恋愛相談から始まる恋物語

菜の花

文字の大きさ
53 / 53

恋物語~fin~

しおりを挟む
珍しく早起きした今日は、時間にゆとりがあったのでトーストを焼いてみた。

だが、ジャムなどは一切なく、素材本来の味を堪能する形となり、少し物寂しい朝食ではあったが、そんな寂しい口元に触れる甘い飲み物。

俺の大好きなそのミルクティーの甘さが、身に染みた。

ゆったりとした時を過ごしながらふと、掛け時計に目をやると、もうそろそろいい時間になっていた。

「行くか」

俺はソファーに置いてあったリュックを背負って、玄関へと向かう。

今日は平日なので普通に学校があるのだが、いかんせん待ち合わせがあったのだ。

ドアを開けると、家の前には約束の人物が相変わらずの無表情で立っていた。

「遅い」

「いや、5分前だからな?」

「あたしはもっと前に来てた」

「無茶言うなよ・・・」

俺と六日は、晴れて恋人同士になることになった。

そして、数ヶ月が経ってから、六日が一緒に学校に行きたいと言ってきたので、こうして俺の家の前で待ち合わせになったのだ。

六日の歩幅に合わせながら、2人でゆっくりと歩いて学校へ向かう。

もう、この代わり映えのない景色も見慣れたモノとなり、新鮮味は感じられなかったが、2人で歩くそのコトは、いつだって新鮮に感じられた。

何を話すわけでもない。

話題を振られたらそれに答えて、そしてまたの沈黙のそんな繰り返し。

それでも、俺は満足していた。

そして、六日もきっとそうなんじゃないかと思っている。

コレが俺と六日の付き合い方だから、今までもこれからもそれは変わらないんだろうな。

「今週の土曜日って暇?」

「今週は特に予定はないな」

「どっか行かない? たまにはさ」

「そうだなー」

お互いそれなりに会えている環境だから休日に2人でどっかに行くってことがなかったから、この約束も久しぶりだった。

前に六日が遊園地に行きたいって言ってたっけ?

そんなことを考えていると、ある人が浮かんでくる。

「・・・四月・・・」

あの日以降、四月の話した事はない。

メッセージアプリのやり取りすらなくて、学校でも基本的には会っていなかった。

遠くで姿を見かけた時はあるが、所詮はその程度だった。

「七がどうかしたの?」

少し強めの口調で、六日が俺に聞いてきた。

分かったからその鋭い視線はやめなさい。

結構恐いんだから・・・。

「いや、どうしたって訳じゃないけど、元気にしてるかな~って」

「・・・気になるの?」

「まあ、一応はな」

自分が振った相手のことを気になるのは、仕方がないことではないだろうか?

別に四月に未練が残ってるとかそんなんじゃなくて、ただ純粋に元気にしてるかな~ってその程度だ。

六日が心配するようなことにはならないが、六日はやっぱり不安なのだろう。

「・・・一応、毎日元気にやってるよ」

「そっか」

「自分の選択に、後悔してる・・・?」

不安を抑えきれなかったのか、六日が弱気な発言をしてくる。

そんな六日に、少しでも時間を与えてしまえば逆効果なので、俺は即答でこう答える。

「してないよ」

「そう・・・」

「自分の選択を後悔したら、俺が傷つけちゃったけど前を向いた四月にも、ずっと俺のこと想ってくれて今も隣に居てくれるお前にも失礼になるからな」

「そう・・・」

「だから、後悔はしてないよ」

それ以上六日は何も言わなかったが、不意に握られた右手が、ありがとうと言っているような気がした。

俺のこの選択が、100%正しかったって保証は、どこにもない。

この結果で、不幸になるかも知れない。

明日には、大喧嘩でもして別れるかも知れない。

でも、そもそも恋愛っていう漠然としてふわふわした感情の集合体の中に、100%正解があるなんて思っていない。

正しさがないからいくらでもやり直せて、広げられて、新しく紡いでいける。

もうすぐ学校に近づく景色になった頃に、2人並んで歩いていたはずなのに、俺の少し後ろを歩く六日の手を引く俺。

言葉が極端に少ない六日は、代わりに露骨に行動に出やすい。

別にこれが最後じゃないんだしと思いながらも、六日の手を引いて歩く。

まあ、素直じゃないのはお互い様なので、指摘するのも野暮な話だろう。

そして、またこの季節がやってる。

去年は1人で見たこの景色も、今は隣に六日がいて、彼女と一緒に見ると、また違った景色に見えた。

そんなことあるはずはないけど、そう見えてしまっているのは、きっとそれは盲目こいだからだろう。

隣で微笑む六日の横顔見ながら、今日も俺はキミに溺れていく。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

処理中です...