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第十二話 おのれへの怒り ※シン視点
しおりを挟む『アイリ・カランド子爵令嬢は王族を侮辱し、国に害を為す悪女である。至急排除されたし』
『尻軽女』『二枚舌』『残酷な悪女』
聞こえてくる彼女の噂はどれも明瞭さを欠くものばかり。
初めて依頼を受けた時から違和感は抱いていた。
子爵令嬢が幼馴染をいじめ、貴族学校で幅を利かせるのは分かる。
だが、王子と不貞まではするだろうか?
王子が子爵令嬢に飽きて別の女と……というなら話は別だが。
「虐められていた……なるほど、それなら辻褄が合うな」
今回、エルシュタイン王家特務機関から渡された依頼の不自然さも。
アイリの部屋に不自然なくらい物が少なかったことも。
そして、彼女が子爵令嬢には似つかわしくないほどみすぼらしかったことも。
ごん、と俺は自分の頭を殴りつけた。
「あ、アッシュロード様っ!?」
「気にするな」
「いや、気にするなと言われましても……あの、血、血出てますよ!?」
ハンカチを取り出して拭こうとするアイリをいなしながら俺は天を仰ぐ。
(馬鹿なことをしたものだ……)
アイリを引き取ったのは記憶を読み取る魔術で彼女が冤罪であること確信したから。
婚約破棄された彼女はエミリア・クロックに陥れられたのだ。
──都合がいいと思った。
婚約者を必要としている自分の事情と、世間に絶望したアイリ。
子爵令嬢という、爵位の低い貴族として生きてきた彼女なら教育のほうもある程度は出来ているだろうし、たとえ何か問題が起きてもすぐにもみ消せる。完全な自分勝手だ。家族に事情を説明しに行った時、アイリの妹は怒り心頭だったのが今となって身に染みる。
(だがまさか、理不尽に虐げられているとまでは思わなかった)
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そうなる前に釘を刺すために、一連の計画を組んだのに。
(辛い思いをしてきた女に何をしてるんだ俺は。暗殺貴族失格だ)
これが暗殺者のやることかと言われれば疑問が残るが。
暗殺貴族たるもの、弱きを助け理不尽をくじく存在であらねばならない。
「あ、アッシュロード様、本当に大丈夫ですか?」
「……君は優しすぎる」
「えぇ?」
こんな男にそんな優しさ、相応しくないのに。
「…………ふう」
反省はあとだ。今はやるべきことをやろう。
俺は机のベルを鳴らしてリーチェを呼びつけた。
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「え?」
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「あ、あの、磨き上げるって、どういうことです?」
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「り、リーチェ? ちょ、わ!?」
リーチェに背中を押されてアイリは出て行く。
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符丁を唱えると、聞き慣れた声が続く。
『ご用でしょうか、旦那様』
「セバス。王都にいる諜報員を総動員してエミリア・クロックの情報を集めろ』
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『……了解しました。では』
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