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第二章 死者蘇生 ―レイズデッド―
乙女達の帰還と告白 その3
しおりを挟むメクルは走り出しました。
夕暮れの廊下を抜け、階段を駆け下り、さよならを告げる沢山の生徒達の声の間を走り抜けます。
急いでいました。
伝えねばならない事があったからです。
この胸の気持ちを、この心の居場所を、伝えなければならないと。
メクルは走ります。
玄関で慌てて靴を履きかえ、片足で躓きそうになりながらも走ります。
頭の中は、彼の事でいっぱいでした。
田中剛、彼はメクルが出会った中でも最強の能力者でした。
理不尽に殺されるかもしれない。
理不尽に奪われるかもしれない。
そう考えた瞬間から、頭の中はやり残してきた後悔でいっぱいでした。
でも後悔すらできないまま消えてしまうかもしれない、それがメクル達の今の仕事でした。
そんな自分の心と体がまだこの世界にある内に、この胸の内を伝えたいと、息を切らして走ります。
今のこの世界、この学園は不思議な所でした。
学園が生まれた100年も昔から、この学園では少年少女が突如として消え、異世界へと送られてしまう事件が多発しました。
あるものは異世界を救い、
あるものは異世界に殺され、
あるものは異世界を壊し、
あるものは異世界に留まり、
あるものは現実世界へと帰ってくる。
その誰もが人知を超えた力、どんな世界すら左右する力を宿していました。
そして学園の理事達や日本は、そんな力をもった人間を、力をもった人間同士で捕獲、保護、管理、利用する事を始めたのです。
それは、日本だけではなく、この世界そのものを護るためでもありました。
沢山の法が整備され、沢山の大人が働きかけ、沢山の情報が統制され、そして生まれたのが、世界でだだ唯一、異能者の子供達を生み出し、管理する学園、
『国立御影学園』でした。
全ては、現実世界を守るため、能力者達はこの学園で生まれ、そしてこの学園で暮らし、この学園で最後を迎えます。
そんな学園に入学したメクルが、学園のためにその能力を使い、世界を守る手助けを初めて4年、数々の冒険と出会いと別れがありました。
そして、ようやく自分の気持ちに気づいたのでした。
その気持ちは、この心は、全ての原動力となってメクルを前に動かします。
恋でした、それも生まれて初めての恋でした。
初恋でした。
正門を抜け、長い坂道を下っていきます。
夏の風に揺れる木々、すっかりと濃くなった緑の桜並木の下を飛ぶように走りました。
秋が来る、その前に、この気持ちを伝えたい。
冬が来る、その前に、貴方の近くに居たい。
走って、走って、走って、思いつく限りの場所を探します。
明日にはまた新しい誰かが異世界へと連れて行かれるかもしれません。
そうなれば、自分達はすぐに助けにいかなくてはなりません。
仕事は大事です、学園の生徒も、異世界の人達も、大事です。
だけど、今日一日、今日一日だけ、メクルは自由を貰いました。
だからメクルは走ります。
この与えてもらった24時間で、彼に思いを伝えるために。
額に汗を浮かべ、息を切らして、ただただ走ります。
何を最初に言うべきか、何から話すべきか、何をしてあげられるか。
それを考えただけで、メクルの胸には不安と期待と願いが膨れ上がっていきます。
彼としたいことが、沢山あります。
彼と歩きたい場所が、沢山あります。
彼と見たい物が、沢山あります。
そして、ようやく、メクルは彼を見つけました。
大きな交差点を目指して歩く彼、少しクセ毛の髪の毛に、猫背気味の背中、ちょっとだけだらしない事もある、他人は彼を地味な男だと言いますが、でもメクルにとって誠実で優しく、なにより王子様でした。
だから見間違うことなどありませんでした。
メクルは今日一番の大声で彼の名を呼びました。
しかし届きません、彼が歩みを止めないのでメクルは再び走り出します。
メクルが唱えます。
待って、待って、もう少しで――。
心の中で何度も願いながら彼の背中を追いかけます。
もう一度、大きな声で、彼の名前を呼びました。
すると、彼も大きな声を出して走り出しました。
なぜか、交差点に向かって、走り出しました。
なぜ? わかりません、ただ嫌な予感がメクルの速度を上げます。
残り30メートルに迫る頃、彼が走り出した理由が分かりました。
大きく開けた交差点、信号は赤の横断歩道の真ん中で一人の青年が佇んでいたのです。
そんな青年に向かって走ってくるトラック。
その運転手がスマートホンを片手に余所見をしているのに彼もメクルも気がついたのです。
彼が青年に向かって何度も叫びながら走ります。
メクルも何度も叫びながら追いかけます。
やがて彼が横断歩道の青年の背に手が届き、思い切り向こう側へと突き飛ばします。
――――そして、彼も突き飛ばされました。
トラックは何一つ減速する事無く、彼を突き飛ばしました。
衝撃音が爆ぜました、大きな風船を握り潰したような、鈍い音。
地面に打ち付けられた彼は捻れます、曲がります、折れます、真っ赤な真っ赤な血飛沫を上げてアスファルトの地面にペンキを塗りつけるように身体を削って血を塗りつけて転がっていき、やがて止まりました。
メクルは叫びました。
メクルは叫びました。
何度も嘘だと心の中で唱えながら、絡まる思考が足下をおぼつかせ、転びました。
立ち上がり、息を整え、前を見ます。
ようやく交差点へと辿り着き、鳴り続けるクラクションの中、走り寄ります。
そして、彼が横たわっていた場所まで来た時には、
彼の身体は、――どこにもありませんでした。
血溜まりだけが、ただそこに残って、彼は消えていました。
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