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玉生ホームで朝食を

玉生ホームで朝食を 9

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「ここは、あー……秘密基地的な?」
「作業小屋だと仮定するのが普通」
「油絵みたいな臭いがきついのとか、木工工作の木屑とか出る作業には良さ気だよ。ちいたまの環境のためにも、その手の作業はここで済ませてくれるとありがたいね」
「換気が楽そうだからニスとかコーティングの時は、使わせてもらうと助かるな」
「乾燥させる時とかもこういう独立した場所があると放置できるぜ。これはドライフルーツ干すのがはかどるぞ、くらタマ」
「あ、うん。その、構わないから、自由に使って、ね?」

 そこで腕時計で時間を確認した寿尚すなおに「そろそろ、下に戻ろう。ほら、もう屋根は閉じちゃいなよ」と声をかけられ、「了解!」とかけるがレバーを下げて屋根をもとの様に閉じたのを機に、とりあえずチェックは済んだという事で小屋を出る。
その際、屋根という連想からかよみが眼鏡のフレームに手を掛けて、ふとこちら側より高い位置にある三角の斜面を見上げた。

「向こうで三角屋根が飛び出しているが、吹き抜けで梁も勾配も見えないという事は屋根裏があるはずだ」
「屋根裏か。屋根裏部屋とか浪漫だよな」
「今の状況でも、たまはいっぱいいっぱいなんだから、そういうのはもっと落ち着いてからにしてよ。とりあえず、これで一通りは見て回ったという事で、後は各自で気付いた事を報告連絡相談する、でいい?」
「ああ、もうそろそろ昼飯の準備するのにいい時間っすしね。パンケーキ以外にリクがあったら早目によろしくっす」
「僕も手伝うね。サクランボで砂糖煮とか、どうかな?」
 
 キッチンにレンジがあったので、玉生たまおはバイト先で習った時短ジャムに挑戦しようという気になったのだと言う。
玉生が贈られた物を使ってみたい、というこの心境は彼の関係者たちにとって歓迎すべきものであり、このまま「せっかく“有る物”を使わないのはもったいない」と自然体で思えるまでになるといいと願っているが、彼の性格では遠慮が先に立つのはまず間違いないので図々しいまでに「一緒に使おう」で使用感に慣れてもらおうとみんなで示し合わせているのだ。
一応は寿尚が玉生の保証人である傍野はたのにも、傍目には玉生の物を好き勝手にしている様に見えてもそれは必要な事であって、後で一方的な搾取にならない様にその分を各自でフォローすると断っている。
意地の悪い見方をすれば、我が物顔で友人の遺産にたむろしているという状況に受け取れると、彼らの方でも自覚しているのである。

「あ、でも檸檬も入れた方がいいんだっけ。確かとろみと色が、入れないのとは全然違うって言ってた」
「温室でも見たけど、そのままそのまま噛る物じゃないから昨日は取らなかった……あ、そういや冷蔵庫に一つだけあったぜ」
「あー、紅茶に入れる分だったんじゃないか? という事は、生クリームはクリーム珈琲にどうぞって用意されてたのかもな」

 それを機に全員でぞろぞろと階段を下り、家の中に戻った。

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