん、何事も無かった、誰も何も見ていなかった。
いいね?
「悪い、どうしても外せない野暮用思い出したから帰るわ」
「ごめんなさい調子に乗りましたすみません~・・・」
そういって涙目になりながら俺に抱きついてくる四月。
一体、どこがガードが固いんだよ・・・。
「わ、分かったから離れろっての・・・」
俺は四月を無理やり引き剥がし、その足で俺の家へと向かう。
・
俺と四月は、無事に俺の家までたどり着いた。
「ここが如月くんの家なんだ。結構大きいね」
「そうか? 普通の大きさだろ」
ピンポーン
すると、俺の隣で四月がインターホンを押した。
「何してんの、お前?」
「家に来た時はインターホン鳴らすでしょ?」
「家の人を呼ぶ為にな。ここの住人横に居るんだけど?」
「あ。そっか! 早くいってよ~。如月くんのいじわる~」
毎度毎度そうだが、本当にこいつはポンコツだ。
俺は盛大なため息をつきながら、鞄から家の鍵を取り出す。
「お邪魔します!」
元気良くそう挨拶をして、俺の家に上り込む四月。
ほう、しっかり脱いだ後の靴は揃えるんだな。
少し見直したな。
そのままキッチンへと四月を案内する。
「あれ? 如月くんお母さんはいないの?」
「ん? ああ、いないよ」
「共働きとか?」
「いや、俺が産まれてすぐに死んだらしい。だから今は父親と2人暮らしだよ」
「・・・そっか、なんかごめんね」
「別に四月が謝る事じゃないだろ。それに、特に思い出とかがあった訳でもないし、特別寂しいって事でもないから気にすんな」
俺は四月にそう言いながら、頭を撫でてやった。
こいつの寂しそうな表情はあまり見たくないと思っているから、いつもの底抜けに明るい四月に戻ってもらいたいと思った。
「とりあえず、帰りが遅くならないように早めに作った方がいいんじゃないか?」
「そ、そうだね! 私、頑張っちゃうから!」
よし、無理やりではあるが、明るい四月に戻りつつあるな。
そして間も無く、四月はお菓子作りを始めた。
お菓子作りは得意と自分で言っていただけの事はあるな。
手際は、やはりとても良いと感じた。
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いや、萌えてはいないな。
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「ねぇ、何見てるの?」
ソファーの後ろから、四月が身を乗り出して俺に聞いてくる。
さりげなく肩を掴むんじゃない。
思わずドキッとしただろうが・・・。
「別に大したもんじゃねーよ」
「えっちな動画とか見てたんじゃないの~? えいっ! えいっ!」
そう言いながら、俺の頬を数回突いてくる四月。
無邪気に笑いながらしてくるが、中々に破壊力はあるな。
「お前が家に居るのに、そんなの見る訳ねーだろ。それより、もうクッキーの方はいいのか?」
俺は照れてるのを悟られぬ様に、四月にクッキーの話題を振った。
「うん! 後は焼けるのを待つだけだから、それまで暇なんだよー」
「そうなのか、適当にくつろいどけ」
「分かった! うぁ~疲れたぁ~!」
俺はそのまま、スマホに視線を落とす。
それ以降、四月も俺には何もしてこなかった。
しばらく経ち、キッチンでオーブンが音を鳴らしていた。
恐らく、タイマーセットの時間が来たのだろう。
「おい四月、タイマー鳴った・・・」
俺は四月に声をかけたが、気持ち良さそうに眠っている四月を見て、それ以上言葉をかけるのをやめた。
「ったく。しゃーねーな」
俺はそのままキッチンまで行き、ミトンを付けオーブンからクッキーを取り出す事にした。
ハート型やら星型やらのクッキーが、ずらりと並べられていた。
綺麗な小麦色の焼き加減に香ばしい匂いが、俺の食欲を誘った。
俺は、1番小さめの星型のクッキーを1つ食べて見る事にした。
「あっつ・・・!」
そりゃ焼きたてだから、熱いだろうな。
少し息を吹きかけて冷ます。
再度、クッキーを口に運んだ。
食べてみた感想は、シンプルに美味しかった。
特別に美味しい訳ではないが、普通に美味しかった。
もう1個に手を伸ばそうとしたが、次に手を出せば止められなくなると思い手をつけるのをやめた。
そもそもこれは俺の為に作った訳じゃない。
四月が、あの先輩の為に作ったものだ。
味見用なら、1つで充分だろう。
俺はそのまま、四月の眠っているソファーへと戻った。
「ったく、無防備過ぎやしねーか? まあ、寝顔は悪くねぇな」
幸せな夢でも見ているのだろうか?
微笑みながら眠っている四月の頭を、優しく撫でた。
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