ゴッド・スレイヤー

山夜みい

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第一章

第二十二話 リベンジマッチ

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 そして夜になった。
 二人で用意をして葬送官の支部へ行く。

 以前テレサが言っていたように大侵攻の兆候が消えないということで、夜でも多くの葬送官が集まっていた。堂々とロビーに入っていくジークたちに、複雑な視線が集まる。

 ーーおい、聞いたか。あの半魔、二週間でとんでもない陽力数値を叩き出したらしいぞ。

 ーーどうせババアの誇張だろ? 信じるほうが馬鹿だよ。

 ーーお前の方が馬鹿だろ。陽力計測装置は本部の貸し出し品。不正は出来ねぇって。

 ーー嘘か本当かはともかく、異端討滅機構ユニオン始まって以来の快挙らしいぞ。

 なぜだかジークの陽力値上昇が知れ渡っているらしい。
 不快な視線の中に混じる一部の視線が、ジークには居心地悪かった。

「な、なんか。今日はみんな変だね……」
「ジークがすごく頑張りましたからね」
「んー。でも、なんか複雑だな。頑張ったのは僕だけじゃないのに」

 リリアだって追放だの落ちこぼれだの蔑まれていたのだ。
 彼女の陽力も倍以上に伸びている。彼女こそ褒められるべきなのに。
 不満げに唸ったジークは「じゃあ」と悪戯を思いついた子供の笑みを浮かべる。

「今日、悪魔を倒してさ。見返してやろうよ。リリアがすごいってこと」
「……はい。頑張ります」

 ぐっと、リリアは拳を握る。
 そんな友の意気込みに微笑んでいると、リリアは「あの」と何か言いたげに口を開いた。けれど結局何もいわず、彼女は首を横に振る。

「どうしたの?」
「いえ……。今夜の任務が上手くいってから、言おうと思います」
「そっか。じゃあなおさら頑張らないとね」

 昼の担当官から引き継ぎを受け、ジークたちは街の外に出た。
 静かな夜を見下ろす満天の星々が、燦然と輝いている。
 ひゅぉぉ、とゆるい風がジークの肌を撫でた。
 その時だった。

「……来る」
「え?」
「聞こえたんだ。たぶんあと三十秒もかからず来る」

 いつにもましてジークの感覚は冴え渡っていた。
 これまで旅をして培った経験が、悪魔の襲来を教えていたのだ。

「リリア、準備はいい?」
「……もちろん。いつでも大丈夫です!」
「よし、じゃあ行こう。リベンジだ!」

 ジークはそう言って剣を構え、

「飛んで!」

 叫び、ジークとリリアは同時に地面を蹴った。
 ほぼ同時に地面から手が飛び出し、二人がいた宙を空掴みする。
 地面から這い出したのは以前に遭遇した土竜型の悪魔だ。
 正真正銘のリベンジに、ジークは口元に笑みを浮かべる。

「僕がひきつける! リリア、背中は任せたから!」
「はい!」

 ジークは双剣を振り、土竜型悪魔の腕を斬り飛ばした。
 蒼い血をまき散らしながら悲鳴を上げる悪魔へ、ジークは真っ向から立ち向かう。

「僕は剣。剣は僕。境界をなくして……斬る!」
「ギュアアアアァァァァアアアアアアア!」

 ジークの剣が悪魔を一閃。
 背後、リリアが略式の祈祷をささげる。

「《哀れな魂に光あれカルマリベラ》……ターリルッ!」

 ーー爆散。

 悪魔は白い光の粒子となって天に昇っていった。
 先制攻撃がうまく行き、早々に一体を葬魂出来たリリアは歓声をあげる。

「や、やった……! ジーク、わたしたち、やりました!」
「うん! でも、こいつは群れで行動するから……まだ来るよ!」

 言っているそばから、ぼこりと土が盛り上がる音。

「リリア、足元、そっちに来る!」
「……っ」

 ハ、と足元を見たリリアが飛び下がろうとする。
 だが遅い。地面に潜った二体の土竜型悪魔が、彼女の足をわしづかみにした。

「ーーリリアッ!」

 ジークはすかさず援護に向かおうとするが、

「ダメ、ジーク、後ろ!」

 転瞬、ジークの背後から五体の悪魔が飛び掛かってきた。

「……っ」

 一体目、二体目の足を斬り飛ばすことに成功するジーク。
 だが、体勢が前のめりになっていたことで反応が間に合わず、三体目の悪魔に捕まってしまう。

「ァ……ッ」

 ぐさり、と肉に食い込む鋭い爪。
 ジークを食らおうと肩に牙を突き立てる悪魔たち。

「だ、ダメ。またわたしのせいで……ジークーーーーッ!」

 悪魔に貪られているジークの姿を見て、リリアは悲鳴を上げた。
 身体が震えだす。忌まわしい記憶が蘇り、喉がカラカラに乾いていくーー

「大丈夫だよ」

 その瞬間、ジークは笑った。
 身体を貪られているというのに、訓練の時みたいに無邪気に。

「僕は死なないよ。リリア」
「ぇ、ぁ」
「例えどんな相手が来ても、僕は負けない。生きて帰って、また君と同じご飯を食べるよ」
「……っ」
「だから、さ。リリア。勇気を出して」

 リリアの膝は震えていた。
 脳裏によぎるトラウマが、土壇場で彼女を苦しめているのだ。

(や、やらなきゃ、わたし、わたし……でもッ)

 ーー何もできない自分を思い出す。

「いや、いや……ッ」

 ーーバディを失い、自分のせいで被害が拡大した絶望を思い出す。

 悪魔が掴む足がミシミシと悲鳴を上げ、リリアは崩れ落ちた。
 今にも飛び出しそうな悪魔に、恐怖ばかりが先走る。

 ーーそれでも。

「リリア」

 そう言って自分を呼ぶ彼の表情は、恐怖を吹き飛ばすほど暖かくて。

「信じてる」

 全幅の信頼を寄せた言葉に、リリアの心は燃え上がる。

「……《凍てつく氷よグラキス》《咲き誇れフロリス》」

(そうだ。わたしは、ジークに救われたんだ。怖がってなんていられない……!)

 トラウマを抱え、努力が実らないと塞ぎこんでいた自分を、彼は立ち上がらせてくれた。
 理不尽な怒りをぶつけたのに笑って許して、微笑んでくれた。

(わたしは、わたしは……彼を、守りたい!)

 身体の奥底から湧き上がる陽力を、リリアは一点に集中。
 二体の悪魔が地面から這い出し、彼女の体を覆うその瞬間──

「《舞い散る花のごとくフル・フラン》《貫けイルト》『凍華・連グラキスフローレンス』!!」

 宙に現れた氷が、悪魔の体を真っ向から貫いた。

『……!?』

 リリアを食らおうとしていた悪魔は悲鳴を上げて吹き飛ぶ。
 それだけでは終わらない。
 氷の茨は這うようにして地面を進み、ジークを食らっていた悪魔だけを背後から貫いた。

『ギィイアアアアアアアアアアアアアアーーーー!!』

 甲高い声をあげ、悪魔たちはジークの体から転げ落ちた。

「今です、ジークッ!」
「トニトルス流双剣術……ッ!」

 振り返りざま、ジークは右手を前に、左手を後ろに下げて構えをとる。
 回転と同時に斬撃を繰り出す。ラディンギルから学んだ双剣の初歩にして神髄。

「『百花繚乱』ッ!」

 斬撃のダブルラッシュ。
 二刀、四刀、と振るうたびに加速する双剣が光を放ち、悪魔を細切れにする。
 肉片と化した悪魔をさらに細かく刻み、音速を突破した剣撃でブォン!とソニックブームが発生するーー!

 悲鳴を上げる間もなく、悪魔の肉片は地面に落ちた。
 再生に備えて後ろに飛んだジークは、リリアが吹き飛ばした悪魔を斬り飛ばす。
 そしてーー

「《哀れな魂に光あれカルマリベラ》ターリル!」

 しゃらん、と錫杖を鳴らし、
 リリアの祈祷詠唱が悪魔を葬魂。白い光の粒子が天へと昇って行った。

「……ふぅ」

 静寂が、その場に満ちていく。
 戦いの余韻を感じつつ、息をついたジークはリリアに駆け寄った。

「リリア!」
「ジーク、け、怪我、怪我は大丈夫ですか!?」
「そんなことより、ほら!」

 心配そうに眉を下げる彼女を一顧だにせず、ジークは手を掲げる。
 その意味するところを悟ったリリアが「もう」と仕方なさそうに口元を緩め、
 パァン! と軽快な音が、荒野に響いた。

「へへ。いいね、これ。ハイタッチだっけ。なんか癖になりそう」
「そ、それはいいんですけど、怪我、怪我ですよ。大丈夫なんですか!?」
「え? あー、実は、ほら」

 ジークは後ろを向いて見せる。
 修業でボロボロになった神官服は悪魔の攻撃によって無残に破れて──

「あ、あれ?」

 リリアは目を瞬かせた。
 ジークの服は確かに破れてはいるものの、傷はかなり浅い。
 それどころか、既に血は止まっているような状態だ。

「どういう……?」
「噛みつかれる前に、剣で刺してたんだ。だから、捕まったように見えていたと思うけど、実はあんまり攻撃されてないっていうか……同じ状況を乗り越えたほうが、リリアのためになるかなー……なんて」

 リリアは絶句していた。
 ジークは、そこまで戦闘をコントロールしていたというのか。
 自分を成長させるために、あえて噛みつかれたふりをしてまで、気遣ってくれたのか。

「あなたって人は……本当に……」
「あはは」

 じん、と感じるものがあって、リリアは唇を噛んだ。
 堪えがたきを堪えるように俯き、顔を上げ、彼女は眉を逆立てる。

「だからって、無茶しすぎですよ! わたし、めちゃくちゃ心配したんですからね! わたしのせいであなたが死んじゃうんじゃないかって、怖かったんですから!」
「う、うん。ごめん。でも、勝ったんだからいいじゃん」
「それとこれとは別です! ジークはもうちょっと自分を大切にしてください!」
「はーい」

 こっぴどく怒られてしょんぼりするジーク。
 そんな彼を見て、リリアも溜飲が下がった。小さくつぶやく。

「……でも、ありがとうございます。わたし、あなたに出会えてよかった」
「え?」
「なんでもありません。さ、任務はまだまだ続くんですから、早く応急処置しますよ!」
「う、うん。分かった。次も頑張ろう!」
「はいっ」

 地上に悪魔がはびこる恐ろしい荒野の中でーー

 二人の楽しげな声が、軽やかに響いたのだった。

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