ストーカーから逃げたかっただけなのに男に買われるなんて

ちょろぎ

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12 真相

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 奥田隼人は卒論制作の息抜きに、大学最後の文化祭に参加した。
 大した理由は無かった。自身が所属していたサークルが出店する射的の人手が足りない時間だけ手伝ってほしいと声をかけられたから了承したに過ぎない。


 揃いの半被で合わせたメンバーの中に一際目立つ下級生がいた。初めて見る顔、という事は一年生か。
 愛されて育った人間特有の屈託のない笑顔は、世間知らずで擦れていない印象を与える。
 奥田好みの顔をして自然と目で追ってしまう。

 彼はとにかく客を盛り上げるのが上手かった。
 小学生が景品をゲットしたらハイタッチして一緒に喜んでいる。
 気軽に記念写真にも応じるその笑顔の虜になった奥田は「写真撮ってあげる」と親切を装い、彼の写真を手に入れた。

 ネームプレートに書かれた「うめ」を頼りに名簿をなぞる。
「梅澤奏多」以外に梅が付く人物はいなさそうだ。

「うめざわ、かなた⋯」

 そこから奥田の行動は早かった。
 放置気味だったSNSのプロフィールを「DD4」から「〇〇大学4年」と変更し、サークルの後輩から辿って奏多を見つけフォローした。
 すぐにフォロバされた時は興奮のあまり長文メッセを打ち込み、送る直前で我に返り消去したのは英断だった。

 趣味でも何でも、ハマった直後の情報収集ほど楽しいものはない。
 奏多が写る物は全てスクショを保存した。




 社会人になった奥田は久しぶりに一つ下の、サークルの後輩を飲みに誘った。

 思い出話に花が咲く。さりげなく誘導し、最近行われたサークルの飲み会の写真を見せてもらう。
 ⋯いた。奏多だ。二十歳になってすぐに参加した彼は、奥田を魅了した笑顔で写真に収まっていた。

 適当な理由をつけて写真を送ってもらう。
 奏多の情報を集めれば集める程抑えが効かなくなっているのを感じる。

 気付けば、彼の自宅ポストに写真を差し込む日が続いた。
 あまり頻繁にポストをチェックするタイプではないようで、写真とチラシが交互に投函されている状態だ。


 ある日を境にポストをチェックする奏多の動作が不自然になった。

 ようやく気づいてくれたようだ。
 笑顔も好きだが、少し曇った表情も実に愛らしい。
 愛と性欲を抑えきれない奥田は、奏多の写真で自慰をするのが日課となっていた。

「カナタ君の為の精子を届けたい⋯」

 使用済みコンドームの口を縛ってポストに入れてあげる事にした。
 舐めたいかもしれない。中に塗り込みたいかもしれない。それなら三つ位入れてあげた方が親切だろう。乱れる奏多を想像するだけでいくらでも量産できる。
 これを見て奏多が興奮すると、疑ってすらいなかった。


 バイト帰りの奏多は隙が多い。
 そっと隣に並んで歩いても気がついていない。
 こんなんじゃ、知らない男に路地裏に引きずり込まれてしまうよ。
 こんな風に。と奥田が実践する。

 初めての距離。後ろから抱きしめた奏多はいい匂いがした。
 少しだけ触れたら解放してあげようと思っていたのに、やんちゃな奏多に噛みつかれて一瞬怯んでしまった。
 車道に飛び出した奏多の眼前には大型車両が迫っている。

「!!」

 手を伸ばしたが、どうする事も出来ない。二人共撥ねられたが、奥田に後悔は全くなかった。




 魂が掻き混ぜられるような夢を見た。

 目が覚めた時、自分はセヴラン・サンダーソニアという人物に生まれ変わっていると瞬時に理解できた。セヴランとして生きてきた今までの記憶もある。

 すぐに強い焦燥感に胸が焦がれた。
 この世界の何処かに魂の片割れがいる。

 異世界に転生した時に感じた。
 奏多が自分の半身になったと。今それをはっきりと自覚した。

 奏多は死ぬ直前に奥田の血を舐めていた。
 体液が混ざった人間が同時に撥ねられた影響で魂が混ざってしまったらしい。
 奥田にとっては僥倖でしかない。
 どこにいても奏多を感じられる。

 ただ、強制的に混ざった影響で、奏多の宿体は昏睡状態になっているらしい。
 自分の気を混ぜてやれば落ち着く筈だ。すぐに迎えに行かなくては。

「メディシス、一つ頼まれてくれるか」

 メディシスは興味深げに片眉を上げ、セヴランの話に乗った。


 手に入れた彼、マチュは疑う事もなく、自身の体を差し出した。
 繋がった瞬間、互いの魂がぴたりと合わさったかのような強い多幸感に満たされた。
 すっかり舞い上がったセヴランは契約の事など忘れ、マチュを伴侶のように大切に扱った。

 それがまさか、半年も経った頃に逃げられるなんて。
 幸い居場所はすぐに分かる。

 そうか、たった半年の仲じゃ信じられないのかな。
 じゃあ教えてあげよう、俺が前世からの知り合いだったって事。
 名前を呼んだらきっと喜んでくれる。
 君を追い掛けてここまで来たんだよ。怖かったね、もう安心してって腕の中に閉じ込めてあげなくちゃ。

 うっそりと微笑むセヴランの笑顔は狂気に満ちていた。



「一緒に死ねて嬉しい。一緒に生きていけて嬉しい」

 マチュの顔を舐めながらセヴランは腰を打ちつけ欲望を注ぎ込む。

「ずっと一緒だよ、カナタ君」

 今日も間違った名前に愛を囁きながら。



【END】
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