恋愛相談から始まる恋物語

菜の花

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一×終

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1人、ただ1人この場所に居る。

別に誰かと待ち合わせをしているわけでもなく、ただ1人黄昏ているだけだった。

ここ数日、七と六日とお互いに過ごす時間があった。

六日は相変わらず、静かに寄り添ってくれる。

俺が欲しい時に、欲しいタイミングで、欲しい言葉をかけてくれる。

俺を知り尽くしていると言っても過言ではないくらいに、六日は俺をよく見ていた。

七の相変わらずの聞かん坊っぷりには、不覚にも笑ってしまったな。

でも、あの時言った四月のいつも通りが、いつまでも頭から離れなかった。

アレがいつも通りなんて笑えてくるが、確かにそれが四月と俺だった。

結局のところ、俺はどうなんだろうなと、少し思考を巡らせるが、結果にたどり着くのは、やっぱりアイツだった。

ベンチに座りながら、置いてあったペットボトルの飲料を、もう一度口に流し込む。

買った時は温かかった飲み物も、今ではすっかりぬるくなっていた。

「やあ、奇遇だね」

そう声をかけられて、後ろを振り向くと、先輩がいた。

前にも言ったが、別に誰かと待ち合わせをしていたわけではないし、こんな所で黄昏ているのを先輩に言った覚えはないので、本当に偶然だった。

「ども」

「隣、いいかな?」

「構わないっすよ」

「じゃあ、失礼するよ」

そう言って先輩は、俺の隣に座ってきた。

お互い何も話さないまま、ただただ時間だけが過ぎていく。

遠くに見える車の姿が、何台通り過ぎていったかはもう分からなくなった頃に、先輩が口を開いた。

「まだ、悩んでいるのかい?」

先輩にはまだ俺が悩んでいる様に映ったらしいが、答えは否だった。

俺はもう、どちらかを選ぶかは決めていた。

ただ、それをいつ言おうか、どのタイミングで言えばいいのかが分からなかった。

「いや、もう決めてますよ。だいぶ悩みましたけど」

四月自身の良いところ、六日にはない四月の良さ。

六日自身の良いところ、四月にはない六日の良さ。

お互いに優劣をつけがたい、全くの互角だったから、本当に苦労した。

2人は俺にはもったいないくらい可愛いし優しいし、いっそのこと一夫多妻制を採用、なんてバカげた思考に走ったこともあった。

「そりゃ悩むだろうね。水無月さんも七も、2人ともステキな女性だからね」

「そうっすね」

「1つだけ確認していいかい?」

「なんですか?」

そう言って先輩は一呼吸置いて、静かにその言葉を零した。

「まさかとは思うけど、どちらも選ばないなんて、バカげた結論じゃないよね?」

「・・・はははっ!」

まったく、心の中を覗かれてるみたいだよな、本当。

四月も六日も先輩も、俺のことをよく分かってるじゃん。

だけど、今はもう、あの時の俺じゃないってのは分かっていないみたいだった。

「それはないですよ。一時思ったことはありますけどね」

最初こそは、2人を選ばず済ませようとしたことがあった。

そうすれば、お互い得るものがないので、結果はイーブンだ。

この結果で納得いかなければ、糾弾されるのは俺であって、2人の仲が悪くなることはない。

それが、今回の件を丸く収める最善策だと思っていた。

けど、それは違うと気がついた。

四月と過ごして、六日と過ごして、2人のまっすぐな俺への気持ちを、そんな独りよがりの身勝手で無くしてしまっていいのだろうかと。

四月が積極的にアプローチして、やることはバカ丸出しだけどソレが逆に四月らしく、そしてストレートに伝わるその想いは、確かにホンモノで・・・。

六日が静かに、そして一途に俺を想ってくれた気持ちも、間違いなくホンモノで・・・。

彼女たちにここまでさせて置いて、逃げ出すなんて思考はすぐに捨てた。

俺が出さなきゃいけない結論は、2人が納得する結論だと今更ながら気がついた。

四月を切り捨てて六日を選ぶ。

或いは、六日を切り捨てて四月を選ぶ。

俺が出さなきゃいけない答えは、この2つのどちらかなのだ。

「なら安心したよ。もしそんなくだらないコトを考えていたら、キミを殴っていたよ」

「随分と物騒なこと言うんですね・・・」

「当たり前だろ? 僕の人生をめちゃくちゃにしたクセに、最後まで逃げ続けられたら、誰だって怒りが湧くだろう?」

「・・・・・・」

先輩のその気持ちが、痛いほど胸に響いてきて、何も言うことができない。

先輩の言っていることは、間違いなく事実だったのだから。

「ごめんごめん。イジワルな言い方だったよね」

そう言って先輩は笑っていたが、俺はそれに便乗して笑うなんてことはできずにいた。

先輩は良くても、俺がそんなことをしては、ダメなんだ。

「まあ、僕もそこまで引きずるのも女々しいってモンだから、もう気にしていないよ」

本音なのか建前なのかは分からないが、当たり障りのない回答しか、俺にはできなかった。

「でも、2人が今まで想ってきた気持ちを考えた時に、1人の男として、その判断はいけないんじゃないかなとは思うよ。別に、僕の過去のことは関係なくてね」

「それは分かってますよ。って言っても最近気がつきましたけどね」

「遅かれ早かれ、結果を出す前に気がついたなら、それでいいよ」

そして、またしばらくの沈黙が訪れる。

まだ、全てが終わった訳ではないのに、俺の心は意外にも落ち着いていた。

再び飲み物を口に含むが、ソレは完全に冷め切っていた。

「結局、どちらを選んだんだい?」

「教えませんよ」

「もしかして、僕の気持ちを汲んでくれない結果なのかい?」

「そんなわけないじゃないですか。ちゃんと結果はだしますから」

「なら良かったよ」

すると、先輩は座っていたベンチから腰を上げて立ち上がる。

大きな伸びをしてから、歩き出す。

別れの挨拶は何もせず、先輩は1人帰っていく。

「あ、如月くん」

「なんですか?」

「七を選ばなかったら、僕はキミをケーベツするよ」

「何回も言わないでくださいよ、分かってますから」

「はははっ! 幸せになってくれよ。僕の分まで」

最後に、先輩はそう言い残して、帰っていった。

その後も俺は、未だに1人ベンチに座ったままだ。

ずっと同じ様に、目の前を通り過ぎていく車をただ見つめている。

そして、決意をして、スマホを取り出す。

そして、とある人物へと連絡をする。

「もしもし、俺だけど」

『————――』

「————に伝えたいコトがあるから、会えないか?」

『――――――』

「ありがとう。後で俺の家に来てくれ」

『――――――』

「うん。じゃあ、またあとでな」

そう言って俺は、電話を切った。

ここにきて、ようやく不安が押し寄せてくる。

俺はちゃんと言えるだろうか。

気持ちを伝えることができるだろうか。

いや、しなくちゃいけないんだと、もう一度強い決意を固め、俺は家へと向かうのだった。
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