冤罪令嬢は信じたい~銀髪が不吉と言われて婚約破棄された子爵令嬢は暗殺貴族に溺愛されて第二の人生を堪能するようです~

山夜みい

文字の大きさ
13 / 46

第十二話 おのれへの怒り ※シン視点

しおりを挟む

『アイリ・カランド子爵令嬢は王族を侮辱し、国に害を為す悪女である。至急排除されたし』

『尻軽女』『二枚舌』『残酷な悪女』
 聞こえてくる彼女の噂はどれも明瞭さを欠くものばかり。

 初めて依頼を受けた時から違和感は抱いていた。
 子爵令嬢が幼馴染をいじめ、貴族学校で幅を利かせるのは分かる。
 だが、王子と不貞まではするだろうか?
 王子が子爵令嬢に飽きて別の女と……というなら話は別だが。

「虐められていた……なるほど、それなら辻褄が合うな」

 今回、エルシュタイン王家特務機関から渡された依頼の不自然さも。
 アイリの部屋に不自然なくらい物が少なかったことも。
 そして、彼女が子爵令嬢には似つかわしくないほどみすぼらしかったことも。

 ごん、と俺は自分の頭を殴りつけた。

「あ、アッシュロード様っ!?」
「気にするな」
「いや、気にするなと言われましても……あの、血、血出てますよ!?」

 ハンカチを取り出して拭こうとするアイリをいなしながら俺は天を仰ぐ。

(馬鹿なことをしたものだ……)

 アイリを引き取ったのは記憶を読み取る魔術で彼女が冤罪であること確信したから。
 婚約破棄された彼女はエミリア・クロックに陥れられたのだ。

 ──都合がいいと思った。

 婚約者を必要としている自分の事情と、世間に絶望したアイリ。
 子爵令嬢という、爵位の低い貴族として生きてきた彼女なら教育のほうもある程度は出来ているだろうし、たとえ何か問題が起きてもすぐにもみ消せる。完全な自分勝手だ。家族に事情を説明しに行った時、アイリの妹は怒り心頭だったのが今となって身に染みる。

(だがまさか、理不尽に虐げられているとまでは思わなかった)

 子爵令嬢としてある程度の贅沢をしてきていると思った。
 豪華な食事を用意して欲しいものを買い与えるだけでは、いつか欲が肥大化して破綻する。
 そうなる前に釘を刺すために、一連の計画を組んだのに。

(辛い思いをしてきた女に何をしてるんだ俺は。暗殺貴族失格だ)

 これが暗殺者のやることかと言われれば疑問が残るが。
 暗殺貴族たるもの、弱きを助け理不尽をくじく存在であらねばならない。

「あ、アッシュロード様、本当に大丈夫ですか?」
「……君は優しすぎる」
「えぇ?」

 こんな男にそんな優しさ、相応しくないのに。

「…………ふう」

 反省はあとだ。今はやるべきことをやろう。
 俺は机のベルを鳴らしてリーチェを呼びつけた。

「呼ばれてやってきました、リーチェちゃんです!」

 じゃじゃーん! と胸を張り登場する幼いメイド。
 誰よりも信頼する彼女は俺の顔を見て背筋を伸ばした。

「旦那様、お呼びでしょうか」
「うん」

 こういう空気の読めるところはありがたい。
 今はふざける気分じゃないからな。

「主として命じる。ここにいる我が妻を磨き上げろ・・・・・・
「え?」

 戸惑うアイリと裏腹に、リーチェは顔を輝かせて敬礼した。

「委細承知しました! リーチェちゃん、本気出します!」
「あ、あの、磨き上げるって、どういうことです?」
「さぁ奥様、行きますですよ。リーチェが旦那様を誘惑するために編み出した化粧術を、とくとご覧に入れやがれ!」
「り、リーチェ? ちょ、わ!?」

 リーチェに背中を押されてアイリは出て行く。
 二人の姿を見送って、俺は通信水晶を手にした。すぐに声が聞こえる。

『我が闇と共に』
「救いは刃に」

 符丁を唱えると、聞き慣れた声が続く。

『ご用でしょうか、旦那様』
「セバス。王都にいる諜報員を総動員してエミリア・クロックの情報を集めろ』
『それは仕事ですか?』
「王族の契約不履行の可能性がある。裁くべき悪がそこにいる」
『……了解しました。では』

 最低限の言葉を交わして通信を切る。
 エミリア・クロック。そして第三王子リチャード・ヒューズ。
 彼らの顔と名前を頭に入れながら……

暗殺貴族この俺を愚弄した罪、死よりも重いと知れ」

 決意と共に、拳を握りしめた。


しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄されましたが、孤児院を作ったら国が変わりました』

ふわふわ
恋愛
了解です。 では、アルファポリス掲載向け・最適化済みの内容紹介を書きます。 (本命タイトル①を前提にしていますが、他タイトルにも流用可能です) --- 内容紹介 婚約破棄を告げられたとき、 ノエリアは怒りもしなければ、悲しみもしなかった。 それは政略結婚。 家同士の都合で決まり、家同士の都合で終わる話。 貴族の娘として当然の義務が、一つ消えただけだった。 ――だから、その後の人生は自由に生きることにした。 捨て猫を拾い、 行き倒れの孤児の少女を保護し、 「収容するだけではない」孤児院を作る。 教育を施し、働く力を与え、 やがて孤児たちは領地を支える人材へと育っていく。 しかしその制度は、 貴族社会の“当たり前”を静かに壊していった。 反発、批判、正論という名の圧力。 それでもノエリアは感情を振り回さず、 ただ淡々と線を引き、責任を果たし続ける。 ざまぁは叫ばれない。 断罪も復讐もない。 あるのは、 「選ばれなかった令嬢」が選び続けた生き方と、 彼女がいなくても回り続ける世界。 これは、 恋愛よりも生き方を選んだ一人の令嬢が、 静かに国を変えていく物語。 --- 併せておすすめタグ(参考) 婚約破棄 女主人公 貴族令嬢 孤児院 内政 知的ヒロイン スローざまぁ 日常系 猫

『胸の大きさで婚約破棄する王太子を捨てたら、国の方が先に詰みました』

鷹 綾
恋愛
「女性の胸には愛と希望が詰まっている。大きい方がいいに決まっている」 ――そう公言し、婚約者であるマルティナを堂々と切り捨てた王太子オスカー。 理由はただ一つ。「理想の女性像に合わない」から。 あまりにも愚かで、あまりにも軽薄。 マルティナは怒りも泣きもせず、静かに身を引くことを選ぶ。 「国内の人間を、これ以上巻き込むべきではありません」 それは諫言であり、同時に――予告だった。 彼女が去った王都では、次第に“判断できる人間”が消えていく。 調整役を失い、声の大きな者に振り回され、国政は静かに、しかし確実に崩壊へ向かっていった。 一方、王都を離れたマルティナは、名も肩書きも出さず、 「誰かに依存しない仕組み」を築き始める。 戻らない。 復縁しない。 選ばれなかった人生を、自分で選び直すために。 これは、 愚かな王太子が壊した国と、 “何も壊さずに離れた令嬢”の物語。 静かで冷静な、痛快ざまぁ×知性派ヒロイン譚。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

辺境の侯爵令嬢、婚約破棄された夜に最強薬師スキルでざまぁします。

コテット
恋愛
侯爵令嬢リーナは、王子からの婚約破棄と義妹の策略により、社交界での地位も誇りも奪われた。 だが、彼女には誰も知らない“前世の記憶”がある。現代薬剤師として培った知識と、辺境で拾った“魔草”の力。 それらを駆使して、貴族社会の裏を暴き、裏切った者たちに“真実の薬”を処方する。 ざまぁの宴の先に待つのは、異国の王子との出会い、平穏な薬草庵の日々、そして新たな愛。 これは、捨てられた令嬢が世界を変える、痛快で甘くてスカッとする逆転恋愛譚。

【完結】聖女を愛する婚約者に婚約破棄を突きつけられましたが、愛する人と幸せになります!

ユウ
恋愛
「君には失望した!聖女を虐げるとは!」 侯爵令嬢のオンディーヌは宮廷楽団に所属する歌姫だった。 しかしある日聖女を虐げたという瞬間が流れてしまい、断罪されてしまう。 全ては仕組まれた冤罪だった。 聖女を愛する婚約者や私を邪魔だと思う者達の。 幼い頃からの幼馴染も、友人も目の敵で睨みつけ私は公衆の面前で婚約破棄を突きつけられ家からも勘当されてしまったオンディーヌだったが… 「やっと自由になれたぞ!」 実に前向きなオンディーヌは転生者で何時か追い出された時の為に準備をしていたのだ。 貴族の生活に憔悴してので追放万々歳と思う最中、老婆の森に身を寄せることになるのだった。 一方王都では王女の逆鱗に触れ冤罪だった事が明らかになる。 すぐに連れ戻すように命を受けるも、既に王都にはおらず偽りの断罪をした者達はさらなる報いを受けることになるのだった。

婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。

地味だと婚約破棄されましたが、私の作る"お弁当"が、冷徹公爵様やもふもふ聖獣たちの胃袋を掴んだようです〜隣国の冷徹公爵様に拾われ幸せ!〜

咲月ねむと
恋愛
伯爵令嬢のエリアーナは、婚約者である王太子から「地味でつまらない」と、大勢の前で婚約破棄を言い渡されてしまう。 全てを失い途方に暮れる彼女を拾ったのは、隣国からやって来た『氷の悪魔』と恐れられる冷徹公爵ヴィンセントだった。 ​「お前から、腹の減る匂いがする」 ​空腹で倒れかけていた彼に、前世の記憶を頼りに作ったささやかな料理を渡したのが、彼女の運命を変えるきっかけとなる。 ​公爵領で待っていたのは、気難しい最強の聖獣フェンリルや、屈強な騎士団。しかし彼らは皆、エリアーナの作る温かく美味しい「お弁当」の虜になってしまう! ​これは、地味だと虐げられた令嬢が、愛情たっぷりのお弁当で人々の胃袋と心を掴み、最高の幸せを手に入れる、お腹も心も満たされる、ほっこり甘いシンデレラストーリー。 元婚約者への、美味しいざまぁもあります。

処理中です...