恋愛相談から始まる恋物語

菜の花

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一×七

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土曜日のお昼時、家のソファーで無気力にダラけていると、テーブルの上に置いてあったスマホから流れる着信音で、意識を現実に戻す。

ディスプレイには四月 七と表示されていた。

少し躊躇したが、無視するのもどうかと思い、俺は通話ボタンを押した。

「もしもし?」

『如月くんおはよー!』

「はい、おはよー」

『もぅ~テンション低いぞ~?』

「別に普通だろ・・・」

確かに自分でテンションが下がってる自覚はあったが、それを他者に指摘されると否定したくなる感情が湧いてしまう。

俺を知っているのは俺だけじゃなきゃいけないという、どうでもいいちっぽけなプライドがそうさせていた。

『んん~、まぁいいや。それでさ、今家にいる?』

「今? 家にい・・・ないかな」

きっとここで家にいるとか言い出したら四月のことだ、今から行くねとか言ってくるんだろうなと思った。

ここで回避できるなら回避しておきたいので、咄嗟の判断で、しかも苦し紛れな言い訳のように家にいないことを伝えた。

『・・・そっか』

すると、俺の家の呼び鈴が鳴る音がした。

今の家には俺しかいなく、例のごとくソファーで無気力にダラけていたので、その他の生活音は一切していないのだ。

そうなると、鳴らされた呼び鈴の音は、無邪気な子供の様に駆け回り綺麗に鳴り響いた。

『ダウト!』

「・・・・・・」

『クッキー焼いてきたから受け取って欲しいな~って。会いたくないなら受け取ってくれるだけでもいいから』

「・・・今行く」

あっさりと家にいないという嘘は見破られてしまい、会いたくないと思っていることも見破られてしまった。

まあ、居留守を使おうとしたら嫌でも分かってしまうか。

それはそれで、四月に悪いことをさせちゃったなと、後悔して気がつく。

また、彼女を傷つけてしまったと。

無自覚に人を傷つけるなんて、我ながら厄介な人間だなと思った。

重い腰を上げ、枷でも付いてるかの様に重い足をゆっくりと動かして玄関へと向かう。

玄関の扉を開けると、そこには四月がいた。

が、そこにいた四月は、今まで見ていた四月とは違っていた。

派手な服を着ているとかコスプレをしているとか、四月が考えそうな数本ズレた変な感覚のものではなく、ただ純粋に髪型が普段と変わっていた。

髪を横結びにして肩にかけているが、なかなかに似合っていた。

「・・・髪型、変えたんだな」

「あ、分かる? って、いくらなんでも気がつくよねコレは」

変えた髪型を再度見せつけるように、後ろに振り向く四月。

ヒラリと1回転して、また俺の方へと向き直した四月は、俺に1つの包みを差し出してきた。

包装されていたクッキーで、先程電話で言っていたやつのことだろう。

「これ渡したかったの。今回はちゃんと、如月くんの為に作ったやつだから!」

俺はそれを受け取れずにいた。

別に食べたくなかったわけじゃない。

自分でもこの理由は分からなかったが、なぜか俺の手は動かなかったのだ。

そんな様子見て四月は、俺の右手に直接握らせてきた。

どうしたの? や、なんで受け取らないの?

なんてそんなコトは聞いてこない。

「食べたら感想、聞かせてねっ!」

俺の至らない対応のオンパレードの中でも、四月はいつもの笑顔でそう言った。

ごめんなんてそんな言葉、今更言ったところでなんになるだろうか。

謝るくらいなら、最初からやるなって話だ。

最後にその言葉だけを残して、四月は立ち去ろうとしたが・・・。

「あ、上がってくか?」

無い頭を振り絞って吐き出した言葉は、謝罪でも懺悔でもない、ただ家に招き入れる為の誘い文句だった。

そんな俺の言葉を聞いた四月は、驚きの表情を浮かべたが、すぐにいつもの様に明るい表情に変わっていく。

「うん! お邪魔する!」

そう言って四月は、家主より先に家の中へと入っていく姿に少し呆れを思いつつも、やはり四月は四月なんだなと、根っこは変わらないんだなと、少し安堵の様なものも感じた。

俺も彼女の背中を追うように、家の中へと入っていく。









四月は、ソファーではなくリビングに置かれたテーブルのイスの上に座っていた。

気分が良いのだろうか、頬杖をついて鼻歌を奏でながら首を左右に揺らしていた。

「ソファーじゃなくていいのか?」

「こっちの方が如月くんの顔見れるし!」

そんな質問に深い意味はない。

だだ、場つなぎの意味を込めた質問に過ぎないコトを言ったのに、逆にカウンターをくらうとは思っていなかったので、少し赤面してしまう。

そのコトをバレないように、悟られないように俺は、飲み物を作るのを利用して四月に背を向ける。

「ミルクティーでいいか?」

「うん!」

俺はお馴染みの電気ケトルに水を入れセットしてボタンを押す。

その間にティーカップに紅茶のパックを入れ、ミルクと砂糖を用意しておく。

気がつくと、俺の隣に四月がいた。

「お皿使ってもいい? クッキー入れたいんだ~」

「そこの食器棚から、テキトーなの使ってくれ」

「は~い」

四月は依然、鼻歌を歌いながら食器棚を開けてちょうど良さげな皿を探していた。

お皿を用意してテーブルに戻った四月を見届けると、渡されたクッキーがまだ俺の手元にあったコトに気がついた。

「四月、これクッキー」

「あ、大丈夫! こっちにもあるから!」

そう言って四月は、自分の鞄から別の袋に入ったクッキーを取り出した。

その袋の中には、俺がもらったヤツより量が多いクッキーが入っていた。

皿の上にクッキーを乗せた四月だが、そのクッキーに手を付けないでいた。

飲み物はまだできていないので、それを待っているのだろうか。

「飲み物まだかかるけど、先食べてていいからな」

「ダメ~」

「は?」

「如月くんと一緒に食べるの!」

俺の想像していたコトと違うコトを言われ、またさらに赤面してしまう。

ったく、今日はやけに、四月を可愛く思えてしまう。

積極的に俺のツボを的確に突いてくる四月を見て、あの時言われた覚悟しといてと言われたあのセリフを思い出す。

前々から四月はグイグイくるから、今まではソレが先輩に発揮されていたが、今ではその対象が俺になっていたので、なかなかに慣れないところがある。

自ら家に上げてしまった為、今更帰ってくれなんてことも言えず、とりあえずはクッキーを食べてしばらくしないと無理だろう。

できたミルクティーの入ったティーカップを、四月の前に置く。

そして自分の分も用意して席につくと、ソレはいきなりだった。

「はいっ!」

四月がクッキーを1つ掴んで俺に食べろと言わんばかりに右手を突き出してきた。

今の俺にとって、それはすごくハードルの高いコトだったので、素直に口を開けられずにいた。

「ん~~!」

若干頬を膨らませながら、四月が早く食べてと言わんばかりに唸り声をあげていた。

俺も覚悟を決めて四月から差し出されたクッキーを、そのまま口で受け取る。

未だの残る羞恥を必死に堪えながら、クッキーを咀嚼していたが・・・。

「かっら!!!!!!」

そう、そのクッキーは異様に辛かったのだ。

何かの罰ゲームかよってレベルで辛くて、普通に食べられたもんじゃない代物だった。

俺のその様子を見て四月は爆笑していたので、犯人は間違いなく目の前にいるこの四月バカだった。

「これ絶対お前の仕業だろ!? 俺のしんみりしていた嬉しさと感謝の気持ちを返せよ!」

「そんなの知らないもん! それは勝手に如月くんがそう解釈しただけだもん!」

「このバカ! お前本当成長してないのな!」

「私がバカなら如月くんは変態だもん!」

つの辛いクッキーを筆頭に、俺と四月の口喧嘩は始まり、そしてヒートアップしていた。

いや、だってまさかクッキーがこんな激辛に仕上がってるとは誰も思わなくないか?

そんな持ち上げて一気に下された感や、裏切られた感が出てくる。

未だに爆笑している四月を見て、俺は怒りを覚えバカ原の口に同じクッキーを突っ込む。

「んんっ!?」

咀嚼してしまったが最後、バカも俺と同じ苦しみを味わい噎せていた。

飲み物がかったらしくミルクティーに手を伸ばしていたが、生憎とそれはホットだから四月は一気に飲めないこともわかっていた。

「はははっ! これでお前と俺は同じになった。どうだ! これが俺の味わった苦しみだ!」

目の前で苦しんでいる四月を見て、謎の優越感を覚えた。

側から見たら俺がクズみたいになっているが、元々仕掛けてきたのは四月の方だった。

目には目を、歯には歯を、これは自業自得なのだ。

目の前で苦しんでいた四月は、いつの間にか笑っていた。

いきなり笑い出した四月に、頭がおかしくなったのかと心配になってしまった。

「おい、四月大丈夫か?」

「えへへっ! やっぱり如月くんはこうでなくっちゃね!」

「え?」

四月が言ったその言葉の意味を理解することはできなかった。

四月が何を思って、何を考えてそう言ったのだろうか。

そんな俺の様子を見て察したのか、四月が自ら語り出した。

「なんかここ最近の如月くんって、よそよそしいっていうか、普段の如月くんじゃないって感じだったからさ」

辛さも治ったのか、ミルクティーの入ったティーカップを手に取り一口飲み出す。

そして、大きく息を吐いてから、四月はまた言葉を紡ぐ。

「きっと、私とか六日とかが原因だってコトは分かってるんだ。如月くんのことだから、今度は自分の番だって思い詰めてるんだろうなって」

四月のその言葉を聞いて、心を覗かれてる気分になる。

普段はおちゃらけている四月も、時たま鋭い思考と観察眼を発揮してくる。

そして、ソレが今まさに発揮されていた。

「だからね、少しでもリラックスさせてあげられたらなって思ったの」

「それで激辛クッキーかよ・・・」

四月の思惑はなんだか知らないが、この激辛クッキーが招いた結果は、お互い口喧嘩してお互い激辛クッキーを味わうっていう、誰も得のしない結果だった。

とてもリラックス出来るようなことではなかったと感じていた。

「激辛クッキーのことはごめんね。でも、それで導けたから。私達のいつも通りに」

「いつも通り・・・?」

私達のいつも通り。

私達となると当然俺も含まれるだろうが、ますます四月の言葉の意味が分からなくなる。

それでも、やっぱり四月は俺の小さな思考では到底思いつくことのない、思い描くことのできない思考へとたどり着いていた。

四月は良くも悪くも、常に自分の意思が行動に現れていた。

そして、それを今も実感していた。

「私がバカって罵られて、私が如月くんに変態って言ってさ。それが私たちのいつも通りでしょ?」

頭を鈍器でガツンと殴られた様な衝撃だった。

今思えば、最初の頃に比べて暗い気持ちも滅入ってる気持ちは、今は俺の心の中には存在していなかった。

今日の俺は、全部四月の手の平の上で転がされていただけなんだと思ったが、ソレを不快には感じなかった、

四月は、そういうヤツだったから。

やることなすことめちゃくちゃで、人の話を聞かない聞かん坊のような彼女だが、自分より他人に重きをおくバカ、人のことを自分が嫌われるかもしれないやり方を選んで、励まそうとするバカ。

そしてなによりも、優しいのが彼女、四月 七だった。

「よそよそしくて私のことを罵倒しない木更津駅くんなんか、如月くんじゃないんだよ!」

裏を返せば罵倒してくださいどうぞよろしくと言っているようなもので、お前はドMかと思ったと同時につい、俺からも柔らかい笑い声が響いた。

それにつられて、四月も一緒に笑い出す。



ずっと忘れていた、彼女の魅力をようやく思い出す。




四月 七という、彼女の優しさをと――――






俺が惚れた、バカの魅力はコレだったことを。
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