恋愛相談から始まる恋物語

菜の花

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不意打ちな告白

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「はい、頭あげて」

「わりぃ、六日・・・」

「お礼はいいから、今はゆっくり休んで」

あたしは今日、一の元へ看病をしにやってきた。

少し話したいコトがあって、教室を訪れても姿はなくて、先生に聞いたら風邪で休んでるって聞いて、それからずっとモヤモヤして、ズル休みしてもいいからあんたの所に行ってあげたいなって思ったけど、そんなことしたらあんたは怒りそうだからやめた。

学校が終わったら、すぐにあんたの家に向かって、途中で熱さまシートとか風邪薬とか飲み物とかたくさん買って、無我夢中になっていた。

恋は盲目とは言ったもので、あたしも今はまさにソレ。

後先考えず、思考よりも行動が先に出てしまっていた。

別にあいつの彼女でもなんでもないのに、変にお節介やいて、構い続けても引かれないかなとか、あたしって重くなってないかなとか、少しは距離を置いた方がいいんじゃないかなとか、たくさん考えたけど、でもあんたの側にいたくて、気がついたら目で追ってる自分がいた。

あたしは七みたいに、他人に元気を与える様には振る舞えない。

あたしは七みたいに、あんたを笑わせてあげられない。

あたしは七みたいに、あんたに笑顔を見せられない。

まだ、あいつから結果は聞いていない。

でも、聞かないでこのまま過ごすのもアリなんじゃないかなって、最近思う様にもなってきた。

ソレは、あたしの求めた結末とは違くて、独りよがりのただの逃げの選択だってコトも分かってるけど、選ばれない可能性が少しでもある限り、あたしは不安に押しつぶされそうになる。

この気持ちは何回だって何度だって味わったけど、それでもなる度に苦しくなる。

いつまで経ったって、慣れないモノだった。

あたしが家に訪れた時は、顔を真っ赤にして目は虚ろで、とても大丈夫には見えなかった。

それでも、あんたはあたしに大丈夫と言って笑って見せてくれた。

その笑顔がどうか・・・あたしだけに見せてくれるものであって欲しいと・・・儚いないものねだりとは分かっているけど、そう思わずにはいられなかった。

「別に寝ときゃ治るだろ」

「薬は飲んだの?」

「・・・いや・・・」

「それじゃ治るわけないよ」

本当に自己管理が疎かなんだからと、心の中で愚痴をこぼす。

でも、そんなあんたにいろいろしてあげるコトも、何だかんだ言ってあたしの楽しみでもあったりするんだよ。

ベッドで眠っていた、あんたの呼吸が乱れているのを見て、心が苦しくなる。

別にこれが最後のお別れって訳じゃないし、ただの風邪だってコトも理解してるけど、それでもあたしの盲目こいは苦しさでいっぱいだった。

額に浮かべる汗をタオルで拭うと、辛そうな表情が一瞬和らぐ。

その一瞬にさえ心踊ってしまう。

こんなのはあたしじゃないって思っても、これがあたしなのは間違いなくて、そんな急激に変わっていく気持ちについていけないと感じる時もあったけど、あんたへのこの気持ちだけは否定したくなくて・・・。

ごめんね、七みたいにお菓子作りとか料理とか得意じゃないから、お粥とか作ってあげられないんだ。

コンビニで買ったレトルトだけど、許してね。

でも、最近は少しだけ挑戦してみてるんだ。

なかなか上手くいかないけど、あんたが喜んでくれる姿を想像するだけで、嬉しくなって楽しくなるんだ。

「ほら、口開けて。あーん」

「・・・あーん」

「急いで食べようとしなくていいからね。ゆっくりでいいから」

「・・・わりぃ・・・」

「今日は謝るの、禁止」

恥ずかしがりながらも、致し方ないと理解して、照れながら口を開けるあんたが可愛くて愛おしかった。

焦って食べようとするから、口の周りにちょっと付いちゃってるよ。

あたしはそれを人差し指で拭って、自然と口に運ぶ。

今の一連の流れは無意識なモノだったが、口に含んだ瞬間に現実に戻って、急激に恥ずかしくなってしまう。

「自爆してんじゃねーよ・・・」

「うるさい」

「・・・もう一口、くれるか?」

「うん。あーんして」

いつもとはまた違う、どこか幼いあんたに、また違った刺激を受ける。

ただの食事でも、今の体調と体力となるとソレはとても大きな仕事となり、疲労も溜まるだろう。

あたしの温めたレトルトのお粥を、全部綺麗に平らげてくれた。

あたしが作った料理でも、こうやって全部食べてくれるのかな?

答えの出ない問いを、相手じゃなくて自分に投げかける。

静かに一定のリズムで響く呼吸音は、初めの頃に比べてだいぶマシになっていた。

あんたが眠って2時間くらい経ったかな。

額に浮かべる汗を定期的に拭き取って、気持ち良さそうにしている寝顔を見て癒されて、あんたと2人っきりって事実に頬を染めて。

気がついたら、あたしも寝てしまっていたらしい。

頭に何かが触れる感覚がした。

ソレは柔らかくて、でも力強くて。

優しくて、そして温かくて。

ふと顔を上げると、ソレはあんたの手だったって気がついた。

驚いた表情を浮かべながらあたしを見たけど、すぐに柔らかい表情になっていた。

「六日のおかげでだいぶ楽になったよ。ありがとな」

「お礼は禁止って言ったよ? あたしがしたくてやったコト」

「それでも、言いたいから言うんだよ」

「意地っ張りなんだね」

「ソレ、六日が言うか?」

「あははっ、それは言えてるね」

こんな他愛のない話をするのも大好きだった。

お互いなんてコトない話をして、それなのにバカみたいに笑って、満足して。

そんなトクベツじゃなくて、ありきたりなフツーの方がいいと感じるようになっていた。

「それからさ、六日。付き合ってくれないか?」

「別にいいよ。今はしょうがないし、今更気にしないよ」

「は?」

「え?」

あたしはてっきり、トイレに行きたいけどふらついたりしちゃうからと付いてきてくれって読み取ったけど、その反応からすると、あんたは違う意味で言ったのかな?

「いや、そうじゃなくてさ・・・」

「へ・・・?」

そう言ったあんたの言葉を頼りに、思考を巡らせると、1つの答えに辿りついた。

でも、こんなに急に言われるコトなんてある?

心の準備とかそんなの全然してなくて、勢いについていけてない自分がいた。

まだ本当にそうと決まった訳じゃない。

でも、あたしは溢れ出るこの想いナミダを、止めるコトは出来なかった。

ずっと想って、ずっと欲しくて、ずっと好きだった人から、ずっと言われたかった言葉を言われたような気がした。

あたしの涙にあんたは困惑していて、そんな情けない姿ですら今は可愛く思えてしまう。

「さっきのはその・・・恋人になって欲しいって意味のアレで・・・」

・・・言ってくれた。

あんたはちゃんとソレを言葉にしてくれた。

あたしの気持ちにちゃんと応えてくれた。

ソレが何よりも嬉しくてたまらなかった。


『あたしを選ばなかったあんたを、あたしはきっと嫌いになるから』


そんな脅迫みたいセリフを言って、嫌われるかもしれない、幻滅されるかもしれないって思って不安でしょうがなかったけど、今、この瞬間にやっと報われた気がした。

「本当に・・・?」

「ああ」

「・・・本当に、本当に?」

「ああ、そうだよ」

「嘘じゃ・・・ないよね?」

「こんな状況で嘘つくヤツいないだろ」

「あんたはあたしを・・・恋人にしてくれるの?」

「むしろこっちからお願いするよ」

思考が上手く働かない。

でも、それでもあたしの心は、一気に満たされていた。

ずっとずっと抱いていた想いが、不安で押しつぶされそうになっても、逃げ出したくなっても、諦めようと思っても、踏みとどまって想い続けたキモチが、やっと実を結んだ瞬間だった。

大人になっても、この告白は周りには話せないかな。

ムードのカケラもなくて、予備動作も何もなくて、バカで、病み上がりで、後先何も考えずに発言してきて、あたしを喜ばせてくれたこの告白を。

話せないじゃなくて話したくない、かな。

この喜びは、あたしの胸の中だけにしまっておきたいから。

「夢じゃない・・・よね?」

「きっと、現実だろ」

「そこは確信持ってよ」

「現実だよ」

そう微笑むあんたの頬に、ソッと手で触れる。

柔らかい感触と、まだ微熱が残ってるのか通常よりも高い温もり。

その瞳が綺麗で見惚れて、あたしはあんたに顔を近づけた。

あたしにとっては初めてのソノ味は、なんだかしょっぱいモノだったけど、けっして嫌なモノじゃなかった。

「付き合ってすぐなのに、キス・・・しちゃったね」

「言うなバカ・・・」

そう言って頬が赤くなるあんたを見て、また癒される。

まだあんまりコレと言って実感は湧かないけど、唇に未だに残るその感触がクセになる。

「六日、好きだよ」

あたしはやっと掴めた。

自分の望む結末、ハッピーエンドに辿りついた。

でも、ここで終わりじゃなくて、また新しいスタートだった。

あたしとあんたで紡ぐ、新たな物語を奏でるスタートライン。




「あたしも好きだよ、一」
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