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8 残り数回
しおりを挟む大きな事故があったとかで、セヴランさんは数日家を空ける事になった。
「屋敷内なら好きに過ごして構わない」と言われたので、遠慮なく好きに過ごさせてもらう。
最近話をしてくれるようになったハリー君とお喋り。
年が近い、フットマンの新人君。本当はお喋りするのはあまり推奨はされていないんだけど、セヴランさんの許可を得て休憩中にお茶に付き合ってもらっている。
傍らでは執事がさりげなく控えていて、会話は全部セヴランさんに報告されているんだろうな、とは思っている。別にいいけど。
「マチュ様はどのようにセヴラン様と出会われたのですか?」
純粋な眼差しで聞かれて、大変困ってしまった。
「え~と、メディシスさんの紹介というかなんというか」
「ああ、昏睡状態にあった民間人をセヴラン様が救助した事がありましたが、あれマチュ様の事だったのですね」
え、初耳。
もう少し詳しく聞きたかったが、休憩終了の鐘が鳴ってしまった。
使用人が一斉に動き出す気配がする。
学校の休み時間みたいな雰囲気で少し懐かしいが今は惜しい。
自室として与えられた部屋に戻り、思案に耽った。
俺は、昏睡状態のまま親に売られたのか?
ありえないと思いつつ、世の中には子どもを道具としか見ていない親がいるのも理解している。ましてここは異世界だ。
もしかしたら珍しい事でもないのかもしれない。
ふと、あのストーカー男はどうしただろうと考えた。
俺はあの男の目の前で死んだのか。
事故の記憶がある。右側から衝突され、臓器が左に動いたような衝撃だった。
もしアイツが俺と共に事故で死んでいたとしたら。一緒に異世界に転生をしていたら⋯。
⋯ゾッとした。
でも今の俺は全然違う姿だし、屋敷から出なければ会う事もない。
大丈夫だと自分に言い聞かせた。
「確かに君は、昏睡したままここに運ばれて来た」
帰宅したセヴランさんが詳細を話してくれた。
手の施しようがない状態の俺の元に、国が承認しなければ派遣されない治癒師のセヴランさんを、メディシスさんが連れて来てくれたらしい。
本来なら意識を取り戻した俺は借金返済の為にすぐにどこかに売り飛ばされる予定だったが、情が湧いたセヴランさんが俺を買い取ってくれた。そういう経緯。
セヴランさんマジ良い人すぎないか?
「俺、セヴランさんに会えて良かったです」
ぎゅっと抱き着いたら抱き返された。この人の傍にいれば安心だ。
♢
「マチュ様ってストック地方出身ですか?」
本日も暇を持て余した俺は、フットマンのハリー君について食器磨きをやらせてもらっている。
銀製のカトラリーを丹念に磨き上げる軽作業。
大学では実験器具の後片付けが好き過ぎて、美容クリニックの器具洗浄バイトまでしてしまった俺には楽しい労働。
「なんで?」
「マチュ様のストックって地名姓ですよね」
「へ~そうなんだ」
俺はストック出身のマチュさんらしい。一般常識の無い俺を馬鹿にするでもなくハリー君は教えてくれた。
て事は、そのストックって所に行けばマチュの両親にも会えるって訳だな。
よし、借金完済の暁にはお礼参りに赴く事にしよう。
ハリー君は、この後は買い出しに行くとかで外套を羽織った。
「いいな~外出。俺も街歩きしたい」
「マチュ様もセヴラン様にお願いしたらいいじゃないですか」
最近ハリー君の俺に対する態度が気安いものになって嬉しい。俺がここを出ても友達でいてくれるかな。
「無理だよ。俺、身分証無いもん」
そう思うと前科なんかつけたくない。
「は?どういう事ですか?」
ハリー君が素っ頓狂な声を上げた。
「だから~俺、自分の持ち物何も持ってないの。身分証も無いのに関所に近寄ったり憲兵隊に捕まったら処罰されちゃうんでしょ?」
「いやこの国はそんな殺伐としていないですよ」
もー何言ってるんですマチュ様。と笑った後、俺の顔を見てハリー君が真剣な顔をした。
「え、どなたから、そのような事を」
「⋯や、俺の勘違いだった、かも」
ハリー君と別れた後、自室に戻り契約書を広げた。
セックス一回につき三万。一度のセックスで何度射精しようが一回として数える。
お固く長ったらしい言い回しで記載されているが、要約するとそんな感じの事が書かれている。
最近セヴランさんは俺への溺愛を隠さなくなった。
恋人のように尽くし、愛を囁いてくれる。
契約期間が終われば切れる縁なのに、少し執着し過ぎてないか。
色素の薄い肌にはセヴランさんが残したキスマークが尋常じゃないくらい隠されている。
薄寒い恐怖を感じ無意識に自分を抱きしめていた。
契約書と共に封筒に入れていた紙を取り出す。
俺たちがセックスをした日付がずらりと並んでいる。
長かったような短かったような半年間。
残り数回で300万に到達する。
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