4 / 44
第四話 孤独な未来
しおりを挟むオルロー公爵との婚約を受けたわたしは嫁入りの準備をしていた。
フィオナが居るとお父様の目が厳しいから、彼女は家庭教師とレッスンの最中だ。わたしは侍女たちと一緒に荷物を選別し、用意していたのだけど……。
「ベアトリーチェ。話がある」
「お父様?」
突然部屋にお父様がやってきた。
要らない子供呼ばわりされたわたしに会いに来たことに驚いたけど、ほんのちょっぴり期待した。もしかして去り行く娘に父親として何か言ってくれるんじゃないかと。
「侯爵家からお前に侍女はつけない。それを伝えておこうと思ってな」
「え」
「話は以上だ。では仕事に戻る。私はお前と違って暇ではないのだ」
「……」
浮きかけた心はどん底に叩き落とされた。
(侍女を、つけない?)
(じゃあわたしは見知らぬ土地で、誰も頼ることなく)
(たった一人で、公爵家の元に行けっていうの?)
想像すると顔から血の気が引いてしまい、わたしは慌てて、
「お父様、侍女の一人もつけないというのは侯爵家の威厳に関わります。せめて誰か一人ぐらいは……」
「黙れ。侍女を雇うにも金が要るんだ。貴様が大量の借金を抱えなければ……それとも、貴様は侍女に給料を払えるのか?」
(それを言われてしまうと困るのよね……)
わたしは周りの侍女を見るけれど、侍女たちは気まずげに目を逸らした。
それはそうだ。彼女たちも労働者。
給料が払えない貴族についていくほどお人好しではない。
(……やっぱり、この世はお金がすべてね)
「……分かりました」
わたしは嘆息して通告を受け入れるしかなかった。
そして再び荷造りに戻ろうとして──
背筋に悪寒が走った。
黒い何かが床でもぞもぞと動いたのだ。
「きゃっ!? だ、だだだだだだだ誰か、取って、アレ、取って!!」
「お嬢様、お下がりください!」
「いや、なんか飛んで、いやぁああああああああ!」
「何かあったんですか? あ、お客様ですね。お帰り願いましょう」
その時、一人の侍女が廊下からやってきて、黒いお客様にお帰りいただいた。
窓の向こうに消えた招かれざる来客を見届けて、わたしはホッと息をつく。
「あ、ありがとう……シェン。助かったわ」
「いえいえ、この程度」
照れる侍女に、しかし、同僚たちの目は冷ややかだ。
「シェン、あっちに行ってもらえる? お嬢様は忙しいの」
「そうよ。獣臭いのが移るわ」
「……分かりました」
とぼとぼと去って行くシェン。
彼女の頭には犬耳が生え、腰からは尻尾が生えていた。
侍女たちの間にはびこる亜人差別に、わたしはムッとして、
「あなた達。わたしの前でシェンを虐めるとは良い度胸ね?」
「い、いえ、だってお嬢様……彼女は亜人ですよ?」
「だからどうしたの。可愛いじゃない」
「……も、申し訳ありませんでした」
「謝るのはわたしじゃなくてシェンじゃないの? もう荷造りはいいわ。わたし一人でやるから、あなたたちはシェンに謝ってきなさい。いいわね」
「…………はい。行ってきます」
侍女たちは廊下に消えると、囁き声が聞こえた。
「お嬢様って、亜人好きの変人よね。お金にがめついし、婚約破棄されたのも無理はないわ」
「しっ、聞こえるわよ」
「別にいいわ。明日には出て行くんだし。むしろ早く消えてくれないかしら」
当主から追放まがいの扱いを受け、婚約破棄を受けた女。
子爵家や男爵家といった貴族出身の侍女たちにとって、わたしは敬うに値しない女なのだろう。女としての価値でいえば、わたしの価値は相当に低い。ただ……
(そのお金にがめつい女から喜んでボーナスを受け取っていたのは誰かしらね)
わたしは負けじと内心で悪態をついて、作業に戻る。
誰も居なくなった部屋は寂しく、枕に顔を押し付けて、少しだけ泣いた。
15
あなたにおすすめの小説
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』
鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」
幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された
公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。
その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、
彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。
目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。
だが、中身は何ひとつ変わっていない。
にもかかわらず、
かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、
「やり直したい」とすり寄ってくる。
「見かけが変わっても、中身は同じです。
それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」
静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。
やがて彼女に興味を示したのは、
隣国ノルディアの王太子エドワルド。
彼が見ていたのは、美貌ではなく――
対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。
これは、
外見で価値を決められた令嬢が、
「選ばれる人生」をやめ、
自分の意思で未来を選び直す物語。
静かなざまぁと、
対等な関係から始まる大人の恋。
そして――
自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。
---
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
婚約破棄された公爵令嬢と、処方箋を無視する天才薬師 ――正しい医療は、二人で始めます
ふわふわ
恋愛
「その医療は、本当に正しいと言えますか?」
医療体制への疑問を口にしたことで、
公爵令嬢ミーシャ・ゲートは、
医会の頂点に立つ婚約者ウッド・マウント公爵から
一方的に婚約を破棄される。
――素人の戯言。
――体制批判は不敬。
そう断じられ、
“医療を否定した危険な令嬢”として社交界からも排斥されたミーシャは、
それでも引かなかった。
ならば私は、正しい医療を制度として作る。
一方その頃、国営薬局に現れた謎の新人薬師・ギ・メイ。
彼女は転生者であり、前世の知識を持つ薬師だった。
画一的な万能薬が当然とされる現場で、
彼女は処方箋に書かれたわずかな情報から、
最適な調剤を次々と生み出していく。
「決められた万能薬を使わず、
問題が起きたら、どうするつもりだ?」
そう問われても、彼女は即答する。
「私、失敗しませんから」
(……一度言ってみたかったのよね。このドラマの台詞)
結果は明らかだった。
患者は回復し、評判は広がる。
だが――
制度は、個人の“正
制度を変えようとする令嬢。
現場で結果を出し続ける薬師。
医師、薬局、医会、王宮。
それぞれの立場と正義が衝突する中、
医療改革はやがて「裁き」の局面へと進んでいく。
これは、
転生者の知識で無双するだけでは終わらない医療改革ファンタジー。
正しさとは何か。
責任は誰が負うべきか。
最後に裁かれるのは――
人か、制度か。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
「戻ってきてもいいぞ?」という傲慢――許せませんわ。
ちゅんりー
恋愛
隣国の第一王子・レモンの婚約者であったマーマレード・オレンジは、甘いものしか愛せない王子の心変わりと、甘ったるい声で媚びる令嬢シュガーの計略により、「可愛げのない、苦くて酸っぱい女」として婚約破棄され、国外追放を言い渡される。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる