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第一章 くたばれ無敵チート
僕の異世界ハーレム計画 その3
しおりを挟む「僕をその名前で呼ぶな、僕はもう田中じゃない、リチャードだ、ツヨシ・リチャード、二度と汚れたその名前を口にしないでくれ」
弱くて平凡な名前は捨てたんだ、この世界に来てから僕は非凡で強い人間だ。
「ツヨシ、リチャード……、あ、海外俳優のリチャード・マッ――」
「なっ! なんで知ってるんだよ!?」
自分で改名した名前、リチャードの元ネタを言い当てられて思わず声がでた。
「君のことを調べてきましたので、確かゲーム・オブ・スローンズがお好きなんですよね?」
「なん、で、そんな事まで……ど、どうでもいいだろ! 勝手に詮索するなよ!」
言い当てられて急に恥ずかしさが沸いてきた。好きな海外ドラマの好きな俳優だった、特に敵国相手に勇敢に戦う姿には惚れ込んだ、僕はその名前を受け継いだと勝手ながら思っている。
「わかりました、ではツヨシさん、まずは私とお話をしましょう、見ての通り丸腰です、そして決して貴方にとっても悪い話ではありません」
彼女の恰好、そのままあの学園の制服だ、女子制服だけは無駄に装飾が凝っていて胸元のリボンタイ、紺色のコルセットスカートが他校の生徒にまで人気だった、男子は極めて地味な学ランで不評だったけど。
苛立ちが沸き上がってくる、僕を貶《おとし》めた、あの学園の奴らを否応なく思い出させる。
「……わかった、敵じゃないって事は信じる、それで? どうやってここに来たんだ? まさか僕みたいに飛ばされて来たのか?」
「いいえ、飛ばされて来たわけじゃないです、私は”飛んで“きたんです」
「飛んで……って、じゃ、じゃぁ! 自分の意志でこの世界にこれたってことなのか!?」
冷たい石でも飲み込んだように、嫌な予感が腹にたまっていく。
異物に脈打つ度に不快感が全身に広がっていくようだった。
「はい、私の力ではありませんが、現実世界から、この異世界、ネピリウムへ転送してもらいました」
「っ! ――……つ、つまり、現実世界には僕達以外の能力者がいるって事なのか?」
「ええ、極秘裏にではありますが、御影学園には他にも能力者が在籍しています、普段は能力に制限をかけられた状態で普通の生徒として生活しているので、まず一般の生徒にその正体がバレることはないですが」
なんだよ、それ……。
「はっ、じゃぁ今まで僕はラノベやゲームみたいな世界にいたってわけだ、笑えるね」
笑えない、笑えるわけない。
自分の腹の中に、猛烈な苛立ちが溜まっていくのも感じていた。
僕以外にも能力者がいる、特別なのは僕だけじゃない。
つまりあの世界じゃ僕は何も知らない、生徒A、モブキャラだったわけだ。
僕の周りには自分の事を厚かましくても主人公だと思い込んでいる奴らがうじゃうじゃいたのだと思うと、気分が悪い。
「……じゃぁ君の能力は? どうせ僕みたいにチートなんだろ?」
「いいえ、私の能力は対した物じゃ無いんです、少し説明が難しいのですけど……」
「そうか、まぁこればっかりは運だしな、仕方ないよ、さぁそれで現実世界の君が僕になんの用なんだ?」
「そうですね、では本題です、ツヨシさん、私は貴方を――」
その先の言葉を、僕は予想できていた。僕の嫌な予感は、よく当たる。
「“現実世界に、連れ戻しにきました”」
彼女は冷たく、冷静にそう告げた。
心臓が冷たい蛇に巻き付かれたみたいに痛んだ。
それは嫌な予感の核心へと突き込む一言だった。
「ダメだッ!! それだけはダメだ!」
それだけは、絶対に、ダメだ!
帰るわけにはいかない、あんなクソみたいな現実世界に帰るくらいなら死んだ方がマシだ! ようやく僕は主人公に成れたんだ、あんな世界になんの未練も無い!
「でも、ここの生活は辛くて大変なのでは? 文明も今の日本よりかなり遅れています、不便も多いはず、それにとても危険です」
「ぼ、僕が辛いくらいは別にいいんだ! それよりこの世界には、僕の助けを必要としている人が沢山いるんだよ! い、今だってほら! エルフの里を襲った病毒のために薬草を……と、とにかく僕がこの世界を助けるんだ! 危険なんてあるもんか! 僕の能力があれば刃向かう奴は――」
「あの一つ目オオカミの群れみたいに殺しますか?」
冷たく咎めるような視線を崩さない少女、その冷たい声色を一本の針のように僕めがけて飛んでくると、胸を刺した。
「し、仕方がないだろ……、薬草を採っていたら襲ってきたんだ、この薬草がないとエルフの里の皆が死んでしまうんだよ、それにあんなのただのモンスターじゃないか!」
「それは違います、あの狼達はこの森に古くから生息する歴とした住人達です。そしてハイエルフの里が病毒に犯されているのは、正直に言えば自業自得です」
「なっ!」
正気を疑う一言だった。
「お前はエルフ達がどうなっても良いって言うのか! 彼らは謎の流行病に苦しんでいるんだぞ!」
「自業自得というのは、どうなってもいいという意味ではないです。できる事なら助かって欲しいとも思います。でも病毒に悩まされる原因を作ったのは、やはりあの里のエルフ達です」
「ど、どうしてそういうことになる! 病気だなんて何もしなくてもかかるだろ!」
「どの世界にも原因もなく現れる病魔はないんです、全てには理由があります。この場合、原因はここの薬草です」
「薬草って……この霊薬の材料のことか? なにを言ってるんだ、これで彼らを治療するんだぞ! ここの薬草があれば、エルフの秘伝の万能薬が作れるんだ!」
「確かにその薬草で薬は作れます、エルフの里の誰かが昔ここで採取し、そして誰かに売ったのでしょう……でも問題は薬草付近に生息する毒ダニを里へと持ち帰ってしまったことです」
「だ、ダニ? あのダニが? へ、へぇ、猫や犬についてる?」
「ええ、この森だけに住むダニです、特殊なウィルスの媒体となっている毒ダニで、森の動物達にも寄生しています。なのでウィルスに耐性を作るために動物達もあの薬草を食べに来るんです。別名、『一目草』森の住人達にとっても大事な薬草を、あのオオカミ達は護っていたんですよ」
「だから襲ってきたオオカミを追い払ったエルフ達が悪いってのかよ、薬草だなんて別に誰の物ってわけじゃないだろ! 薬効のある薬草を採っただけ、襲ってきたモンスターを殺しただけ! この世界の人間なら誰でもやってる事だ!」
「だけど、ツヨシ君のようにオオカミ達を皆殺しにはしなかった……君は薬草の守護者を一匹残らず殺したんです、どうなるかわかりますか? あのオオカミの存在がいないと知った冒険者達はこぞってこの貴重な薬草を採りに来るでしょう、今でも高値で取引されてますから。しかし同時に毒ダニも持ち帰り、その国ではエルフの里と同じような事がおこるでしょう、そして死なないためには、ここの高価な薬草を使うしかない……栽培技術もろくにないこの世界で、何人の貧困者が亡くなると思いますか?」
「っ……か、仮にそうだとしても、エルフの里を見殺しにしていい理由にはならないだろ、僕はこれを届ける義務があるんだ!!」
「仮ではないのですけど……では薬草を届けたら一緒に学園へ戻ってもらえますか?」
「そ、それはできない、僕には……、そう僕にはまだやるべき事があるんだ! 世界が僕を求めてるんだよ!」
そうだ、ハイエルフだけじゃない、僕はこの世界の住人に求められている。
そうやってこの半年間で多くの人間の悩みを解決し、助け、感謝されてきたんだ。
「世界に求められている……、とは、残念ながら言えないと思います。ツヨシさん」
「それは君が僕の偉業を知らないからだろ? 僕がこの半年で何をしてきたのか」
「いいえ、私は知っています、先ほども言いましたけど君の事は徹底的に調べてきたので」
女の視線に籠もる温度がさらに下がった気がした。
「……適当な事をこれ以上言うなよ、知ってたら現実に帰れなんて言えないはずだ、さすがの僕でも怒るぞ?」
「でも事実です、まずは帰ってきて欲しい理由を聞いていただけませんか?」
「この世界を救う、それ以上の理由があるとでも言うのか?」
「あります、むしろこの世界こそ君にとって危険なんです。ツヨシさん、落ち着いて聞いてください」
「危険? そんなわけないだろ、僕は世界を救った最強の――」
「現在、この世界に点在する各国政府、大精霊達からの依頼で、ツヨシ君には生死を問わない討縛依頼が発注され始めています、恐らくですが数週間もしない内に大規模な軍隊が君を殺しに動きだします」
「…………は?」
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