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第二章 死者蘇生 ―レイズデッド―
トレーニング その3
しおりを挟む「では、よろしくお願いします」
「よろしく、じゃおさらいからだ」
互いに礼をし、動き出します。
鬼笛のジャンプがフットワークへと移行します。
着地の位置を変えながら、体重移動のタイミングを悟られないよう、さらに相手の攻撃に即座に対応するために爪先へと力を貯めながら刻む短く小さなフットワークはボクシングのそれに似ています。
脇を締め、右拳を顎下に構え、左手を脱力させながら腹の前に置くフリッカースタイルです。
メクルも深く息を吸い込み、戦闘準備に入ります。
パーカーは着たままで、オープンフィンガーグローブを着け、両腕はスタンダードに胸の前で構えてから、フットワークを始めます。
殺気を悟られないよう、歩くような早さのフットワークは獲物を追うネコ科のようです。いついかなるタイミングにでも全方位へと身体を発射できるように足に力を貯めながら動くメクルを見て鬼笛が満足そうに微笑みます。
「だいぶフットワークが身についてきたな、様になってる」
「先生が良いですからね」
「だろうな、是非ともそのイケてる先生の顔が見てみたい」
「鏡なら後ろにありますよ、振り向いてください」
「おっとまた後頭部を蹴るつもりだな?」
「バレましたか」
二人がクスりと笑います。
笑いながらもフットワークは円を描くように動き、両者が距離を詰めます。
前へ、近くへ、縮まる間合い、残り4歩で先に仕掛けたのは鬼笛でした。
「まずは挨拶だ」
フリッカースタイルからの右足の踏み込み――
(フェイント? いきなり左のストレート、違う……、右だ)
爆っ、と閃光を思わせる右の縦拳。
空気の壁を突き破る音と共にメクルの顎先を狙います。
拳が放たれるとほぼ同時にメクルは後ろへとバックステップ、寸での間合いで拳を躱すも、鬼笛は続けざまに左フック、右ブロー、左脚によるハイキックの四連続攻撃が息も尽かせぬ連打となって牙を剥きます。
その攻撃はボクシングの動きではありません、ボクシングよりさらに短期決戦を想定して編み出された近代武道の一つ。
その名は『截拳道』。
相手を戦闘不能にする想定タイムは、僅か10秒以内。
10秒という短時間で相手の意識を刈り取り、戦闘不能にするために伝説の中国武術家が中国拳法をベースにボクシング、サバット、柔道、空手、レスリング、果てはフェンシングの動きまでも取り込み、独自に編み出した近代武道の一つです。
その最たる特徴は『最短距離を最速の最打をもって相手を打つ』
最短×最速×強打=即決着が信条の近代格闘術。
その拳、その蹴り、一撃一撃がクリーンヒットすれば並の男なら失神、それがただの女子高生なら下手すれば骨折、即座に病院送りの攻撃でした。
しかし、メクルもただの女子高生ではありません。
その全ての攻撃を後方へと飛び、弾き、いなし、しゃがむ事で回避して間合いをとります。
僅か2秒程で4手4避の攻防でした。
「うん、相変わらずの逃げっぷりだ」
「当たったら死んじゃいますよ、そんな攻撃」
「当たり前だろ、殺すつもりでやらないと、君には届かない」
世が世なら女子高生を殺すつもりで殴りかかったら、例え未遂でも逮捕はまのがれません。
「私、そんな手加減してくれない鬼笛さんが好きですよ」
「わぁお、こんな美人な女子高生にそんな事言われるなんて、おじさん感激だなぁ……でも、おだてても何もでない、ぞっと」
嘘です、右拳が出てきました。
右足の踏み込みと同時に右拳を突き出す中国武術独自のスタイル。
メクルはこれも後方へと飛んで避けます。
追うように鬼笛が放つ攻撃で壁へと追い詰められないように、しっかりと方向をずらしながら後ろへと逃げて、避けて、避け続けます。
鬼笛の最速のコンビネーションをメクルはとにかく避け続けました。
もし截拳道が最短を最速で打ち抜く技術であるのに対して、メクルの行動には技術としての名前がありません。
なぜなら、それだけどの武術、格闘技においても当たり前の動作だからです。
格闘技、武術とは相手の急所へと攻撃を当て、時には組み、投げるために独自の訓練、型、手法の数々がある中で、全ての武術に共通する動作があります。
(よし……、だいぶ読めてきた)
それは後方への全力回避、すなわち『バックステップ』です。
どれだけ強い一打であっても、想定していた直撃の位置から拳三つ分離れれば威力は半減、半歩下がれば当たりません。
メクルが訓練で多くの時間を費やして身につけたのはこの『回避』をするための技術でした。
つまりは逃げの一手、回避にだけ集中することで、正面衝突では絶対に勝てない『格闘技』のルールを、『鬼ごっこ』へとメクルは変えていました。
これが公式な試合なら『戦意無し』と見なされる反則です。
お金を払ってお客さんがこれを見たのならブーイングの嵐です。
しかしここには審判もいなければ、観客もいません。
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