チートで護る現実《この》世界 ~ 異能者捕縛劇 ~

兎野熊八

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第一章 くたばれ無敵チート

僕の異世界ハーレム計画 その4

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 僕の思考は停止していた。

   ……いや、いやいや。

      なにを言ってる?

        そんなわけはない、僕は、この世界を、




「な、なんの冗談だよ? そ、そんなわけないだろ、僕はこの世界を救ってるんだぞ!」

「ではお尋ねします、ツヨシさんは今まで何をしてきましたか?」

「色んな事をだよ! そ、そうだ、一月前に町長の娘さんを殺したゴブリン達の巣窟を見つけて全滅させた! もちろん町長さんに依頼されてだ! あいつらはまだ十歳の少女を犯して殺して食ったんだぞ!」

「ツヨシさんが見つけた巣窟ですが、正確には住居じゅうきょです。そしてあの鉱山に住んでいたのはゴブリンじゃありません、肌は緑色で私達がイメージするゴブリンによく似ていますが、あれはホブドワーフ属の一種で基本的に肉食を嫌う一族です」

「なっ……、そんなの、嘘だ、適当な事を言ってるんだろ! 村長もあの鉱山に住んでるのがゴブリンだって……」

「騙されましたね。本来の彼らは土地の神々を信仰し、山崩れが起きそうな場所を見つけては未然に災害を防いだりもしています。山を護り、山に生き、山で死ぬ、何より理知的で人語を理解しています、温厚な方々が多く話し合いで物事を解決することにも長けた種族なのですが、ツヨシさんは彼らと?」

「っ、い、いや、それは……」

「さらに言えば、娘さんを殺したのは町外れに住む異常性癖者でした、そしてその変質者に娘さんを殺すように依頼したのは町長本人です。理由は娘さんとのが奥さんにバレそうになったのを恐れての事だったようですね、今は貴方が絶滅させたホブドワーフ達の住処、あの鉱山で目をつけていた金脈を奪い、一財産を築いて新しい娘さんを三人買ったそうですが」


 あの町長が、僕を利用した? そんな、違う、だって彼らは僕に優しくしてくれたじゃないか。


「証拠もない、信じられるわけないだろ、お前が嘘を言っている可能性だってあるんだ!」

「そうですか、では、? ツヨシさんになら、簡単なんじゃないですか?」



 この女は、なにを言ってる……いや、””。



「……、そんな事がすぐにできるわけないだろ、僕のチートは、そんなチートじゃないんだ」



 



「そうですか……、では次です、ツヨシさんが半年前、この異世界の王国、ティルマット王国に転送されてからの三日後ぐらいの事ですが、覚えていますか?」


「……あ、あぁ覚えてる! そうだよそれ! それこそ僕がこの世界を救った最初にして最高のクエストだ!」


 そうだ、僕を異世界に呼び出した王国、女神、神官達、彼らの目の前で僕はすぐさま自分の力に目覚めた。
 そして力の応用を独学で学び、誰にもできなかった事を成し遂げたんだ。全ての始まりの物語だ。


「“による魔王討伐”――、ツヨシ君の事をあの国ではそう呼んでいました、銅像まで立っていて驚きました」


 そう、これこそ僕が勇者たる所以、唯一無二にして誰にも成し遂げることのできなかった、世界最難関のクエストを世界最速でクリアした勇者、それが僕だ。


「そうだよ! 僕はあの魔族の王を、誰にも倒せなかった魔王を一瞬で討伐した、一瞬だぞ! おかげで大きな戦争が無くなって、何千万人もの人の命が僕によって助けられたんだ! 僕は英雄なんだよ!」


 今でも僕の英雄譚があの国では歌われているんだ。
 伝説の勇者としての僕だ、あの国で僕を知らない人なんて今や一人もいない。
 どんな事があろうとも、あの国は僕の味方になってくれる。僕の仲間同然なのだから。




「今回、真っ先に多額の懸賞金を出したのが、そのティルマット国です」

「………………はぃ?」




 まて、
 まてまて、
 ちょっと、まて、どうして、どうしてそうなる?
 違う、違う、こいつが、嘘をついているだけだ、そうだ、そうだろ?



「これがティルマット国王からと、あと各国から出された懸賞金の約束をする書状とかなんですが、見ますか?」


 そう言って女は背にしていたリュックから書類の束や書簡を取り出した。


「……な、あ、ど、どうせ全部偽物だろ! そんなわけないだろ! 嘘ついてんじゃねぇよ! あの時は国をあげて僕に感謝したんだぞ! 何百人もの貴族や王族が僕に頭を下げてきたんだぞ! 何週間も夜会を開いて僕を労ってくれた、褒めてくれた! 認めてくれた! 必要としてくれた!! 自分の娘を差し出す奴までいたくらいだ!」

「私には、それは感謝などではなく、まずは降伏の意志を示したのだと思えます」

「は、はぁ?」

「誰もが討伐することができなかった恐るべき魔王、ティルマット王国からその魔王が統治する国まで、約73000キロ、それを転生して僅か三日でその首を持って来た勇者、はっきり言って規格外です、解りやすく言えば、ツヨシ君は核兵器にも匹敵する力を持っています、いえ、恐らくそれ以上です」

「そうだよ! 誰もがすごい事だって、君にしかできないって褒めてくれたぞ! 僕がいる限り、この世界は安心だってな!」



 この世界での英雄、勇者、主人公! それが僕のはずだろ!



「核兵器のボタンを持つ人間に誰も本当の事なんて言いませんよ、私ならこう思います」



 一呼吸おくように目をつむり、目の前の女は言った。





  「“”」




 目を開き、笑顔を取り下げ、冷たい声で女はそう呟いた。



「もし彼に逆らったら? 魔王の次は? 今夜、寝床に入って目を閉じて、明日が来る保証は? どこまで何ができる、どんな人間なんだ、そもそも人間なのか、怖い、逆らってはならない、今はこうべを垂れよう、今は床も舐めよう、今は疑心を勘ぐられてはならない、ならば笑顔を絶やしてはならない、笑おう、今は笑おう、そして手を叩こう」



 パチパチパチ、と女は手を叩く。



「ここで国の王族や貴族にとって重要なのはツヨシさんの能力よりは、ツヨシさんがどんな人間なのか、です。だから彼らはツヨシさんにまずは頭を下げて、貴方という人間を見たのです、夜会を開き、話をさせ、娘を試しに抱かせてみた。そして一定の査定、情報収集が終えた後にツヨシさんを外に出した。国から何か適当な依頼を受けて外に出たのでは? 助けて欲しいと頼まれて……その後も次々と頼まれごとが舞い込んできましたよね? そうやって時間を稼いでる間に、各国では連絡を取り合い、こう取り決めたんですよ」


 そう言って、女は手にしていた紙の束を僕の足下へと投げやった。
 散らばるそこには、僕の似顔絵の下に、各国の通貨で書かれた賞金額が並ぶ。
 相当な額だ、僕の首には人生を100回遊んで暮らしても余りある金額が書いてある、は、あの魔王よりずっと高い懸賞金。じゃぁ僕はあの魔王より……危険?


 嘘だ、こんなの……こいつが作ったんだ、そうだ、そうだよ!


「夜会の最終日、貴方は自分の能力をとある令嬢に披露したそうですね? しっかりと解説と実演を兼ねて、言われるがまま人間の首を落とした。そして、その力の正体を知った彼ら、王族達の査定の結果は“否”、ツヨシさん、核兵器を欲しがる国は沢山あります、けど核兵器のボタンをもった人間は恐怖でしかないんです」


 待ってくれ、待ってくれ、待ってくれ、待ってくれ。
 違う、違う、そうじゃない、あれは違う、向こうが勝手にそうしたんだ。
 あれは罪人だからって、力を見たいって、倒していいって、好きにしていいって。


「そんなの、勝手すぎるだろ……、僕は言われた通り、倒して欲しいと言われて、そのために全力を尽くしただけなのに、そんなのあんまりだ」

「そうですね、懸命だったのは信じます、じゃないとできない事だとも思います、でもこの世界がツヨシさんにとって安全ではない事だけは、確かなんです、だから」

「現実世界に帰ろうって? いや、いやだ、嫌だよ、僕は帰りたくない、あんな世界に帰りたくない! 僕は、僕は……“”に戻りたくない、戻りたくないんだ!」

「恐らく、ここはツヨシさんにとって、とても居心地の悪い世界です、各国の軍隊、英雄、精霊、暗殺者、手練れの魔法使い達が今後はツヨシさんの命を狙ってきますよ」

「む、向かってくるなら! 倒せばいいだろッ!」

「今回は世界の敵が君なんです、君はもすぐ魔王に成る、もう一度聞きます、向かってくる敵を、軍を、人を、倒すのですか? 

「――っッ!」

「向かってくる人間全てを殺しますか? 相手は軍隊で、中には戦いたくない人も沢山いるでしょう、家族や友人や恋人がいて、それでも王の命令なら、貴族の勤めならばと貴方を殺しに来ます。皆、護りたい物があるからです。そんな人達を全員を退《しりぞ》けるんですか? たしかにツヨシさんになら可能かもしれません、でもツヨシさんが現実へと帰れば、そんな彼らの安寧を、平和を、護ることができるんです……それでもこの世界に残りたい理由があるのですか?」


「そ、んな…………理由、理由は」


 嫌だ、帰りたくない、あんなクソみたいな所に、あんなクソみたいな学校《げんじつ》に、帰りたくなんかない!

 理由、理由、理由理由理由理由!
 理由が必要だ、戻りたくない理由なんて幾らでもあるだろ!
 でも必要なのは止《とど》まらなくてはならない理由! 理由!



 ……いや、ある、



「そうだ……僕には、この世界に愛する人がいるんだよ」

「その愛する人を危険にさらすと思います、それでも?」


 引き下がらないか。でもまだだ、もう一つ僕には大きな理由がある。


「聞いてくれ、僕にはこの世界で、その……、愛する彼女との間に、子供ができたんだ」


 リムサの予知夢でのことだ、でもそれは必ず当たる予言でもある。

 つまり僕には、

 それでも苦しい理由だろうか、その子供にも危害が加わる可能性があるとそこを突かれるか、いや然しもうこれぐらいしか。


「そうですか、あか……ちゃ……?」


 変な声が出た。
 涼しげな表情のままだった彼女から、変な声が出た。


「えっ? あれー、えーっと、そ、それは……あ、おめでとうございます」


 ペコリとお辞儀までされてしまった。
 思わず僕もお辞儀を返してしまった。


「……その、だから僕には責任があるんだ、この世界に残る責任ができたんだ、護りたい人ができたんだ」

「驚きました、それは知らなかったので……、そうですか、うーん」


 彼女は眉間に眉を寄せながら、腕組みして悩み始めた。
 やっぱり女の子にとって子供の存在というのは特別ということなのだろう。


「まずったなぁ……もう全員にしたと思ったのに、一人抜かっていたなんて」


 本当に困ったと、女は腕組みをしたまま、僕を見た。




「“”だったのですね、確認できたのは38人までだったので……、困りました」

「は? なんの事を、言ってるんだ? お、おい」




 どこまで知っているんだ、この女、いや、いやいやいや、この女は!



「38人、それはツヨシさん、君がですよ」



 ――
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