恋愛相談から始まる恋物語

菜の花

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四月なりの温かさ

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「あぁ・・・だりぃ・・・」

体温計を見ると、そこには37.6℃の表示で音が鳴っていた。

そう、俺は風邪を引いて寝込んでいた。

あまり大した表示にも見えないが、平熱が低いからこれだけでもしんどいんだよ。

俺はベッドに横になった。

そういえば、四月はクッキーをちゃんと渡せたのだろうか?

昨日は、そのままラッピングを済ませ、ウキウキルンルンな感じでスキップしながら帰っていたが。

今日は、四月からは何も連絡がきていない。

成功し、上手く渡せていて話が弾んでいればいいが。

時間も既に、夕方の16時を回っていた。
 
「さてと、もう一眠りするか」

そう思い、布団をかけた時だった。


ピンポーン


俺の家の呼び鈴が鳴った。

一体、誰だろうか?

父親なら、この時間に帰ってくるはずがない。

もし仮に帰ってきたとしても、家の鍵は持っているはずだ。

俺は重い身体を起こし、玄関へと向かった。

「はいはい、新聞ならお断り・・・って、四月?」

そこには、今頃楽しく先輩と雑談中であろう、四月の姿があった。

だが、その姿はお世辞にも明るいとはいえないものだった。

「・・・入っていいかな?」

「俺、風邪引いてるんだけど」

「・・・お邪魔します」

俺の言葉を聞いてなかったのか、それともあえてスルーしたのかは知らないが、四月はそのまま俯いたまま、俺の横を通り抜けて家の中へと上がって行った。

「・・・人の話聞けっての」

なにが何だか訳が分からず、俺は頭をくしゃくしゃにかきながら四月の後を追った。

リビングに行くと、昨日スヤスヤと眠っていたソファーに膝を立てて、俯いている四月。

小さめだが、すすり泣く声も聞こえてきた。

これはあれだな・・・。もしかしなくても失敗したんだろうな。

「一応聞くが、どうした?」

「・・・かった」

声が小さくて聞き取れなかった。

かった? 何か買ったのか?

「わるい、聞き取れなかったから、もう一度言ってくれ」

「・・・先輩に、渡せなかった」

「ほう。それはどうしてだ?」

すると四月は、体制はそのままで左手だけを動かして自分の鞄を弄る。

そしてそれを、そのまま鞄の上に置いた。

それは、昨日四月が鼻歌を歌いながら丁寧にラッピングしていた、クッキーだった。

だが、俺が昨日見た形とはだいぶ変わっていた。

袋には泥の様な物が付いていて、クッキーも所々砕けていた。

ハートの形のクッキーなんか、悪魔のイタズラかの様に全てが真ん中で割れていた。

どうしたらこんな事になるんだ?

もしかして、先輩に渡したら目の前で踏まれたとか?

いや、あの先輩はそんな事はしないだろう。

「・・・何があったんだ?」

「・・・・・」

四月は俯いたまま、答えようとしない。

その後もしばらく待ってみたが、返答はこなかった。

俺は席を立ち、台所へ向かった。

冷蔵庫から、ペットボトルに入ったミルクティーをコップを注ぎ、再度上原の元へと戻る。

「ミルクティー置いとくから、喉乾いたら飲め」

自分の分も用意していたので、一口を口に含む。

口の中全体が、甘い味で満たされていくのが分かった。

すると、四月がテーブルの上に置いてあったコップに手を伸ばした。

そして、ミルクティーをちびちびと飲み始めた。

やはら泣いていたからか、目元は赤く腫れていて、まだ涙が溜まっていた。

「・・・先輩に渡そうとしたけど・・・タイミングとか分からなくて」

「・・・如月くん、風邪で休んだって聞いたから、他に頼れる人いなくて・・・」

「今ならいけるって思って声かけようとしたけど、途中で野球部の人とぶつかっちゃって・・・」

「クッキーね・・・踏まれちゃった・・・」

短く言葉を紡いでいき、最後の言葉をいい終わると、四月はまた膝を抱えて泣き出してしまった。

「・・・せっかぐ作ったのに、如月くんも手伝ってぐれたのに・・・ごめんなざい・・・」

俯きながら、謝罪の言葉を口に出す四月。

別にお前が悪い訳じゃないだろうに。

そんなもん、不慮の事故だろうが。

俺は、鞄の上に置かれた、粉々になったクッキーの袋を手に取った。

ラッピングを丁寧に解き、袋の中からクッキーを取り出して口に運ぶ。

「・・・やっぱりうめーわ。このクッキー」

すると四月は、俯いていた顔を上げて俺を見ると、目を見開いて驚いていた。

「そんな踏まれたクッキーなんか、汚いよ・・・」

「汚いわけあるか、袋に入ってたんだし、問題ねーよ」

そのまま一口、また一口とクッキーを口に運んでいく。

そしてあっという間に食べ終わってしまった。

「美味しかった、ごちそうさま」

「・・・なんで食べたの?」

未だに信じられないといった様子で、四月が聞いてくる。

なんで食べたのかって? そんなの理由は1つしかねーだろ。

「あ? 美味いからに決まってるだろ」

俺の記憶に残ってる中で、1番なんじゃねーかな?

これといって特別美味しい訳じゃないが、安定しているというか、安心するというか。

また食べたくなる様な、味だったのだ。

「それに、このクッキーはまた食べたいと思ってたからな。俺は、あくまで毒味係だから全然食べられなかったけど、こんな形でも食べれたから良かったわ!」

俺が明るくそう言うと、四月は、再度鞄を漁り始めた。

そして四月が俺に渡してきたものは、同じく丁寧にラッピングされたクッキーだった。

こちらは粉々に砕けてはなく、原型をとどめていた。

「あ? なんだこれ?」

「クッキー・・・」

「それは分かってる。俺にって事か?」

「うん・・・」

まさか、俺の分も取っておいてくれてるとは思わなくて、正直びっくりした。

ん?待てよ?

「だったら、こっち渡せば良かったんじゃないか?」

考えれば直ぐに分かる事だった。

普段からポンコツかましてる四月の事だから、気がつかなかったのだろう。

そのセリフを聞いてハッと驚いた表情を・・・していなかった。

四月は相変わらず、暗い表情をしていた。

「だってこれ、如月くんの為に取っておいたから・・・」

そのセリフを聞いた瞬間、俺の心の奥が温かくなっていくのを感じた。

本当、このバカときたら・・・。

お前は前だけ見てればいいんだよ。

俺なんか気にしないでな。

でも、四月の気持ちは素直にとても嬉しかった。

「緊急事態の時なら、俺に気使わなくていいからな。でも、ありがとうな!」

俺は、四月の頭をくしゃくしゃに撫でてやった。

四月はそのまま、黙ってされるがままだった。

もう、四月の目には、涙は溜まっていなかった。

「ま、クッキーくらいならまた作ればいいんじゃねーか? 調理場なら貸してやるからよ」

「・・・うん。ありがとうね、如月くん!」

そして、やっと俺の前で笑ってくれた。

そうだよ、お前はそうやって、笑顔で底抜けに明るいバカでいればいいんだよ。

「あ、そうだ。如月くん、お金・・・」

思い出したかの様に四月は言って、財布からお札を2枚出してきた。

だが、俺はそれを受け取らなかった。

「今回はクッキーの味に免じて、俺の奢りでいいぞ」

俺は決めた顔でそう言った。

だが、四月は耐えきれなくなってしまったのか、笑ってしまった。

「あはははは! 如月くんもぉ~なに~!?」

「あ? 悪いかよ?」

「カッコつかないんだから、カッコつけなくていいんだよ!」

「一言余計だ、バカ」

軽口を叩けるくらいには元気になった様で、とりあえず安心した。

さて、またこのクッキーを食べられる機会が来るのは楽しみだな。

「でも本当、それ渡せば良かったのにな」

「渡せないよ。だってあれ、失敗作の方だもん。少し焦げちゃったりしてね」

あ、そう言うことね。

失敗作だから、俺用だったって事ね・・・。

「・・・さっき感動した俺の気持ちを返せよ」

テンションが下がった俺とは真逆に、吹っ切れた様にテンションが高くなる四月。

本当、調子いい奴だよな。

「よぉ~し!! 今度こそクッキー大作戦成功させよー! えい、えい、おー!」

「・・・・・・」

「そこはノってよぉ・・・」

頬を膨らませ抗議してくる四月を、俺は優しく見守っていた。

俺と四月の関係は、まだまだ続きそうです。
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