恋愛相談から始まる恋物語

菜の花

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ダブルデートのお誘い

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今日は久しぶりに、グループラインでの招集があった為、放課後に俺は屋上を訪れていた。

担任の先生にちょっとした仕事を頼まれたので、少し遅れてしまったが、俺が到着した頃には既に2人は揃っていた。

「如月くん、遅~い!」

「遅い」

屋上に着くや否や、2人から抗議のセリフが出てきた。

別にわざと遅れた訳じゃないし、先生から仕事を頼まれたのだから仕方がない。

俺は悪くない。

「先生に仕事頼まれたんだよ。文句なら先生に言え」

「如月くんもしかして授業中寝てたの?」

「俺は真面目に受けてたぞ」

「存在が空気だから頼みやすいんだよ」

「うっせ」

何だろうな、この久しぶりに感じる高揚感は。

屋上で3人であーでもない、こーでもない話をするのが楽しいと感じていた。

3人で過ごすこの場所、この空間がすごく好きだった。

「それで、今日は何の話をするんだ」

俺達をこの場に集合させたホストである四月に、俺は尋ねた。

すると、久しぶりにみる満面の笑みを浮かべる四月。

そして、四月はとんでもない事を言ってきた。

「んとね~、如月くんとダブルデートをしようと思って!」

「は?」

「ダブルデート?」

四月の口からは出たのは、全く予想していない言葉だった。

それに俺とダブルデート? 誰と誰がよ。

俺はそんな疑問が浮かんだ。

「ダブルデートって誰と誰なの?」

俺が心の中で思っていた事を、代わりに水無月が代弁してくれた。

だが、俺はその間に答えにたどり着いた。

きっと、四月と先輩、水無月と俺のペアでだろう。

だが、それには1つの疑問が新たに生まれた。

何故ダブルデートなのか?

四月にとっては、先輩と2人で過ごす方が楽しくて有意義だろう。

なのに、なぜそんな提案をしてきたのか。

「もちろん私と先輩、如月くんと六日だよ!」

俺の予想通りの答えを、四月が言ってきた。

そして、俺は四月に疑問に思ってる事を伝えた。

「ってか、そもそもなんでダブルデートなんだ? 2人っきりのの方がいいだろ」

「んとね~、先輩が如月くんに会ってみたいんだって! んで、せっかくだからダブルデートしようって話になったの!」

そもそも何で先輩は俺と会ってみたいと思ったのか?

それになんでわざわざ、ほぼカップルのイチャコラを見せつけられなきゃいけないのかも、理解出来なかった。

「やだよめんどくさい。俺はパスする、なあ、水無月」

「え? あたしは別にいいけど?」

「は?」

俺と同じ意見だと思っていた水無月が、まさかの承諾をした。

その事で俺は呆気に取られていた。

これじゃあ多数決で俺が負けて行くハメになるじゃん・・・。

「じゃあ多数決で私達の勝ちだね! ダブルデート決定!」

目の前で元気にはしゃぐ四月。

その隣で水無月は、表情を何も変えずに淡々としていた。

「場所とかの案ってあるかな!?」

目を輝かせながら、四月が俺達2人に聞いてく。

本当幸せそうだな。

ま、そりゃ好きな人と上手くいってりゃ心が踊って跳ね上がるのも無理はないか。

ここ最近は、制御装置みなづきのおかげで俺の精神も安定していると思う。

今この場においても、感情は荒れてはいない。

「家」

「ダブルデートなんだから、外だよ外!」

「近くの公園で良くね?」

「これだから恋愛したことない人はな~」

呆れ顔でそう言ってくる四月。

ここ最近先輩と良い雰囲気になってるからって調子に乗りやがって。

京都弁で告白するのを止めてなかったら、絶対上手くいってないからな。

少し調子に乗っている四月に対して、過去の愚痴が次から次へと浮かびあがってくる。

だが、そんな事を考えても無意味だということは他でもない、自分自身がよく分かっている事だった。

そんな話をしたって意味がないことなんて。

「恋愛したことなくて悪かったな。だったら、恋愛マスターの四月様に是非とも決めてもらいたいね」

存分な皮肉を交えて、四月にそう言ってやった。

性格が悪いと思われるかもしれないが、生憎とこれが俺だ。

性格が良いなんて一度も言った事がない。

「ふっふっふ~! それならばこの恋愛マスター七ちゃんが決めて差し上げよう!」

不覚にも、俺の皮肉の言葉は四月には全く届いておらず、更に調子に乗らせてしまうだけだった。

こうなったら何も言わずに四月に喋らせておこう。

その方がこいつも威張れて楽しいだろうからな。

「ダブルデートという事なので――――」

結局その後は、四月が恋愛とは何かという謎の演説から始まり、今回のダブルデートの行く先を四月な
りに考えてきたらしく、その案の説明をされた。

正直、何一つとして覚えていなかった。

どうせ口で言われたって興味ない事なら覚えられないので、後程グループラインに書いといてくれと言っておいた。

「了解であります!」

俺に向かって満面の笑みで敬礼のポーズをする四月。

可愛くてバカらしく、相変わらずの四月だなと感じた。

すると、どこからともなく軽快な音楽が流れ始めた。

すると、四月は自分のカバンからスマホを取り出し操作して耳元へ当てた。

誰かしらからの着信で、先ほどのメロディーは着信音だった様だ。

「もしもし、先輩? あっ、はい、 分かりました! 正門で待ってますね!」

どうやら相手は先輩らしく、嬉しそうに、そして幸せそうな笑顔で話す四月の表情は、とても眩しかった。

俺が見ていたアイツの笑顔は、今は先輩に見せるものとなっていた。

「じゃあ私、先に帰るからまた後で連絡するね!」

「・・・おう」

四月にそう言われたが、つい言葉が詰まってしまった。

「ん? 如月くん大丈夫?」

そんな俺の微妙な変化に気がついたのか、四月が不思議そうに俺を見てくる。

普段はお気楽の天真爛漫な四月も、たまにこうやって鋭い感を持っている。

「なんでもないよ。早く行かないと先輩に嫌われるぞ」

「それはまずいよ! んじゃ、またね!」

四月は急いで先輩の元へ向かっていった。

少しばかりセンチメンタルな気持ちになったが、前ほどじゃない。

ちゃんと俺は俺で居られた。

「今日は冷静でいられたぞ。どうだ、水無月?」

俺は自分の成長を喜び、水無月に報告する。

水無月のおかげの部分もあるが、多少なりとも俺自身も成長してる気がした。

「別にドヤ顔する事でもないから」

俺の方は一切見ずに、冷たくそう答える水無月。

ここ最近は優しい言葉をかけられ過ぎていたせいか、今の一言ですら、とても棘のある様に思えてしまう。

「・・・悪りぃ」

変に刺激しない為に、素直に謝っておくことにした。

悪いことをした訳ではないが、俺も調子に乗ってしまった。

「別に怒ってる訳じゃないから、気にしなくていいよ」

謝った俺に、すかさずそうフォローを入れてくる水無月。

相変わらず俺の方は見てこないが、何だかんだで優しい水無月には変わりなかった。

「そういや、なんで賛成だったんだ、さっきの話?」

俺は疑問に思っていた事を水無月に聞いてみた。

水無月はめんどくさがると思ったが、そんな様子は一切見せずに賛成していた。

その理由が知りたかった。

「普通に面白そうだなって思って」

その答えは至ってシンプルなものだった。 

面白そう、か。

俺は2人のイチャつきを見せられたら、メンタルが死ぬ気がしてならないってのにな。

「それと、ちょっと気になる事があってさ」

「気になること?」

「うん、先輩があんたに会いたがってるってのがさ」

確かに、それは俺も疑問に思っていた。

そもそも俺と先輩なんてまともに話した事すらない。

前に、水無月と一緒に公園で挨拶をしたのが初めてくらいだった。

もちろん、その後も何の絡みもなかった。

「まぁ、なんかあの四月バカがある事ない事吹き込んでんだろうけどな」

「・・・・・・」

俺と先輩の絡みがない以上、犯人は四月しかいないのだが、俺のその言葉に四月は少し寂しそうな表情をしていた。

水無月にとって、四月は親友だったな。

そんな親友がバカにされて気分を害したのだろう。

そう思い、俺は素直に謝ることにした。

「悪い、言葉が悪かったな」

「・・・別になんとも思ってないから」

それから暫くの沈黙が訪れた。

そして、先に言葉をかけたのは俺の方だった。

「そろそろ帰ろうぜ。送るからさ」

「あれ、今日はやけに素直だね?」

「別に、嫌って言っても一緒についてくるんだろ?」

「うん、そうだね。ついてく」

そう言って少し水無月をからかってみたが、予想外の返答をされ、俺は逆に恥ずかしくなってしまった。

てっきり否定されて罵倒されると思っていたから、流石にこれは反則だろう・・・。

「・・・うるせーよ」

「言ってきたのはあんたじゃん」

俺は赤くなった顔を隠すように振り返り、屋上の出入り口へと向かった。

そのあとを数歩遅れて水無月もついてきた。

「ねえ、照れた?」

「うっせー」

「顔、耳まで真っ赤だよ」

「だからうっせー」

「ふふっ、はいはいごめんね」

結局水無月を弄ろうと思ったが、カウンターを入れられて逆に俺が弄られる展開となってしまった。

なので俺は水無月から目を逸らした。

だから、気がつかなかった。

水無月の顔は勿論、耳が夕焼け色に染まる以上に赤くなっていた事に。
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