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宣戦布告
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今日は四月と先輩、俺と水無月でのダブルデートの日だった。
結局行く場所は四月クオリティーとなり、無難に動物園となった。
待ち合わせ時間は10時、現地集合となった。
そして今の時刻は朝の8時だ。
8時半に家を出れば間に合うと、事前に調べていたので、それに合わせて起床し、身支度を整える。
そして、時間になったので俺は玄関を開けて集合場所に向かうのだった。
「遅い」
玄関を開けると、目の前には水無月が待っていた。
別に俺は水無月と一緒に行こうと約束していたわけじゃない。
そもそもが現地集合だったし、それ以前に水無月は四月と一緒に行くと思っていた。
「四月と一緒じゃないのかよ」
「そんなに七が気になるの?」
「いや、そこまで深い意味はなくてだな・・・純粋にそう思っただけだから」
実際に、本当にそう思っただけなのだからしょうがない。
変に誤解されたのは不覚だったが、ここは冷静に対応しておこう。
「そ。七は先輩と一緒に行くって」
「・・・・・・」
「あ、壊れた」
全く予想してなかった事実に、少なからずショックを受けた。
水無月にこんなにお世話になっておきながらも、まだ吹っ切れない自分に呆れてしまう。
でも、それはきっと、いつか時間が解決してくれると思っていた。
今は無理でも、後になって笑い話の1つにできるくらいにはなるかなって。
「・・・ほら、行くよ」
水無月のその声で俺は我に返り、2人で一緒に駅へ向かう。
目的地へ近づくにつれて段々と人混みが多くなってくる。
これは下手したらはぐれかねないな。
「水無月、離れんなよ」
「心配なら手でも繋ぐ?」
「・・・繋がねー」
そんな恥ずかしい事をサラッと言う水無月に対し、俺はバツが悪そうにそう答えるのが精一杯だった。
そんな俺の反応に満足したのか、水無月は少しだけ微笑んだ。
無事に目的地の最寄駅に着き、そのまま人々の流れに沿って歩いていくと、目的の動物園が見えてきた。
そして、入り口の近くに見覚えのあるピンク色の髪色をした少女の姿を捉えた。
「如月くん、遅いよ!」
「集合時間は10時だろ。時計見ろ時計」
「レディーは待たすべからずなの!」
「初めて聞いたぞ、そんなことわざ・・・」
隣に先輩がいるからだろうか、四月のテンションはいつもより上がっていた。
前に遊園地に一緒に行った時くらいに高かった。
いや、それ以上か。
「急なお願いだったのに来てくれてありがとう」
俺と四月が子供染みた言い合いをしていると、隣にいた先輩が俺たちにそう言ってきた。
「改めて、初めまして。僕の名前は五月 終。よろしくね、如月くん、水無月さん」
そう言って、五月先輩は爽やかに挨拶をしてきた。
「初めまして、如月 一です」
「水無月 六日です」
俺と水無月も先輩に習って挨拶をする。
先輩って事もあり、俺と水無月はお互いに少しぎこちない挨拶になってしまった。
・
「じゃあこれ! みんなの分のチケット!」
そう言って、四月は俺達の分のチケットを渡してきた。
先に2人で着いたので、先輩が俺達の分も買っておいてあげようって事になったらしい。
なんだが、普通に良い人過ぎるんですけど・・・。
「すみません、ありがとうございます」
俺と水無月は揃ってお礼を言って、財布を取り出す。
「お金は後でもいいから、先に入ろうか」
先輩の一声に、俺と水無月は財布をしまい、4人で入口へと向かっていく。
前に四月と先輩、その後ろに俺と水無月の並びだった。
「七はどこに行きたい?」
「う~ん、如月くんはどこに行きたい?」
「え、俺にふるのかよ?」
「決断力がある男の人がモテるった話に聞いたよ?」
「バカ四月、それさりげなく先輩の事disってるからな?」
「はっ! ち、違うんです、これは・・・」
俺の言葉の意味を理解したのか、四月が慌てて先輩に駆け寄っていた。
今にも泣き出しそうな四月だったが、先輩は四月の頭を撫でながら、優しくなだめていた。
「あははは! 大丈夫だよ、ちゃんと分かってるから」
「えへへ・・・! ありがとうございます!」
目の前で繰り広げられるカップルの様なイチャコラ。
これがリア充爆発しろと言うものなのだろうか。
そんな邪な感情が湧いてくるが、それを必死に抑え込む。
「ぷぷっ! 如月くんと違って先輩は優しいな~!」
嫌味ったらしく俺にそう言ってくる四月。
本当にいきいきしてるじゃねーか。
そんな楽しそうにしている四月の姿を、あの時の遊園地の時と重ねている自分がいた。
結局、どこに目指すもなく、ただ行き当たりばったりで歩いていく事にした。
相変わらずの四月は、あちらこちらに駆け寄り無邪気にはしゃいでいた。
「如月くん見てみて! あのカピバラさんダラけてる! 如月くんみたい!」
「おい、なにナチュラルに人のこと貶してんだよ」
「あはは~! その顔もそっくり~!」
俺とカピバラを重ねて笑い出す四月。
「如月くんあのゴリラのマネしてみてよ!」
「いや、しないから。やらないから」
「ぶ~、ケチくさい男の子はモテないよ~」
「それこそうっせー」
急な無茶振りを俺に断られてむくれる四月。
「如月くん! あれ孔雀だよ、孔雀!」
「いや、見ればわかるからな? それにしても、華麗だな~」
「え? もしかして私のこと!?」
「どうみたって孔雀の羽のことだろーが、バカ」
「あー、バカって言った! バカって言った方がバカだもん!」
俺の発言に猛抗議する四月。
四月と目と目が会う度に思ってしまう。
ずっとこのまま2人きりで時が止まれば、離れずに目を逸らさずに見つめていられるのにって・・・。
今日見せてくれた、いろんな表情をした四月。
どの四月もとても活き活きしていて、嬉しそうで、一緒にいて楽しく感じていた。
その後も、俺と四月の他愛もない言葉のやり取りは続いていた。
「ちょっと化粧直ししてくるね!」
「あたしも行ってくる」
そう言って、四月と水無月は2人一緒にお手洗い先へと向かって行った。
そして、取り残されたのは俺と先輩の2人だった。
特に話題もなく黙っていると、先に話しかけてきたのは先輩の方からだった。
「如月くんは本当に七と仲が良いんだね」
唐突に先輩がそんな事を言ってきた。
その言葉の意味はなんなのだろうか?
嫉妬なのか、怒りなのか、悲しみなのか、苦しみなのか。
でも、先輩の声音はそのどれでもないような気がした。
ソッと優しく包み込むような声音だった。
「・・・まあ、それなりには絡んでいましたからね」
「七もあんな風に人の事をからかって、はしゃいで笑うんだなって今日知ったよ」
先輩のその言葉に俺は少し驚いた。
むしろ、今日の四月はいつも俺が接して感じていた四月そのものだったからだ。
先輩の前だと、どんな雰囲気になっているのだろうか。
先輩の目には四月がどう映っているのだろうか。
「普段からあんな感じじゃないんですか?」
そんな意味を込めて、今度は俺から先輩に質問をした。
そして先輩は、相変わらず優しい声音で言葉を返してくる。
「普段の七はなんかこう・・・変にかしこまってる感じかな? 俺が先輩だからとか七なりの考えや思いがあるんだと思うけど、それにまだ壁は感じるよね」
たしかに、普段はバカな四月もそういった所には変に気を使う節があると思っていた為、なんら不思議ではない話だった。
「自分より歳上の先輩、すなわち自分よりも大人だと思ってるからだと思いますね。それに、先輩ってモテるらしいじゃないっすか? だから、その先輩に相応しい人になろうってあの上原なりに考えての行動なんだと思いますよ」
毎度の事だが、四月は目標実現の為には努力は惜しまない。
そして成功に結びつける為に自分で考えもする。
その考えは大体間違った方向ではあるももの、向上心は常に持っている。
「如月くんは七の事をよく理解してるんだね」
「まあ、一応は。あ、そういえば先輩が俺に会いたがってたって四月から聞いたんですけど」
俺はこのダブルデートに誘われた時に疑問に思っていた事を先輩に直接聞いてみた。
前にも言ったが、俺と先輩はまともに話した事が今まで一度もない。
そんな先輩が俺に興味を持った理由とはなんなのだろうか。
「七がね、事ある毎に君の話をしてくれてね。如月くんはこんな人なんだよ~とか、今日はこんな事言われた~とかね。ほとんど愚痴だったけどね。だから君がどんな人なのか会ってみたかったんだ」
なるほど、大切な七に嫌な事をしている俺を偵察しようとしたって事か。
まあ、害があるやつは早めに潰しておくのはセオリーだろう。
「・・・四月は、からかいがいがあるんですよ」
「たしかに、見ているとそう思うよね。今度俺も試してみるよ」
そう言って優しそうに笑う先輩。
そして、最後に俺に一言だけ呟いてきた。
「如月くん、僕は負けないよ」
先輩のその発言の意図を聞き返そうとしたが、タイミングよく四月達が帰ってきた。
「おまたせ~! それじゃ、次の場所に行ってみよ~!」
そんな四月の掛け声で、俺達は行動を再開した。
その後は、特にこれといってハプニングなどもなく、先程のように俺と四月の子供の様な言い争いに先輩と水無月が苦笑している感じだった。
陽が傾き、園内放送で閉園の時間が知らされた。
「そろそろ出口に向かおうか」
先輩のその一声に俺達は賛成し、4人で出口へと向かった。
目の前に四月と先輩、その後ろに俺と水無月で歩いている。
目の前の2人は、相変わらず仲良さそうに話しながら歩いていた。
やはり、まだその光景には心が痛むものがある。
2人で仲良く話す姿が、先輩に笑いかける四月の横顔が、繋がれている2人の手が、その何もかもが俺の心を酷く濁していく。
いつもは、そんな俺を制御装置が抑えてくれた。
俺自身が甘くて情けないが為に、水無月にいつも助けられている。
でも、過去に例外なく、俺からは水無月を求めなかった。
いつも向こうから、温かく、優しく、甘い嘘のような言動で包み込んでくれる。
俺はそんな水無月のズルくも優しい包容力にされるがままだった。
きっと、それを求めてしまったら、自ら欲してしまったらもう後戻りは出来ないと思った。
だから、それだけはダメなんだって。
その気持ちが今まで俺の理性を抑えていた。
でも、そんな俺の限界はとっくに超えていた。
これだけで耐えられない弱い自分を恨めしく思うが、人というものの根本はそうなんだろう。
他者からは認められたいし、自分の好きな物は手にしたい。
それでも、手に入れられない物は代用品で無理やりに満足させる。
「・・・!?」
俺は、自ら水無月の空いていた左手に手を伸ばし、握っていた。
俺の行動が予想外だったのか水無月は少し手を引こうとしたが、すぐに状況を理解して、優しくも強く、握り返してきてくれた。
禁断の果実に手を出してしまったかの様な錯覚に陥る。
繋がれた手の温もりが気持ち悪くて・・・。
それでも、離そうとしない自分が許せなくて・・・。
水無月の事を求めてしまう自分が恐くて・・・。
・
帰りの電車の中でも、俺は水無月と2人で手を繋いでいた。
ありがたい事に、俺と水無月が座っている車両には他の乗客は誰も居なかった。
先輩と四月は2人で帰ったらしいが、帰り際にどんな話をしたのかは覚えていない。
俺はちゃんとお礼を言えたのだろうか?
俺はちゃんと対応できたのだろうか?
思い出そうとしても全く思い出せない。
これが、虚無感と言うものなのだろうか。
『如月くん、僕は負けないよ』
確か先輩はそう言った。
負けるも何も、それ以前にこれは勝負にすらなっていなかった。
先輩の事が好きな四月、四月の事が好きな先輩。
両想いの2人なのに、俺に勝ち目なんてそもそもあるはずがなかった。
先輩の悪い所、嫌な所を探したって見つからかった。
自分でも嫌になるくらいに、認めたくないくらいに先輩は良い人過ぎた。
「・・・これ、いつまで繋いでるの?」
「・・・すまん」
「謝るくらいならしなきゃ良かったのに」
「・・・・・・」
「・・・あー、ごめん。今のはあたしがイジワル過ぎたね」
俺のわがままに付き合わせた水無月に謝らせてしまう程、俺は落ちぶれてしまっていた。
罪悪感は次から次へと出てくるが、それでも俺は水無月の手を離す事ができなかった。
その手を離してしまえば、何もかもに耐えられなくなると思ったからだ。
我ながら情けない話だよな・・・。
「あんたが七とイチャイチャしてた時にね、先輩とたくさん話をしたんだけどさ。先輩、七に本気だと思うよ」
沈黙を破って発した水無月の言葉に、俺は更に気持ちが落ちていくのを感じた。
自分でもそれは理解している事だったが、再度言葉にして現実にされると、心が締め付けられるように苦しくなっていく。
「でも、普段は見れない七の笑顔や素顔を引き出してるあんたにも、軽く嫉妬してたよ」
きっと俺に対するフォローのつもりだったんだろうが、今の俺にそんな言葉は何の意味も持たないものとなっていた。
「結局、あたしは欠陥品だったね」
水無月が不意にそんな事を言ってきた。
俺はその言葉に疑問を思い、水無月の方を向いてしまう。
彼女は、優しく微笑んでいた。
「今日改めて分かったけど、あんたにとって1番の制御装置は七なんだなって」
声音も表情も変えず、ただ淡々とそう呟く水無月に、申し訳無い気持ちでいっぱいになる。
彼女に、こんな思いをさせて、こんな言葉を言わせている自分に腹が立ってしょうがなかった。
「っ。そんなこと——――」
「あるよ」
俺のその言葉に被せる様に、水無月は先程よりも大きな声で遮った。
その言葉は力強くも、どこか寂しげな雰囲気を漂わせていた。
「そんなこと、あるんだよ」
「・・・・・・」
俺はその言葉に何も返せずにいた。
黙ってちゃ肯定とまた水無月に言われそうだが、それでも俺は何も言えなかった。
そのまま沈黙が続く。
「やっぱりさ、あたしは七の代わりにはなれなかったよ」
沈黙を破り、水無月がそんな言葉を零した。
だが、そのまま水無月は言葉を続ける。
「代わりになれないからさ、もうあたしは奪うよ」
そう言って水無月は真剣な眼差しで俺の方を見てくる。
何かを決意したような目で、表情で俺を見てくる。
「あたしに溺れてって言葉、取り消すよ。その代わり・・・」
「一を堕とさせてみせるから、あたしに溺れさせてみせるから」
結局行く場所は四月クオリティーとなり、無難に動物園となった。
待ち合わせ時間は10時、現地集合となった。
そして今の時刻は朝の8時だ。
8時半に家を出れば間に合うと、事前に調べていたので、それに合わせて起床し、身支度を整える。
そして、時間になったので俺は玄関を開けて集合場所に向かうのだった。
「遅い」
玄関を開けると、目の前には水無月が待っていた。
別に俺は水無月と一緒に行こうと約束していたわけじゃない。
そもそもが現地集合だったし、それ以前に水無月は四月と一緒に行くと思っていた。
「四月と一緒じゃないのかよ」
「そんなに七が気になるの?」
「いや、そこまで深い意味はなくてだな・・・純粋にそう思っただけだから」
実際に、本当にそう思っただけなのだからしょうがない。
変に誤解されたのは不覚だったが、ここは冷静に対応しておこう。
「そ。七は先輩と一緒に行くって」
「・・・・・・」
「あ、壊れた」
全く予想してなかった事実に、少なからずショックを受けた。
水無月にこんなにお世話になっておきながらも、まだ吹っ切れない自分に呆れてしまう。
でも、それはきっと、いつか時間が解決してくれると思っていた。
今は無理でも、後になって笑い話の1つにできるくらいにはなるかなって。
「・・・ほら、行くよ」
水無月のその声で俺は我に返り、2人で一緒に駅へ向かう。
目的地へ近づくにつれて段々と人混みが多くなってくる。
これは下手したらはぐれかねないな。
「水無月、離れんなよ」
「心配なら手でも繋ぐ?」
「・・・繋がねー」
そんな恥ずかしい事をサラッと言う水無月に対し、俺はバツが悪そうにそう答えるのが精一杯だった。
そんな俺の反応に満足したのか、水無月は少しだけ微笑んだ。
無事に目的地の最寄駅に着き、そのまま人々の流れに沿って歩いていくと、目的の動物園が見えてきた。
そして、入り口の近くに見覚えのあるピンク色の髪色をした少女の姿を捉えた。
「如月くん、遅いよ!」
「集合時間は10時だろ。時計見ろ時計」
「レディーは待たすべからずなの!」
「初めて聞いたぞ、そんなことわざ・・・」
隣に先輩がいるからだろうか、四月のテンションはいつもより上がっていた。
前に遊園地に一緒に行った時くらいに高かった。
いや、それ以上か。
「急なお願いだったのに来てくれてありがとう」
俺と四月が子供染みた言い合いをしていると、隣にいた先輩が俺たちにそう言ってきた。
「改めて、初めまして。僕の名前は五月 終。よろしくね、如月くん、水無月さん」
そう言って、五月先輩は爽やかに挨拶をしてきた。
「初めまして、如月 一です」
「水無月 六日です」
俺と水無月も先輩に習って挨拶をする。
先輩って事もあり、俺と水無月はお互いに少しぎこちない挨拶になってしまった。
・
「じゃあこれ! みんなの分のチケット!」
そう言って、四月は俺達の分のチケットを渡してきた。
先に2人で着いたので、先輩が俺達の分も買っておいてあげようって事になったらしい。
なんだが、普通に良い人過ぎるんですけど・・・。
「すみません、ありがとうございます」
俺と水無月は揃ってお礼を言って、財布を取り出す。
「お金は後でもいいから、先に入ろうか」
先輩の一声に、俺と水無月は財布をしまい、4人で入口へと向かっていく。
前に四月と先輩、その後ろに俺と水無月の並びだった。
「七はどこに行きたい?」
「う~ん、如月くんはどこに行きたい?」
「え、俺にふるのかよ?」
「決断力がある男の人がモテるった話に聞いたよ?」
「バカ四月、それさりげなく先輩の事disってるからな?」
「はっ! ち、違うんです、これは・・・」
俺の言葉の意味を理解したのか、四月が慌てて先輩に駆け寄っていた。
今にも泣き出しそうな四月だったが、先輩は四月の頭を撫でながら、優しくなだめていた。
「あははは! 大丈夫だよ、ちゃんと分かってるから」
「えへへ・・・! ありがとうございます!」
目の前で繰り広げられるカップルの様なイチャコラ。
これがリア充爆発しろと言うものなのだろうか。
そんな邪な感情が湧いてくるが、それを必死に抑え込む。
「ぷぷっ! 如月くんと違って先輩は優しいな~!」
嫌味ったらしく俺にそう言ってくる四月。
本当にいきいきしてるじゃねーか。
そんな楽しそうにしている四月の姿を、あの時の遊園地の時と重ねている自分がいた。
結局、どこに目指すもなく、ただ行き当たりばったりで歩いていく事にした。
相変わらずの四月は、あちらこちらに駆け寄り無邪気にはしゃいでいた。
「如月くん見てみて! あのカピバラさんダラけてる! 如月くんみたい!」
「おい、なにナチュラルに人のこと貶してんだよ」
「あはは~! その顔もそっくり~!」
俺とカピバラを重ねて笑い出す四月。
「如月くんあのゴリラのマネしてみてよ!」
「いや、しないから。やらないから」
「ぶ~、ケチくさい男の子はモテないよ~」
「それこそうっせー」
急な無茶振りを俺に断られてむくれる四月。
「如月くん! あれ孔雀だよ、孔雀!」
「いや、見ればわかるからな? それにしても、華麗だな~」
「え? もしかして私のこと!?」
「どうみたって孔雀の羽のことだろーが、バカ」
「あー、バカって言った! バカって言った方がバカだもん!」
俺の発言に猛抗議する四月。
四月と目と目が会う度に思ってしまう。
ずっとこのまま2人きりで時が止まれば、離れずに目を逸らさずに見つめていられるのにって・・・。
今日見せてくれた、いろんな表情をした四月。
どの四月もとても活き活きしていて、嬉しそうで、一緒にいて楽しく感じていた。
その後も、俺と四月の他愛もない言葉のやり取りは続いていた。
「ちょっと化粧直ししてくるね!」
「あたしも行ってくる」
そう言って、四月と水無月は2人一緒にお手洗い先へと向かって行った。
そして、取り残されたのは俺と先輩の2人だった。
特に話題もなく黙っていると、先に話しかけてきたのは先輩の方からだった。
「如月くんは本当に七と仲が良いんだね」
唐突に先輩がそんな事を言ってきた。
その言葉の意味はなんなのだろうか?
嫉妬なのか、怒りなのか、悲しみなのか、苦しみなのか。
でも、先輩の声音はそのどれでもないような気がした。
ソッと優しく包み込むような声音だった。
「・・・まあ、それなりには絡んでいましたからね」
「七もあんな風に人の事をからかって、はしゃいで笑うんだなって今日知ったよ」
先輩のその言葉に俺は少し驚いた。
むしろ、今日の四月はいつも俺が接して感じていた四月そのものだったからだ。
先輩の前だと、どんな雰囲気になっているのだろうか。
先輩の目には四月がどう映っているのだろうか。
「普段からあんな感じじゃないんですか?」
そんな意味を込めて、今度は俺から先輩に質問をした。
そして先輩は、相変わらず優しい声音で言葉を返してくる。
「普段の七はなんかこう・・・変にかしこまってる感じかな? 俺が先輩だからとか七なりの考えや思いがあるんだと思うけど、それにまだ壁は感じるよね」
たしかに、普段はバカな四月もそういった所には変に気を使う節があると思っていた為、なんら不思議ではない話だった。
「自分より歳上の先輩、すなわち自分よりも大人だと思ってるからだと思いますね。それに、先輩ってモテるらしいじゃないっすか? だから、その先輩に相応しい人になろうってあの上原なりに考えての行動なんだと思いますよ」
毎度の事だが、四月は目標実現の為には努力は惜しまない。
そして成功に結びつける為に自分で考えもする。
その考えは大体間違った方向ではあるももの、向上心は常に持っている。
「如月くんは七の事をよく理解してるんだね」
「まあ、一応は。あ、そういえば先輩が俺に会いたがってたって四月から聞いたんですけど」
俺はこのダブルデートに誘われた時に疑問に思っていた事を先輩に直接聞いてみた。
前にも言ったが、俺と先輩はまともに話した事が今まで一度もない。
そんな先輩が俺に興味を持った理由とはなんなのだろうか。
「七がね、事ある毎に君の話をしてくれてね。如月くんはこんな人なんだよ~とか、今日はこんな事言われた~とかね。ほとんど愚痴だったけどね。だから君がどんな人なのか会ってみたかったんだ」
なるほど、大切な七に嫌な事をしている俺を偵察しようとしたって事か。
まあ、害があるやつは早めに潰しておくのはセオリーだろう。
「・・・四月は、からかいがいがあるんですよ」
「たしかに、見ているとそう思うよね。今度俺も試してみるよ」
そう言って優しそうに笑う先輩。
そして、最後に俺に一言だけ呟いてきた。
「如月くん、僕は負けないよ」
先輩のその発言の意図を聞き返そうとしたが、タイミングよく四月達が帰ってきた。
「おまたせ~! それじゃ、次の場所に行ってみよ~!」
そんな四月の掛け声で、俺達は行動を再開した。
その後は、特にこれといってハプニングなどもなく、先程のように俺と四月の子供の様な言い争いに先輩と水無月が苦笑している感じだった。
陽が傾き、園内放送で閉園の時間が知らされた。
「そろそろ出口に向かおうか」
先輩のその一声に俺達は賛成し、4人で出口へと向かった。
目の前に四月と先輩、その後ろに俺と水無月で歩いている。
目の前の2人は、相変わらず仲良さそうに話しながら歩いていた。
やはり、まだその光景には心が痛むものがある。
2人で仲良く話す姿が、先輩に笑いかける四月の横顔が、繋がれている2人の手が、その何もかもが俺の心を酷く濁していく。
いつもは、そんな俺を制御装置が抑えてくれた。
俺自身が甘くて情けないが為に、水無月にいつも助けられている。
でも、過去に例外なく、俺からは水無月を求めなかった。
いつも向こうから、温かく、優しく、甘い嘘のような言動で包み込んでくれる。
俺はそんな水無月のズルくも優しい包容力にされるがままだった。
きっと、それを求めてしまったら、自ら欲してしまったらもう後戻りは出来ないと思った。
だから、それだけはダメなんだって。
その気持ちが今まで俺の理性を抑えていた。
でも、そんな俺の限界はとっくに超えていた。
これだけで耐えられない弱い自分を恨めしく思うが、人というものの根本はそうなんだろう。
他者からは認められたいし、自分の好きな物は手にしたい。
それでも、手に入れられない物は代用品で無理やりに満足させる。
「・・・!?」
俺は、自ら水無月の空いていた左手に手を伸ばし、握っていた。
俺の行動が予想外だったのか水無月は少し手を引こうとしたが、すぐに状況を理解して、優しくも強く、握り返してきてくれた。
禁断の果実に手を出してしまったかの様な錯覚に陥る。
繋がれた手の温もりが気持ち悪くて・・・。
それでも、離そうとしない自分が許せなくて・・・。
水無月の事を求めてしまう自分が恐くて・・・。
・
帰りの電車の中でも、俺は水無月と2人で手を繋いでいた。
ありがたい事に、俺と水無月が座っている車両には他の乗客は誰も居なかった。
先輩と四月は2人で帰ったらしいが、帰り際にどんな話をしたのかは覚えていない。
俺はちゃんとお礼を言えたのだろうか?
俺はちゃんと対応できたのだろうか?
思い出そうとしても全く思い出せない。
これが、虚無感と言うものなのだろうか。
『如月くん、僕は負けないよ』
確か先輩はそう言った。
負けるも何も、それ以前にこれは勝負にすらなっていなかった。
先輩の事が好きな四月、四月の事が好きな先輩。
両想いの2人なのに、俺に勝ち目なんてそもそもあるはずがなかった。
先輩の悪い所、嫌な所を探したって見つからかった。
自分でも嫌になるくらいに、認めたくないくらいに先輩は良い人過ぎた。
「・・・これ、いつまで繋いでるの?」
「・・・すまん」
「謝るくらいならしなきゃ良かったのに」
「・・・・・・」
「・・・あー、ごめん。今のはあたしがイジワル過ぎたね」
俺のわがままに付き合わせた水無月に謝らせてしまう程、俺は落ちぶれてしまっていた。
罪悪感は次から次へと出てくるが、それでも俺は水無月の手を離す事ができなかった。
その手を離してしまえば、何もかもに耐えられなくなると思ったからだ。
我ながら情けない話だよな・・・。
「あんたが七とイチャイチャしてた時にね、先輩とたくさん話をしたんだけどさ。先輩、七に本気だと思うよ」
沈黙を破って発した水無月の言葉に、俺は更に気持ちが落ちていくのを感じた。
自分でもそれは理解している事だったが、再度言葉にして現実にされると、心が締め付けられるように苦しくなっていく。
「でも、普段は見れない七の笑顔や素顔を引き出してるあんたにも、軽く嫉妬してたよ」
きっと俺に対するフォローのつもりだったんだろうが、今の俺にそんな言葉は何の意味も持たないものとなっていた。
「結局、あたしは欠陥品だったね」
水無月が不意にそんな事を言ってきた。
俺はその言葉に疑問を思い、水無月の方を向いてしまう。
彼女は、優しく微笑んでいた。
「今日改めて分かったけど、あんたにとって1番の制御装置は七なんだなって」
声音も表情も変えず、ただ淡々とそう呟く水無月に、申し訳無い気持ちでいっぱいになる。
彼女に、こんな思いをさせて、こんな言葉を言わせている自分に腹が立ってしょうがなかった。
「っ。そんなこと——――」
「あるよ」
俺のその言葉に被せる様に、水無月は先程よりも大きな声で遮った。
その言葉は力強くも、どこか寂しげな雰囲気を漂わせていた。
「そんなこと、あるんだよ」
「・・・・・・」
俺はその言葉に何も返せずにいた。
黙ってちゃ肯定とまた水無月に言われそうだが、それでも俺は何も言えなかった。
そのまま沈黙が続く。
「やっぱりさ、あたしは七の代わりにはなれなかったよ」
沈黙を破り、水無月がそんな言葉を零した。
だが、そのまま水無月は言葉を続ける。
「代わりになれないからさ、もうあたしは奪うよ」
そう言って水無月は真剣な眼差しで俺の方を見てくる。
何かを決意したような目で、表情で俺を見てくる。
「あたしに溺れてって言葉、取り消すよ。その代わり・・・」
「一を堕とさせてみせるから、あたしに溺れさせてみせるから」
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