元剣聖、レベル1の国造り~転職した英雄は悠々自適なスローライフを送ります~

山夜みい

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第一話 英雄、散る

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「忌まわしき四英雄よ。貴様らはこれで終わりだ!」



 強大な魔力が一つに集まり、収束していく。

 魔力の余波だけで地面に蜘蛛の巣状のひび割れが走った。



「あの魔王……まだあんなに余力を残してたのかよ」



 額に汗を浮かべながらオリバーは言った。

 後ろ目で見る。

 大賢者は魔力欠乏症で顔が蒼白く、聖女は斬り裂かれた胸を押さえている。匠聖マイスターは斧を地面に突いて身体を支えている有様だ。彼らの誰にも魔王の一撃を防ぐ手立てはないだろう。



「しゃあねぇな。俺がやるしかねぇか」



「ちょ、オリバー! ハァ、ハァ、何する気!?」



 仲間を庇うように立つと、聖女が声をあげた。

 オリバーは振り返って言う。



「聖剣の力を解放してあいつをぶっ倒す」



「ば、馬鹿! ゲホ、そんなことしたらあんたの身体が持たないわよ! 自分の身体を見てみなさい! ハァ、ハァ、あんたもボロボロじゃない!」



 確かに、自分の身体は血まみれで立っているのもやっとの状態だ。

 血を失いすぎてふらふらするし、剣を持つ手も震えている。

 オリバーは手のひらにベルトを巻き付けて聖剣を固定した。



「でもま、それでもやるしかないだろ。なんせ俺は、剣聖ってやつらしいからな」



 オリバーは散歩にでも行くような調子で言った。



「あとは任せたぜ。アリシア」



『聖剣解放』



 オリバーの持つ聖剣が光を放ち、あたりが光で満たされる。

 魔王の放つ光と剣聖の放つ光が衝突し、崩壊が広がっていく。



 《技能》

 剛剣Lv10、発動:武器の耐久度を上げる。スキル獲得時点で効果が発動する。

 疾風斬Lv10、発動:魔力の青き斬撃を飛ばす。

 金剛身Lv10、発動:肉体を強化し、速度と膂力を大幅に引き上げる。

 滅陣結界Lv10、発動:斬撃で結界を作り、あらゆるものを切り裂く檻とする。

 降魔招来Lv10、発動:神話時代の英雄を憑依させ、おのれの力と化す。

 狂戦士化Lv10、発動:痛覚遮断、認識能力低下。一定時間身体能力十倍。



 《神技ユニークスキル》

 天魔Lv10:全身のチャクラを開き剣神の力の一端を授かる。効果時間は十秒。



(全スキルを強制収束っと。さぁ、行こうか)



「だめ、そんなのだめよオリバー……や、やめなさい……やめて、やめてぇえええええええええええええ!!」



 悲鳴を無視して、魔力の嵐へ踏み出す。



「剣聖! よもや最後に我が前に立っているのが人族ヒューマンとはな!!」



「終わらせようぜ、魔王」



「ほざけぇえええええええ!!」



 壮絶な光と光が激突する。

 舞い散る破片が赤い燐光を帯びてオリバーの頬を切り裂いた。



 光と光がせめぎ合い、限界を迎えた身体が徐々に崩壊を始めた。

 二の腕がひび割れ、血が吹き出し、骨が飛び出す。



「おぉ……っ」



 それでもオリバーは止まらない。

 おのれの培ってきたすべてをこの一撃に懸けていた。



「おぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」



「馬鹿な」



 命を燃やした剣撃が魔王を押し始める。

 オリバーの命がすり減るごとに聖剣はその破壊力を増していた。



「この我が、人族如きにぃいいいいいいいいいい!!」



 光がオリバーの意識を呑み込む。

 燃やした命は戻ることなく、視界が徐々に暗くなっていく。



(あぁ、やっと終わるんだな……)



 長い戦いの日が終わろうとしている。

 この世界に生を受けてから家族と過ごした思い出の日々。

 家族を守るために兵士となり守べき家族を失った絶望の記憶。



「オリバー、オリバー起きて! ねぇ、起きてよぉ……!」



「しっかりせい、オリバー! 一人だけ逝くんじゃない!!」



「オリバー……死んじゃやだ……」



 消えゆく意識に届く声に、オリバーは内心で頬を緩めた。



(お前らにも世話になったな)



 魔王に復讐を誓い、ただ剣を振る獣と化した記憶が蘇る。

 種族代表に選ばれ、仲間と出会い、旅をし、ついに魔王を倒すことができた。

 心に生まれた虚無も、彼らに出会ったことで埋まったように思う。



(色々あったなぁ……)



 真っ白な光の中で、今世の記憶が泡沫のように浮かんでは消えていく。

 二十数年の走馬灯は一瞬で終わり、やがて、前・世・の・記・憶・が・蘇・る・。



(え?)



 仕事と家の往復、重なる残業、理不尽な上司。

 友達はおらず趣味もなく、唯一の癒しは推しのソシャゲに課金。

 挙句の果てに過労死なんてした糞ったれな人生。



(あぁ、そうか。俺は二度目だったのか)



 死ぬ寸前になって思い出すとは、なんという皮肉だ。



 前世で過労死するまで働かされたのと、

『四種族連合』の言いなりで命と引き返えに魔王を倒すこと。

 他人の言いなりであるという点で、前世も今世も変わらないじゃないか。



(……っ)



 死ぬ間際になって、悔しさが込み上げてきた。

 今世で剣を取ったことに迷いはない。

 だが、前世のことを覚えていたなら、もっと違う生き方もあったのではないか。

 魔王を倒したあとで仲間たちと冒険の旅に出て、好き勝手に生きるような楽しい日々が。



(あぁ、くそ。もうちょっと生きていたかったなぁ……)



「いやぁぁああああああああ! オリバーぁあああああああ!」



 仲間の泣き叫ぶ声を聞きながら、オリバーは意識を手放した。



【その願い、叶えてあげましょう】



 死に際、そんな声が聞こえた気がした。

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