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お試しの恋人
しおりを挟む「えぇー⋯?こ、恋人?」
「うん。好きだよ、涼くん」
生まれて初めてされた告白。こんな逃げ場のないシチュエーションで。なんてスマートなやり口なんだ。
真壁さんは俺を見つめて視線を外さない。手が重なった。
足は宙ぶらりんだから移動する事も出来ない。
角度を変えて俺の顔を覗き込むように近付いてきた。なんか、キッ⋯キス⋯される直前みたいだな。
背筋を伸ばして間合いを取った。
落ち着け⋯告白、返事⋯⋯。
口を開いては閉じを繰り返してる内にリフトは到着してしまった。
「車戻ろっか」
「は⋯はい、」
並んで歩くのが気まずくて半歩後ろを着いて車に乗り込んだ。無言。
真壁さんはエンジンをかける様子がない。
膝の上に置いていた手に真壁さんの手が重なる。あったかい。
指先を撫でたり爪を揉んだり。さっきより熱を持った動き。
意を決して口を開いた。
「あの」
「ん、なぁに」
「質問なんですけど、えぇと、好きって、そういう事、っすよね」
「そういう事、です」
「分かりました。で、もし付き合ってみたとして、それでもし駄目だったらどうするんですか?」
真壁さんという友人を失うのはすっげー怖い。
「駄目にならないからどうもしないよ。性格の相性がいいのはもう確定でしよ」
「それは⋯」
「付き合うって難しく考えないで。僕はもっと涼くんを優先したいし踏み込みたい。それって友達より恋人なら許される事でしょ」
「それは、まぁ⋯」
「付き合った記念日」はあっても「友達になった記念日」は多分ない。
「じゃ、じゃあ、俺も真壁さんの事、友達として好きだし、前向きに検討したいので⋯とりあえずお試しって形でもいいなら」
「勿論。お試し期間が終わっても絶対返品されない自信がある」
すごい自信だな。
「真壁さんていつから俺の事好きになってくれてたんすか」
行き同様、スムーズに流れる高速道路。
向かい合っては訊けそうにない疑問を投げかけた。
「えー?この子いいなって思ったのは、一番最初に挨拶した時かな」
俺がランニング中に立ち止まった時じゃん。
「そんな初期から?」
「その時は全然恋愛感情とかなかったよ。あの時ちょうど色々あって疲れてて、ボーッと家の前の雑草を眺めていたら涼くんが立ち止まってさ、仕事のいつもの癖で『こんにちは』って声かけちゃったんだよね」
「最初、自分に言ってくれてると思わなくて無視しちゃってすみません」
「それが普通なんだよ。成人男性にいきなり声掛けられたら、大体の人は警戒するもん。」
それがスーツ姿でも私服でもと真壁さんは言う。
「涼くん無反応でさ、ま、そりゃそうだよなって思ってたらパッて顔上げて僕の方向いて元気に挨拶返してくれて、それが凄く嬉しかったんだ」
目線は前方のままの真壁さんは、アームレストに乗った俺の手をぎゅっと包んだ。
「いい子だな、もう少し話したいなって思った。⋯⋯あの時は持ち帰った仕事が終わらなくて、眠気を覚ます為に一服してたんだ。本当は僕、殆ど吸わないエセ喫煙者なんだよ」
「あ、そうだったんすね。え、でも」
結構な頻度で玄関前で吸ってるの見たぞ。
「⋯⋯あれ、涼くんと話す為の口実。だってランニング中に男に待ち伏せされてるって、怖いでしょ」
「えっ!?俺の為?」
「どちらかと言うと自分の為だったけど。
もうこの際だから白状するけど、実は家の中から道路見てて、涼くんを発見したら急いで飛び出してました。
涼くん、いつも同じキャップ被ってて分かりやすかったし。絶対仲良くなりたかった」
真壁さん、行動力の化身かよ。
「あっ好きだけど、恋愛感情に気付いたのはスポーツバーに行った時なんだ」
「あぁ⋯、あの」
興奮と熱狂と酔っ払いに包まれし世界。
「涼くんが隣の人にキスされそうになってその時に明確に自覚した感じかな。 了承も得ずに腰を引き寄せたのに拒絶されなかったから、自分を抑えるのに必死だった」
「マジすか⋯真壁さんて俺の事すげえ好きなんすね」
「ね、自分でもびっくりしてる。事案にならなくて本当に良かった」
多分今、顔真っ赤になってる。運転中で良かった。顔見られないで済む。
機嫌良く笑いながら真壁さんは言う。
「昔見た夜景か何かのキャッチフレーズで
『友達と山に登って恋人と降りてきた』
みたいなのがあったんだけど、まさか自分も経験するとは思わなかったな。 大好きだよ、涼くん。僕の気持ちを拒絶しないでくれてありがとう」
「ちょ⋯、真壁さん。俺もうキャパオーバー」
もうやめて⋯俺のライフは0よ⋯⋯。
♢♢♢
夕飯はこっちに戻ってきてから近くのファミレスで済ませた。
「本当に送らなくて平気?」
「はい、少し歩きたい気分なんで」
真壁さん家で降ろしてもらって解散。
「じゃ、一回だけ抱きしめていい?」
断る理由もないから腕を広げた。
ギュッて包み込まれる。
身長はあんまり変わらないから、抱き合うと顔が触れ合う。
「涼くん⋯⋯好き」
「⋯や、耳元で」
「ね、キスしていい?」
返事をする前に唇が重なった。
触れるだけの軽いやつ。一度離れてもう一回。
真壁さんは耐えるように息を吐いてまた強く抱きしめてきた。
そんで背中をぽんぽんってして、名残惜しそうに離れていった。
「じゃ、気をつけて帰ってね。何かあったら連絡して。何もなくても家着いたら連絡ちょうだい」
「だから真壁さん、俺の事24歳児だと思いすぎ。でも、まぁ、はい。ちゃんと連絡します」
「おやすみなさい」って言い合って背を向けた。
曲がり角でチラッと振り返ると真壁さんはまだ見守ってくれていた。
大人になってからこんなに心配されるのって初めてだ。
真壁さんの気持ちを大切にしたい。
言われた通りに家に着いたらすぐにメッセージを送った。
すぐに既読がついて短い返信のあとに可愛いスタンプが送られてきた。
入浴とストレッチを済ませ、ベッドに横になる。
目を閉じて今日の出来事を振り返る。
殆ど真壁さんとしか話さなかったせいか、思い出すのは優しい声。
一日の終わりに思い出すのは真壁さんの声がいい。
眠る前に思い出すのは真壁さんがいいんだ。
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