49 / 53
一×七
しおりを挟む
土曜日のお昼時、家のソファーで無気力にダラけていると、テーブルの上に置いてあったスマホから流れる着信音で、意識を現実に戻す。
ディスプレイには四月 七と表示されていた。
少し躊躇したが、無視するのもどうかと思い、俺は通話ボタンを押した。
「もしもし?」
『如月くんおはよー!』
「はい、おはよー」
『もぅ~テンション低いぞ~?』
「別に普通だろ・・・」
確かに自分でテンションが下がってる自覚はあったが、それを他者に指摘されると否定したくなる感情が湧いてしまう。
俺を知っているのは俺だけじゃなきゃいけないという、どうでもいいちっぽけなプライドがそうさせていた。
『んん~、まぁいいや。それでさ、今家にいる?』
「今? 家にい・・・ないかな」
きっとここで家にいるとか言い出したら四月のことだ、今から行くねとか言ってくるんだろうなと思った。
ここで回避できるなら回避しておきたいので、咄嗟の判断で、しかも苦し紛れな言い訳のように家にいないことを伝えた。
『・・・そっか』
すると、俺の家の呼び鈴が鳴る音がした。
今の家には俺しかいなく、例のごとくソファーで無気力にダラけていたので、その他の生活音は一切していないのだ。
そうなると、鳴らされた呼び鈴の音は、無邪気な子供の様に駆け回り綺麗に鳴り響いた。
『ダウト!』
「・・・・・・」
『クッキー焼いてきたから受け取って欲しいな~って。会いたくないなら受け取ってくれるだけでもいいから』
「・・・今行く」
あっさりと家にいないという嘘は見破られてしまい、会いたくないと思っていることも見破られてしまった。
まあ、居留守を使おうとしたら嫌でも分かってしまうか。
それはそれで、四月に悪いことをさせちゃったなと、後悔して気がつく。
また、彼女を傷つけてしまったと。
無自覚に人を傷つけるなんて、我ながら厄介な人間だなと思った。
重い腰を上げ、枷でも付いてるかの様に重い足をゆっくりと動かして玄関へと向かう。
玄関の扉を開けると、そこには四月がいた。
が、そこにいた四月は、今まで見ていた四月とは違っていた。
派手な服を着ているとかコスプレをしているとか、四月が考えそうな数本ズレた変な感覚のものではなく、ただ純粋に髪型が普段と変わっていた。
髪を横結びにして肩にかけているが、なかなかに似合っていた。
「・・・髪型、変えたんだな」
「あ、分かる? って、いくらなんでも気がつくよねコレは」
変えた髪型を再度見せつけるように、後ろに振り向く四月。
ヒラリと1回転して、また俺の方へと向き直した四月は、俺に1つの包みを差し出してきた。
包装されていたクッキーで、先程電話で言っていたやつのことだろう。
「これ渡したかったの。今回はちゃんと、如月くんの為に作ったやつだから!」
俺はそれを受け取れずにいた。
別に食べたくなかったわけじゃない。
自分でもこの理由は分からなかったが、なぜか俺の手は動かなかったのだ。
そんな様子見て四月は、俺の右手に直接握らせてきた。
どうしたの? や、なんで受け取らないの?
なんてそんなコトは聞いてこない。
「食べたら感想、聞かせてねっ!」
俺の至らない対応のオンパレードの中でも、四月はいつもの笑顔でそう言った。
ごめんなんてそんな言葉、今更言ったところでなんになるだろうか。
謝るくらいなら、最初からやるなって話だ。
最後にその言葉だけを残して、四月は立ち去ろうとしたが・・・。
「あ、上がってくか?」
無い頭を振り絞って吐き出した言葉は、謝罪でも懺悔でもない、ただ家に招き入れる為の誘い文句だった。
そんな俺の言葉を聞いた四月は、驚きの表情を浮かべたが、すぐにいつもの様に明るい表情に変わっていく。
「うん! お邪魔する!」
そう言って四月は、家主より先に家の中へと入っていく姿に少し呆れを思いつつも、やはり四月は四月なんだなと、根っこは変わらないんだなと、少し安堵の様なものも感じた。
俺も彼女の背中を追うように、家の中へと入っていく。
・
四月は、ソファーではなくリビングに置かれたテーブルのイスの上に座っていた。
気分が良いのだろうか、頬杖をついて鼻歌を奏でながら首を左右に揺らしていた。
「ソファーじゃなくていいのか?」
「こっちの方が如月くんの顔見れるし!」
そんな質問に深い意味はない。
だだ、場つなぎの意味を込めた質問に過ぎないコトを言ったのに、逆にカウンターをくらうとは思っていなかったので、少し赤面してしまう。
そのコトをバレないように、悟られないように俺は、飲み物を作るのを利用して四月に背を向ける。
「ミルクティーでいいか?」
「うん!」
俺はお馴染みの電気ケトルに水を入れセットしてボタンを押す。
その間にティーカップに紅茶のパックを入れ、ミルクと砂糖を用意しておく。
気がつくと、俺の隣に四月がいた。
「お皿使ってもいい? クッキー入れたいんだ~」
「そこの食器棚から、テキトーなの使ってくれ」
「は~い」
四月は依然、鼻歌を歌いながら食器棚を開けてちょうど良さげな皿を探していた。
お皿を用意してテーブルに戻った四月を見届けると、渡されたクッキーがまだ俺の手元にあったコトに気がついた。
「四月、これクッキー」
「あ、大丈夫! こっちにもあるから!」
そう言って四月は、自分の鞄から別の袋に入ったクッキーを取り出した。
その袋の中には、俺がもらったヤツより量が多いクッキーが入っていた。
皿の上にクッキーを乗せた四月だが、そのクッキーに手を付けないでいた。
飲み物はまだできていないので、それを待っているのだろうか。
「飲み物まだかかるけど、先食べてていいからな」
「ダメ~」
「は?」
「如月くんと一緒に食べるの!」
俺の想像していたコトと違うコトを言われ、またさらに赤面してしまう。
ったく、今日はやけに、四月を可愛く思えてしまう。
積極的に俺のツボを的確に突いてくる四月を見て、あの時言われた覚悟しといてと言われたあのセリフを思い出す。
前々から四月はグイグイくるから、今まではソレが先輩に発揮されていたが、今ではその対象が俺になっていたので、なかなかに慣れないところがある。
自ら家に上げてしまった為、今更帰ってくれなんてことも言えず、とりあえずはクッキーを食べてしばらくしないと無理だろう。
できたミルクティーの入ったティーカップを、四月の前に置く。
そして自分の分も用意して席につくと、ソレはいきなりだった。
「はいっ!」
四月がクッキーを1つ掴んで俺に食べろと言わんばかりに右手を突き出してきた。
今の俺にとって、それはすごくハードルの高いコトだったので、素直に口を開けられずにいた。
「ん~~!」
若干頬を膨らませながら、四月が早く食べてと言わんばかりに唸り声をあげていた。
俺も覚悟を決めて四月から差し出されたクッキーを、そのまま口で受け取る。
未だの残る羞恥を必死に堪えながら、クッキーを咀嚼していたが・・・。
「かっら!!!!!!」
そう、そのクッキーは異様に辛かったのだ。
何かの罰ゲームかよってレベルで辛くて、普通に食べられたもんじゃない代物だった。
俺のその様子を見て四月は爆笑していたので、犯人は間違いなく目の前にいるこの四月だった。
「これ絶対お前の仕業だろ!? 俺のしんみりしていた嬉しさと感謝の気持ちを返せよ!」
「そんなの知らないもん! それは勝手に如月くんがそう解釈しただけだもん!」
「このバカ! お前本当成長してないのな!」
「私がバカなら如月くんは変態だもん!」
つの辛いクッキーを筆頭に、俺と四月の口喧嘩は始まり、そしてヒートアップしていた。
いや、だってまさかクッキーがこんな激辛に仕上がってるとは誰も思わなくないか?
そんな持ち上げて一気に下された感や、裏切られた感が出てくる。
未だに爆笑している四月を見て、俺は怒りを覚えバカ原の口に同じクッキーを突っ込む。
「んんっ!?」
咀嚼してしまったが最後、バカも俺と同じ苦しみを味わい噎せていた。
飲み物がかったらしくミルクティーに手を伸ばしていたが、生憎とそれはホットだから四月は一気に飲めないこともわかっていた。
「はははっ! これでお前と俺は同じになった。どうだ! これが俺の味わった苦しみだ!」
目の前で苦しんでいる四月を見て、謎の優越感を覚えた。
側から見たら俺がクズみたいになっているが、元々仕掛けてきたのは四月の方だった。
目には目を、歯には歯を、これは自業自得なのだ。
目の前で苦しんでいた四月は、いつの間にか笑っていた。
いきなり笑い出した四月に、頭がおかしくなったのかと心配になってしまった。
「おい、四月大丈夫か?」
「えへへっ! やっぱり如月くんはこうでなくっちゃね!」
「え?」
四月が言ったその言葉の意味を理解することはできなかった。
四月が何を思って、何を考えてそう言ったのだろうか。
そんな俺の様子を見て察したのか、四月が自ら語り出した。
「なんかここ最近の如月くんって、よそよそしいっていうか、普段の如月くんじゃないって感じだったからさ」
辛さも治ったのか、ミルクティーの入ったティーカップを手に取り一口飲み出す。
そして、大きく息を吐いてから、四月はまた言葉を紡ぐ。
「きっと、私とか六日とかが原因だってコトは分かってるんだ。如月くんのことだから、今度は自分の番だって思い詰めてるんだろうなって」
四月のその言葉を聞いて、心を覗かれてる気分になる。
普段はおちゃらけている四月も、時たま鋭い思考と観察眼を発揮してくる。
そして、ソレが今まさに発揮されていた。
「だからね、少しでもリラックスさせてあげられたらなって思ったの」
「それで激辛クッキーかよ・・・」
四月の思惑はなんだか知らないが、この激辛クッキーが招いた結果は、お互い口喧嘩してお互い激辛クッキーを味わうっていう、誰も得のしない結果だった。
とてもリラックス出来るようなことではなかったと感じていた。
「激辛クッキーのことはごめんね。でも、それで導けたから。私達のいつも通りに」
「いつも通り・・・?」
私達のいつも通り。
私達となると当然俺も含まれるだろうが、ますます四月の言葉の意味が分からなくなる。
それでも、やっぱり四月は俺の小さな思考では到底思いつくことのない、思い描くことのできない思考へとたどり着いていた。
四月は良くも悪くも、常に自分の意思が行動に現れていた。
そして、それを今も実感していた。
「私がバカって罵られて、私が如月くんに変態って言ってさ。それが私たちのいつも通りでしょ?」
頭を鈍器でガツンと殴られた様な衝撃だった。
今思えば、最初の頃に比べて暗い気持ちも滅入ってる気持ちは、今は俺の心の中には存在していなかった。
今日の俺は、全部四月の手の平の上で転がされていただけなんだと思ったが、ソレを不快には感じなかった、
四月は、そういうヤツだったから。
やることなすことめちゃくちゃで、人の話を聞かない聞かん坊のような彼女だが、自分より他人に重きをおくバカ、人のことを自分が嫌われるかもしれないやり方を選んで、励まそうとするバカ。
そしてなによりも、優しいのが彼女、四月 七だった。
「よそよそしくて私のことを罵倒しない木更津駅くんなんか、如月くんじゃないんだよ!」
裏を返せば罵倒してくださいどうぞよろしくと言っているようなもので、お前はドMかと思ったと同時につい、俺からも柔らかい笑い声が響いた。
それにつられて、四月も一緒に笑い出す。
ずっと忘れていた、彼女の魅力をようやく思い出す。
四月 七という、彼女の優しさをと――――
俺が惚れた、バカの魅力はコレだったことを。
ディスプレイには四月 七と表示されていた。
少し躊躇したが、無視するのもどうかと思い、俺は通話ボタンを押した。
「もしもし?」
『如月くんおはよー!』
「はい、おはよー」
『もぅ~テンション低いぞ~?』
「別に普通だろ・・・」
確かに自分でテンションが下がってる自覚はあったが、それを他者に指摘されると否定したくなる感情が湧いてしまう。
俺を知っているのは俺だけじゃなきゃいけないという、どうでもいいちっぽけなプライドがそうさせていた。
『んん~、まぁいいや。それでさ、今家にいる?』
「今? 家にい・・・ないかな」
きっとここで家にいるとか言い出したら四月のことだ、今から行くねとか言ってくるんだろうなと思った。
ここで回避できるなら回避しておきたいので、咄嗟の判断で、しかも苦し紛れな言い訳のように家にいないことを伝えた。
『・・・そっか』
すると、俺の家の呼び鈴が鳴る音がした。
今の家には俺しかいなく、例のごとくソファーで無気力にダラけていたので、その他の生活音は一切していないのだ。
そうなると、鳴らされた呼び鈴の音は、無邪気な子供の様に駆け回り綺麗に鳴り響いた。
『ダウト!』
「・・・・・・」
『クッキー焼いてきたから受け取って欲しいな~って。会いたくないなら受け取ってくれるだけでもいいから』
「・・・今行く」
あっさりと家にいないという嘘は見破られてしまい、会いたくないと思っていることも見破られてしまった。
まあ、居留守を使おうとしたら嫌でも分かってしまうか。
それはそれで、四月に悪いことをさせちゃったなと、後悔して気がつく。
また、彼女を傷つけてしまったと。
無自覚に人を傷つけるなんて、我ながら厄介な人間だなと思った。
重い腰を上げ、枷でも付いてるかの様に重い足をゆっくりと動かして玄関へと向かう。
玄関の扉を開けると、そこには四月がいた。
が、そこにいた四月は、今まで見ていた四月とは違っていた。
派手な服を着ているとかコスプレをしているとか、四月が考えそうな数本ズレた変な感覚のものではなく、ただ純粋に髪型が普段と変わっていた。
髪を横結びにして肩にかけているが、なかなかに似合っていた。
「・・・髪型、変えたんだな」
「あ、分かる? って、いくらなんでも気がつくよねコレは」
変えた髪型を再度見せつけるように、後ろに振り向く四月。
ヒラリと1回転して、また俺の方へと向き直した四月は、俺に1つの包みを差し出してきた。
包装されていたクッキーで、先程電話で言っていたやつのことだろう。
「これ渡したかったの。今回はちゃんと、如月くんの為に作ったやつだから!」
俺はそれを受け取れずにいた。
別に食べたくなかったわけじゃない。
自分でもこの理由は分からなかったが、なぜか俺の手は動かなかったのだ。
そんな様子見て四月は、俺の右手に直接握らせてきた。
どうしたの? や、なんで受け取らないの?
なんてそんなコトは聞いてこない。
「食べたら感想、聞かせてねっ!」
俺の至らない対応のオンパレードの中でも、四月はいつもの笑顔でそう言った。
ごめんなんてそんな言葉、今更言ったところでなんになるだろうか。
謝るくらいなら、最初からやるなって話だ。
最後にその言葉だけを残して、四月は立ち去ろうとしたが・・・。
「あ、上がってくか?」
無い頭を振り絞って吐き出した言葉は、謝罪でも懺悔でもない、ただ家に招き入れる為の誘い文句だった。
そんな俺の言葉を聞いた四月は、驚きの表情を浮かべたが、すぐにいつもの様に明るい表情に変わっていく。
「うん! お邪魔する!」
そう言って四月は、家主より先に家の中へと入っていく姿に少し呆れを思いつつも、やはり四月は四月なんだなと、根っこは変わらないんだなと、少し安堵の様なものも感じた。
俺も彼女の背中を追うように、家の中へと入っていく。
・
四月は、ソファーではなくリビングに置かれたテーブルのイスの上に座っていた。
気分が良いのだろうか、頬杖をついて鼻歌を奏でながら首を左右に揺らしていた。
「ソファーじゃなくていいのか?」
「こっちの方が如月くんの顔見れるし!」
そんな質問に深い意味はない。
だだ、場つなぎの意味を込めた質問に過ぎないコトを言ったのに、逆にカウンターをくらうとは思っていなかったので、少し赤面してしまう。
そのコトをバレないように、悟られないように俺は、飲み物を作るのを利用して四月に背を向ける。
「ミルクティーでいいか?」
「うん!」
俺はお馴染みの電気ケトルに水を入れセットしてボタンを押す。
その間にティーカップに紅茶のパックを入れ、ミルクと砂糖を用意しておく。
気がつくと、俺の隣に四月がいた。
「お皿使ってもいい? クッキー入れたいんだ~」
「そこの食器棚から、テキトーなの使ってくれ」
「は~い」
四月は依然、鼻歌を歌いながら食器棚を開けてちょうど良さげな皿を探していた。
お皿を用意してテーブルに戻った四月を見届けると、渡されたクッキーがまだ俺の手元にあったコトに気がついた。
「四月、これクッキー」
「あ、大丈夫! こっちにもあるから!」
そう言って四月は、自分の鞄から別の袋に入ったクッキーを取り出した。
その袋の中には、俺がもらったヤツより量が多いクッキーが入っていた。
皿の上にクッキーを乗せた四月だが、そのクッキーに手を付けないでいた。
飲み物はまだできていないので、それを待っているのだろうか。
「飲み物まだかかるけど、先食べてていいからな」
「ダメ~」
「は?」
「如月くんと一緒に食べるの!」
俺の想像していたコトと違うコトを言われ、またさらに赤面してしまう。
ったく、今日はやけに、四月を可愛く思えてしまう。
積極的に俺のツボを的確に突いてくる四月を見て、あの時言われた覚悟しといてと言われたあのセリフを思い出す。
前々から四月はグイグイくるから、今まではソレが先輩に発揮されていたが、今ではその対象が俺になっていたので、なかなかに慣れないところがある。
自ら家に上げてしまった為、今更帰ってくれなんてことも言えず、とりあえずはクッキーを食べてしばらくしないと無理だろう。
できたミルクティーの入ったティーカップを、四月の前に置く。
そして自分の分も用意して席につくと、ソレはいきなりだった。
「はいっ!」
四月がクッキーを1つ掴んで俺に食べろと言わんばかりに右手を突き出してきた。
今の俺にとって、それはすごくハードルの高いコトだったので、素直に口を開けられずにいた。
「ん~~!」
若干頬を膨らませながら、四月が早く食べてと言わんばかりに唸り声をあげていた。
俺も覚悟を決めて四月から差し出されたクッキーを、そのまま口で受け取る。
未だの残る羞恥を必死に堪えながら、クッキーを咀嚼していたが・・・。
「かっら!!!!!!」
そう、そのクッキーは異様に辛かったのだ。
何かの罰ゲームかよってレベルで辛くて、普通に食べられたもんじゃない代物だった。
俺のその様子を見て四月は爆笑していたので、犯人は間違いなく目の前にいるこの四月だった。
「これ絶対お前の仕業だろ!? 俺のしんみりしていた嬉しさと感謝の気持ちを返せよ!」
「そんなの知らないもん! それは勝手に如月くんがそう解釈しただけだもん!」
「このバカ! お前本当成長してないのな!」
「私がバカなら如月くんは変態だもん!」
つの辛いクッキーを筆頭に、俺と四月の口喧嘩は始まり、そしてヒートアップしていた。
いや、だってまさかクッキーがこんな激辛に仕上がってるとは誰も思わなくないか?
そんな持ち上げて一気に下された感や、裏切られた感が出てくる。
未だに爆笑している四月を見て、俺は怒りを覚えバカ原の口に同じクッキーを突っ込む。
「んんっ!?」
咀嚼してしまったが最後、バカも俺と同じ苦しみを味わい噎せていた。
飲み物がかったらしくミルクティーに手を伸ばしていたが、生憎とそれはホットだから四月は一気に飲めないこともわかっていた。
「はははっ! これでお前と俺は同じになった。どうだ! これが俺の味わった苦しみだ!」
目の前で苦しんでいる四月を見て、謎の優越感を覚えた。
側から見たら俺がクズみたいになっているが、元々仕掛けてきたのは四月の方だった。
目には目を、歯には歯を、これは自業自得なのだ。
目の前で苦しんでいた四月は、いつの間にか笑っていた。
いきなり笑い出した四月に、頭がおかしくなったのかと心配になってしまった。
「おい、四月大丈夫か?」
「えへへっ! やっぱり如月くんはこうでなくっちゃね!」
「え?」
四月が言ったその言葉の意味を理解することはできなかった。
四月が何を思って、何を考えてそう言ったのだろうか。
そんな俺の様子を見て察したのか、四月が自ら語り出した。
「なんかここ最近の如月くんって、よそよそしいっていうか、普段の如月くんじゃないって感じだったからさ」
辛さも治ったのか、ミルクティーの入ったティーカップを手に取り一口飲み出す。
そして、大きく息を吐いてから、四月はまた言葉を紡ぐ。
「きっと、私とか六日とかが原因だってコトは分かってるんだ。如月くんのことだから、今度は自分の番だって思い詰めてるんだろうなって」
四月のその言葉を聞いて、心を覗かれてる気分になる。
普段はおちゃらけている四月も、時たま鋭い思考と観察眼を発揮してくる。
そして、ソレが今まさに発揮されていた。
「だからね、少しでもリラックスさせてあげられたらなって思ったの」
「それで激辛クッキーかよ・・・」
四月の思惑はなんだか知らないが、この激辛クッキーが招いた結果は、お互い口喧嘩してお互い激辛クッキーを味わうっていう、誰も得のしない結果だった。
とてもリラックス出来るようなことではなかったと感じていた。
「激辛クッキーのことはごめんね。でも、それで導けたから。私達のいつも通りに」
「いつも通り・・・?」
私達のいつも通り。
私達となると当然俺も含まれるだろうが、ますます四月の言葉の意味が分からなくなる。
それでも、やっぱり四月は俺の小さな思考では到底思いつくことのない、思い描くことのできない思考へとたどり着いていた。
四月は良くも悪くも、常に自分の意思が行動に現れていた。
そして、それを今も実感していた。
「私がバカって罵られて、私が如月くんに変態って言ってさ。それが私たちのいつも通りでしょ?」
頭を鈍器でガツンと殴られた様な衝撃だった。
今思えば、最初の頃に比べて暗い気持ちも滅入ってる気持ちは、今は俺の心の中には存在していなかった。
今日の俺は、全部四月の手の平の上で転がされていただけなんだと思ったが、ソレを不快には感じなかった、
四月は、そういうヤツだったから。
やることなすことめちゃくちゃで、人の話を聞かない聞かん坊のような彼女だが、自分より他人に重きをおくバカ、人のことを自分が嫌われるかもしれないやり方を選んで、励まそうとするバカ。
そしてなによりも、優しいのが彼女、四月 七だった。
「よそよそしくて私のことを罵倒しない木更津駅くんなんか、如月くんじゃないんだよ!」
裏を返せば罵倒してくださいどうぞよろしくと言っているようなもので、お前はドMかと思ったと同時につい、俺からも柔らかい笑い声が響いた。
それにつられて、四月も一緒に笑い出す。
ずっと忘れていた、彼女の魅力をようやく思い出す。
四月 七という、彼女の優しさをと――――
俺が惚れた、バカの魅力はコレだったことを。
0
あなたにおすすめの小説
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】
23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも!
そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。
お願いですから、私に構わないで下さい!
※ 他サイトでも投稿中
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる