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救えない自分
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『あたしに、溺れて』
昨日の水無月の言葉が頭から離れなかった。
溺れてとはどういう意味なのか。
夜通し考えても答えは見つからなかった。
授業も終わり、普段通りの放課後になる。
グループラインの報告によると、四月は例の先輩と一緒に帰るらしい。
そうなると、作戦会議等の集まりはなくなるので俺は1人でまっすぐ家に帰る事にした。
学校を出て数分経った時の事だった。
俺のスマホから着信を知らせるアラームが鳴り響いた。
そこに表示されていた名前は、今俺が1番会いたくない人物だった。
「水無月・・・」
俺が画面を見ている間にも、着信音が鳴り止む事はない。
このまま気づかなかったとシラを切るか。
だが、当然着信履歴は残る為、いずれは気がつく。
そこでアクションをしても結局は同じか。
不幸が先にやってくるか後にやってくるかの違いなら、俺は先にやってくる方を選ぶ。
後が楽の方がモチベーションも保てると思うからな。
ご飯を食べる時も、1番好きなおかずは最後に食べる派だ。
俺はそのまま水無月からの着信に出ることにした。
「・・・もしもし」
『遅い』
電話に出るや、いきなり水無月に文句を言われてしまった。
そんなんで不機嫌になるとか、どんだけ短気なんだよこいつは・・・。
「マナーモードにしてたから気がつかなかったんだよ」
『そう。今どこにいるの?』
「あ? 今はもう家だけど」
『・・・あたしの事バカにしてる?』
俺の返答が気に食わなかったのだろう。
水無月は、あきらかな嫌悪感をあらわにした様な声音に変わっていた。
「・・・すまん。今学校出た所」
『分かった、じゃあそこで待ってて』
「はっ? 何で・・・っておい水無月!」
俺の返答を待たずしてあいつは、一方的に電話を切ってきた。
急に電話してきて一方的に待ってろなんて、あまりにも自分勝手過ぎではないだろうか?
そんな事に付き合う程、俺もお人好しじゃないので俺はお先に帰らせてもらおう。
・
「お待たせ」
「おう、本当待ったよ」
「少しは気を使えないの?」
結局俺は水無月の事を無視して帰る事なんか出来ずに、水無月が来るのを待っていたのだ。
生憎とそんな事が出来るような性格してないのが裏目に出たな。
「俺にそんな事望むだけムダだろ」
「それもそうだね」
「お前こそ少しは気を使えないのかよ・・・」
相変わらずの軽口は健在だった。
だが、結局ここからどうするのか。
水無月が何を目的としているのかが分からなかった。
「これからどうするんだ?」
「ん、帰るに決まってるじゃん」
「普通に帰るだけかよ・・・」
「1人じゃあんた、寂しくて死んじゃうでしょ?」
からかう様子で水無月は、ニヤニヤしながら俺に言ってきた。
昨日の今日なのに、水無月は全然気にしていない様子で接してくる。
俺は未だに距離感が分からずいるのに、本当に水無月は強いんだな。
強いのか慣れてるだけなのかは分からないが。
「・・・うっせ」
「少しはポーカーフェイスを覚えた方がいいかもね」
「それこそうっせ」
そんな言い合いをしながら俺と水無月は、2人で帰路につくのだった。
・
「ねえ、この後何も予定ないじゃん」
「なんで俺に予定が無い前提で話が進んでるんだ?」
「あるの?」
「いや、ないけど・・・」
「じゃあさ、寄り道していかない?」
気分はそんなノリでもなかったが、不思議と水無月といると、心の奥にある騒ついた気持ちやモヤモヤした気持ちが忘れられる感覚に陥る。
今日くらいは付き合ってもいいかなと思えた。
「いいよ。どこ行きたいんだ?」
「テキトーにぶらぶらかな~」
「目的何も無しかよ」
俺と水無月は特に目的もなくただ歩く、俺が水無月の少し前を歩き、その数歩後ろから水無月が付いてくる。
肩と肩が触れ合う事なんてない。
手を繋ぐ事もない。
何か盛り上がる話をしている訳でもない。
ただ、少し近いだけで何故か安心感があった。
気がつくと、この街では比較的大きめの公園が見えてきた。
特に用はないが、俺はその入り口を見つめて立ち止まっていた。
「どうしたの? 寄りたいの?」
「いや、そういう訳じゃないけど」
「そっか、じゃあ寄ろうよ」
「今の俺の話聞いてた?」
「あたしが行きたいから寄ろうって言ってんの」
「言ってねぇじゃねーか・・・」
基本的に俺に決定権はない為、水無月の言う通りに従う事にする。
公園内は若いカップルや老夫婦、ランニング中のお兄さんお姉さん達がいた。
自然が多く、先程に比べると空気が澄んでいて気持ちが良かった。
すると、隣で聞こえていた足音が急に止まった。
後ろを振り向くと、水無月が足を止めてある一点を見つめていた。
水無月の視線の先にはクレープの販売店があった。
「食べたいのか?」
「ふぇっ!? きゅ、急に話しかけないでよ!」
俺が話しかけると、水無月はびっくりして驚いた表情をしていた。
そんなに驚く程の事かよとも思ったが。
「わるい、急に止まったからよ」
「別に、そんな事はないから・・・」
だが、水無月の腹の虫はタイミングを見計らった様に盛大に鳴り響いた。
目の前にいる水無月は、顔を真っ赤に染めていた。
そんな彼女を置いて俺は、1人クレープ屋に向かって歩いていく。
その後を追って水無月が付いてくる。
「水無月は何味が好きだ?」
「あたし、食べたいなんて言ってないけど・・・」
「俺が食べたいだけだ」
「あっそ、チョコレート」
「ほう、おじさん、チョコレートクレープ1つ」
「あいよ!」
おじさんは慣れた手つきで生地を丸く伸ばして、クレープを作り始めた。
クレープはものの数分で出来上がり、おじさんにお金を渡してクレープを受け取った。
それをそのまま水無月に渡す。
俺の行動を予想していなかったのか、水無月は驚いた表情をしていた。
「別に食べたいなんて・・・」
「いーから貰っとけ。俺が食べて欲しいから渡すんだよ。これでいいだろ?」
「・・・あんたがそこまで言うなら」
「調子のんな」
「あ? なんか言った?」
「なんも言ってねーよ」
水無月の性格からして絶対認めないだろうから、あえてこう言った言い回しで渡す。
最後には少し嫌味をぶち込んでやったがな。
水無月はぶつくさ言いながらも俺からクレープを受け取り、少しずつ食べ始めた。
食べ歩くのも何だし、近くのベンチに俺と水無月は座る事にした。
「・・・なあ水無月、昨日の事なんだけどさ」
「ん? 何?」
水無月は俺に視線を向けないままクレープを食べていて、返事だけが返ってきた。
俺はそのまま言葉を続けた。
「俺の感情の制御装置になるって話・・・」
「ん、それがどうかしたの?」
「それってさ、水無月自身にメリットってなくないか?」
いくら親友の為とはいえ、癌である俺を置いてまで水無月が俺をここに残す意味が分からなかった。
絶縁して今後も関わらない様にすれば済む話だ。
四月と絡む事に関してマイナスにしかならない俺を、好きでもない相手の感情の制御装置なんて役目、誰がするのだろうか。
いくらなんでも人が良すぎる。
「メリットならあるよ、親友の恋が実ればそりゃ自分の様に嬉しいよ」
「なら、俺を切り捨てればぁっ!」
すると、水無月は俺が言い終わる前に食べていたクレープを俺の口に突っ込んできた。
生地の良い香りと、チョコレートの甘い匂いと味がマッチしてて美味しかった。
「ネガティプなあんたにはこれで十分」
「美味かったけど、いきなり何すんだよ!」
俺は少し口調を荒げて水無月に抗議する。
だが、水無月は悪びれもなく俺に言葉を投げてきた。
「別にあんたの事煙たがってる訳じゃないよ。自分で自分の首を絞めてるのはバカって思うけど」
「・・・・・・」
「私も少し考えてさ、七の恋愛が上手くいくにはあんたの力が必要だなって」
「俺の力が必要・・・?」
2人はもう順調なはずだ。
今更俺の力が必要な事なんてないだろう。
水無月の言った通り、先程から俺はネガティブな思考しか出てこない。
そんな自分が許せなくて・・・情けなくて・・・。
すると、水無月は急に俺の頬を人差し指で撫でてきた。
その指には先程、水無月に無理やり押し付けられたクレープの生クリームが付いていた。
そのクリームをぺろりと舐め、水無月は俺に言ってきた、
「そ、でも今はそう深く考えない方がいいよ。今のあんたはすぐにパニクるから」
俺の心を、心情を読んでるかの様な口振りで言ってくる水無月。
だが、実際は水無月の言う通りだがら頭が上がらない。
今の俺は、すぐに気持ちが腐って荒ぶってかき乱されてしまう。
「でも、水無月の世話になるわけには・・・」
「今のあんたには何言われても、説得力はないから」
「・・・何も言えねぇな」
「だから今は・・・っ」
すると、水無月は言葉を詰まらせた。
何かあったのかと水無月を見ると、ある一点を見つめていた。
「あっ! 六日に如月くんじゃん!」
姿は見えないが、その声の主は俺は知っていた。
そしてゆっくり声のした方を見ると、そこには四月の姿があった。
隣には、四月の愛しの先輩を連れて仲良く手を繋いでいた・・・。
「お、おう・・・」
俺は苦笑いを浮かべながらそう応えるのがやっとだった。
身体中から変な汗が出てきて、喉が異常に乾く感覚を覚えた。
「七の知り合いか?」
隣にいる例の先輩が四月にそう聞いている。
改めて見ると、爽やかイケメンの二文字が似合う印象だった。
「うん! 友達だよ!」
明るく楽しそうにそう応える、四月の笑顔が眩しくて辛かった。
2人が手を繋いでる姿が気に食わなくて苦しかった。
身体中が寒気がして、震えが止まらなかった。
すると、水無月が拳2個分程空いていた空間を詰めて俺の側まできた。
そして、そんな震えてる俺の手を2人にはバレないようにソッと手を乗せてきた。
そして、俺にギリギリ聞こえるくらいの小さな声で、その言葉を呟いた。
「大丈夫」
その様子を見ていた先輩が言葉を発した。
「そうなんだ。そろそろ行こうか、2人もお取り込み中みたいだしさ。七、行こう」
「うん!またね、六日、如月くん!」
そのまま2人は相変わらず仲良さそうに話しながら俺達の元から去っていった。
2人が居なくなった後も俺は相変わらず俯いていた。
だが、そんな俺に水無月は何も言葉をかけてこなかった。
だが、乗せられていた手が今度は強く握られてきた。
その行為に俺はまた、『大丈夫』と言われてる気がした。
本当にお節介なやつだよ、水無月は・・・。
だが、あんな事言っておきながらも、こうやって水無月に助けられている事実が俺を苦しめていた。
握られたその手の温もりで、安心している自分が嫌になる。
水無月のそのお節介が、鬱陶しい程に心に響いてきたのだった。
昨日の水無月の言葉が頭から離れなかった。
溺れてとはどういう意味なのか。
夜通し考えても答えは見つからなかった。
授業も終わり、普段通りの放課後になる。
グループラインの報告によると、四月は例の先輩と一緒に帰るらしい。
そうなると、作戦会議等の集まりはなくなるので俺は1人でまっすぐ家に帰る事にした。
学校を出て数分経った時の事だった。
俺のスマホから着信を知らせるアラームが鳴り響いた。
そこに表示されていた名前は、今俺が1番会いたくない人物だった。
「水無月・・・」
俺が画面を見ている間にも、着信音が鳴り止む事はない。
このまま気づかなかったとシラを切るか。
だが、当然着信履歴は残る為、いずれは気がつく。
そこでアクションをしても結局は同じか。
不幸が先にやってくるか後にやってくるかの違いなら、俺は先にやってくる方を選ぶ。
後が楽の方がモチベーションも保てると思うからな。
ご飯を食べる時も、1番好きなおかずは最後に食べる派だ。
俺はそのまま水無月からの着信に出ることにした。
「・・・もしもし」
『遅い』
電話に出るや、いきなり水無月に文句を言われてしまった。
そんなんで不機嫌になるとか、どんだけ短気なんだよこいつは・・・。
「マナーモードにしてたから気がつかなかったんだよ」
『そう。今どこにいるの?』
「あ? 今はもう家だけど」
『・・・あたしの事バカにしてる?』
俺の返答が気に食わなかったのだろう。
水無月は、あきらかな嫌悪感をあらわにした様な声音に変わっていた。
「・・・すまん。今学校出た所」
『分かった、じゃあそこで待ってて』
「はっ? 何で・・・っておい水無月!」
俺の返答を待たずしてあいつは、一方的に電話を切ってきた。
急に電話してきて一方的に待ってろなんて、あまりにも自分勝手過ぎではないだろうか?
そんな事に付き合う程、俺もお人好しじゃないので俺はお先に帰らせてもらおう。
・
「お待たせ」
「おう、本当待ったよ」
「少しは気を使えないの?」
結局俺は水無月の事を無視して帰る事なんか出来ずに、水無月が来るのを待っていたのだ。
生憎とそんな事が出来るような性格してないのが裏目に出たな。
「俺にそんな事望むだけムダだろ」
「それもそうだね」
「お前こそ少しは気を使えないのかよ・・・」
相変わらずの軽口は健在だった。
だが、結局ここからどうするのか。
水無月が何を目的としているのかが分からなかった。
「これからどうするんだ?」
「ん、帰るに決まってるじゃん」
「普通に帰るだけかよ・・・」
「1人じゃあんた、寂しくて死んじゃうでしょ?」
からかう様子で水無月は、ニヤニヤしながら俺に言ってきた。
昨日の今日なのに、水無月は全然気にしていない様子で接してくる。
俺は未だに距離感が分からずいるのに、本当に水無月は強いんだな。
強いのか慣れてるだけなのかは分からないが。
「・・・うっせ」
「少しはポーカーフェイスを覚えた方がいいかもね」
「それこそうっせ」
そんな言い合いをしながら俺と水無月は、2人で帰路につくのだった。
・
「ねえ、この後何も予定ないじゃん」
「なんで俺に予定が無い前提で話が進んでるんだ?」
「あるの?」
「いや、ないけど・・・」
「じゃあさ、寄り道していかない?」
気分はそんなノリでもなかったが、不思議と水無月といると、心の奥にある騒ついた気持ちやモヤモヤした気持ちが忘れられる感覚に陥る。
今日くらいは付き合ってもいいかなと思えた。
「いいよ。どこ行きたいんだ?」
「テキトーにぶらぶらかな~」
「目的何も無しかよ」
俺と水無月は特に目的もなくただ歩く、俺が水無月の少し前を歩き、その数歩後ろから水無月が付いてくる。
肩と肩が触れ合う事なんてない。
手を繋ぐ事もない。
何か盛り上がる話をしている訳でもない。
ただ、少し近いだけで何故か安心感があった。
気がつくと、この街では比較的大きめの公園が見えてきた。
特に用はないが、俺はその入り口を見つめて立ち止まっていた。
「どうしたの? 寄りたいの?」
「いや、そういう訳じゃないけど」
「そっか、じゃあ寄ろうよ」
「今の俺の話聞いてた?」
「あたしが行きたいから寄ろうって言ってんの」
「言ってねぇじゃねーか・・・」
基本的に俺に決定権はない為、水無月の言う通りに従う事にする。
公園内は若いカップルや老夫婦、ランニング中のお兄さんお姉さん達がいた。
自然が多く、先程に比べると空気が澄んでいて気持ちが良かった。
すると、隣で聞こえていた足音が急に止まった。
後ろを振り向くと、水無月が足を止めてある一点を見つめていた。
水無月の視線の先にはクレープの販売店があった。
「食べたいのか?」
「ふぇっ!? きゅ、急に話しかけないでよ!」
俺が話しかけると、水無月はびっくりして驚いた表情をしていた。
そんなに驚く程の事かよとも思ったが。
「わるい、急に止まったからよ」
「別に、そんな事はないから・・・」
だが、水無月の腹の虫はタイミングを見計らった様に盛大に鳴り響いた。
目の前にいる水無月は、顔を真っ赤に染めていた。
そんな彼女を置いて俺は、1人クレープ屋に向かって歩いていく。
その後を追って水無月が付いてくる。
「水無月は何味が好きだ?」
「あたし、食べたいなんて言ってないけど・・・」
「俺が食べたいだけだ」
「あっそ、チョコレート」
「ほう、おじさん、チョコレートクレープ1つ」
「あいよ!」
おじさんは慣れた手つきで生地を丸く伸ばして、クレープを作り始めた。
クレープはものの数分で出来上がり、おじさんにお金を渡してクレープを受け取った。
それをそのまま水無月に渡す。
俺の行動を予想していなかったのか、水無月は驚いた表情をしていた。
「別に食べたいなんて・・・」
「いーから貰っとけ。俺が食べて欲しいから渡すんだよ。これでいいだろ?」
「・・・あんたがそこまで言うなら」
「調子のんな」
「あ? なんか言った?」
「なんも言ってねーよ」
水無月の性格からして絶対認めないだろうから、あえてこう言った言い回しで渡す。
最後には少し嫌味をぶち込んでやったがな。
水無月はぶつくさ言いながらも俺からクレープを受け取り、少しずつ食べ始めた。
食べ歩くのも何だし、近くのベンチに俺と水無月は座る事にした。
「・・・なあ水無月、昨日の事なんだけどさ」
「ん? 何?」
水無月は俺に視線を向けないままクレープを食べていて、返事だけが返ってきた。
俺はそのまま言葉を続けた。
「俺の感情の制御装置になるって話・・・」
「ん、それがどうかしたの?」
「それってさ、水無月自身にメリットってなくないか?」
いくら親友の為とはいえ、癌である俺を置いてまで水無月が俺をここに残す意味が分からなかった。
絶縁して今後も関わらない様にすれば済む話だ。
四月と絡む事に関してマイナスにしかならない俺を、好きでもない相手の感情の制御装置なんて役目、誰がするのだろうか。
いくらなんでも人が良すぎる。
「メリットならあるよ、親友の恋が実ればそりゃ自分の様に嬉しいよ」
「なら、俺を切り捨てればぁっ!」
すると、水無月は俺が言い終わる前に食べていたクレープを俺の口に突っ込んできた。
生地の良い香りと、チョコレートの甘い匂いと味がマッチしてて美味しかった。
「ネガティプなあんたにはこれで十分」
「美味かったけど、いきなり何すんだよ!」
俺は少し口調を荒げて水無月に抗議する。
だが、水無月は悪びれもなく俺に言葉を投げてきた。
「別にあんたの事煙たがってる訳じゃないよ。自分で自分の首を絞めてるのはバカって思うけど」
「・・・・・・」
「私も少し考えてさ、七の恋愛が上手くいくにはあんたの力が必要だなって」
「俺の力が必要・・・?」
2人はもう順調なはずだ。
今更俺の力が必要な事なんてないだろう。
水無月の言った通り、先程から俺はネガティブな思考しか出てこない。
そんな自分が許せなくて・・・情けなくて・・・。
すると、水無月は急に俺の頬を人差し指で撫でてきた。
その指には先程、水無月に無理やり押し付けられたクレープの生クリームが付いていた。
そのクリームをぺろりと舐め、水無月は俺に言ってきた、
「そ、でも今はそう深く考えない方がいいよ。今のあんたはすぐにパニクるから」
俺の心を、心情を読んでるかの様な口振りで言ってくる水無月。
だが、実際は水無月の言う通りだがら頭が上がらない。
今の俺は、すぐに気持ちが腐って荒ぶってかき乱されてしまう。
「でも、水無月の世話になるわけには・・・」
「今のあんたには何言われても、説得力はないから」
「・・・何も言えねぇな」
「だから今は・・・っ」
すると、水無月は言葉を詰まらせた。
何かあったのかと水無月を見ると、ある一点を見つめていた。
「あっ! 六日に如月くんじゃん!」
姿は見えないが、その声の主は俺は知っていた。
そしてゆっくり声のした方を見ると、そこには四月の姿があった。
隣には、四月の愛しの先輩を連れて仲良く手を繋いでいた・・・。
「お、おう・・・」
俺は苦笑いを浮かべながらそう応えるのがやっとだった。
身体中から変な汗が出てきて、喉が異常に乾く感覚を覚えた。
「七の知り合いか?」
隣にいる例の先輩が四月にそう聞いている。
改めて見ると、爽やかイケメンの二文字が似合う印象だった。
「うん! 友達だよ!」
明るく楽しそうにそう応える、四月の笑顔が眩しくて辛かった。
2人が手を繋いでる姿が気に食わなくて苦しかった。
身体中が寒気がして、震えが止まらなかった。
すると、水無月が拳2個分程空いていた空間を詰めて俺の側まできた。
そして、そんな震えてる俺の手を2人にはバレないようにソッと手を乗せてきた。
そして、俺にギリギリ聞こえるくらいの小さな声で、その言葉を呟いた。
「大丈夫」
その様子を見ていた先輩が言葉を発した。
「そうなんだ。そろそろ行こうか、2人もお取り込み中みたいだしさ。七、行こう」
「うん!またね、六日、如月くん!」
そのまま2人は相変わらず仲良さそうに話しながら俺達の元から去っていった。
2人が居なくなった後も俺は相変わらず俯いていた。
だが、そんな俺に水無月は何も言葉をかけてこなかった。
だが、乗せられていた手が今度は強く握られてきた。
その行為に俺はまた、『大丈夫』と言われてる気がした。
本当にお節介なやつだよ、水無月は・・・。
だが、あんな事言っておきながらも、こうやって水無月に助けられている事実が俺を苦しめていた。
握られたその手の温もりで、安心している自分が嫌になる。
水無月のそのお節介が、鬱陶しい程に心に響いてきたのだった。
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