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玉生ホームで朝食を

玉生ホームで朝食を 8

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 まず上ってすぐ目に付く手前に張られた天幕のその下、ウッドパネルで一段高い場所を作り土台にしてベージュ系のソファーセットが置かれ、その周囲にはベンチ型のブランコや鉢植えの観葉植物などが点在していた。
さらにその奥には、壁の半分の面に一枚ガラスの使われた、そこそこ大きい小屋が屋上の向こう半分の三角屋根を背景に設置されている。
彼らの予想になかった屋上の風景だが、ソファーについてはもうこの家のそういう“おもてなし”なんだと、いい加減に慣れてきた。
 それに考えてみれば、この広い家屋にそういう“設置されている物”が無い状態を想像すると寒々しくて、その対策として広い場所を埋めるという役目もあるのかもしれない。
 とりあえず小屋の方へみんなで進むと、入り口の扉側にはポーチがありロッキングチェアが置かれ、その奥には結構な量の薪が積まれていた。

「僕が写真で見た山小屋って、こんな感じだったよ」
「あー、なんか分かるぞ。爺さんと膝掛けとパイプがロッキングチェアとセットのヤツだろう?」
「そう。顔の下半分が髭で隠れているお爺さんが、こういう椅子でユラユラしてるの」
「ああ、晩秋? みたいな」
「古いウヰスキー広告の世界……」
「言われりゃイメージが琥珀フィルターなのは、記憶がそれに紐付いてるからか。なるほど、これがサブリミナル」

 玉生たまおかけるのやり取りを聞いたほかのみんなの頭の中にも、おそらく類似画像が浮かんだと思われる。

「おっと、さすがに屋上に突っ立っていたら体温持っていかれて体を冷やすからな。とりあえず小屋の中に入るってのはどうだ? マオマオ」
「うん。それで、あのね、せっかくだからここの鍵が開くかみんな試してみたらどうかな?」

 天気が穏やかで風が凪いでいるおかげで、この時期の割に屋上でジャージでもさほど寒さを感じるわけではないが、施錠の確認のために金属のドアノブに触れた手の冷たさに、吹きさらしに長居はよくなさそうだと思い至った駆は「それは賛成だな」とさっそく青いリングの鍵を試した。
その結果、扉は全員の鍵で開閉が可能な事が分かり、念のためにキーケースのほかの鍵でも試してみたが一本目のマスターキーと黒のリングの鍵以外は、屋上か小屋を略したと思しき“屋”の文字がある専用の鍵以外では開く事はなかった。
 そうやってひとしきり鍵の確認を済ませてから扉を開くと、大きなガラス面から外の明かりが入って中の様子が見て取れた。
しかし、よく見ると小屋の中には仕切りがあって今はその蛇腹のパネルが開かれているが、それを閉じると扉側のガラスからの外光はおそらく遮られるだろう。
そして仕切りからこちらの扉側には、壁に沿って設置された部屋幅の三分の一程度を埋めるテーブルが仕切りの位置までを占め、逆側に棚とだるまストーブが置かれていて、扉の横の目立つ位置には何かのパネルがあった。
小屋の電気のスイッチと横に微妙に形が違うコンセントがいくつか、それを見た駆が「外国産の電化製品はプラグがバラバラだからな」と薄暗い中で目を細めて観察した結果を報告した。

「で、このオープン表示のあるレバーは、どこが開くんだと思う?」

 そう言って駆が指差したのはパネルの中にある上げ下げするレバーで、丁度真ん中に九十の数字が記されている目盛り付きだ。
「開くに数字ときたら、角度だろう」あっさりとよみが言うのに、「壁か上か……まあ、動かしたら分かるか」とレバーに指を掛けた駆に寿尚すなおが「試しに半分位で止めておけよ」と釘を刺した。
「了解」と駆が下がっていたレバーをグイっと半分の位置まで上げると、彼らの頭上の天井がゆっくりと開いていった。
どうやら仕切りからこちらの屋根だけが開閉式になっていた様で、中央から半分の屋根が直角に上がっている。
それを見た駆が無言で目盛りを上げ切ると、残る半分の屋根も開き天井がすっかり全開状態である。
つまり天井が二分割に持ち上がって割れる仕掛けになっていて、これなら空気の入れ替えなどはすぐに済むだろう。
そして、奥の壁ガラス側の中心にはシンク付きの作業テーブルが置かれ、ガラスとは逆の壁には背もたれの無い丸椅子がズラリと並べられ、その突き当たりには出入りの可能な掃き出し窓があった。

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