真壁優志は結婚に向いていない

ちょろぎ

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友達が出来た

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 空が暗くなり、燃えるような赤が紺藍色に飲み込まれていく。
 とうに灯りの灯った街は、帰路を急ぐ人のシルエットを曖昧にした。

「こんばんは!真壁さん」
「こんばんは涼くん。お仕事お疲れ様」

 今日も俺を待っていてくれる人がいる。



 俺、瀬戸口 涼は町の小さな工場で働く社会人だ。

 趣味はランニング。
 趣味っていうか日課に近いか。
 中学生の時から荒天時以外は毎日走っている。
 どこででもできるし、シューズ代はかかるけど、それ以外はそこまでお金もかからない。
 誰でも挑戦できるし何より健康的!

 真壁さんとの出会いは数ヶ月前になる。
 ドラマチックで運命的な出会いとかではない。

 ごく普通の休日。
 平日よりちょっとだけ遅く起きて、ゆっくり朝食を食べ、そしていつもより長いルートを走っていた。

 日差しがあったかくなってきたな。ここから数ヶ月はランニングに最適の気候。

 ランニング中にスマートウォッチからの通知に気付き、足を止めた。

「こんにちは」

 どこからか聞こえる爽やかな挨拶。

 メールは⋯会社からか。来週から新しいパートさんが配属予定ね。了解。
 ⋯⋯?
 そういやさっきの挨拶、どこからだ?周りに誰もいないし、誰への?
 顔を上げ、周りを見回すと、俺がちょうど立ち止まったお宅の玄関先に煙草を手にした男性がいた。

「こっこんにちは、すみません、ご自宅の前で立ち止まって」

 やっべー、不審者だと思われたかな。
 何となく気まずくて軽く会釈をして立ち去ろうとしたのに男性は構わず会話を続けようと口を開いた。

「いえ、そこは公道なのでお気になさらず。ランニングですか、いいですね」
「は、はい、もうずっとやってるんで、毎日走らないと調子が出なくて」

「頑張ってください」って言われて気分が良い一日だった。
 そんで、たまに会うとまた挨拶してくれる。俺も元気に返す。

 その内お互い自己紹介し、名字とは言え名前で呼び合うようになった。

 だけど立ち止まって会話をするのは、そこからさらにたまに。
 真壁さんが煙草に火を着けたタイミングだったら俺も立ち止まる。
 吸い終わる頃に「それでは」と別れる。

 最初は煙草一本分だった会話は次第に伸びていった。


「へぇ、瀬戸口さん、学生の頃はサッカー部だったんだ?」

 たまたまラン用に着ていたのがサッカーチームの応援ユニだったから、そこからサッカーの話になり、部活の話になった。

「そうなんですよ。そこそこ強くてジュニアユースにも入ってたんすけど、同じ中学の友達はすっげぇ上手くて。海外遠征にも参加してて、もう全然通用しないなって思い知らされて高校までしかやってないんですけど」

 今でも体を動かす事が好きだから、フットサルチームには入っている。
 社会人の。ゆるいやつ。

「真壁さんは何部だったんすか?」
「僕は剣道部だったよ」
「えー?!カッコイイっすね!うちの中学校、剣道部って無かったから未知の世界だ」

 何かイメージできる。真壁さん姿勢もいいし、絶対似合う。

「ありがとう。でもね、夏は防具で暑いし、裸足だから冬はずっと霜焼けが治らなくて結構辛かったんだよね」

 当時を思い出したのか、真壁さんは苦笑いを浮かべた。

「大学の時は登山同好会に入ってたよ。すごいビギナー向けの」
「楽しそう!山頂でコーヒー飲むの憧れる! 」

「そういえば」と真壁さんがスマホを取り出した。

「うちの会社がスポンサーやってる関係でいくつかチケット貰えるんだけど、もし良かったら一緒にサッカー見に行かない?」

 スマホに表示されたJリーグの日程表。まだまだシーズンも序盤だ。

「どの日でもいいよ。都合いい日ある?」
「えー!行きたいっす!でもいいんですか?全然部外者なんですけど」
「あぁ、友達と行くのは問題ないから」
「⋯⋯ともだち」
「そ、友達。なってくれる?」

 えー!嬉しい。

「俺で良かったら、是非!」

 じゃあ連絡先交換しよ、って2次元バーコードを読み込んで追加されたのを確認。
 見慣れないアイコン。真新しい友だち。

「真壁優志さん」
「瀬戸口涼さん⋯涼くんて呼んでいい?」
「勿論です。やばい、涼くんて呼ばれるの久しぶり」

 学生の時は呼び捨てが当たり前だったから、君付けって新鮮だな。

「僕の事も名前で呼ぶ?」
「やー⋯まだ早いっすね、その内、おいおい」

 俺は上下関係に厳しい世界で育ったんだ。

「ふふ、大人になってから初めて友達出来た」
「俺もです!」
「また登山とかチャレンジしたいんだけど、一緒にどう?」
「俺で良ければ!」
「約束ね。とりあえず今夜ご飯行こ!」
「行きます!」

 真壁さんすげぇフットワーク軽いじゃん。


 ♢♢♢


 その場で真壁さんが予約してくれた餃子専門店の店内は、夕飯時で賑わっていた。
 人気店なのか、待っている人で入口のベンチはいっぱいだ。


 タブレットのメニューを開いてオーソドックスなやつと変わり種をいくつか注文。

 飲み物は⋯っと。
 実はそこまでアルコールは得意じゃないんだよな。飲めるけど、飲まなくてもいいってレベル。

「餃子にはビールだろ」って先輩に言われたら「そっすよね!」と、当然それに合わせる。
 でも本当はアルコール抜きで食事を楽しみたいんだよなぁ。酒より米。

 まあ、場の雰囲気って大事だし。
「とりあえずビール」って注文したら真壁さんは「あ、僕は烏龍茶で」ってソフトドリンクのページをタップした。

「⋯ビールじゃなくていいんですか?」
「んー、炭酸苦手なんだよね」

 だから気にしないでって言われて心が軽くなった。

 実は俺も酒はそんなに⋯って告白したら
「付き合いは仕方無いけどプライベート位は好きなの飲もうよ」って笑ってくれた。

 そっか、大人の男同士が遊ぶってなると、何となく飲み会の流ればっかりだったんだけど、真壁さんとなら無理しなくていいのか。

 ビールを取り消して、代わりに炭酸水を注文した。




「へー、涼くん普段は自炊してるんだ。あ、美味しい」
「そんな大した物は作ってないですけどね。こっちもウマイっす」

 スタンダードな餃子を平らげ、変わり種に手をつける。
 真壁さんは大葉。俺は海老。
 変わり種と言っても冒険はしない。
 ふざけて頼んで「好みじゃなかった」って残すのって何か嫌じゃん?

 真壁さんもそういうタイプっぽくて、注文する時、
「もっと冒険するべきかな~?でも食でチャレンジするの苦手なんだよね~。うー⋯結局安全牌を取っちゃう」
 ってうんうん唸っていたけどそれでいいと思いますよ俺は。


 友人というには当たり障りのない会話からだんだん、お互いの仕事の話になっていく。

 真壁さんは都内の不動産屋で営業をしているらしい。
 休みは水曜日が固定であとは土日のどちらか一日。たまに平日になる時もあるそうだ。

 俺の働く工場は作業系で、基本的にはパートさんばかり。メインの作業は数人の社員で行っている。
 覚えたら自分のペースでできるルーチン作業。
 大学出て二年目だから、慣れてきたとは言えまだまだベテランパートさん達には頭が上がらない。

 毎月の作業シフトさえ組んでしまえば、あとは新人パートさんの面倒はベテランさんが見てくれる。
 俺もやる事あるし、女性同士の方が気楽だろうと、ありがたくベテランさんにお任せしている。

 真壁さんは主に賃貸のご案内を担当しているらしく、繁忙期は地獄の忙しさだと遠くを見つめて笑っている。



 それから俺達は、毎週のように遊びに行った。

 ご家族の方には何も言われないのかな。
 遠い実家に里帰り出産とかで、しばらく留守にしてるんだろうか。


 気にはなったが、閑散期の今を逃すと繁忙期にストレスで体調崩すと言われたら付き合うしかない。
 ちなみに俺達が初めて会話した時が、絶賛繁忙期だったらしい。
 
 スポーツ施設も行ったし、期間限定体験型アトラクションも気になるものは片っ端からやってみた。

 都内の小さな美術館や庭園も俺一人なら行く機会もなかっただろうな。
 かと思えば、川に石切りをしに行ったり、花火OKの公園でひたすら線香花火対決なんて事もやった。

 もちろん登山もした。近場の低い山。
 それでもさすがに日帰りはキツくて、帰りの運転は交代しながら。

 何だかんだ、毎回とっても楽しい。俺以上に真壁さんはいつも楽しそうに笑っている。
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